Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第十話『霧中共同戦線』

 ──緋色の翼が大輪を開く。

 

 夜凪朱莉の持つ、全長二Mにも及ぶ鮮やかな両翼。それは突如として熱を帯びる。

 火花が散り、激しく燃え盛った。火炎は少女と翼を包み込み、決して焦がす事はなく、勢いを増していく。

 

 それこそが、緋色の翼を持つ一族──朱雀の力だ。

 

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朱雀】[異種族]

〇性質───飛行能力・火炎操作・長寿・温度変化耐性

〇詳細───翼を持つ人型種族、通称『翼人』の一種。絶滅危惧指定を受けた希少種族であり、元は古の時代に存在していた原生古代種。

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 霧や空間さえも薙いでしまいそうな灼熱を纏い、夜凪朱莉は、携えた翼によって飛翔した。

 やはり大半の予想を裏切らず、翼を持つ彼女は上空を選択したのだ。

 火炎の爆破による加速と、単純な飛翔による推進力。両方を兼ね備えた彼女は、凄まじい速度で前進していく。

 

「ハッ、陸なんざごめんだぜ」

 

 呟き、同じように翼を広げるのは天使──戯演。

 そのほか、空中移動手段を持つ者たちは、彼女に続くように飛び上がるが、次の瞬間、斬撃と弾丸が彼らを襲った。

 

「ぐあッぁ!?」

 

「ッ、隊員の妨害か!」

 

 次々と落下していく志願者たち。

 振り返れば、白線よりも後ろの位置で木刀と銃を構える刃流樹と斑鳩の姿があった。彼らの持つ獲物はどちらも非殺傷であり(弾丸がゴム製)、そこに込められた威力は約束通り単純に落下させるためだけのものだ。

 

 二種の攻撃は、空中に誰かがいる限り続いていく。

 当然、夜凪朱莉に対しても斬撃と弾丸は集中するが、それに対し彼女はちらりと一瞥するのみだった。

 

「……無駄な真似を」

 

勢いを増した火炎に直撃し、斬撃と弾丸は焼失していく。

刃流樹は腰を下ろし、先ほどよりも強力な飛ぶ斬撃を放ったが、火炎はもう一段階火力を上げ、斬撃を飲み込んだ。

 

「へぇ……」

 

「……!」

 

 朱莉と刃流樹の視線が、ぶつかる。

 

 ──一方地上では、フェアナンド・アルテンブルクが先陣を切っていた。

 

「『昏き深淵の果てまでも(S l u g F e s t)』ッ!!」

 

 ギラついた笑みを浮かべ、薄霧の森を突き進む。彼は異能の都合上出現する鈍器を背負いつつ、木々を足場にして疾走していく。

 ここあを中心とした他の身体強化能力者たちが続き、その後ろに他の志望者たちが追随していた。

 

 だが意外にも、()()()()を進むのは、尖った耳を持つ少女だ。

 彼女は木々の枝に体を支えられながら、森の中を庭のように移動する。

 

「いーやっほ~~!! 流石に森では負けてられないでしょー!」

 

 エルフである千羽ネルムは、森との親和性が高く、同時に自然を操る力を持つ。

 何よりエルフの中でも混血、ハーフエルフである彼女は、その特性の派生ともいえる異能を所持していた。

 

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森の鼓動(La Terre)】[異能]

『鎮静化する』異能。自然を操るエルフ本来の力の派生形であり、対象の生物に鎮静効果を与える事が出来る。

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 エルフといえど、自然を操る際には誤差もでる。だが彼女はこの異能を自分と植物に使用する事により、ほとんどミスのない完璧な操作を可能としているのだ。

 それこそが、誰よりも早く森を進めている事の証拠でもある。

 

 ──薄霧に、七色の光が混ざり始める。

 

 心躍るような戦慄が響く。

 可憐なバックミュージックを背負って、半透明の羽が生えた*LuSsiqが、森の中を飛翔。

 

「──『魔法みたいにとっても素敵 !(M a g i c a l C h a r m i n g !)』」

 

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魔法みたいにとっても素敵 !(M a g i c a l C h a r m i n g !)】[異能]

『歌って踊れて戦えるアイドルになる』異能。精神力を消費し、アイドルに変身する。変身中は『歌って踊れて戦えるアイドル』になり、人々を癒し鼓舞し、同時に守るために戦う事も出来る。誰が見ても分かるあまりにも真っすぐな精神の証。アイドルになりたい、誰かを元気づけたいという少女の抱いた、近代異能の結晶。

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 加速。

 木々の隙間を通り抜けるようにして、アイドルは森を飛んでいく。しかし木の高さを超えることはない。彼女のとった戦法は、低空飛行だった。

 

(上か下か選んでて遅れちゃった。ここから挽回しないと!)

 

 上空を飛んだ際の攻撃を凌ぐほどの自信はないが、異能は活かす。その為の選択肢を合理的に選んだ結果だった。

 彼女の『本気』という言葉の意味合いが、他の志望者たちへ染み込み始める。

 

 けれど順調とはいかないようだ。木々は複雑に絡み合い、進路を阻んでいる。飛行は速度さえ出るが制御が難しい。陸のレースとは別のところにいつつも、*LuSsiqは独走とまではいかなかった。

 

 ──それらの全てを、眺めて。

 

(さて……ここからは、()()()だ)

 

 雨ノ宮燐世は、思考を巡らせ始めた。

 

 ■

 

(霧の森を抜けるだけなら、多分僕の力でどうにかなる。血の糸で移動すれば大半の志望者たちより速い)

 

 僕は、地上組に紛れながら周囲を見渡す。

 

(でも、それでいいのか? ただ何も考えず全力を尽くす事が、銀狼隊に求められている事なのか? そんなはずはない。それに、最上先輩の言葉通りなら──)

 

「うわーーーっ!!?」

 

「ッ……!」

 

 爆発音が響いて、同時に叫び声が木霊した。前方に目を凝らせば、黒煙が立ち上っている。

 その中心から、金髪のエルフ、千羽さんが全身に煤を被り立ち上がった。彼女は咳をしつつ、顔の汚れを拭う。

 

「うえぇっ……」

 

(なんだ、誰かの異能? 空中を飛行する夜凪さんの火炎……いや、違う)

 

「おい、一体何が──!?」

 

 彼女へ近づいたフェアの足元が、再び爆ぜた。

 

「うぜェ」

 

 けれどアイツは、爆発を全身に浴びながらも地面へ拳を叩きつける。被るはずだった煤や衝撃を自力で黙らせると、その掌に握った円形の機械を潰した。

 後ろにいた餅月さんが近づいていく。

 

「アルテンブルク、それって……」

 

「ああ」

 

 彼らの声をかき消すように、次々と森の中から爆発音と叫びが木霊し始めた。薄霧の中に黒が混じり、一気に空気が変わっていく。

 フェアは舌打ちをして、静かに呟いた。

 

「こりゃ、地雷だな。センパイたちの仕掛けた罠だ。一筋縄じゃいかねェらしい」

 

 薄霧の中の地雷。

 単語を並べただけでも、凶悪極まりない罠だ。とはいえ威力自体は大したことなく、本当の意味で妨害用の物だろう。爆発を受けた千羽さんも既に立ち直っている。

 

(とはいえ止まってはいられない。空中組にこの事情は関係ないんだ)

 

 頭上を通過する七色の光も見えた。遅れていた*LuSsiqさんも既に通過している。なら地雷で出遅れれば、もう取り戻す手段は少なくなってくるだろう。

 

「──おいおい、マジかよ!」

 

 地雷が森中で響く中、微かに先を行く先頭集団から声がした。

 血の糸によって地形を無視して前へ進み、幹で止まり話を聞こうとする。しかし、それよりも前に意味を理解した。

 

(……これは)

 

 地雷が出現し始めて、少し進んだところ。

 そこからは、まるで山岳地帯みたいに入り組んで地形のオンパレードだった。

 

 どこを見回しても高低差が激しい。その上木々を目印にして進もうとも、地形のせいで迂回や強引な突破を余儀なくされる。倒木もいくつか見られた。

 もし僕がこのまま真っすぐ進めば、突然深い穴に落ちる。そして目の前に壁が現れて、異能がなければ抜け出す事は困難となるはずだ。

 

 何より、さっきよりも霧が濃い。

 先が見えないという事は行くべき場所が分からないという事。一度迂回を選んでしまえば、もしかすると方向感覚を失うかもしれない。

 

 まるで天然の迷宮。

 十中八九地雷もあるだろう。

 

(あまりにも……難しい)

 

 地上組の大半が足を止めてしまった。

 前へ進めば巨大な穴。迂回しても、小高い丘に足を取られる。間を進もうにも視界が悪い。

 

「めんどくせェな」

 

 フェアは障害に吐き棄てると、深く沈み込んだ。

 

「オレァ行くだけだ」

 

 勢いよく駆けだし、地形を無視して斜めに跳ぶ。目の前に現れた樹木に対して拳を振るい、障害を薙ぎ倒しながら進んでいく。

 

 それを皮切りにして、地上組は各々方法を選んで進んでいく。しかし大半は迂回して安全なルートを探しているようだ。

 

 しかし燐世は、まだ思考を回す。

 

(……先輩は言っていた。この試験で図っているのは『機動力』ではないと。なら──)

 

「第二試験には、必ず攻略法がある」

 

 思わず振り向く。

 そこにいたのは、茶髪の女の子だった。

 

「……君は?」

 

「私は辻遊菓です! 単刀直入に言います。雨ノ宮燐世さん。私と共闘しませんか?」

 

「共闘だって?」

 

「はい」

 

 辻さんは、元気よく頷く。

 

「雨ノ宮さん、ずっと考えてましたよね。一次試験の時から。だから思ったんです。この人なら、私と同じ結論にたどり着くかもしれないって。結果はビンゴでした♪」

 

「……少し、思考回路を聞かせてくれ」

 

 一瞬心を読まれているのだと思ったが、話を聞いている限り、洞察力が高いようだ。

 だったら話を聞く価値がある。

 

「大体は多分一緒ですよ。問われているのは『機動力』じゃないから、正攻法があるのではってね。後はもう一つ思ったんです」

 

 辻さんは指を立てる。

 

「銀狼隊の試験で必要とされる力は、『判断力』じゃないかなと。私たちは今、逃げている最中という設定です。けれどその中でも冷静に物事を判別できる事を問われているのではないでしょうか」

 

「……一理、あるね」

 

「でしょう? しかし一人の力では限界があり、また時間がありません。それに私の異能はあまり戦闘向きではなくて……だから誰かの力を借りたいのです。リスクも上がりますが、二人なら可能性も上がるでしょう? それが賢い貴方なら尚更いい!」

 

「その話、我々にも一枚噛ませてもらえぬだろうか」

 

 やってきたのは、二人の男子だった。

 話しかけてきたのは、小柄で中性的な子の方だ。

 

此方(こなた)の名は九十九(つくも)十一(といち)。それでこっちが」

 

「僕は伊万里(いまり)結城(ゆうき)!! 気軽に結城と呼んでくれ!」

 

「よろしく。それで、一枚噛ませてほしいとはどういう事だい?」

 

「うむ。此方たちも協力して試験を突破しようとしたのだが、攻略法が皆目見当もつかぬ……」

 

「あーっはっはっ! そんな時君たちの会話が聞こえてきたんだ! 聞けば何やらいい方法があるらしいじゃないか!」

 

 伊万里くんは大げさに手を広げ、九十九くんと肩を組んだ。

 

「ぬぐぅ、苦しい」

 

「僕たちは頭こそ悪いが、腕っぷしならあるぞ! 色々出来る!」

 

「勝手に此方を悪い枠にしない! それこそもく、苦し……!」

 

「どうだろう! 手足となるから役立ててはくれないか!」

 

「伊万里くんは背中に翼が生えてるけど、それは?」

 

「これは飾りだ! 異能で作った物だが実用性はない!」

 

 僕は顔を手で覆った。

 横目で辻さんを見れば、彼女も視線に気づいたのか見つめ返してくる。

 

「……君の声が大きかったんじゃない?」

 

「ぶー。そんな事言わないでくださいよぉ! ……それはそれとしてどうします?」

 

 問われて、僕は少し瞳を閉じる。

 

(……正直四人は多い気がする。いて三人。でもまだ先頭集団が行ってから時間は経ってないし──何より、()()()()からすれば都合がいいか)

 

 デメリットはあるが、メリットも大きい。

 なら、利用した方が良い。

 

「分かった、協力しよう。──まずはみんなの力を教えてくれ」

 

 先へ続く道のために、僕は思考を巡らせる。

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