Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第二十九話『We have a dream.』

 試験終了、その直後。

 

「よっしゃー! おわっ、たぁ~~~~~!」

 

「っとと」

 

 放送を聞いて、千羽さんは杖を投げ出すと、僕に向かって無造作に倒れてきた。咄嗟に支えるが、僕が動かなければ彼女は地面と激突していただろう。

 

「ちょっと千羽さん、危ないよ?」

 

「雨ノ宮くんなら支えてくれるでしょ? 試験中ずっと抱っこされてたから慣れちゃってさ~」

 

「……君、案外雑だね」

 

「むしろこれが素!」

 

 試験中の千羽さんは、もう少し冷静でおしとやかなイメージがあったのだけれど。そんな意味を込めての言葉だったが、彼女はますます笑っていた。

 

 既に放送を聞き、試験場からは撤退が始まっている。医療部と思われる人々も出入りしていて、随分と慌ただしく動いていた。

 そうしていると、道の方から見覚えのある人物が歩いてきた。

 

「ネルムちゃ~~~~ん、雨ノ宮く~~~~ん!」

 

「遊菓ちゃん!?」

 

 茶髪が特徴的な少女、辻遊菓さんが僕たちのところへやってきた。様子を見るに随分とぼろぼろで、酷く疲れているように見える。

 

「見覚えのある方々がいると思って来てみれば……お二人は生き残ったんですねぇ」

 

「そういう辻さんは……」

 

「中央の争いに巻き込まれてどぼんですよぅ!! 気が付いたら西側に飛ばされてました」

 

「それはなんというか……うん、災難だったね」

 

「ほんとですよ!!?? いやまぁ、逃げきれなかった私にも非はあるかもしれませんけどぉ!」

 

 涙目で弁解する辻さん。あの二人の争いに巻き込まれたというのは、不運としか言いようがない。開始位置が近かったのならなおさらだ。

 

「むっ! 僕の友達の三人じゃないか!!」

 

 そんな風に会話をしていると、僕たちの隣を担架が通っていった。そして横たわる人物が、騒がしく僕たちを指さす。 

 濃いキャラに腰の透明な鎖。間違える訳もない。二次試験で協力した、伊万里結城くんだ。

 

「伊万里くん!? 君、大丈夫なのかい?」

 

「はっはっはっ! この通り動けないが、動けないだけで全然ぴんぴんしている!」

 

「っていうか、伊万里くんもやられちゃったんですか? 君腕っぷしにはかなり自信ありますよね?」

 

 それは正直、二次試験を共に超えた僕たちの共通認識だった。事実彼の異能は戦闘向きで、彼自身の性格も同様だったはずだ。

 伊万里くんはため息をつくと、肩を竦めた。担架の上だから分かりにくかったけど、そう見えた。

 

「実は、中央の争いに───」

 

「あ~~~~なるほど。それは災難ですね……」

 

「───乱入したんだが、返り討ちになったしまったんだ!」

 

「ば、馬鹿だ」

 

 巻き込まれたと思ったら自ら乱入したと聞き、辻さんは思わず叫んでいた。

 僕もなんとなく苦笑いを浮かべていると、隣から袖を引っ張られる。

 

「……この人、馬鹿なの?」

 

「そんな事言わないの」

 

 いい加減千羽さんを抱えているのにも飽きたので、持ち上げて離せば、ぷらーんと脱力しながら彼女は自立した。

 

「ま、落ちてしまったものは仕方がない! 僕はまた入隊試験を受けるとしよう!」

 

「うん、待っているよ」

 

「はーはっは! それではまたどこかで!」

 

 怪我をしているというのに、やはりそれを感じさせない明るさで、伊万里くんは運ばれていった。

 

「相変わらずだったね」

 

「そうですねぇ」

 

「そういえば辻さんはどうするの? また次を受けるかい?」

 

「いいやっ、私は『技術部』に入ります!」

 

「入り、ます?」

 

 なんとなくその口ぶりに違和感を抱けば、辻さんは意味深に笑った。

 

「ふっふっふっ。実は、既に推薦を受けているんですよ!」

 

「あ~~~!! なんかこの前嬉しい事あったって言ってたけど、まさかそれ!?」

 

「そう、それですネルムちゃん!」

 

 千羽さんが反応を見せれば、辻さんは指を立てる。

 

「偶然、私の異能を『技術部』の人に見せる機会があってですね。そこでぜひうちに~って言われたんです」

 

「『戦闘部』はいいの?」

 

「確かに未練はありますけど、こうして推薦してもらったことですし、そっちの方に縁があったと考えます。元々技術部にも願書は出していましたし!」

 

 以前、鈴代さんが二階堂先輩から推薦されたようのと同じだろう。更に言えば、全ての部署に試験は存在するが、その採用基準などは全部違うと聞いているし、彼女のような異能持ちは優先的に取る方針なのだろう。

 

「なんにせよ、お二人は合格者ですもんね! 落ちてしまった私や伊万里くん、九十九くんの分まで先に頑張ってください!」

 

「……そうだね」

 

「雨ノ宮くん」

 

「うん? ……あぁ」

 

 横を見れば、千羽さんが拳を突き出していた。

 

「銀狼隊でも頼りにしてるよ? 『参謀』さん!」

 

「……覚えてたか」

 

 一瞬目を丸くするけれど、すぐに意図を理解し、拳を突き合わせる。

 こつんと軽い音がして、僕たちは笑い合った。

 

 ■

 

「くそッ、はぁ!? ふざけっ、あああああ!!」

 

「暴れるんじゃないわよ!」

 

 暴れる、とは言っても消耗してるせいでじたばた程度しか出来ていないアルテンブルクに肩を貸しながら、私───餅月ここあは彼を叱咤した。

 

「俺は天霧に負けたんだぞ!! なのになんで俺が合格なんだよッ!?」

 

「いま先輩が言ってたでしょ! 他の人が脱落した後にアンタが負けた事が理由だって! 試験自体は終了の放送より前に終わってたって教えてくれたでしょうが!」

 

「だからッ、それが意味わかんねェって言ってんだ!」

 

「すっっごい強情だね君!? 合格なんだけど!?」

 

 試験終了後、私たちの元に駆け付けてくれたのは傘を持った村雲紫陽花先輩だった。

 彼はアルテンブルクが合格である事、そしてその理由が、最後の一人が脱落した後にアルテンブルクが天霧くんにやられた───つまりはギリギリセーフである事を教えてくれたのだけれど……

 

「俺は!! 負けたんだ!! 入らねえぞ俺はァッ!!」

 

「ええええええええええええええ」

 

 この通り、それはアルテンブルクのプライドに触れたらしく、激しい抵抗を繰り返している。

 私はため息をつき、こいつに貸している肩をぐっと上げ、腕を引っ張った。

 

「ごふぁっ! ふざけんな餅月……!」

 

「アンタねぇ、負けて悔しい気持ちはわかるけど受け入れなさい。そもそも実力が足りなかったのなら、なおさら受け入れるべきでしょ」

 

「どういう事だ……」

 

「実力不足。なら、『銀狼隊』で実力を積めばいいのよ! わざわざ辞退する事ないでしょ! そもそも運も実力のうちなんだから!」

 

「ぐぅ……!」

 

 私の指摘を受けて、アルテンブルクはぐぅの音が出ていた。

 

「───大体言われてしまったな」

 

 声がして、空から一人の男子が降りてくる。

 長い金髪の美形、天霧くんは堂々とした振る舞いで、私たちの方へやってきた。

 

「餅月ここあだな。初めまして、天霧リオンだ」

 

「どうも。どうして天霧くんはここに?」

 

「フェアナンドが()()なるのを予想してたまでだ。だが、貴方に大体言われてしまったようだな。逆に聞くが、どうしてここに? 貴方は南エリアで戦っていたはずだろう」

 

「……?」

 

 一瞬、どうしてそんな事を知っているのかと疑問に思ったが、私は首を振って軽く流す。理由はいくらでも考えられるからだ。

 

「アンタたちの争いが終わるのを見てたのよ。それで天霧くんがどこかへ去っていったから、あぁこいつ回収しないとって思っただけ」

 

「ありがたい事だけど、あまり無茶はしないようにね。そもそも試験終了後なんだから」

 

「中々勇ましい事じゃないですか。私は好感が持てる」

 

「それはどうも」

 

「お世辞じゃないさ。君も合格者だろう、仲間として戦えるのを楽しみにしている」

 

(雨ノ宮とはまた違ったタイプね)

 

 ありきたりな台詞なのに、不思議と嫌な感じがしない。カリスマというべきなのだろうか。私が少しの間考えていると、肩のあたりがもぞもぞうと動く。見れば、アルテンブルクが顔を上げていた。

 

「……お前、周囲を警戒しながら戦ってたんだな」

 

「ほう」

 

 その言葉に、天霧くんは目を細め感心したように声を漏らした。

 

()()()()()

 

「ハッ、当然だろ……! じゃなきゃあんなに早く、西側へ駆けつける訳がねェ……! ───その時点で俺の負けだ。テメェは手を抜いていた」

 

「別に、手を抜いていた訳ではないのだがな」

 

「いいや、抜いていた。手加減させちまったオレのせいだ」

 

 アルテンブルクは、色々な感情を含んだ表情をして、問いかけた。

 

「……お前、()()まで行くんだ」

 

「理想を叶えるまで。己が本懐を遂げるまでだ」

 

「───」

 

 一瞬の迷いすらなく、凛然と返答する姿。

 私にはなんだか、その姿が獅乃と被って見えた。けれどあの子とはどこか少し違う。まるで自分に言い聞かせているような、そんなニュアンスを孕んでいた。

 

「……そォか」

 

 アルテンブルクは、ぼろぼろの体を動かし、右手を上げた。

 

「すぐに、オレはお前にたどり着く。首洗って待ってろ……! それまで誰にも負けるんじゃねェ」

 

 それに対し、天霧くんはフッと笑った。

 

「言われなくとも、無論だ。───私は天霧リオンだからな」

 

 言って、彼は踵を返す。

 その背中に、アルテンブルクは一つ、言葉を投げた。

 

「…………飯屋、探しとけよ」

 

 ■

 

 試験終了後の観戦室は、思いのほか静かだった。

 大半の人たちが事後処理に動き始めたからだ。今残っているのは、私を始めとして、班長とまりちゃん、そして最上先輩だけ。

 

「にしても、すげえ面子が残ったな」

 

「しののんの友達、みんな残ったね~。……ってあれ、しののん?」

 

「ふぇっ? あ、ご、ごめんなさい」

 

「どうしたの? ぼーっとしてた?」

 

 まりちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。けれど、首を横に振った。

 

「いえ……みんなすごいなぁって思ったんです。あんなに頑張って、必死に耐えて。みんなそれぞれの戦いを乗り越えて、合格を掴んで……それって、凄い事だなって」

 

 例えば、雨ノ宮くんは知らない人たちと会話をし、協力をして、試験を乗り越えた。

 ここあちゃんはたった一人で不利な敵に対し、地形を利用して戦った。

 アルテンブルク君は、己の持てる全てをぶつけた。

 

 ───御神楽くんは、自分と向き合った。

 

 その全てが、最後の結果を生み出して。

 それがきっと未来につながる。それは本当に凄い事だ。

 

「私、楽しみです。みんなと会う事が」

 

「我らも楽しみだ。これからの『銀狼隊』がどう変化していくのか」

 

 すると、班長は手に持っていたリストを私に手渡した。

 

「しっかり目に焼き付けるといい。これに君を加えたのが、『戦闘部』の新人となる」

 

 私は改めて、未来の仲間たちを確認した。

 

 ■

 

 ───銀狼隊”戦闘部”入隊試験、終了。

 

・天霧リオン

・雨ノ宮燐世

・千羽ネルム

・フェアナンド・アルテンブルク

・御神楽神威

・餅月ここあ

・*LuSsiq

(※五十音順)

 

 加えて、推薦合格者一名

・鈴代獅乃

 

 以上、八名を新たな銀狼隊”戦闘部”の隊員とする。

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