Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第二十話『群・雄・割・拠/四』

 ───森の中心に、少年が一人。

 

 周囲の空気が変わった事に気づいたようで、ドランくんは戦斧を構えなおし警戒を強めた。

 突然,人影が森の隙間から飛び出す。

 

「『腥風血雨』」

 

 雨ノ宮くんは、血の糸を伸ばしながら肉薄した。

 森の陰に血液の赤が紛れた,認識しにくい攻撃。しかしドランくんは軽く一瞥をするのみだった。

 

「その動きはもう見たのである」

 

 戦斧を振り上げ、まるで闘牛のような乱暴さで迫る血の糸を切り払うと、次いで地面へ切り上げた。

 大地が微かに割れて、その疵が増大していく。裂け目から生じた衝撃波が雨ノ宮くんへ迫った。

 

 それは彼の異能、『影響の操作』による現象だ。

 

============================================

『星虚乃夜・響憐獣(ステラ・ドミナートル)】[異能]

『影響を操る』異能。自身が外部に及ぼす影響、あるいは外部から自身に及ぼされる影響の強度を操作する事が出来る。

============================================

 

 彼はその異能で、戦斧が大地に与える影響を増加させたのだろう。

 衝撃波に対し、雨ノ宮くんは糸を使い空中に逃げることで事なきを得た。

 

「チェンジ!」

 

「はいよっと!」

 

 私の異能が隙を埋める。

  ウェーバーくんの足元に巨大な蔓の群を生成。地面が盛り上がり,蔓が彼の全身を縛り上げる。千切られるよりも早く、遠心力で地面へ叩きつけた。

「音が軽い……影響を消されたみたい!」

 

 土が沈むぐらいの力はあったはずなのに、全くの無音のまま彼は跳ねた。そのまま縛られた影響で手放した戦斧を軽く蹴れば,影響が増大され,高速回転を始めた戦斧によって蔓を両断していく。

 

「想定内さ!」

 

 両断された蔓に仕込まれていた血の糸が、飛び出した。

 蔓を縫合、そして血の糸自身でもウェーバーくんに迫り,再度縛り上げる。今度は全身くまなく、動けないような頑丈仕様だ。

 

 血の糸と蔓は()()に彼を覆いつくした。

 

「どちらも強度をあげた特製版だ! 動けば体が────」

 

「ぬるいのである」

 

 身動ぎひとつ。

 ウェーバーくんはまず、血の糸をぶち破ると、次いで蔓を千切った。次いで戦斧を掴むと姿勢を低くし,一歩大地を踏みしめ、二歩目で急激に加速。

 

 私の腹に戦斧の柄が迫る。

 緩急の激しい動き。咄嗟に植物を動かし、彼を背後から縛り上げた。同時に、私自身は樹木を生やしウェーバーくんから距離を取る。

 

「拘束はダメか……」

 

 拘束を狙えば撃破よりも可能性が高いのでは、という作戦だったけれど、結局は駄目だった。

 ウェーバーくんは戦斧をくるりと回すと、私たちを睨む。

 

「肉弾戦をとことん拒否する戦法であるか。───ならばこういかせてもらおう」

 

 回した戦斧が、奇怪な音を立てて変形していく。巨大な刃は内部に収納され、長い胴体へと。柄は拡大され、銃口へ。

 

「軍用特殊武装戦斧ウルプスシリーズII『アヴェンティーノ』───ライフルモード」

 

「銃ぅ~!?」

 

「は、はっ……そんなの」

 

 巨大な口が、開かれる。

 

「───ありかよっ!?」

 

「わあああ!?」

 

 轟き始める発射音と共に、私たちは木の影へと飛び込んだ。咄嗟に異能を総動員させれば、二色の糸と蔓が木をぐるぐると補強していく。

 弾丸は周囲の自然を消し飛ばしていくが、補強の甲斐あってか私たちの木だけは形を保ち続けた。

 

(普通の弾丸じゃこうも削られはしない。これにも異能が使われてる!)

 

 『影響』を操作する異能。言葉にするのは簡単だけれどそれによって起こる現象は無数で、単純ゆえに複雑。

 同じような事を考えていたみたいで,雨ノ宮くんは笑い混じりに呟いた。

 

「すごいな、無敵じゃないか」

 

「しかも銃とかあり!? あれ斧だったじゃん!」

 

「最新技術搭載ならありえない話じゃないよ。武器の持ち込みは許可されているからね」

 

「だからってぇ!」

 

 雨ノ宮くんは素手で、私は杖だ。それが一番動けるスタイルである自覚はあるけれど、あまりにもウェーバーくんと文明レベルが違う。

 こちらからすれば,未来人を相手にしているような感覚だ。

 

「はぁ、もうっ。ところで下調べはどうなのさ。いけそう?」

 

「ああ。大体わかったよ。───()()()()()()()

 

 雨ノ宮くんは弾丸の雨の中、微かにウェーバー君を見やる。

 

「銃である以上、そろそろリロードが必要のはずだ。そのタイミングで指示通りに動いてほしい。弱点を暴いたら一気に畳みかけたい」

 

「……うん、わかった」

 

 私は杖を握り締める。

 

「信じるよ」

 

「もちろんだ」

 

 そうして、私は彼からの指示を受けつつ、弾丸をやり過ごす。

 ───ぴたり、と。その勢いが消えた。

 

(今ッ!)

 

 私は物陰から飛び出し、杖を前に突き出す。

 蔓を無数に生やし、ウェーバー君の四方を囲んだ。

 

「また同じ手か。それは」

 

 彼が言葉を繋ぐ寸前、雨ノ宮くんが飛び出した。

 その頭上に携えていたのは、巨大な血液の刃だ。森の高さを突き抜けるほどのそれは、勢いよく振り下ろされる。

 

 二つの攻撃が、()()にウェーバーくんへ迫り───彼は、上へ避けた。

 

(避けた……? ()()じゃなくて?)

 

「ビンゴだ」

 

 隣で、彼が呟く。

 

「異能が強ければ強い程、その弱点も露見しやすい。さっき同時の拘束を順番に対応したように──複数の物に対して、『影響』の操作は行えないんだ」

 

「……チッ」

 

 その言葉にウェーバー君の眉が、微かに動いた気がした。

 

 ■

 

 急降下してくる天使に対し、私はショッピングモールへと走り出す。

 

「ちょこまか逃げてんじゃねえッ!!」

 

 拳の先端が輝き、光が背後を薙いだ。獣人の鋭利な感覚で察知していた私は、半身を傾けてそれを回避する。前方に広がるショーウィンドウが砕かれていった。

 降り注ぐ硝子のシャワー。私は姿勢を低くして疾走すると、砕かれた隙間からモールの中へと入る。

 

 そこはモールの一階、吹き抜けの中頃だった。

 咄嗟に急停止して、くるりと反転。

 

「ハァあああッ!!」

 

「ッてめぇ!」

 

 私の後を追ってきた天使に対し切りかかれば、間一髪のところで拳に阻まれる。二撃目を叩きこもうとするが、彼は空中へ動く事で射程から外れた。

 

(っ、パワーで劣る。ならやっぱり、この室内で戦う!)

 

 私は吹き抜けの奥へと駆ける。助走をつけて手すりを足場にし、二階、三階と上がっていく。

 

「さっさと負けを認めて、俺達の同胞へ謝れ!」

 

「する訳ないでしょ!!」

 

 必然的に彼は私を追う形となり、その軌跡に突風が吹いた。

 

「でもッ!!」

 

 辿りついた上層階。私は通路へ降りると、彼へ振り返った。

 

()()()()()()()!!」

 

「……あ?」

 

「私も貴方の友達を馬鹿にした。貴方も、私の友達を馬鹿にした。なら、お相子。互いに謝ればそれで解決。違うかしら」

 

 例え八千代(黒い翼の女の子)に対する謝罪の意思がなかったとしても、そこに別の意図があるなら、もしかすると話が通じるのではないか。

 そんな考えを孕んだ行動だったけれど。

 

「は? 嫌に決まってんだろ」

 

 天使は、笑いながら拳を構えた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つか、テメエだってこっち側だろうが」

 

「こっち、側?」

 

「白髪と白い尻尾。お前は選ばれた側だ。だというのになぜ黒い奴を庇う。俺達とは全く別の存在だろ」

 

「なぜって……友達だからに決まってるじゃない!」

 

 私がそう言うと、天使の男は心底困ったように肩を竦めた。

 

「わからねえなぁ。あんなの、ゴミ漁りの鴉だろうが」

 

「───」

 

 一瞬、意味がわからなかった。人間をどこまでコケにすればいいのだろうという怒りもあったけれど、それ以上に、彼の表情には悪意がなかったからだ。

 

(……あ。そっ、か)

 

 悪意が、ないのだ。

 本当にそう考えている。

 

 黒い羽を馬鹿にして下げるのは、好き嫌いで。

 それによって泣いている子がいたとしても、それは好き嫌いだから仕方がなくて。

 

 同族は選ばれている存在だから良くて。

 八千代は、黒い羽を持つから駄目で。

 

 そんな───訳の分からない価値観と浅い判断基準で、この天使は八千代を差別した。

 

「───」

 

 目を閉じる。

 最終的に試験という場だから戦いになるとしても、私が言葉を投げたのは、獅乃に対する尊敬からだ。

 

 相手と認め合う事で問題が解決できるのなら、それが良いと思えた。だから拙いけれど、暴力混じりでも、何か出来ないかと頭を巡らせた。

 

(でも、無理だった)

 

 この天使は謝らないのだろう。

 謝らせたとしても、八千代は困るだけだろう。そうなれば、もう私の自己満足だ。謝るというポーズにだって意味はあるけれど、こうなればもう薄すぎる。

 

 そして、自己満足の動機すらも既に消え失せた。

 後はもう、意見のぶつかり合いだけだ。

 

「本心なのね?」

 

「当然だ。嘘はつかねえ」

 

「そう。なら───そんな貴方を、銀狼隊には入れさせない」

 

 目的が変わった。

 この天使の入隊は、私が阻止する。

 

 剣を掲げ、呟いた。

 

「『神殺死最終兵器(ジャガーノート)』」

 

 異能を発動。

 私の全身と剣を白い光が包み込んで、『神格化』される。

 

 『神格化』。それはつまり、存在の昇華だ。

 物理的に現れる現象は全面的な身体強化。文字通り、格が向上していく。

 

「ッ……!?」

 

 異能を開放した事によるエネルギーが、空間を軋ませていく。手すりが破れ、硝子が割れ、地面の絨毯が裂けていく。

 天使は身動ぎ、空中で一歩退いた。

 

「なんだ……この出力……! 全力を出したとしても、この上がり幅はありえねえ!! 今までだって『異能』を───まさか」

 

 そこで、天使は呟いた。

 

「今、初めて……『異能』を……?」

 

「あら、察しがいいのね。白狼は強いのよ」

 

 天使が翼を持つように、雪女が氷を操る様に。狼は、高い身体能力と野性的な能力を持つ。

 それは私だって例外じゃない。

 

 剣を構え、未だ動揺する天使に対し、眼を細めた。

 

「───本番、いくわよ」

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