Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第二十六話『比翼連理』

「はっ……」

 

 観戦室で、七咲ナナは声を漏らした。

 

「は、はぁ~~~~~!? 何あの光! まさか『覚醒(イデアオーバー)』!?」

 

「──いいえ、違います」

 

 誰よりも『覚醒』を知る者として、桜小路唯月は否定した。

 

「『覚醒』はそう簡単に到達できる領域ではありません。まして、実戦経験もない一年生には無理と言ってよいでしょう。……むしろあれは、()()()()()()()()。異能者ならば()()()()()()()()光景」

 

「……そうか!」

 

 彼の言葉を継いだのは、村雲紫陽花だった。

 

「妙に懐かしい感じがすると思えば、あれは異能の発現か!」

 

「……じゃあ、それって。御神楽君は──いまこの瞬間に異能者になったって事ですか?」

 

「ああ、珍しいけれど、ない話じゃない」

 

 紫陽花は戦慄を隠せないまま、自分でも情報を整理するように言葉を紡ぐ。

 

「月桜学園は異能者や異種族及び、()()()()()()()()()()人も迎え入れている。彼はいわばキャリアと呼ぶべき人間だったって事だ。本人が自分は既に異能者だと思っていても、精神に与える影響を考えて知らせない事もあるから」

 

 全員の視線が、再びモニターに集中する。

 

「ともかく、御神楽くんは目覚めた。……ここからが佳境だ」

 

 ■

 

 俺の全身を、銀色が包み込んでいく。

 内側から抑えられない熱が溢れ始めた。

 

「っ、あぁああああああああ!!」

 

 本能のままに解放する。

 最初は破壊をもたらす何かかと思った。けれど違う。俺の放った光は、ルシアを包み込んだのだ。

 

「ぁ……」

 

 彼女の声が漏れる。

 崩れかけた七色の翼が、美しく再生していった。

 

「なんだ、これ……」

 

「……君の異能、でしょ」

 

「違う。違うよ。『誰が為ノ音色(ヘッドフォン・アンセム)』は『音に適応する』異能だ。こんな再生能力なんてない」

 

「ううん、伝わってくるよ。君が私の音を聞いて異能の使い方を知ったように、音楽系の異能は共鳴を起こすから。───私も、君の音を聞いて理解した」

 

 ルシアは、微笑んで俺の頬に触れる。

 

「間違いなくこれは、君の異能。君の異能は、自分のための異能じゃない。ましてや、自衛のためのろくでもない力でもない!」

 

 彼女の翼が、勢いを取り戻していく。

 旋律が、響きだした。

 

 それはルシアの歌だ。

 『色取り取りのセカイ』。そう称した、彼女の音。

 

「君の異能は、『音に適応する』異能じゃない! 君が感じている音を、誰かと共有する力───『音を共に楽しむ』異能なんだよ!!」

 

「───!」

 

 その瞬間、俺の体からも七色が噴き出した。

 透き通る旋律と共に、二人の体は虹に包まれていく。まるで暖かな水の中にいるような、不思議な感覚だった。

 

 自ずと認識する。

 自分に与えられた力と、その名前を。

 

 

 叫んだ。

 

 

───『君ガ為ノ音色(ヘッドフォン・アンサンブル)』ッ!!!

 

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誰ガ為ノ音色《ヘッドフォン・アンセム》】[異能]

『音に適応する』異能。本人の周囲に発生する音に適応し、身体能力の向上や外的要因に対する反応速度を上昇させる事が出来る。また、周囲の音を利用する事で音波を放つことも可能。

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─── データが更新されました ───

 

 

 

============================================

君ガ為ノ音色(ヘッドフォン・アンサンブル)】[異能]

『音を共に楽しむ』異能。指定した対象と御神楽神威はリズムに乗り、共鳴する事が出来る。異能の共有のほか、二者同時の身体強化、異能強化、負った傷の自動回復などが発生する。

誰が為ノ音色(ヘッドフォン・アンセム)』は御神楽神威が本異能に目覚める前、キャリアとも呼べる状態での力であり、故にデータが存在しない。※本人の成長に余計な影響を与えないため、この情報を本人に与えることは禁じられていた。

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 俺の頬に触れていたルシアの手を取って、繋ぐ。

 その瞬間、彼女の背中に生えていた翼の片方が消えて、代わりに俺の背中に生えた。

 

 それだけじゃない。一対だった翼は、数を増やし二対へと変貌を遂げる。俺の背中と、ルシアの背中。合計で四枚の羽が生まれていた。

 同時に、力が漲る感覚があった。きっとこれはルシアも同じだろう。

 

 全て、『君ガ為ノ音色(ヘッドフォン・アンサンブル)』による共鳴の効果だ。彼女の発した音を俺が乗り、その音をまた彼女と共有する。だから俺は彼女の七色を。彼女は、俺の身体強化を分け合った。

 

 『多重奏(アンサンブル)』。

 これは文字通り、二人で紡ぐ音楽(ちから)なのだ。

 

 

 ───この瞬間、俺は『異能者』となった。

 

 

「っはは!!」

 

 いっそ噴き出したような笑い声が聞こえる。

 驚いて前を見れば、それは夜凪のものだった。

 

「なんとまぁ、見事な異能の目覚めだ。るー殿が飛び込んできた時は何事かと思ったが、そうか」

 

 彼女は俺とルシアを順番に見て、もう一度軽く笑った。

 

「私の知らない物語、という奴ですね。部外者の気分だ」

 

「……ごめんな」

 

「謝るのもお門違いです。つい手を止めてしまった私に責任はある。ところで、るー殿」

 

「何かな」

 

「貴方はやはり、御神楽殿の助太刀をするのか」

 

「うん」

 

 ルシアは、申し訳なさそうに顔を暗くしながらも、しっかりと頷いた。

 

「初めは御神楽くんを逃がす事が目的だった。でもこうして彼の力が目覚めて、一緒に音を楽しめている。だったら乗り掛かった舟だもん。だから最後まで──御神楽くんと一緒に、朱莉ちゃんと戦う!」

 

「ルシア……でも、これ以上お前を巻き込むのは」

 

「ふふ。手まで繋いでおいて?」

 

 それは、勢いで。──なんて言おうとしたけれど、彼女の笑顔と強い瞳を見たら、何も言えなくなってしまった。

 

(なら、いいか)

 

 戦うと言ってくれている。

 例えその後にルシアと戦う事になるとしても。

 

「分かった。ルシア、今だけは力を貸してくれ」

 

「うんっ!」

 

「……本格的に、二対一ですね」

 

 俺たちの言葉を聞いて、夜凪は弓を握った。

 

「しかも異能の共鳴まで起こしている。ただの共闘ではなく、運命共同体──比翼連理と言っていいほどの相手」

 

 目を閉じて。

 

「───依然、不足なし!」

 

 開いた。

 

 肉体が、炭に変わるような錯覚。

 それは夜凪が火炎を開放した事による、本能的恐怖だった。

 

「『魔法みたいにとっても素敵 !(M a g i c a l C h a r m i n g !)』」

 

 ルシアがマイクを握り、今までとは比べ物にならないほどの虹色の輝きを押し出す。それは、俺の異能の効果によって増幅された光だ。彼女一人なら繰り出せないほどの出力。

 けれど──

 

(押し返せない……いや、押されてる……!?)

 

 今までよりも濃い深紅の炎が、虹色を喰らっていく。

 肌の表面が段々と焦がされていくような熱。

 

 二人分の力が虹色の光に込められているはずなのに、それすらも一人で押し返してしまう夜凪という少女の力、朱雀の火炎。

 冗談じゃない。こんなの、あまりに強すぎる。

 

 でも。 

 でもッ!!

 

 二人なら───!!

 

「御神楽くん!」

 

「ああ!!」

 

 俺は右手に、彼女と同じマイクを握った。

 

 虹色の光が増大する。

 それは彼女と俺の世界の色。未来を鮮やかに彩ろうとする、覚悟の色。

 二人の意志が、強大な火炎に立ち向かう。

 

 マイクを握り、音を重ねて、楽しもう。

 さぁ、多重奏(アンサンブル)だ。

 

 

「「奇跡ならもう目の前にある───!」」

 

 

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