そこから五日の間、沢山の事があった。
「ただいま獅乃!! しっかり合格してきたわよ!」
「おかえりここあちゃん! 見てたよっ、おめでとう! 雨ノ宮くんもアルテンブルクくんもね!」
「………ッ!!」
「あ、あれ。なんか怒ってる?」
「あーー気にしないでくれ鈴代さん……こいつ馬鹿なんだ」
いつもの四人が全員”戦闘部”となったお祝いにちょっとした食事を開いたり。
「改めて紹介するね! 私のお友達の夜凪朱莉ちゃん!」
「お初にお目にかかる。二人の噂はかねがね聞いています」
志望者の一人、夜凪さんが八千代ちゃんと親しい事が分かって、その縁で仲良くなったり。
「あ、そうそう二人とも。この前、私宛に果物の詰め合わせが届いたんだけど、何か知らない? 学校で私にプレゼントしてくれるのこの三人ぐらいだから……」
「……! そう、そういう事ね。八千代、これ食べても大丈夫よ」
「え? いいの?」
「ええ。……もう良くなったわ」
「……?」
その時ここあちゃんは意味深な事を言っていたけれど、私がそれを理解する事はなかった。荷物についていたらしい
「そういえばこの前ちらっと聞いたけれど、八千代ちゃんと夜凪さんは風紀委員会に入るんだよね?」
「ええ。八千代様が風紀委員会の方と知り合いで、私もその縁で『すかうと』して頂きました。何やら、私たちは風紀委員会の方針に合うらしく。それと私の事は朱莉で構いません」
「へぇ、やっぱりどこも人手が欲しいんだね」
推薦だったり、スカウトだったり。学生組織である以上、人を集めるのに躍起になっているのだろう。
「でもいいの? 今回は残念だったけど、朱莉ならもう一度試験を受ければ合格は確実でしょう」
「いいのです。……今回の試験で、私は独りの力では限界がある事を学びました」
朱莉ちゃんは、爽やかな笑みを浮かべた。
「私は、御神楽殿とるー殿の協力によって負けました。その上、力を暴走させて迷惑をかけてしまった……そんな私に、誰かを救う資格などありません。風紀委員会は、学園の風紀を律する組織。そこで自分自身の心をも律し、成長につなげたいのです」
凛とした刃のような鋭さで、彼女は言い切った。扱う武器が弓だからか、なんとなく弓道などで着衣する弓道着を始めとした和服……古風で洗練されたイメージがある。
すると、八千代ちゃんは肩に手を置いた。
「朱莉は難しく考えすぎだよ。そこが良いところだけど、もっと肩の力抜いていいの」
「いえ、もう決めた事ですので。という訳で、お二人にはもしかすると不要かもしれませんが……学園生活でお困りのことがあればお伝えください。風紀委員会として精一杯対応しましょう」
そうして、新しく出来た友達の態度を微笑ましく思ったり。
……友達、といえば、面白い話があった。
それはお昼時のことだ。
「そういえばアルテンブルク、アンタ、天霧くんとご飯行くとか言ってなかった? それいつ───」
「もう行ったわ」
「えっ、ほんと?」
「ブハッ!! 待って、わらっちゃうっ……!」
突然、雨ノ宮くんが噴き出した。
何事かと驚いていると、彼はスマホを取り出して写真を見せてきた。
「あっ、てめこら!」
「見てくれよ! これっ、二人でフ、フランス料理屋行ったらしくて……っ!!」
ここあちゃんと二人でスマホの画面をのぞき込む。
するとそこに映っていたのは、びしっとスーツでキメた天霧くんと、不満そうな顔でフォークとナイフを握るアルテンブルクくんの姿だった。
どうやらスマホで撮ったらしく、天霧くんの自撮りにアルテンブルクくんも映っている形式だ。
「ぶふッ」
思わず吹き出してしまう。
「ま、まって、アルテンブルクすっごい不満そうじゃない!! 目ぇほっそ!! 『H』の口してるッ! いつもならブチぎれてるのにっ、あはははは!」
「流石に高級料理店では抑えたらしいよ……っ、ぷくく……っ!」
「そもそもっ、スーツあんまり似合わないんだねっ、アルテンブルクくん……ッ!」
「お前らぁあああああっ!!!」
そうして、すっかり四人の間では弄られキャラになったアルテンブルクくんがいたとか、いなかったとか。
「っはは……! そ、そういえば、雨ノ宮も他の人とご飯行ったのよね?」
「あぁ、そうだね」
一しきり笑って、思い出したようにここあちゃんは尋ねていた。
雨ノ宮くんが写真をスクロールすると、そこに映っていたのは彼を含めた数人の男女だ。
「僕と、千羽さんと辻さん。伊万里くんと九十九くんの五人で行ってきたんだ」
「良いわね、ボーリング」
「九十九くんがボールを浮かせて投げたりして、色々大変だったけれどね。とはいえ楽しかったよ。次の約束もしたし」
「……それに引き換え、アルテンブルクは」
「スッ(二人のスーツ写真)」
「ぶははははははッ!!!」
「餅月ぃいいいいいい!! 完全にこれやるための前振りだっただろッ!!」
「あはっ! あははははは!」
そんな風に笑い合って、あっという間に五日が経ち。
───入隊式の日が、やってきた。
■
銀狼隊基地本部三階の一室、通称『大講堂』にて入隊式は行われた。
先日の入隊試験で合格した、全部署合計三十四人───そこに私を加えた、計三十五人は、銀狼隊の『隊長』からありがたい言葉をもらって、入隊を果たしたのだ。
「つかれたぁ~……」
「お疲れさま。……別に取って食われる訳じゃないのに、こういう場って慣れないわよね」
入隊式を終えれば、私たちは自由解散となった。大講堂は既にみんなの会話で騒がしくなっていている。
周囲を見れば、戦闘部の友達たちは少しずつ合流し始めていた。私とここあちゃんも、ゆっくりと移動し始める。
「お腹空いたなぁ、でもこの後は歓迎パーティーだもんね!」
「食べ過ぎないようにするわよ。また苦しくなっても知らないからね」
「そんなぁ見捨てないでよここあちゃんー。いくら私が最近食べ過ぎだからって───」
「───すまない、少し良いだろうか」
「わぁあああっ!?」
完全に油断していた私の前に、突然天霧くんが現れた。赤裸々な事情を口走っていた私は思わずここあちゃんに抱き着いてしまう。
「び、びっくりしたぁ……っ! 今の聞いてないよね!?」
「ああ。何も聞いていないとも」
天霧くんは薄く笑った。でも絶対に聞いてたと思う。そして今回に関しては100%私が悪い!
「おはよう天霧」
「おはよう。すまないが、少し鈴代を借りてもいいだろうか」
面識があるのかフランクな会話の後、なぜか私が所望されていた。
「私? いいけど、どうしたの?」
「少し話があってな」
「それはここあちゃんがいたら駄目な事?」
「
「───」
なんだか、含みのある言葉。けれどそれが大切な話だと感じ取った私は、ここあちゃんへ振り返った。
「私、行ってくるね」
「……そう。終わったらちゃんと戻ってくるのよ。天霧も、変な事をしないように」
「心得ているよ。では、少し付いてきてもらおうか」
私は天霧君の後に付いていった。
■
私たちがやってきたのは、『銀狼隊』基地の休憩室。その端の個室だ。個室とはいっても他の部屋とはガラス張りで仕切られている程度で、外と中は互いに様子が丸わかりだ。
本当ならもう少し奥まった部屋もあるのだけれど、『男と二人は怖いだろうからどこか良いところはないか』と聞かれ、教えた結果選ばれたのがこの場所だった。
「すまないな、こんなところまで連れてきて」
「ううん、大丈夫。ちょうど時間が空いたタイミングだったしね」
入隊式が終わり、パーティーまではまだ時間がある。既に私たちは基地に出入りする権利をもらっているので、こうしてやってきたのだ。
とはいえ、入隊式が終わってすぐにやってくる人はおらず、周囲は静かだった。
彼は外を眺めながら、私に背中を向けていた。
何か思うところがあるのだろうか。首を傾げながらも、私は口を開く。
「それで、話って何かな」
「ああ」
くるりと彼はこちらに振り返って、ゆっくりと右手を差し出した。
「単刀直入に言おう。鈴代獅乃。『銀狼隊』で地位を確立させるために───私の右腕になってほしい」