───数分前。
中央エリアで繰り広げられた天災同士の争い。それは、一つの構図を以て決着する。
「ク、そ……っ」
フェアナンド・アルテンブルク。
彼は無数の瓦礫に潰された状態で、崩壊した地に伏していた。その全身は既にぼろぼろだ。肉体の傷は異能によって徐々に再生しているが、それでも抑えきれないほどの蓄積がある。
「私の勝ちだ」
上空から舞い降りるは、瓦礫を従えた天霧リオン。
対照的に彼の肉体には、一つの傷もなかった。それは一度もダメージを負っていないからではなく、異能によって全てを治療しているからだ。
「お……まえ……なんなんだ、その異能……!」
「……そうだな。ここまで戦い抜いた君に、敬意を以て教えよう」
彼は、瓦礫にうずくまるフェアに近づいた。
「私の異能は『
============================================
【
『空間を支配する』異能。自身の体内、および体表数MMに存在する物質を掌握・操作する。その精度は分子レベルにまで及んでおり、加えて『体表に触れている』という定義を拡大させる事で、離れた空間の操作もある程度可能としている。
============================================
(ッ、概念系異能かと思っていたが、微妙に違う。
あるいはいっそ、概念系だと信じたかった。あくまで彼が操っていたのは、目の前の空間に存在する物質。それなのにこの圧倒的なまでの実力は、異能以上にリオンの地力と言ってほかならない。
「....ちくしょう」
「──見事だった」
リオンはゆっくりと、掌をかざす。
「傷こそ再生しているが、私にとっても簡単な相手ではなかったよ。まさか同じ一年生にここまで追い詰められるとは想定外だった」
「嫌味かッ、クソが!」
「違うさ。私の想定では、
リオンが言葉を紡ごうとした瞬間、二人の背筋をゾワりとした物が駆け抜けた。それをリオンは異能で、フェアは本能で感じ取った。
思わず二人とも、その発生源へと視線を向ける。住宅街を抜けた先、東側エリアへと。
「赤い、燃える鳥……?」
ぼんやりと滲むシルエッとにフェアが呟き、その脳裏に夜凪の姿を想像する。リオンもまた彼の呟きを通して合致を得て「そういう事か」とひとりごつ。
「フェアナンド。悪いが、勝負の決着は持ち越しだ。明らかに
「おかしいってお前───」
悪態を返すよりも早く、リオンが消えた。あっという間に小さくなっていく影を見つめながら、フェアは地面に血を吐いて拳を握る。
「あれも見えてやがるってのか……クソッ!!」
地面を叩くも、既に彼に残された力は僅かだった。
「強く……ならねェと……!」
無意識に鉄塊を撫でながら、少年は呟いた。
■
『朱雀』という、火炎によって編まれた変則的な生命体。あるいは生命と類似した行動をするだけの現象。
リオンの『
「───■■■■ッ!!!?」
朱雀の悲鳴が鳴り響く中で、リオンは周囲を見渡し状況を把握。そして倒れ伏す朱莉の隣へ降りた。
「夜凪朱莉、返事は出来るか」
「な…………ん…………」
「あの『朱雀』、消してしまっても良いのか。あるいは無力化に留める事も出来るがどうする」
「……
「了解した」
次の瞬間、なんとか体を繋ぎとめようとしていた『朱雀』に衝撃が走る。
圧縮された空気を押し付けられた『朱雀』は、全身を砕かれながらも空へ逃走を図った。
だがしかし、既にリオンは捕捉済みだ。周囲に散らばっていた無数の瓦礫を操ると、それら全てを弾丸として射出する。
肉眼で捕捉する事すら難しい、弾丸の嵐。それはまるで逆向きに振る雨のようで、残った『朱雀』の肉体が削られていく。
すると、『朱雀』は火炎で焼き尽くさんと己の肉体を燃やし、周囲に熱を放出した。いくら素早くとも瓦礫は瓦礫。焼かれるというよりも溶かされるような勢いで消滅させられていくが、既に遅い。
「終わりだ」
いつの間にか肉薄した天霧リオンが、『朱雀』に蹴りを放つ。戦車が丸ごと押し付けられたような、超重量の一撃。
核を捉え、いとも容易く貫いた。
その一撃の前に叫びをあげる余裕すらなく、最後に空中で爆発を引き起こして、『朱雀』は消滅した。
同時に、『朱雀』が散らしていた火炎も消滅する。燃え盛る住宅街の残骸だけが残って、静寂が訪れた。
「───御神楽くんっ!!」
不意に、少女の声が響く。
悲鳴のように声を張り、*LuSsiqは目の前に立つ神威へと手を伸ばした。
彼は立っていた。
後ろにいる少女をなんとか守り通すのだと、両手を広げて立ち尽くしていた。
「御神楽くん……っ、御神楽くん!」
「───」
思わず*LuSsiqは泣きそうな顔で、彼を抱き留める。
けれど返事はない。ただ細い目が目の前で起きた『朱雀』の消滅を見ていた。
そしてようやく閉じ切ると、糸が切れたように体から力が抜けたのだ。
───彼は既に、意識を手放していた。
既に気絶しながらも、無意識のまま、*LuSsiqを守るのだと立ち塞がり続けた。『朱雀』に焼かれようとも、力を使い果たしていようとも、守り続けたのだ。
果たして守れたのかは関係ない。
彼はやりきったのだ。だから、『朱雀』の消滅を見届けて、ようやくその責務を手放した。
もし彼がそうしていなかったとしても、*LuSsiqが怪我をする前に天霧リオンが『朱雀』を倒しただろう。
あるいは*LuSsiqにはまだ力が残っていたから、自衛ぐらい出来たかもしれない。
けれど、彼はやり遂げた。
*LuSsiqへの覚悟として、立ち続けた。
その在り様を。
勇気を───誇り高いと言わずして、なんというのだろう。
「御神楽君……っ、助けてくれてありがとう……!」
自らを守り抜いた少年を、少女は抱きしめ続けた。
彼女はこの言葉を、きっとこれから何度も伝え続けるのだろう。