Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第九話『音の出会い』

(危ねえ、マジでギリギリだった!)

 

 『志望者控室』と書かれた部屋の端で、他の志願者に混じりながら、俺──御神楽神威は息をつく。

 

(『異能』が音を拾ってくれたおかげで反応できた。でも、正直間に合ってなかった気さえするぜ)

 

 俺の『異能』は、聴覚能力を強化する。布の擦れ、心臓の鼓動などによって試験官たちの動きを事前に察知し、咄嗟に試験官たちの動きに反応。一次試験を突破できたのだ。

 

(鈴代の言ってた『柔軟性』って、まさかこれか? だとしてらやべえよ! なんで突然攻撃するフリなんだよ!)

 

 試験官たちの話は理解できた。その柔軟性が戦場において必要な力だとも。けれど、心がそれを許せるかどうかはまた別の話なのだ。

 俺はざわつく心を抑えながら周囲を見渡す。

 

(平気な顔してるやつ、むしろ退屈そうにしてるやつ……あの試験に余裕で対応出来たって事か? クソ、やべえやつばかりじゃねえか)

 

 頭を抱え、自分の明暗にため息をつく。

 

「はぁ……」

 

「わーーーーっ」

 

「うおっ……!?」

 

 耳元で声が聞こえて、思わず肩が跳ねあがった。普段なら背後から近づかれても気づけるのに、どうやら相当集中していたらしい。

 

 振り返る。

 そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべた女の子だ。

 

「びっくりした?」

 

「したけど、だ、誰だよ?」

 

「私? 私は……うーん、『るー』って呼んで!」

 

 後ろで手を組み、体を傾けて笑う『るー』。

 なるほど、本名は言うつもりがないらしい。

 

(綺麗な子だな……)

 

 艶やかな黒髪にインナーカラーとして銀色が入っていた。瞳の色は琥珀で、顔がとにかく小さい。手足もすらりとしている。眼鏡を付けているのに、伊達なのか目元は一切湾曲していなかった。

 けれどそれや、身に纏う白いカーディガン、耳元に付けた月を模したアクセサリとか、身に纏う全てがこの子の綺麗さを際立たせる要素となっている。

 

「なんだか怖い顔をしてたからさ、大丈夫かなーと思って」

 

「ああ、心配してくれたのか……ありがとう」

 

 とはいえ、さっきよりも心臓はバクバクしている。驚いたのもあるけれど、こんなに綺麗な子と近くで話したことがないからだ。

 

「どういたしまして♪ ねね、君って音楽系の異能なの?」

 

「どうしてだ?」

 

「ヘッドフォンしてるし、異種族には見えないし……だとしたらそうかなって」

 

「まあ、そうだな」

 

 詳細を教えろと言われたら困るが、系統を答えるぐらいなら嫌じゃない。

 頷けば、彼女は手を合わせた。

 

「やっぱり! 私もなんだー!」

 

 笑顔に星が煌めく。

 ほんと、出来過ぎなぐらい綺麗だ。

 

「学園で音楽系の人と出会うの初めてだから嬉しい! ねね、どんな事できるの?」

 

(なんだこの子、探りを入れてるのか……?)

 

 同じ場で使用された音楽系の異能は、時々『共鳴』もしくはハウリングを起こす。

 

 音楽系異能者は、自然と音に関する理解度や感覚が、他の者より強くなる。それによって互いの発する音を()()()()()()()()()()、異能同士が影響し合う事があるのだ。

 それが共鳴と呼ぶべきか、ハウリングと呼ぶべきかは、実際に起きた現象がプラスかマイナスかで判断される。だが、大体の場合はマイナスを生み出す。

 

 だから彼女は探りを入れて、試験でのハウリングを回避しようと……

 

(違う。この子、多分そんなこと考えてない)

 

 動揺もしてないし、心音の速さも変わらない。策を講じてる人間の状態では断じてない。

 それに何よりも、表情で理解できる。

 

(わくわくしてる。この子、純粋に同類と出会えた事が嬉しいんだ)

 

 俺は自分の愚かさを呪いたくなった。

 

(……悪いのは、俺だな)

 

 疑り深い自分が、思わず笑えてしまう。

 

「あれ、どうして笑ってるの? 私なにか面白かった?」

 

「いや、なんでもねえよ。自分に笑っただけだ」

 

「……? 君は面白くないよ?」

 

 語弊がすごい。

 

「それより何が出来るかだったか。………………心が読める」

 

「えっ」

 

 どきん、と『るー』の心音が跳ねた。

 俺は思わず吹き出す。

 

「悪い、冗談だ。本当は耳めっちゃ良い。アンタ、今びびっただろ」

 

「わー! 騙されちゃった! 君凄いねぇ!」

 

 ころころと表情が変わる子だな。見てて飽きない。

 

「ところで、君の名前は?」

 

「俺は御神楽神威だ」

 

「じゃあ御神楽くんだ!」

 

 『るー』はぴょいと跳ねると、俺の隣へ腰を下ろした。

 自然と俺たちは会話をするような形へ。

 

「一次試験びっくりしたねー。御神楽くんは大丈夫だった?」

 

「大丈夫じゃなかったよ。何とか反応できたが、正直まだびびってる」

 

「私も! 気が付いたら反応できてたみたいで、後から試験官の人に言われて『あ、大丈夫だったんだ』ってなった!」

 

 様子が簡単に想像できる。

 多分『るー』はぼーっとしててんだろう。

 

「俺の場合は友達……いや、知り合いからちょっと助言をもらってさ。警戒しといて損はない的な」

 

「そうなんだ!? 確かに、私の友達も──」

 

「『るー』殿」

 

「あ、噂をすれば!」

 

 話す俺たちの前に現れたのは、一人の少女だった。

 一本に纏めて後ろへ垂らした赤髪。凛とした表情からは明確な芯を感じさせ、その背中には綺麗で巨大な緋色の翼を携えていた。

 彼女は『るー』へ話しかけたが、隣の俺を認識すると、小さく口を開く。

 

「すまない、お話中でしたか」

 

「いや、構わないぜ。アンタは?」

 

「お初にお目にかかる。私の名は|夜凪(やなぎ)|朱莉(しゅり)。よければ、貴殿の名をお聞かせ願えないだろうか」

 

 古き良き日本を感じるような綺麗な言葉遣いで、彼女は尋ねてくる。

 

「俺は御神楽神威だ」

 

「では、御神楽殿と。お二人は何を話されていたのですか?」

 

「試験についてだよー! 一次試験大変だったねって!」

 

「ふむ。確かに、先ほどの出来事はかなり奇怪でした。それに……ただ者ではない御仁がいるようだ」

 

 振り返り、視線の先にいたのは、部屋の中心で瞳を閉じている男だった。

 天霧リオン。先ほど、試験管に攻撃を仕掛けたとんでもない奴。

 

「天霧リオン。まさか天霧財閥の御曹司が来るとは」

 

「有名なのか?」

 

「ええ、まあ。あまり他人の事を話すのは好みません故、気になるようでしたらご自分でお調べになってください」

 

 財閥。つまりは、金持ち。

 どうやら並ではない境遇の人間らしい。

 

「それに」

 

 夜凪はぐるりと控室を見回した。

 

「入学前に喧嘩をしていた獣人、その相手の天使。説明会で現役隊員を圧倒した少年。──先んじて入隊を果たしていた才女。どうやら私たちの世代は、話題に事欠かないようです」

 

 ゆるりと翼が広がる。羽同士の隙間から火炎が滲みだして、微かに炎の翼を形成した。

 危険だとかそういう事を言う前に、思わず圧倒されてしまう。

 

「……腕が鳴りますね」

 

「朱莉ちゃん、火、火ぃ!」

 

「おっと、これは失敬」

 

 夜凪は軽く頭を下げると、火を沈めた。

 

「それでは私はこの辺で失礼します。『るー』殿を見かけて挨拶しに来ただけですので。試験前のことは、改めてありがとうございました」

 

 お辞儀をして、夜凪は去っていく。歩く後ろ姿も凛々しく、緋色の翼も相まって見惚れてしまいそうだった。

 

「すげえ人だったな……」

 

「分かる。こう、ピシッとしてるよね!」

 

「ところで試験前の事ってなんだ?」

 

「うん? ああ、実は会場着く前に朱莉ちゃん迷子になっててね? それを助けてあげたの!」

 

「迷子?」

 

 確かに銀狼隊本部は普通行かないところだが、もう既に一か月以上いる学園で迷子とは。

 

「朱莉ちゃん小さい頃から飛んでばかりいたから、地上で何か探すの得意じゃないんだって。私知らなかったんだけど、この学園の敷地内って許可ないと低空飛行しかしちゃいけないらしいよ!」

 

「へぇ、校則は目を通したけど、異種族用のルールなんて見てなかったな……」

 

 如実に人間と異種族の価値観の差が出る出来事だ。なるほど、翼を持ってると上から探すのが当たり前になるのか。面白い。

 ちなみに、この学園の校則は学生証にではなく、寮の部屋に備え付けられた辞書ぐらい分厚い本に書いてある。

 

 俺が感心していると、『るー』はぴょんと立ち上がった。

 

「それじゃあ私もそろそろ行くね! 二次試験頑張ろー!」

 

「ああ、お互いにな」

 

「うん! ──()()()()()()()()

 

「ああ……?」

 

 不思議な一言を残して、『るー』は控室の真ん中へと消えていった。

 

「楽しみに……? それはどういう……いやいや、気持ちを乱すな。しっかりしろ……!」

 

 頬を叩き、気合いを入れなおす。

 

「……一次試験でアレだ。二次試験からはもっと実力を問われるはず……ここを乗り切らねと意味ねえぞ、御神楽神威……!」

 

 全ては、クソッタレな自分を変えるために。

 

 ■

 

 「餅月さぁ~ん」

 

 名前を呼ばれて振り返れば、そこにいたのはエルフの少女だった。

 彼女は私の横へやってくると、一緒に歩き始める。

 

「ああ、千羽さん。こんにちは。お互い受かって良かったわね」

 

「本当そう。まぁ試験本番はこれからって感じだけどね」

 

 彼女は両手に立派な杖を持っていた。前に出会った時は持っていなかった気がするから、それが彼女の得物なのだろうか。

 

「二次試験……目の前の森が舞台なのよね」

 

 私と千羽さんは目の前の光景を見上げる。

 そこに広がるのは、霧がかった青々とした巨大な森だ。

 

「──という訳で、二次試験の説明だ」

 

 集団の先頭を飛んでいた最上先輩がこちらへ振り返る。

 

「会場は、この銀狼隊訓練室の機能によって再現した『薄霧の森』。この森は本物じゃない。技術云々に関しては下手な事言えないから、後でパンフレットを見てくれ」

 

 銀狼隊の訓練室は、隊員たちのあらゆる環境での活動を想定するため、様々な環境を再現できる『仮想型環境演算装置』だと聞いたことがある。

 この装置を使えば、物理的な空間サイズなども無視して環境を広げられる。この森も明らかに部屋の大きさを超えているが、装置の力なのだろう。

 

「試験の趣旨はこうだ。──君たちは銀狼隊の人間として、犯罪組織と戦闘を行っていた。しかし劣勢となり、今回は戦略的撤退を選ぶこととなった。そこで君たちが選んだ逃亡ルートの一つが、この薄霧の森だ。森は元々視認性が悪く、更に霧がかかっているとなれば最悪と言っていい。この森なら確実に追手を撒けるだろう」

 

 なるほど、突発的だった一次試験と異なり、二次試験はしっかりと実戦想定の試験らしい。

 

「とはいえゆっくり進めば犯罪組織も俺たちを見つける可能性が高い。一刻も早くこの森を抜ける必要がある。だから、制限時間は三十分だ」

 

 最上先輩は指を三本立てる。

 

「三十分の間に森を抜けられた者を合格者、それ以外を不合格者とする。足元の線が見えるだろ?」

 

 最上先輩が指さすのは、私たちから少し離れたところに書かれた白線だ。見える限り、横一線にどこまでも伸びている。

 

「これはスタートライン。そして森の出口にも同じ線が引かれている。そこがゴールラインだ。この後の開始の合図と同時、君たちは横並びでスタートしてもらうぜ」

 

 真の意味で、よーいどんの試験。

 つまりここからが試験本番と捉えていいかもしれない。

 

「他の受験者への攻撃は禁止。趣旨はあくまで『撤退』だからな。それと上空を抜けるのも一応ありだ。だが、それは霧と森の利点を活かさないという事でもある。だから森の高さを超えて移動するやつには──」

 

「オレたちが攻撃を仕掛ける!」

 

 私たちの後ろには、既に二人の先輩たちが立っていた。

 一次試験の時にもいたゴーグルが特徴の朝比奈先輩と、確か……瓜生先輩? だったはずだ。獅乃が話していたのを辛うじて覚えている。

 

「犯罪組織の追手って訳だ。とはいえ安心しろよ。オレたちが扱うのは非殺傷性の武器で、目的は空から落とす事だけだ」

 

「そういう事だ。安全に森を選ぶか、それでも利点を活かすために空を飛ぶかどうかは当人次第だな。ちなみに二人への攻撃も禁止だ。分かったな天霧」

 

「心得てますよ」

 

 一次試験終了後、攻撃を仕掛けていた天霧くんは、最上先輩の言葉に軽く笑った。

 流石に二度目をやらかす事はないだろう。

 

 私はちらりと周囲を見渡す。

 残った志願者の中には、何人か飛行能力持がはいる。

 私とぶつかった天使三人や、緋色の翼を持つ人。それと一応、雨ノ宮なんかも血液を使えば、飛べなくとも跳べはするはずだ。

 

「んで、これが最後になるが──これは『機動力』を測る試験じゃない。具体的になにを指すのかまでは言えないが、これはちゃんと別の力を測る試験だ。これヒントな。何か質問あるか?」

 

 その言葉に、緋色の翼を持つ女子が手を上げた。

 名前は確か……夜凪さん、だったはずだ。彼女は凛とした声で質問を投げかける。

 

「先輩方の攻撃は空中にいる時だけでしょうか。地上にいる時はこないのでしょうか」

 

「その通りだ。正確に言えば、木の身長を超えた時に攻撃は開始される。……意味は分かるな?」

 

「はい」

 

 最上先輩の意味深な笑みに、夜凪さんは表情を変えず頷く。

 

(……低空飛行しろって事?)

 

 少し考え、私はその結論にたどり着く。翼を持たない自分ではあまり想像できないけれど、低空で飛ぶなら攻撃はされないし、飛ぶという利点を活かす事も出来る。木には注意しなきゃいけないからあまり良い手ではない気もするけれど。

 

 そう考えていると、次いで雨ノ宮が手を挙げた。

 

「森の中の環境はどうなっていますか? 霧の濃さや、あるいは地形など」

 

「……いい質問だ。だが、答えは秘密だな。始まってからのお楽しみだ」

 

(わざわざ回りくどい言い方……つまり、環境に何かギミックがあるのね)

 

 その解答で何もない事はないだろう。とすれば、それを攻略するのも二次試験の趣旨といったところだろうか。

 

「せっかくならもう一つヒントをやろう。例え二次試験においても、根本的に必要とされる力は変わらねえ」

 

 先輩は、こめかみに指を立てた。

 

「──思考を回せ。考え続けろ。例え何が起きても対処するんだ。それが出来なきゃ合格はありえねえ。……んじゃ、五分後スタートするから準備にかかってもらおうか」

 

 ■

 

 開始を待つ訓練場には、奇妙な空気が張り詰めている。

 獣耳を整える音、翼の調子を試す羽音、乾いた喉を潤す浅い息遣い。それらが入り混じり、誰一人として口を開いていないのに騒がしい、静かな喧騒を生み出していた。

 

「……よーしっ」

 

 満足気に見回して、『るー』は頷く。

 既にこの場では、事前準備のために異能の使用が認められている。

 

 ならば、今が絶好のチャンスだ。

 

「いっくよー!」

 

 ぴょん、と跳ねて、全員の視線が『るー』へと集中する。

 好奇心と驚きを一身に受けて、『異能』を発動させた。

 

「──『魔法みたいにとっても素敵!(Magical Charming!)』」

 

 鮮やかなピンクの輝きが、『るー』の全身を包む。右手からは細長いシルエットが伸びた。それは大きなマイクとスタンドだった。

 ポップに弾けて、星屑が舞う。くるりと回る彼女は、一瞬でひらひらのドレスを身に纏っていた。

 

 瞳に瞬く星、桃色でふわふわのツインテール。髪につけた沢山のアクセサリやピアスは彼女を豪華に彩り、ケーキのように甘く飾り付ける。

 何よりも光を放つのは、子供の様に純粋で、見る者の心を洗い流してしまう笑顔だ。彼女が笑った途端、世界が一段階輝いた気がした。細められた琥珀の瞳は、どんな宝石よりも美しい。

 

 突如として現れた美しき少女。

 浮世離れした彼女の名前は、そう──

 

「──ア、アイドルの『*LuSsiq(ルシア)』!?」

 

「『*LuSsiq』!?? えっ、えーー!!? あの『歌姫』!?」

 

 訓練場は突如として熱狂に包まれた。

 誰もが『るー』、いや、『*LuSsiq』を見つめている。

 

 それもそのはず。

 『*LuSsiq』は、世界的に有名なアイドル兼アーティストだ

 

 中学生の頃にSNSへ投稿した歌ってみた動画がバズった事から事務所に発掘され、中学二年生であった彼女は当時有名だった作曲家とコンビを組みメジャーデビュー。

 歌声と美しすぎる容姿が話題に話題を呼び、現在では主にアイドルとして世界中を席捲している。

 

 ビルボードチャートにて最速で一億再生を達成、CM出演二十社、オリジナルソング三億回再生、レコード大賞特別賞受賞など功績の枚挙に暇はなく、来年には武道館での単独ライブも予定されている、今を瞬く大スターだ。

 

「なんで銀狼隊に!?」

 

「ていうか、月桜学園に入学してたのかよ……!?」

 

 *LuSsiqは右手をパッと上げると、全員へ向けて声を張った。

 

「みんなーっ、驚かせてごめんね! これはドッキリでもなんでもなくて、普通に私も志願者です! 黙ってた理由はすっごく単純!」

 

 彼女は両の掌を合わせると、再び笑顔を深めた。

 

「──みんなをびっくりさせたかったの! サプライズって楽しいでしょ! それにどうせ正体を明かすのなら、劇的な方が好みだったから! それにどうせ異能を使ったらこの姿になっちゃうし!」

 

 あっと驚くサプライズがあったら、嬉しい。それこそが、彼女が自分の正体を隠していたシンプルな行動原理だった。

 根本的にエンターテイナーなのだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 

「それに、正体を明かさない方が誠実ではないと思ったの! まるで後ろめたい事をしているみたいに見えちゃう!」

 

 例えばこのまま誰にも知られぬまま合格して、その後で*LuSsiqだと正体がバレたら。その時に人々が抱く印象は複雑怪奇だ。

 不正があったのでは、とか正体を明かせない事情があるのではとか、あらぬ噂を呼ぶ原因にもなってしまう。

 

「楽しんでいるところ悪いが、時間だ」

 

 時計を指さし、最上は割り込んだ。

 

「歌姫*LuSsiq。アイドルには疎い俺でも知ってるアンタが銀狼隊の試験を受けに来てくれて嬉しく思う。だが、例え世界的アーティストだろうと試験は平等だ。分かってるな?」

 

「もちろんです! 私だって、賑やかしで来たつもりはありません」

 

 *LuSsiqは、拳を握る。

 

「本気で成りたいから、こうやって堂々と来たんです!」

 

「いいな。そういう純粋さは嫌いじゃない」

 

 にやりと笑って、最上は白線を示す。

 志願者たちはそれに従い、線の前へ整列し始めた。

 

 同時に、犯罪者役の先輩たちも構えた。

 

「んじゃ、準備はいいな? ──第二試験、開始!」

 

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