──銀狼隊"戦闘部"入隊試験 三日前。
「へえ、じゃあ獅乃も銀狼隊の人みんなと会った訳ではないのね」
「そうなんだよね。受付の人は『支援部』って言ってたけど、支援部の人と会うのは初めてだった。あ、任務ですれ違った事はあるけど、会話は初めて。『技術部』の人とも会った事ないや」
ここあちゃんの受験票受け取りに付き合った帰り道、私たちは寮へ向かって歩いていた。
願書の提出は二週間ほど前に済んでいて、最終確認を兼ねた受験票を取りに行く必要があった訳だ。
「『銀狼隊』って合計で何人ぐらいいるのかしら」
「師匠の話だと、確か百人はいないぐらいって言ってたかな。八十人ぐらいだったと思う!」
正直、私も銀狼隊について知ってる事は少ない。詳しくは追々説明していくと言われ続けているからだ。
給料とかも貰えるらしいけど、単純に一か月経ってないからまだ入ってきてない。というか、口座を作る事を忘れてたせいで少し遅れるらしい。
「あ、二人ともこんにちはぁー」
寮の傍までくると、私たちの友人である八千代ちゃんが話しかけてきた。ふりふりと手を振っている。
「八千代、こんにちは。……ところでそちらの二人は?」
ここあちゃんが視線を向けた先にいたのは、八千代ちゃんの隣に立つ二人の女の子だ。
短い茶髪で勝気そうな子と、金髪が特徴な子。
どうやら三人で話していたらしく、茶髪の子は元気よく満面の笑みを浮かべつつ私たちを見た。
「どうも! わたしは
対して金髪の子は慣れた仕草で首を傾け、胸に手をあてつつ、まるでアイドルのように笑う。
「アタシは
千羽さんが三つ編みを持ち上げると、現れたのは尖った耳だ。
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【エルフ】[異種族]
〇性質───自然適応・長寿・美麗
〇詳細───とても美しい外見、そして筋肉の付きにくい肉体を生まれ持ち、人間との外見での識別は耳以外では困難とされている種族。長寿であり、その寿命は三百年から最長で千年と言われている。かつてはフランスにのみ存在したが、数十年前の『エルフ移民問題』をきっかけに日本へ移住してきた。
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「へぇ、耳が尖ってるんだ!」
「エルフを見るのは初めて? ほれほれ」
「わー!」
触れることなく、耳がぴこぴこと動いている。まるでここあちゃんの尻尾みたいだ。
(……二人とも顔がいいけれど、千羽さんは格別かも!)
妖精のような雰囲気というか、浮世離れした絵みたいな美しさがある。美術館に飾っておきたい美貌だ。
「私は鈴代獅乃!」
「私は餅月ここあ。私たちはB組だけど、二人は八千代と同じでA組?」
「そうです!」
「そうそうここあちゃん、獅乃ちゃん。今ね、銀狼隊のお話してたんだよ。二人も銀狼隊志望なんだって」
「……へぇ」
ここあちゃんの目つきが少し鋭くなる。
すかさず尻尾に触れる。
「獅乃、分かったから尻尾触るのやめなさい」
「はーい」
暴走してはいけないと思って(あと役得だと思って)尻尾を撫でていたけれど、留められてしまった。
すると千羽さんは頷きながら、笑顔を浮かべる。
「そっか、二人もなんだ。餅月さんたちはどこ志望?」
「ここあでいいわよ。私たちは『戦闘部』ね」
「じゃ、私たちと一緒だ」
千羽さんが辻さんを指させば、満面の笑みでピースが返ってくる。
どうやら、この場にいるのは八千代ちゃん以外、全員『戦闘部』志望らしい。
「あれ、志望っていうか、獅乃ちゃんは──」
「あっあっ」
「むぐぅーー……?」
「八千代ちゃん、しー……!」
話し出そうとした八千代ちゃんを止めて、小声で伝える。
「実はね、私が銀狼隊に入った事はまだ秘密なの。言っちゃった子は仕方ないけど、広めるのはやめてほしいって」
「あっ、なるほどね……! 了解……!」
「「……?」」
「なんでもない!」
適当に誤魔化せば、二人は首を傾げつつもそれ以上追及してこなかった。仕方のない事とはいえ、少々面倒だ。
「って事は、その手に持ってるのは受験票? お揃いだ」
「ええ。ちょうどもらってきたところよ」
千羽さんが掲げたのは、ここあちゃんの持つのと同じ封筒だ。その中には受験票が入っている。
「とはいえですね、私はまだ迷ってるんですよねぇ……『戦闘部』と『技術部』、両方興味がありまして。併願可能なのでどっちも応募しましたが」
辻さんが持つ封筒は二枚だった。
「異能的に戦いも、武器とか道具面にも役立つ異能でして。あ、私は純人間ですので」
「ちなみに、その異能って?」
「ふふふ、それは
好戦的に微笑んで、辻さんは胸を張った。
そんな彼女を尻目に、少し間顎に手を当て考え事をしていたここあちゃんが、千羽さんの方を向く。
「……ねえ、千羽さん。ところで貴方って、有名人だったりするかしら」
「ん、どうして?」
「どこかで見た事がある気がするのよね。テレビか何かで……」
「芸能人とかなの?」
「ふっふっふっ……」
私の言葉に反応したのは、なぜか八千代ちゃんだった。
「よくぞ聞いてくれたね、二人とも! ネルムちゃんはねぇ──あの『箱根エルフ特区』の子なんだよ!」
「いやぁ、にゃはは……」
「「『箱根エルフ特区』!」」
私は首を傾げた。
「──って、なぁに?」
「あれ、獅乃ちゃん知らないの?」
どうやら有名な場所なのか、意外そうな顔をされた。
箱根、って事は神奈川? 名前からして凄い楽しそうなところだけれど、秋田の片田舎ではそんな場所の話は届かない。
「ふむふむ、なるほど! それじゃあ説明してあげましょう!」
辻さんは人差し指を立てた。
「『箱根エルフ特区』っていうのは、箱根にあるの南部、芦ノ湖の周辺の区の事です!。ネルムさんみたいなエルフの方々が日本で初めて生活しだした場所で、現在でも世界有数のエルフ人口を誇っています!」
「エルフが……沢山!?」
基本的に異種族は純人間の中に少数いるというのが常識だ。少なくとも私がそう教わってきた。でもその話が本当なら、その特区はエルフだらけという事。
八千代ちゃんと辻さんは、それぞれ千羽さんの左右を固めると、両手を広げて仰いだ。
「そしてこの千羽ネルムさんは、エルフ特区で有名な『
「風鈴花の美人若女将って有名なんだよ! テレビでも何度も出てるし!」
「あはは~、そんなに仰々しい説明をされると照れちゃうナ~~~!」
千羽さんは満更でもなさそうに照れて、三つ編みをぱたぱたと弄っていた。
ここあちゃんもピンと来たのか、手を叩いて笑う。
「そう、その旅館! 確か寝湯が有名なところよね!」
「そうそう! うちの旅館のこと知ってくれてて嬉しい。もしよかったら今度遊びに来てね。予約が多いから特別扱いは出来ないけど、料理一品ぐらいならサービスするからさ♪」
ぱちりとウィンク。
さっきから思っていたけれど、千羽さんの仕草は一つ一つが洗練されている。魅せ方を分かっているんだろう。
皆が楽しんでいるところ悪いけれど、私はまださっきの話題から動けていなかった。
思わず固まっていた体を動かし、千羽さんへ問いかける。
「ね、ねえ、千羽さん。そこ、エルフの人が沢山いるって言ってたよね。……エルフの人って、みんな美形なの……?」
「あはは、美形とか言われると照れるなぁ。ま、そうだね。私の顔はお母さん譲りだし、割とみんな綺麗系っていうか、人間の人からすると顔がいいって言われがちかな。エルフ同士からすると耳の長さで美醜が決まったりとか、割と価値観違うところあるんだけどね~」
「……!」
「こら獅乃──え、手弾かれたんだけど」
「千羽さん! いや、ネルムちゃん!」
「はえっ、え、あ、はいっ?」
両手を包み、私は顔を近づける。
「今度遊びに行くね……!!!! うん、絶対に!! 絶対に行くから!!」
「え、えええっ? いいけどなんか怖いよ……!?」
「そんな事ないよ!! 絶対行くね!!」
困ったようにネルムちゃんが二人を見れば、ここあちゃんが肩を竦める。
「……この子、面食いなのよ。男女関係なく美形ならなんでもいいから。『エルフ特区』なんてこの子にとって刺激が強すぎると思ったけど、はぁ、まぁこうなった以上仕方ないわね」
「平常運転だね~」
「これ普通なの!? 美形に対する執着凄くない!? 目の保養目的でくるお客さんとは別の何かを感じるんだけれどーー!」
──その後、しばらくネルムちゃんの私を見る視線には、恐怖が入り混じっていた。