Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第十八話『群・雄・割・拠/二』

 ──爆風が吹き荒れる。

 

 中央からやってきた、破壊の奔流。それは西側エリアを風となって通り抜けた。

 俺──御神楽神威の開始位置は、その中でも中央に近い場所だったのだ。咄嗟に遮蔽に身を隠したおかげで直撃はしなかったが、周囲の小物は根こそぎ吹き飛んでいった。

 

「っ、ぶねぇ……」

 

 顔を出し、一撃の余波が収まったことを確認。

 壁に手をついてゆっくりと立ち上がると、俺は荒い息を吐いた。

 

(……やっぱりだ。志願者の中でも最上位クラスのやつらと真っ向から戦ったところで、俺は太刀打ちできねえな)

 

 中央で争っているのは、あの天霧リオンとフェアナンド・アルテンブルクだ。

 当然だが、俺はアイツらに敵わない。

 

 いや、アイツらだけじゃない。

 二次試験で活躍していた夜凪にだって敵わないだろう。この三人は、絶対に相手をしてはいけない。

 

(つまり、やるべき事は一つ。──地形や異能を利用して、なんとか実力以外の要素で勝ち切る……!)

 

 まずは地形の把握だ。

 俺は遮蔽から飛び出し、姿勢を低くしたまま周囲を走り始めた。

 

 ──西側エリアは、中央から外へ向かう激しい傾斜の地形を埋めるように、住宅街が広がる場所だ。

 

 全体的に凹凸が少なく、平地がない。戦闘時は立体的な動きを必要とされるだろう。

 裏を返せば、住宅の陰に隠れて移動を続ければバレにくいという事だ。

 

 ──視界の端を、二つの影が通過した。

 

 つられて目線を上げる。

 連続する金属のようなぶつかり音。

 

「はっはっはーッ!! アイドルというから腕っぷしは期待できないと思っていたのに、案外やるじゃないか!!」

 

「『歌って踊れて戦える』アイドルだもん! まっけないよーっ!」

 

「いい心意気だッ!」

 

(あれは……ルシアと伊万里か……!)

 

 伊万里は屋根を飛び跳ねながら透明の鎖を伸ばすが、ルシアが空を飛びながら棒のような物で撃ち落とす。瞬間、まるでコミックのような星屑が飛び出した。よく見れば、それは彼女の持つマイクとスタンドだ。

 

 二人も西側エリア開始だったのだろう。それで俺が動き出すよりも早く接敵し、戦闘を始めたようだ。

 

「それでこそだ! 『離繋自在有れかし(マヴェイス・フォア)』!」

 

 軌道を曲げられ、しなった鎖が方向を変え地面へ突き刺さる。地響きのような音と共に現れたのは、無数に分裂した──あるいは伊万里によって量産されたガラスの鎖群だった。

 彼らは螺旋を描きながら伊万里の横へ集結すると、やがて巨大な拳を形成する。鎖によって編まれた巨人の右腕は、家屋を破壊しながらルシアへ迫った。

 

「──奇跡ならもう目の前にある~♪」

 

 希望の旋律。

 彼女の周囲に七色の光が集った。その輝きは指向性を与えられ、直撃と同時に巨人の腕を破壊していく。

 

 彼女の異能は『歌って踊れて戦えるアイドルになる』異能。

 歌声を糧にして、目の前の脅威に対抗する破壊をもたらしたのだろう。

 

「不思議な体験だ……! 歌声を脅威と感じるとは!」

 

 ガラスの割れる音と共に、伊万里が()()()()()()()()。同時に突き出した右手を中心として、生み出されたガラス片がルシアへ突撃した。

 

「──空を舞う羽に夢を乗せて~♪」

 

 彼女の七色の翼が光を増す。物理法則を無視したアクロバット飛行でガラス片を避け切ると、彼に向ってマイクスタンドの一撃を振りかざした。

 

 が、伊万里は足場のガラスを消す事で自由落下。その軌跡から外れ、同時に腰の鎖を家の屋根の端に突き刺した。ぶら下がり、ターザンのように遠心力で移動していく。

 

 ルシアもまた彼を追い、空を駆けて行った。

 

(……わざわざ参戦して混戦にする必要はないな。ていうか俺空いけねえし)

 

 ぐるりと視線を回す。

 中央は天災同士の争い。西側は二人の争い。となれば、俺が目指すべき方向は一つ。

 

「南だ」

 

 南エリアはショッピングモールがあり、西側以上に高低差が激しい。地形を利用した戦いも随分とやりやすいだろう。いざとなれば逃走も容易だ。

 

 そうして、俺は南を目指す。

 家の陰に隠れつつ、二人にバレないように、細い道をするりと。

 

 下へ続く階段を飛び越え、俺は住宅街の外れの方までやってくる。そこへ来れば随分と傾斜は緩やかになり、住宅の密集率も下がってきた。

 

 その時だ。ふと、俺の行方を阻むように、指先を熱が焦がしたのは。

 

「あつッ!?」

 

 跳び上がり、咄嗟に後ずさる。

 進んでいた十字路の角、家の後ろから火柱が立ち上がった。

 

 上向きの暴風が吹き荒れる。思わず顔を覆い、腕の隙間から空を見上げた。

 視界を埋め尽くすのは、蒼を上回る緋色だ。

 

 広がる。

 火炎を携えた、あまりにも巨大な翼が。

 

「……マジ、かよ」

 

 全身の温度が急激に上昇していく。

 冷や汗が顎から伝って、地面に届く前に蒸発した。

 

 思わず笑ってしまった。

 思考が現実になったとでも冗談を吐けばいいのか、それは考えうる限り最悪の展開だ。

 

「───夜凪……!!」

 

「早々に飛び上がれば目立ちすぎると考え、静観に徹していましたが、相手の方から来たとあらば是非も無し。──御神楽殿」

 

 閉じられていた目が、ゆっくりと開眼する。

 

「恨むのならば、『朱雀(緋色の鳥)』と出遭った己が不幸を恨んで頂こう」

 

 彼女の得物は剣や槍や拳やまして翼でもなく、引き絞られた弓と矢だった。

 

 先端が火炎を纏う。

 空間が圧縮されるような錯覚を押し付けながら、矢は、今、騒々しく解き放たれる。

 

「朱雀が原初の家系、夜凪家三代目次期当主、夜凪朱莉──推して参る」

 

「──ッ!!」

 

 世界が、灰燼に帰した。

 

 ■

 

「───僕と君の異能は、多分相性が凄く良い」

 

「相性が良いって、どういう意味ですか?」

 

 千羽さんが首を傾げる。

 僕は彼女を木の影へと運び、周囲を警戒しながら話始めた。

 

「君の異能は自然を操る物だと記憶している。そして僕の異能は、こうして血液を自在に操る力だ」

 

 刃や糸を作り出し,例として見せた。

 

「千羽さんが得意とするのは、植物を操る事による物量攻撃だろう。僕も同じだ。だから組み合わせれば、単純に強さが二倍になる」

 

 先ほどの少年と戦っていた時、彼女は樹木の大群を使役していた。それは僕の血液による波状攻撃と似ている。どちらも力より数で、相手を攻め落とす戦法だ。

 

「他の点をあげるのなら、自然の弱点は当然炎だ。でも僕の血液を防御として使えば、千羽さんの弱点をカバーできる。反対に僕は移動するとき血の糸を使うんだけれど、そこに樹木を設置してくれれば白兵戦を有利に動かせる」

 

「……それだけじゃないです、だよね」

 

「うん。気づいたかな」

 

 僕の言葉に、千羽さんは目を伏せる。

 

「どっちも汎用性が高いから、無限の可能性があるって事ね」

 

 軽く考えただけでも。

 ・本体が脆いという千羽さんを僕がカバー

 ・液体である血液の弱点を自然操作(物理物質)で補う

 ・血液による拘束から樹木の連携攻撃

 

 ──言葉にせずとも、僕たちはそれらの利点を即座に思いつく事が出来る。それは互いに、血液と自然という、汎用性が高い故に難易度が高い力を操る事による経験からくる頭脳故だ。

 

「でも、この試験は個人戦だよね。……君が裏切らない保証はあるの?」

 

 彼女が言っているのは、例えばあと一人の脱落というタイミングで、僕が刺してくる可能性だ。僕たちは今初めて会話したばかりで、信頼関係など存在しない。

 それはもっともだ。けれど、同時に僕は明確な反論を持ち合わせている。

 

「例えば僕がそれで銀狼隊に合格したとして、君が助けられる立場になったとして。その時、僕を信用できないだろう。なぜなら僕は、他人を卑怯な手段で蹴落とした男だから。───銀狼隊を志望する以上、僕はそれを選ばない」

 

 そして同時に、上層部の人たちも、そんな存在を取ろうとは思わないだろう。

 

「僕が君を選んだのはそこもあるんだ。二次試験での動きや会話を聞く限り、少なくとも表立って卑怯な事をする人ではないと信じた。だから僕は君を信じるし、信じてほしいんだ。これは()()()()()の言葉でもあるのだから」

 

「……!」

 

 合格して、仲間となれば、命を預け合う関係性になる。

 ならばその信頼を築く行為に、早い事はないだろう。

 

「……いいよ。君と組む!」

 

 やがて、千羽さんは頷いた。

 

「雨ノ宮くん……だったよね?」

 

「燐世でいいよ。よし、決まりだ」

 

 僕たちは互いに、軽く握手を交わした。

 すると、千羽さんはジト目で睨んできた。

 

「そういえばさっきは助かったけど、あれめっちゃびっくりしたんだからね」

 

「助けるにはあの方法しかなかったんだ。隙を突かないと追撃するかもしれなかったし」

 

「そうかもだけどサ~……まぁいいや」

 

 陰から顔だけを出し、僕たちは背後に視線をやった。

 そこにいるのは周辺を警戒している、千羽さんが戦っていた戦斧使いの少年だ。移動していない事を見るに、どうやら僕たちがそう遠くへ行ってないと判断しているらしい。

 

「彼は?」

 

「名前はドランヴァリシュ・ウェーバー。ドラン。異能は『影響力の操作』が出来る『星虚乃夜・響憐獣(ステラ・ドミナートル)』。具体的には、えーと、身体強化とか攻撃の威力軽減とかしてたかな」

 

「へぇ……詳しいんだね?」

 

「一応同じクラスなんだよね~。逆に相手にもアタシの力は割れてる感じ」

 

「つまり、僕次第か……」

 

 攻防を見ていた限り、単独でぶつかった時千羽さんはウェーバー君に勝てない。

 ならやはり、僕による千羽さんの扱い方と、連携の取り方によって勝敗は決定する。

 

 僕がその時思い出したのは、二次試験終了後の天霧くんとの会話だ。

 彼は僕と同じように情報を取っていた。けれどそれは、更に()を見据えての行動だった。

 

 それを踏まえて僕が感じるのは、()()()()()という感想。

 試験は合格して終わりではない。その後、入隊してようやく始まりを迎える。

 

「……異能のもっと詳細な情報は分かる?」

 

「うーん、そんなにかも。条件とか範囲とか詳しい奴は全然」

 

「そっか。なら確かめよう」

 

 僕は静かに、血液の糸を準備する。

 

「──()()()()()思いついた。どれか一つでも引っかかれば勝てる」

 

「……えっ」

 

「今から指示を出す。僕の言うとおりに動いてほしい」

 

「えぇ……し、信じるよ……?」

 

「もちろんさ」

 

 にやりと、笑った。

 

()()()()としては、アピールをしておきたいんだよ」

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