Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第十九話『群・雄・割・拠/三』

 ───中央・北エリアは、地獄と化していた。

 

「ぶッッとべェッ!!!」

 

 鉄塊の一薙ぎが地面を抉り、瓦礫をぶちまける。

 それを受けた金髪の少年は、静かに右手を突き出した。

 

「良い気概だ」

 

 突き出された不可思議の『壁』に阻まれ、一撃の奔流は彼の前方を通過できない。

 リオンは次いで舞い散る瓦礫に蹴りを入れた。瓦礫は轟音と共に空を切り裂き、一筋の弾丸のように襲い掛かるが、フェアナンドは鉄塊によって迎撃。

 

「ッ……!!」

 

 激突、そして一秒の後、鉄塊が瓦礫を粉砕。リオンによる莫大なエネルギーがこの停滞を生み出したのだ。

 

「だが、それでは私を倒せんな」

 

「上ゥとうッ!!」

 

 骨組みしか残っていないビルを駆けあがり、フェアナンドは足場にして加速。撤回を振るうが、リオンは静かに右手を突き出すと受け止めた。

 背後の地面が微かに抉れるが、それだけ。それはつまり、彼がフェアナンドの力を己で消化してみせた事の表れでもある。

 

「ッッラぁ!!!」

 

 鉄塊を振り上げ、一発、二発。連撃を仕掛ける。

 リオンは虫を払うかのように右手を振るい、巨大な力を左右に受け流した。

 

 ならばと、今度は両手で鉄塊を構えれば、リオンは危機を感知し両腕をクロス。

 ───衝突。

 轟音を響かせ、リオンの肉体が後方へ吹き飛んでいく。

 

 衝撃を完全に殺す事は出来ず、リオンは錐揉み回転しながらも、落下の瞬間にはしっかりと両足で着地。

 何事もなかったように埃を払い、毅然と仁王立ちした。

 

「素晴らしい連撃だ」

 

「……チッ」

 

 フェアナンドは、舌打ちをしながら鉄塊を肩に担いだ。

 決して手を抜いた訳ではない。むしろ、全力で連打を叩きこんだ。しかしリオン相手では有効打を与える事すら出来なかったのが現実だ。

 

(クソが、なんて強さだ)

 

 自信家であり、強さに対する自負もあるフェアナンドからしても、天霧リオンという存在は異常だった。

 以前現役の隊員を倒したように、フェアナンドの強さとは既に一線級だ。しかしリオンは、単純な実力なら彼を凌駕するだろう。

 

(問題は、『異能』が分からねえことだ。何だコイツ。出来る事に共通項がすくねえ)

 

 例えば、フェアナンドの力はシンプルだ。身体強化とそれに伴う武器の操作。

 それに対し、リオンが見せた現象は『不可視の「壁」』、『衝撃波』、『瓦礫の操作』など、一つの現象ではとても説明できないものばかり。

 

(概念系異能、あるいは複合系か……?)

 

 鈴代獅乃のように、複雑な異能ならばそれも可能だろう。だがその場合、何が出来るかの特定=対策を取る事はかなり難しくなる。

 

(しかも鈴代みてえに後天的に獲得した強さじゃねえ。天才が驕らずに努力を続けた末にしかたどり着けねえ領域の強さだ……!)

 

 故に、非常識。

 天霧リオンに対しては、常識が通用しない

 

「強き者よ」

 

 リオンは、静かに右手をフェアナンドへ差し出した。

 

「改めて、名前を聞かせてくれないだろうか」

 

「アァ……? テメェ、さっきオレの名前呼んでたじゃねえか」

 

「はは、名乗りの妙味を分かっていないな。こういうのは君の口から聞く事に意味があるのだ」

 

 フェアナンドには理解できない考え方だ。だが、わざわざ抵抗する気も起きなかった。

 

「……オレの名前は、フェアナンド・アルテンブルクだ」

 

「そうか、良い名だ」

 

 満足そうに笑い、リオンは頷いた。

 

「───私の名前は、天霧リオン。現実を直視し、抗おうとする全ての人間を導く者だ」

 

「……変な奴。結局自分でカッコイーこと言いたかっただけじゃねえか」

 

「はっはっは!! これは痛快! ああ、事実その通りだ。思わず興が乗ってしまってね」

 

 図星を突かれてもこの反応。心が広いと捉えるべきか、変人だと切り捨てるべきか。

 

(先導者ねぇ)

 

 だが、この実力者がそれを吐くと込められた意味合いが変わってくる。

 実現の可能性と不可能性を上げた時、前者の方が微かに天秤が傾くのだから。

 

「おもしれェな」

 

 先ほどのリオンの言葉に、一切の嘘はなかった。

 『力』も『覚悟』もある人間が抱く理想。それはフェアナンドにとって、そのどちらも証明して見せた鈴代獅乃を連想してしまう部分もあって。

 

「───テメェの事が気になってきた。オレがお前に勝った後、飯行こうや」

 

「……あれだけの力を見せられてもなお、立ち向かうか。大抵の者は心が折れるのだがな」

 

「アァ? だったら俺が()()()()()じゃねえだけだろ。それによォ」

 

 フェアナンドは、ゆっくりと鉄塊を下ろし。

 その肉体を包む灰色の煌めきが、一段階濃くなる。

 

「オレァまだ全然全開じゃねェ。引き出してみろや先導野郎ッ!」

 

「……良い」

 

 対し、天霧リオンもまた目を細める。

 周囲の瓦礫が、何重も浮かび上がった。

 

()()()()()()()

 

 リオンは、右手を上げて───突如として、爆発の音が聞こえた。

 

「っ……!?」

 

 不意に振り返れば、音は西側エリアからだった。

 思わず気を取られた。存外に大きな音だったから。

 

(夜凪嬢か……?)

 

 それは、天霧リオンが()()()()()()()()()()()()証拠でもあり。

 だからこそ、目の前にのみ集中していた少年は加速を辞めず。

 

「ウルウウウァァアアッ!!!」

 

「っ、ぐッゥッ!?」

 

 ───フェアナンドの鉄塊が、リオンの肩口に直撃した。 

 

 ■

 

 夜凪の放った矢に対し、俺が取った行動は全力の後ろ跳びだった。

 

「ぐっ、うぉおおおおお!?」

 

 俺のいた場所に着弾し、灼熱と爆風をまき散らす。

 轟音と共に俺の腹を衝撃が襲い、かなりの距離を吹き飛ばされた。なんとか空中で体を捻ると右手を下にして着地。力を逃がす事で無傷で済んだが、肌が焦げるように熱い。

 

 周囲の温度が急激に上昇していくのが分かる。様々な色に包まれていた住宅街が、赤一色に塗り上げられていった。

 

「ヘ、『誰が為の音色(ヘッドフォン・アンセム)』!!」

 

 空中から複数の矢が飛来。思わず身体強化をし、跳躍───着弾。

 複数の爆風が吹き荒れて、俺はピンボールのように飛ばされるしかなかった。

 

「凌ぐか。……ならば」

 

 夜凪が、右手を掲げる。すると火炎が収束を始め、その集まった全てを、彼女は静かに地上へと振り下ろした。

 微かに残った十字路やアスファルトへ、地を這う火炎が波を広げる。

 迫る終焉の気配に対し、俺は咄嗟に家屋の出っ張りを足場にして、跳躍

「───!!」

 

 そこに、矢を剣のように握った夜凪が迫ってきた。翼の羽ばたき一回で眼前まで近づいてくるが、俺は異能による音波を発生させ、自分の肉体を地面へ落とす事で回避。 

 俺の異能、『誰が為の音色(ヘッドフォン・アンセム)』は『音に適応する異能』だ。音に乗れば、そのまま音波を放つこともできる。

 

 着地と同時に脇腹を打ってしまったが、直撃を受けるよりはシだ。

 

(音波は炎でかき消される。攻撃の手段にはならない!)

 

 移動を続けながら、思わず舌打ちをする。

 

(勝てる訳ねぇだろこれ!? 逃げる事すら精一杯なんだぞ!)

 

 再び、頭上では次弾が構えられている。

 夜凪の存在は、まるでゲームでいう『足切り』のようだった。

 

 空を飛べないし遠距離攻撃手段を持たない俺には、抵抗すらできない。そもそも対戦相手として見合っていないのだ。

 

(クソ、諦めたくねぇ……!! 何か方法は!)

 

 光と共に、焦りが強くなってくる。

 それでも必死に走り続ける俺を横目に。

 

 ───戦況が、大きく変わろうとしていた。

 

 ■

 

「この程度かアイドル!! 『離繋自在有れかし(マヴェイス・フォア)』!」

 

 住宅街に仕掛けられた無数の硝子から、透明の鎖が飛び出し私に襲い掛かる。それが彼、伊万里君の力。時間が経てばたつほど、仕掛けられた硝子は増え続けて、既に住宅街は彼の支配下に置かれていた。

 

「またそれー!?」

 

 私は咄嗟に高速飛行を開始するけれど、鎖は空中で向きを変え追いかけてくる。

 ならばと、低空でいくつかを住宅の壁を盾にして防ぎ、私自身は一気に上空へ。纏まって追いかける鎖をマイクスタンドで殴り壊した。

 

 だけど、今度襲い掛かってくるのは彼自身だ。

 ガラスを足元から連続で生成し続け、それにのって加速。硝子を生み出した衝撃で上空に飛び、両手から硝子を無差別に放出してくる。

 

 咄嗟に上へ逃げて、硝子すれすれに肉薄して殴りかかるけれど、いち早く反応を見せた伊万里くんが蹴りで対抗。

 落下せず硝子を足場にした彼は両手の徒手空拳と腰の鎖。計三本の腕で連撃を仕掛けてきた。

 

「ワン! トゥ! スリィー!」

 

(早い!!)

 

 空中戦に慣れているのだろう。即席の足場で行っているとは思えないほど、正確で強力な連撃。 恐らくは太極拳であろう格闘術によって、私は離脱の機会をうかがえず、追い詰められていく。

 

「わはははッ!! これだこれだ! やはり白兵戦こそ至高ッ!」

 

(白兵戦っていうか、|白兵戦()()()()()()()()じゃん!)

 

 ここは空中で、地上じゃない。だというのに、足場を設置されて地上にされている気分だった。他にも地形に鎖を設置したりなど、きっと彼は自分の有利な空間を作る事に長けているのだ。

 

(だったら、いったんこの場を離れて───)

 

「──と、考えるであろう」

 

「……!?」

 

 踵を返そうとした私に、神速の手刀が伸びる。肩口を狙った突き。

 思わず翼を強く動かして退こうとしたけれど、彼のそれはブラフだった。

 

「故に、()()()のだ」

 

 咄嗟の移動ゆえに、私の行動は一歩遅れる。

 その隙を突いて彼は手を開き、私の首を掴んできた。

 

「───アイドルだろうと、容赦はせぬ」

 

生み出された空中の硝子へ、後頭部が押し付けられようとする。試験である以上殺す気はない。恐らく狙いは衝撃による気絶だろう。

 考えが正しければ、意識を持ってかれる。気絶はイコールで失格だ。

 

(なら、()()を!!)

 

 そう覚悟を決めて、『異能』を解放しようとして──マイクスタンドの輝きが増した瞬間、視界の端が真っ赤に染まった。

 

 まず、危機を察知した伊万里くんが私を離して距離を取った。

 次いで私も反対側へ退いた。

 

 その微かな間を、灼熱が通り抜けたのだ。

 

「朱莉ちゃんの炎……?」

 

「ふむ。そちらでも戦いがあったのか」

 

 思わず二人で向けば、離れたところで戦いを繰り広げている朱莉ちゃんと御神楽くんが見えた。どうやら朱莉ちゃんの流れ球(火炎)がここまで来てしまったらしい。

 

(でも、助かった。相手の手段は分かったから、次はこっちの番!)

 

 思わず気を取り直しマイクスタンドを構えるが、伊万里くんはそちらを見つめながら動かない。

 不思議に思って固まっていると、彼は反対の方向を見つめた。

 

「……頃合いだな」

 

「えっ?」

 

 私の動揺も関係なく、彼は突然右手を掲げた。すると、地上に設置されていたと思われる硝子が彼へと戻っていく。

 そしてくるりと反転すると、突然中央エリアへ向けて飛び跳ねていった。

 

「えっえ!?」

 

「すまんなアイドル!! 俺は中央の戦いへ切り込みに行く! 朱雀の火炎は俺のガラスにとって天敵だしな!!」

 

 ──はっーはっはっはっーー! と叫びのドップラー効果を残しながら、彼は空中に硝子を生み出しつつ去っていく。

 一瞬追おうとも思ったけれど、中央の戦いへ合流するというのなら触れたくない。

 

「でも、向かうのが中央って……うーん?」

 

 一番触れちゃいけない場所、というのはなんとなく志願者同士の共通認識だと思ってたけど、戦いに自信がある人からすれば違うのかな?

 とはいえ、一難は去った。私はゆっくりと地面に降りながら、周囲を見渡す。

 

(『異能』を全開しなかったのは運が良かった。でも、これからどう動こうかな)

 

 再び、周囲を見渡す。

 周囲にいるのは、やはり御神楽くんと朱莉ちゃんの二人だけだった。

 

「御神楽くん……朱莉ちゃん……」

 

 試験の間に仲良くなった、同じく音楽系の異能を使う男の子。

 対し、朱莉ちゃんもまた、試験前に仲良くなった子。

 遠目から見るだけでも、御神楽くんは劣勢だ。空中から攻撃し続ける朱莉ちゃんに防戦一方なのだから。

 

 このままでは彼は脱落するだろう。そして、銀狼隊に入れなくなるだろう。

 

「───ッ!」

 

 その時、再び朱莉ちゃんの火炎が私にまで及んだ。思わず顔を覆ってしまいながら、なんとか空中に逃げる。

 

(どうしよう……)

 

 彼女の炎は勢いを増していく。

 合格する事だけを考えるなら、私は逃げた方が良い。一人では朱莉ちゃんに太刀打ちできない。

 

(思いつめた顔をしていたよね。あんなに苦しそうに、笑って)

 

 彼はきっと、この試験を落ちたら、もう二度と私と会う事はないのだろう。

 アイドルとしての勘がそう言ってる。私の普段生きる世界はドロドロで、嘘や方便が溢れかえっているから、そういった勘が育ったのだ。

 

 ここで私が動く理由はない。

 彼と私は他人で、特別な感情もないのだから。

 

 でも。

 それでも。

 

(私は君のことを───助けたいと思ったんだ)

 

 それは、合格を手助けするという意味じゃない。

 彼の心を。この試験に込められた、思いつめてしまうほどの何かを、救い取りたいと思ってしまった。

 

 思ってしまったのなら、もう逃げられない

 この願いに背けば、私は後悔する。

 

 そしてそれは、いま動かなければ叶えられない。

 

「だったらまずは、私に出来る事を───!」

 

 マイクスタンドを握り締めて、私は二人の方向へ飛んだ。

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