Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第十一話『呼応せよ孤立無援』

 足元がおぼつかない。

 

 景色が次々に変化を遂げて、地雷の起動一つで視界が歪む。

 

「クソッ、クソッ……!」

 

 俺──御神楽神威は焦っていた。

 二次試験は既に始まって十分以上経過している。だというのに、俺はまだ濃霧地帯に突入した当たりで手をこまねいていた。

 

 先頭集団は既に見えない。そして霧のせいで、他の参加者も見えなくなってきた。

 本当なら、もう少し善戦できる。

 でも──

 

(異能が、使えねえ……!)

 

 俺の異能は、『音に適応する』異能だ。

 

 その場の音に反応したり、あるいはヘッドフォンから音を流してそれに乗り、身体強化や行動の先読みによる超反応を繰り出せる。

 でも、今はそれが出来なかった。

 

(ヘッドフォンは使える。でも、周りがうるさくてそれどころじゃねえ!)

 

 音楽を流しても、爆音と喧騒には敵わない。

 結果として訪れたのは、()()()()()()()という状態だ。

 

 伴奏がなければ楽器を演奏するのが難しいのと同じだ。全てがノイズと化しているこの環境で、俺は異能を発動させる事が出来ない。

 

(っ……! 考えてみれば当然だ。元々こういう環境での訓練をしておくべきだった!)

 

 とはいえ、立ち止まっている余裕はない。

 俺は歯を食いしばって一歩踏み出し──地雷を踏んだ。

 

 爆発が足元から発生。直接怪我はしなかったけれど、俺の体は衝撃で宙を舞う。

 

「う、わ、あぁああッ!!?」

 

 運悪く、その先は深い穴の方角だった。入り組んだ地形の一部に肩から落ちて、俺は入り組んだ枝をクッションにしながら地面へ激突する。

 

「っ……」

 

 この日のために訓練はしてきた。だから受け身を取る事は出来て、よろめきながらも体への負担を最小限に抑えることに成功。

 けど体はボロボロで、落ちている最中に腕を切ったのか血が流れていた。

 

「クソッ、だせぇ……!」

 

 かたりと、頭から何かが落ちる。咄嗟に受け止めれば、それは俺が身に着けていたヘッドフォンだった。

 

「おいおいおいおい……!?」

 

 頭の大きさに合わせて動かせる接続部の部分が、無残に取れていた。このヘッドフォンはワイヤレスタイプで、物理的に取れてしまったとなるともう音楽を聴く事は出来ない。

 

(ふざけんなッ! これじゃあもう!)

 

 音を聞けないという事は、異能を発動できないという事だ。

 この穴からも抜け出せない。試験が終わるまで、ここで止まっているしかなくなる。

 

「ふざけんなッ」

 

 思わず穴の壁に爪を立て、登ろうと力を籠める。

 しかし柔らかい場所だったようで、土が崩れて俺も転んだ。

 

「ぐあッ!!」

 

 腰をついた拍子に上を見上げる。

 掌を伸ばす。

 穴から覗く外の景色が、偽物の青空が、酷く遠い世界の出来事に見えて仕方がなかった。

 

 ──このまま終わってしまう。

 

 進み続けるアイツらみたいに、強大な敵に立ち向かった訳でもなく。

 不運と絶望の果てで、抗って死ぬ訳でもなく。

 

 己の怠慢と、ちょっとしたきっかけで、情けなく、あっけなく。

 

(やっぱり、俺みたいなクズに、変わる事なんて──)

 

 その時だった。

 ──見上げた空を、虹色の光が切り裂いた。

 

 ■

 

 観戦室には、無数のモニターが配備されていて、私たちはそれを通して第二試験の様子を見ていた。

 

「ほぉ、夜凪ちゃんまた刃流樹の攻撃を弾きやがった」

 

「多分ちゃんとした居合じゃないと有効打与えられないよね」

 

「今回禁止にしてある。つまり現状、あの子を妨害する手段はねえって事だ」

 

 モニターから一番近い場所を陣取っているのは、説明を終えて戻ってきた最上さんと師匠の二人だ。その後ろに班長やまりちゃん、そして私が座っている。

 他の先輩方はどうやら別の部の試験の準備があるらしく、この場に残っているのは私たち五人だ。

 

「まさか妨害を強制的に突破する子がいるとはなぁ。想定的に、上空は『ルール上可能だけど実質無理』みたいな感じだったってのに」

 

「それだけ彼女の力は強いって事だ。『朱雀の夜凪』だろう? 彼女」

 

「有名な方なんですか?」

 

 私が尋ねれば、師匠は微かに振り返って教えてくれる。

 

「夜凪家といえば、伝統的な朱雀の一族なんだよ。大体異種族系の学会とか、超常系団体に大きな影響を与えてきたんだ。業界じゃ有名中の有名だね。彼女はその五代目当主候補さ」

 

「へぇ~~」

 

雰囲気的にただならぬ人ではないと思っていたけれど、やっぱり有名な人はだったらしい。

 

「俺が気になるのはあのエルフの子だな。千羽ちゃんだったか。」

 

 傍にあったモニターを動かし、最上先輩は戦闘を行く千羽さんを拡大する。

 彼女は入り組んだ地形の中を、植物の助けを借りながらすいすいと進んでいた。

 

「エルフってだけじゃなくて、恐らく異能か? 驚くほど自然操作の精度が高い。これは当たりだな。トップ合格は堅いか」

 

「──最上ぃいいいいいい!!!!!!」

 

 観戦室の扉が、突然開け放たれた。

 びっくりして振り返れば、私の横を一人の女性が通り過ぎる。

 

 鮮やかな青い髪を持つ、小柄な女性だった。沢山のアクセサリと改造された制服からは、彼女の高い美意識と可愛さに対する追及を感じられる。

 彼女は最上先輩の後ろまでくると、二人が座るソファの背もたれに膝を乗せ、食い気味に顔を近づけていた。

 

「ちょっとちょっと! 風の噂で聞いたんだけどさっ、かのチャンネル登録者700万人越えで最強無敵の今をはためく全世界的美少女アイドルトップスター*LuSsiqちゃんが試験受けに来てるって聞いたんだけど!!?」

 

「だぁあああうっせえ!! 良く喋んなおまえ!? ほら自分でみろ!! これだよ!」

 

 最上先輩はモニターを引き寄せ、突然現れた女性の顔面に押し付ける。『ぬぐぅ』という苦悶の声と共に距離を離すと、彼女は画面をじっと見た。

 

 その途端、彼女の髪色が、画面の中の*LuSsiqちゃんと同じようにピンクへ変化する。

 

「わ、わわわっ!! ほんとにいるじゃん~~~~!!!??! 顔ちっさ!! かっわいい!! てか飛んでる!? *LuSsiqちゃん飛べるの!? ねえねえねえねねええええ!!」

 

「うるせええええええええええ」

 

 横顔に画面を押し付けられ、最上先輩は質問攻めに表情を歪めていた。

 一先ず私は何も分からないので、まりちゃんの袖を引っ張った。

 

「えっと、まりちゃん。この人は一体……?」

 

「この子はねぇ、三年の七咲(ななさき)ナナ。こんなんだけど『支援部』のぶちょー」

 

「ぶ、部長……!?」

 

 確かに言われてみれば、七咲さんの纏う外套は上役の人達が纏う幹部専用のそれと同じだ。

 つまり正真正銘、この人は支援部の部長。

 

(もちろん戦闘向きではないんだろうけど、何かしら部長に相応しい力を持ってるんだろうな……)

 

 突然の大物登場に、思わず身が引き締まった。

 

「ナナ、いぇ~い」

 

「魔莉愛いぇ~~~~~~い!!」

 

「あはは、相変わらず七咲さんは元気がいいね」

 

 師匠は苦笑いを浮かべながら振り返った。

 

「新人の子が怖がってるからほどほどにね」

 

「え? 新人の子?」

 

 首を傾げ、七咲さんは私の方を見る。

 

「あー! あれね、二階堂の秘蔵っ子!」

 

「やっぱりその認識で通ってるんですね!?」

 

「そっかそっか、試験見させられてるのね!」

 

 頭にピースを添え、片目を閉じてウィンク。手首のシュシュと腰に巻いた上着が可愛らしい。

 七咲さんは華麗にポーズを決めながら、私に自己紹介をした。

 

「朝でも夜でも、こんなな~~~! 私は銀狼隊支援部の部長の七咲ナナ! 髪色が感情で変わる『色彩人(しきさいじん)』だよー! 気軽にななたまって呼んでね!」

 

============================================

【《b》色彩人(/b)】[異種族]

〇性質───色彩変化(頭髪)

〇詳細───髪の色が感情によって変化する異種族。それ以外の身体的特徴は人間と変わらず、異能学会と人権委員会では異種族に分類するか人間と分類するかに派閥が分かれている。

============================================

 

「す、すごい! 完璧な自己紹介!!」

 

「えへへ、でしょー。こう見えて有名人だからね! メディア様に挨拶とかは完璧なのだようむ!」

 

「おかげでこっちは毎回大変だけどなぁ! お前が場をかき乱すせいで何度困らされた事か!」

 

 最上先輩は青筋を立てながら肘をついて怒る。

 彼が銀狼隊の中間管理職であるとは、何度も聞いていた話だった。

 

 曰く、七咲さんは銀狼隊の中でも『広報』の役割を担っているらしい。 

 だから外見にも磨きがかかっているし、それようの接し方なども完璧なのだという。芸能人と同じだ。

 

「……師匠より困ってるんですか?」

 

「被害は二階堂が上! めんどくささは七咲の方が上!」

 

 ご苦労様です。

 

「ま、七咲さんのそのテンションはメディア用とかじゃなくて素じゃん」

 

「エデンさぁ。三年経ったけどいつななたまって呼んでくれる訳?」

 

「遠慮しとくよ。」

 

「もー。獅乃っちは呼んでくれるよね!」

 

(し、獅乃っち!?)

 

 初めての呼び方だ!

 

「な、ななたま!」

 

「くるしゅうなぁ~~~~い!」

 

 七咲さんはソファに膝を乗せたまま、ちょいちょいと手招きしてくる。思わず近づけば、頭をおもむろに撫でられた。

 

「わっ」

 

「獅乃っちはくぁわいいねぇ~~~。今度支援部に遊びにおいで。みんな歓迎してくれるから。医療部のサーシャとも面識あるんだよね? 困ったらあの子を頼るといいよ。あ、お菓子食べる? ジュース飲みたくなってきた」

 

「は、はい!」

 

 物凄いマシンガントークを繰り広げられ、思わず翻弄されてしまう。でも全部とびっきりの笑顔と一緒だから不思議と不快感がなくて、なんだかわくわくする気持ちにさせられる。

 

 すると、反対側から今度はまりちゃんに抱きしめられた。

 

「ちょっとー? うちの子にちょっかいかけすぎないでよね」

 

「何、魔莉愛ジェラってんの? 駄目だよ余裕がないと。いつだってゆぅ~がに──」

 

「お、フェアナンドと餅月が荒れ地帯を超えるぞ」

 

 最上さんが引き寄せたモニターには、別々のルートで高低差のある森を疾走する二人の姿があった。

 主にアルテンブルク君は地形を壊しながら進み、ここあちゃんは跳ねながら移動しているようだ。

 

「これは身体強化系の利点だな。多少の高低差なんて問題ねえ」

 

「凄い! 二人とも頑張ってる……!」

 

「友達だもんな。応援したくなる気持ちはわかるぜ」

 

 最上さんは私がこの二人と、雨ノ宮くんと仲が良い事を知っていて、定期的に三人の現状を教えてくれている。ありがたい事だ。

 

「だが、問題はそういう強みが薄い奴らだ」

 

 みんなの視点は、陸の後半組へと。

 

「あ、あの子たちなにかしようとしてるみたいだよ!」

 

 身を乗り出した七咲さんがモニターを指さす。

 

「雨ノ宮と、辻、九十九、伊万里か。中心は雨ノ宮だな」

 

 最上さんは笑みを深める。

 

「個人的に、雨ノ宮の頭は注目要素だ。──こりゃ、面白くなってきたぜ。()()()()のかね?」

 

「ふむふむ。それじゃあ、みんなで彼らの様子を引き続き見守りましょーーーー!!」

 

「お前が仕切んな!!」

 

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