森が、元の訓練室へと戻っていく。
破壊された痕跡や白線さえもが全て元通りだ。
「どういうつもりだ、天霧殿」
混乱がまだ冷めない中で、緋色の翼を携えた少女がリオンへ近づく。
「どういうつもりだ、とは?」
「なぜ最初から試験へ参加していなかった。なぜわざわざ、制限時間ギリギリでやってきたのだ」
その疑問は最もなものだ。彼はあまりに規格外の力を持っている。ならば、スタート直後に誰よりも早くゴールする事も可能だったはずだ。
「私の目には、貴殿が手を抜いていたように思える。どうせゴールできるからと高をくくり、舐めているようにな」
少女の翼が、開かれる。焔が迸り、訓練室の気温が上昇した。
「──傲慢ではないか? それは」
スッと細められた眼光が、リオンを貫いた。
だが彼は、毅然と彼女へと向かう。
「まずは、誤解させてしまったことを謝ろう。私には私なりに理由があったのだ」
「理由、ですか」
「ああ。詳細を言う事はまだ出来ない。それは私の理由が、これからの試験にも影響する物だからだ」
「そのために、貴殿はわざわざ待っていたと?」
納得できないのか、朱莉は依然鋭い視線をリオンへ送る。
「私は一度たりとも、舐めた行為をした理由はない。全て理由があっての事だ」
「……」
「気になるのなら、
「……いいでしょう」
朱莉はその返事を聞いて、ため息とともに焔を抑えた。
燃える翼を払い、出口の方へと歩き出す。
「──貴方とは
「嬉しい言葉だ」
リオンは、頷いた。
「──だが、あまり慢心をしない事だ。夜凪朱莉。この試験は一筋縄ではない」
その言葉は、彼女には届かなかった。
■
「ご、ごーるできなかった……すまなんだ……」
僕──雨ノ宮燐世は、とぼとぼと歩いてきた九十九くんを迎えた。
「大丈夫かい? 怪我とかはしてない?」
「うむ、大丈夫だ。少し打ったところが痛いが、それぐらいだとも」
彼は、ついぞゴールできなかった。
どうやら入り組んだ地形のところに落ちたらしく、こうして僕たちのところへやってこれたのも訓練室が元に戻った後だった。
彼の異能は物体を操れるが、自分を運ぶことは出来ない。時間をかけたらもしかすると可能性もあったかもしれないけれど、あと数十秒ではそれも厳しかったのだ。
「すまない、僕が離してしまったせいだ……!」
「いやいや! 此方がしがみつかなかったのが悪い。それに自力で進めぬ此方をここまで運んでくれたのは、三人のおかげだ」
九十九くんは僕と伊万里くん、そして後ろから駆け寄って来た辻さんを順番に見つめる。
「礼こそすれど、非難する事はない」
「……いや、悪い。俺のせいだ」
九十九くんの言葉を止めたのは、顔を曇らせながらやってきた御神楽くんだ。
「俺の不注意だった。ぶつからなければ、アンタも通れてたはずなんだ」
「それこそお門違いだとも。此方たちはライバルだ。それに、分かりにくい道から飛び出してきたのは、此方たちの方だ」
「そうだぞ御神楽! 責任を感じる必要はない!」
「でも……」
「御神楽くん」
二人の言葉を受けてもまだ食い下がる御神楽くんに、僕は向き直った。
「これ以上追及するのは、逆に失礼にあたってしまうよ」
「そうです! 二人が良いと言っているのですから、笑って握手でもしてください!」
辻さんは三人の手を引っ張って強制的に握手をさせた。
「むしろ私たちは何とか通過出来たのです! なら、必ず合格すると
「いや、辻さん女の子でしょ。というかそんなのどこで見たの」
「ジャ〇プで読みました! 私毎週買ってます!」
「ジ〇ンプか……」
そう言われるとなんとなく納得してしまいそうになる。
辻さんの言葉はさておき、しっかりと割り切るのは大切な事だ。
九十九くんは二人の手をしっかりと握っていた。
「此方は次の試験時にまた応募するとしよう! だから二人も頑張ってくれ! そして合格を知らせてほしい!」
「ああ!」
「……おう」
態度は正反対だけれども、二人は共に頷いた。
■
通過者の速報が届いたのは、二次試験が終了してからすぐの事だった。
「いんやぁ~~~~それにしても、随分と減ったわね!」
ななたまが一覧の書かれたタブレットをスクロールしながら続ける。
「夜凪朱莉ちゃんは当然として、あ、*LuSsiqちゃんも!!!!! あと千羽ネルムちゃんに餅月ここあちゃん! ──あいたっ!」
「お前好みの女子ばかり羅列すんじゃねえ」
最上先輩はななたまの頭をぽかりと叩き、タブレットを奪い去った。
「いたぁ~~い! 暴力反対ー! ──あ、そういうプレイ?」
「キショ」
ダル絡みするななたまを最上先輩は軽くあしらっていた。
彼はタブレットを頭上のところまで上げると、みんなが見やすい位置でスクロールしてくれる。私を始めとして、師匠たちも覗き込んだ。
「あ、鈴代さん、友達みんな通ってるね。餅月さんにアルテンブルク君、あと雨ノ宮くんも」
「本当だ……! みんなよかった」
私としては、その三人が通っているだけで満足だ。もちろん観戦室から見ていたけれど、ちゃんと通過と表示されると安心感が違う。
「んで、結局残ったのは十五人か」
「大体半分ね」
十五人──一次試験を通った人数が三十二人だったから、まりちゃんの言う通り大体半分だ。むしろちょっと多いまである。
「これって、例年に比べたらどうなんですか?」
「少ないね。
師匠は片目をつぶりながら唸る。
「……やっぱり一次で減らし過ぎ?」
「質をみるに失敗でもねえだろ。ほら、全員粒ぞろいだぜ」
最上先輩はタブレットを指で叩く。
確かに通過者はみんな、それぞれ個性があって優秀だ。
「つか七咲。お前支援部戻らなくていいのか。また相方にどやされるぞ」
「いいのいいの。どうせ私は試験でも賑やかしなんだから」
「お前なぁ」
どうやら説教が始まるようだ。
師匠は最上先輩からタブレットを受け取ると、ちょいちょいと私たちを近くまでこさせた。
「……二人って仲悪いんですか?」
「いいや、悪友って感じよ」
と、まりちゃん。
「七咲先輩が大体一方的に悪い」
と、班長。
「それと、二人は互いに……いや、これは秘密だね」
と、師匠。
「……?」
「それよりも、だ。ちょっと意見を聞かせてよ。三人は誰が良いと思う?」
師匠が尋ねているのは、参加者たちの評価だ。これから最終試験が行われるにせよ、最終判断やその後の配属などは部長である師匠が決める。
「私はやっぱり*LuSsiqちゃんかなぁ~。まだ見てないけど多分マイクスタンドで戦うでしょあの子。空を飛べるし、派手で何より知名度抜群。ぜひ欲しい人材!」
「私は……友達を言うと情が入るので除くと、天霧君ですかね」
「へぇ、理由は?」
「やっぱり、圧倒的なので」
他の同級生たちよりも先に実戦を経験した身からすると、圧倒的な力とは、絶対的な指標の一つだ。味方にいれば安心できるし、敵にいれば絶望に早変わりする。
戦場を左右できる存在は、やはり注目せざる負えない。
「もちろん異能の全容も出てないですし、何考えてるのか分からないので言い切れませんけどね」
「そうだね。彼は筆頭候補だ。……唯月は?」
「御神楽神威です」
それには、私も驚いた。
確かに彼も、二次試験の途中で異能を使いこなし始め試験を突破したけれど、例えば夜凪さんたち以上に注目する人ではないと思ってしまったから。
「御神楽は……あの者は、
すると、班長は薄く笑った。
「もし最終試験で花開く事があれば──彼はきっと、銀狼隊にとって最高の人材となるでしょう」