Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第二話『無限斬撃無双大勝利!!』

 

 銀狼隊の地下にいくつも存在する訓練室は、最新鋭の技術を詰め込まれた『仮想型戦闘演算装置』だ。

 真っ白な壁に囲まれたシンプルな空間だが、一度手を加えればそれがあらゆる形に変化する事を私は知っている。

 

「難しいことはよくわかりませんけど、つまり色々環境を再現できるって事ですよね!」

 

「そういう事だ! 銀狼隊の活動領域は多岐に渡る。学園を始めとして、市街地、住宅街、ショッピングモール、はたまた森林や山脈地帯。様々な環境での任務を想定するために、この訓練室はある。よくある『異能科学』の賜物ってやつだな!」

 

 要するに、この訓練室に備え付けられた機械を操作すると、訓練室を特定の環境に変化させることが出来るのだ。

 ざっと設定に目を通しただけでも、『市街地ーa』とか『森林-c』とか色々ある。

 技術部の人に申請すれば、更に個別の条件を設定してもらえるらしい。『新卿華市』を作ってといったら出来るのかな?

 

「環境は『市街地-a』でいいか? 一番ポピュラーだし、慣れとく方がいいだろ」

 

「大丈夫です!」

 

「それとルールの確認だ。今回は『一撃入れた方が勝ち』で行くぞ。あくまで実力を見たいだけだからな」

 

「了解です!」

 

「おうし。おーい、頼む!」

 

『はーい』

 

 朝比奈先輩は、硝子越しに私たちを見ている紫陽花先輩たちへ声をかけた。

 訓練室の隣には観戦室があり、そこにも環境を設定するための機械がある。本人たちしかいないなら本人たちが設定するが、第三者がいるならやってもらうのが主流らしい。

 

(ふぅー……よし!)

 

 私は拳を握り締め、気合いを入れる。

 初めての現役隊員とのタイマンだ。頑張ろう!

 

 ───景色が変わっていく。

 

 演習装置による、環境変化だ。

 部屋の全てが変化を遂げる。微かな風に思わず目を瞑り、開いた時には、既に私は市街地の中にいた。

 

 思わず目を見開く。

 再現されたビル群は明らかに、元の部屋の大きさを超えている。でもそこに違和感はなく、私は目の前の市街地を偽物だと断定する事は出来なかったのだ。

 

(よし、行こう!)

 

 私と朝比奈先輩は、それぞれ市街地の端と端からスタートする。つまり最初は移動を繰り返し、有利な位置で相手よりも先に位置を把握するべきだ。

 

「『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』」

 

 異能を発動。ビルを昇るのに十分な力を得ると、私は窓際の出っ張りを経由しながらビルの屋上へ駆け上がった。

 まず得るべきは地の理。高所なら、市街地を見渡せる。

 

 

 ビルが両断された

 

 

「………………………………え?」

 

 ───足元が崩壊していく。

 

(ビ、ビルが切られたああああ!!!?)

 

 落下する最中、己の感覚に従い、斬撃が来たと思わしき方向を見る。

 アスファルトの上。朝比奈先輩が木刀を振り抜いた姿があった。

 

 咄嗟に異能が発動して、『朝比奈先輩を細かく見れるだけの視力』を得る。

 先輩は口を動かし、『ビーンゴ』とにやついたのだ。

 

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無限斬撃無双大勝利(アルティメットソード)!!】[異能]

『風を纏う』異能。風の防壁や高速移動などにも使用できるが、朝比奈刃流樹は主に刃に纏わせ、飛ぶ斬撃として利用している。

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 先輩の姿は豆粒ほど小さい。

 それはつまり、少なくとも数百M以上離れた位置から、一撃でビルを両断して見せたという事。

 

(位置が既にバレてた……! 高所を取ると予想されてたんだ!)

 

 崩壊するビルの残骸を足場にして、私は別の建物へ移動する。

 すると、私が通り過ぎた跡を斬撃が走った。

 移動を止めてはならない。止めれば、すぐにやられてしまう。

 

 次の建物に着地。

 しかし同時に、再び両断された。

 

(なら、いっそのごと近づく!)

 

 落下していく建物にギリギリまで留まり、蹴って飛び出す。

 加速を経た私は建物を乗り継いでいくが、その全てが着地と同時か、それより微かに早く切られていった。

 

 砂煙が立ち舞う。

 崩壊の音が連続して、市街地はあっという間に大惨事と化していく。  

 それでもなお、先輩との距離はまだ数百M離れていた。

 

「ッ……!」

 

 斬撃が到来する。今度は複数だ。

 振られる木刀と同時に、周囲の建物がいくつも崩壊し、移動のルートが絞られた。

 

 私は屋上への移動を捨てると、崩壊する建物の中間層へガラスを突き破り突入。

 ひっくり返る内部を何とか移動しながら、進行方向とは別の方向へ残骸の一つを投げた。ガラスを突き破り、投げた残骸が両断される。

 ───ビンゴ。先輩は超反応で移動先の建物を潰している。そう確信した私は、ブラフを仕掛けたのだ。

 

 先輩との距離はかなり近づいている。

 あと一回の加速で辿り着くところまで来た。

 私は攻撃後の硬直を狙って空中へ跳び出し、回転しながら斬撃を避け、落下を始める。

 

(今回は『一撃入れた方が勝ち』のルール! 近距離戦に持ち込めれば!)

 

 上空から私を追い抜く瓦礫を足場にして、私は先輩へ更に加速。

 ゴーグル越しの瞳が私を貫く。

 

 ───笑っていた。

 

 いつの間にか、鞘に収められた木刀が振り抜かれる。

 体重移動と、恐らく異能を込めた、今までで最速の一撃。着地する直前の私を狙った、決着の斬撃。

 

「『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』!」

 

 けれど、私は異能を使用する。

 代償である傷が頬に刻まれると同時に、物理法則を無視し急加速し、強引に地面へ着地した。

 

 斬撃が頭上を通過。

 腕を振り抜き、隙を晒した先輩の姿が見える。

 

(取った!)

 

 深く沈み込んだ私は、勢いよく前方に踏み出した。

 

「朝比奈流白兵術───虚連(きょれん)

 

 腹に、木刀が直撃した。

 

 私は膝から崩れ落ちる。

 ぐらりと視界が揺らいだ。

 

(なんで……罠……!?)

 

 あまりにも早い反応。

 そして、余裕な表情を浮かべる先輩。

 

 サーシャさんが言っていた。『人間は勝ちを確信した時、その一瞬、最も緩む』と。

 先ほどの大振りは、私に勝ちを確信させるための罠。力強く振り抜かれたように見えた腕の動きは、その実、切り返しの余力を残した軽い一撃だったのだ。

 

 故に、接近する私に先輩は木刀の柄頭を突き出した。先輩に到達するよりも先に、柄頭は私の腹を穿ったのだ。

 

 その全てを、私は認識していた。

 ()()()()()()()には強くなっていて───けれど()()()()()()()()()()に、私は弱かった。

 

 私の眼前に、木刀が突きつけられる。

 

「はい、しゅーりょー」

 

「っ……」

 

「おおっと」

 

 崩壊し続けるビル群。

 思わず力が抜けて転びそうになる私を、先輩は受け止めてくれる。

 

「大丈夫か? 斬撃は直撃してねえと思うが」

 

「せん、ぱい……なんで、分かったんですか? 私が、避ける事……」

 

「ん? あぁ、ありゃ鈴代ちゃんが教えてくれたからな」

 

「私が……?」

 

 朝比奈先輩は、足元の石を拾い上げた。

 

「さっきオレの一撃を回避するために、瓦礫を身代わりにしてただろ。それ見て思ったんだ。『あぁ、この子策を弄するタイプか』ってな。そのヒントを元に、オレは一撃目を透かした訳。異能で回避するとは思ってなかったけどな!」

 

「バレバレだった、って事ですね」

 

「いい対策だっただろ? GG(グッドゲーム)! NT(ナイファイ)! TY(センキュー)!」

 

 役目を終えた環境が揺らぎ、徐々に元の訓練室が戻っていく。

 

(……悔しい)

 

 蓋を開けてみれば、私は朝比奈先輩に何も出来なかった。勝てるとは思っていなかった。でも、もう少し善戦できると思ってたのに。

 

 ……振り返れば戦いにもなっていなかった。

 最初の一撃が、ビルではなく私を狙った物なら、回避できなかったかもしれないし、そもそも朝比奈先輩は一歩も動いていない。

 相手を攻めに転じさせることも出来ず、私は完封されたのだ。

 

「二人ともお疲れ様」

 

「いま治すね!」

 

 訓練室が完全に戻り、観戦室にいたまりちゃんたちがやってくる。

 

「有栖川、オレは?」

 

「は? 唾つけときなさいよ」

 

「えなに。お前、オレのこと嫌い?」

 

 朝比奈先輩は軽くあしらわれ、肩を竦める。

 

「とりま、フィートバッグな。全体的に悪くはなかったぜ。超スピードも攻撃力も大したもんだ。咄嗟の反応も悪くねえけど、圧倒的に経験値が足りないな。対応力しかり、異能の使い方しかり。優秀優秀。が、優秀どまりだ」

 

 ゴーグルを外し、私を指さす。

 

「真っすぐすぎ。性格出てんぜ。今はまだ基礎作りの段階かもしれんけど、そのうち必要になるから自分の『戦い方』見つけろよ」

 

「先輩、この子はサーシャ先輩にも指南されてるんで、そこら辺は大丈夫ですよ」

 

「あ、そなん? ならいっか。アイツに怒られたくねえし」

 

 どうやらサーシャさんの名は戦闘部中に轟いているらしい。

 何か因縁でもあるのかな?

 

「スイーツ食えなくなるのはごめんだ」

 

 ……なさそう。

 

「刃流樹先輩はこう言ってるけど、近づけただけ凄いよ。なんたって先輩は、白兵戦最強の男だからね」

 

「えぇ、そうなんですか!?」

 

「エデン先輩を除きタイマンでこの人に勝てた隊員はいない。我も以前戦った時は負けてしまった」

 

「エデンには一時間の死闘の末、一撃も入れられずにボコボコにされたぜ!★」

 

「超すごい人じゃないですか!」

 

 班長といえば、戦闘部No.4の地位だったはず。その順位は単純な戦闘力じゃないとは聞いていたけど、それでも班長に勝つだなんて相当な実力者だ。

 

「はっはっはっ! いや~~~~後輩からの尊敬は気持ちいいなぁ」

 

「しののんは結構いろんな人を尊敬してるけどね。いい子だから」

 

「んなこたぁいいんだよ! 今はこの事実が大事なんだ! 分かってねえなぁお前は」

 

 なんだろう。凄い人なのに、この残念感。

 朝比奈先輩はゴーグルを上げて息をつくと、みんなを見渡した。

 

「ってな訳で、講評良い感じじゃねえか? これなら()()もいけるだろ」

 

「本番、ですか?」

 

「ああ。必要だろ? フィートバックは」

 

 にぃ、と笑う。

 

「───なんたってそろそろ、新入生たちの『入隊試験』が始まるからな」

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