Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第六話『最強の兎』

 

 ──爆散した肉体に異能が働き、原型を取り戻す。

 

 『逆説道化(クラウンダスト)』は無敵だ。例え二階堂エデンの一撃でも、その絶対律が崩れる事はない。

 喰凰には、その確信があった。

 

「あッはは! 木端微塵になったヨ!」

 

 一撃を喰らい、喰凰は学園の端まで吹き飛んでいた。だがそれぐらいならば想定内。既に彼の肉体は、度重なる新入生との戦闘で身体強化を遂げている。

 言い換えるのなら、体が温まっている状態。

 二階堂エデンを迎撃するため、拳を握った。

 

(接近してきたところを、逆に利用してぶっ飛ば───)

 

 ──視界が。

 

「は?」

 

 反転する。

 

「ッ……ッッッツ!!?」

 

 世界の端に紫色の光が現れた。

 次の瞬間、喰凰の腹に、ビル一本が横に倒壊してきたような、凄まじい衝撃が走った。

 

(なんダッ!? 一体、何が!)

 

 遅れて、現実と認識が追い付く。

 強制的に下を向いた視線の先。喰凰の腹に、蹴りが突き刺さっていた。

 

 知覚が遅れた。生物としての、反応速度が追い付かなかった。

 豆粒ほども見えない数百M先の彼方から迫ってきたというのに、喰凰は二階堂エデンに気づけなかった。

 

「悪いけどここじゃ被害が大きすぎる。───場所を変えよう」

 

 突き刺さった蹴りがもう一度爆ぜて、喰凰は何かにぶつかる。

 それは山だった。月桜学園は元々山を切り開いて作られている。喰凰が二階堂エデンに吹き飛ばされ、激突したのは、その山の中腹だ。

 

(ッ、速すぎるネ!!)

 

 前を向く。二階堂エデンが、上空に現れた。

 心の中で悪態をつき、喰凰は横に倒れている巨木を掴むと、強化された身体能力でそれを投げ飛ばす。人の何倍かある巨木は空中でバラバラになり、線の攻撃が面に変わった。

 

「───!」

 

 二階堂エデンが瞬いた。

 彼を中心として、紫紺の鉱石のような物質が溢れ出し、宙を泳ぐようにして山へ迫る。進路にいた木々はいとも容易く破壊され、喰凰は思い切り横へ跳ぶことでそれを回避した。

 

 山の一部が抉れた事実が、背中越しに分かる。

 悪態をつきながら、彼は冷静に分析をした。

 

(あれが『煉獄物質』! 二階堂エデンの操る、正体不明の物質……!)

 

 曰く、合金よりも強固で、刃物よりも鋭く、ゴムよりもしなやかな意味不明な物質。二階堂エデンはそれを無尽蔵に生成し、操るという噂だった。

 

「だったらッ……! こっちも『異能』を活かすまで!」

 

 空中で生成された煉獄物質を足場にして、突っ込んでくる二階堂エデン。

 喰凰は再び拳を握ると、彼を迎え撃った。

 

「『君は僕を傷つけられる』」

 

 『逆説(クラウンダスト)』が発動───『君は僕を傷つけられない』。

 現実が裏返り、正常に書き換わった。

 

 拳と蹴りが衝突する。

 

「……マジ……!!?」

 

 二階堂エデンは、靴に煉獄物質を纏わせていた。

 

 あくまで『異能』の対象は二階堂エデン本人。その間に仲介する何かがあれば、異能は正しく働かない。

 

(この一瞬で、咄嗟に適応したとでモ……!?)

 

 そして、喰凰の拳は煉獄物質を貫けない。

 

「ギャベッ!」

 

 腕が崩壊し、体がぐるぐると回転する。

 

「──S級国際犯罪者、北米三合会(トライアド)『喰凰』」

 

 再び蹴りが炸裂し、木々をなぎ倒して喰凰の体は山を突き進む。

 

「その異能は『逆説道化(クラウンダスト)』」

 

 暴風を伴う体が、唐突に下向きの力に変わって地面へ激突。それは吹き飛ぶ喰凰の速度に二階堂エデンが追い付き、追撃を加えただけだった。

 

「どうやら、死を覆すほど便利だけど万能ではないみたいだね」

 

「ッグ……!! 調子に───!!」

 

 掌を突き出し、反撃を繰り出す。

 繰り出す。

 繰り出そうと、した。

 

「ちょうどいい。銀郎隊は『不死不殺』なんだ。死なないのなら、都合がいい」

 

 でも、無数の殴打と煉獄物質を猛攻に阻まれ、身動きすらままならない。異能のおかげで死ぬ事はないが、それでも反撃に転じるなどもってのほかだ。

 

(速すぎるッ!! 人間の速度じゃなイ!!)

 

 だが、追い詰められれば追い詰められるほど───!!

 

「ハハッ!!」

 

 『二階堂エデンは喰凰を傷つけられる』───『逆説』───『二階堂エデンは喰凰を傷つけられない』

 

 『喰凰は二階堂エデンを傷つけられない』───『逆説』───『喰凰は二階堂エデンを傷つけられる』

 

 『喰凰は煉獄物質を破壊できない』───『逆説』───『喰凰は煉獄物質を破壊できる』

 

 

「現実多重反転───『逆説道化(クラウンダスト)/三重奏(クインティ)』ッ!!」

 

「───!」

 

 上空から落ちる蹴りを、腕を交差させ、受け止める。

 山を崩壊させるほどの一撃がそこへ集中するが、喰凰に傷がつく事はない。なぜなら現実は反転したからだ。

 

 二階堂エデンが強ければ強いほど、反転する現実は強固になる。

 

「あははあははははーーー!!」

 

 拳を振るい、二階堂エデンを守る様に展開された煉獄物質を叩く。

 罅が入り、しかし貫通した衝撃は確かに二階堂エデンを後退させたが。

 

「……!? 破壊、されなイ!?」

 

 しかし、煉獄物質は原形を保ったままだった。

 再び、二階堂エデンは瞬いて、煉獄物質が爆発的に放出される。

 

 山の一区画を埋め尽くすほどの、物量攻撃。軍隊の絨毯爆撃にも匹敵するほどの衝撃で、喰凰の周辺の空間は紫色に染まった。

 

「あぁあああああッ!!」

 

 何十回と殴りつけ、ようやく周辺の煉獄物質を破壊し、喰凰は脱出する。

 周囲を見渡す。二階堂エデンは、築き上げた煉獄物質の山の上に立っていた。

 

「生憎と、俺の『異能』は特殊なんだ」

 

「……アハッ。アハハハハハ!」

 

 喰凰は笑う。

 二階堂エデンの、強さに。

 

「君ィ、強い、強すぎる! なんだこれ!? 無敵を自称する僕が手も足も出ない! ───こりゃ勝てる訳ない(・・・・・・)! だから僕は負けを認める事にしたヨ!」

 

「どういう事だい?」

 

「こ・う・い・う、コトさ!」

 

 笑って、両手を広げる。

 

「『僕は君に勝てない』───『逆説(クラウンダスト)』」

 

 それこそ、喰凰の奥義。彼を国際組織三合会の龍頭に押し上げ、その地位を今日まで守ってきた───最強の現実反転。

 

「『僕は、君に勝てる』」

 

 至極簡単で、単純明快な答え。

 勝てないから、勝てる。

 

「どォだ二階堂エデンッ!! これでもう君は僕に勝てない!! 『最強』の称号は、僕の!!」

 

 しかし、喰凰は言葉を続けられなかった。

 

「───」

 

 なぜなら、喰凰の前の前で、二階堂エデンのうさ耳のついた紫のフードが消えたのだから。

 

 異能者の中には、異能発動時特別な服装に変装する者もいる。新入生のアルテンブルクなどもその一種だ。だから、二階堂エデンの服装変化は、間違いなくその証で。

 

 つまり二階堂エデンは、たった今『異能』を解除した───?

 

 あまりの突飛さに、思考が止まった。

 

「───!」

 

 そして、気づく。

 

「まさか、自身が弱くなる事で僕の『逆説』を崩すために───!?」

 

違うよ(・・・)

 

 二階堂エデンは、薄く笑った。

 

「それは俺の戦い方じゃない。分かるかい? ───頭が高いんだよ」

 

 瞬く。

 零から爆発的に増加する、濃密なエネルギー。

 

「お前の目の前にいるのは、『世界最強』だ」

 

 カチリ。

 二階堂エデンが、右手首の懐中時計のスイッチを押した。

 

 重力が歪む。

 視界が崩壊する。 

 

 それは目を覆いたくなるほどの、紫色の輝きだった。

 

 

 

機械仕掛(レプス・ドゥ・ピュルガ)けの煉獄兎(トワール・コルヌトゥス)

 

 

 

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機械仕掛(レプス・ドゥ・ピュルガ)けの煉獄兎(トワール・コルヌトゥス)】[??]

『■■■■■■する』。詳細不明。主に確認されている事象は、二階堂エデンの変装、身体能力の向上、正体不明の物質操作だが、これ以上に能力を秘めており、全貌は誰も知らない。それは彼に調査の強制力のある機関が存在しないためである。

その破壊力は、世界最強。

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 異能が、再展開される。

 それは先ほどよりも数倍の密度のエネルギーを伴っていた。

 

 右手首の懐中時計、首からぶら下げた本。

 何の変化もない彼に起きた、たった一つの変化は、身に纏う外套。

 

 その色彩は、限りなく漆黒に近い紫だった。

 

「あ」

 

 その時、喰凰はただ唖然として、声を漏らす事しか出来なかった。

 異能の出所は、想像力だ。

 己を信じ、現実に出力する、空想という名の屋台骨だ。

 

 けれどもし、その空想が崩れるほどの現実が現れたら。

 想像の外側に位置するほどの、強すぎる存在がいたら。

 

 人はきっと、自分を信じられなくなる。

 

「こん、なの」

 

 だから壊れた。

 真説も、逆説も。

 

逆さ(・・)にしたっテ、勝てる訳……ッ!!」

 

「そうか。なら、一生牢獄で身の丈を実感するといい」

 

「やめッ───」

 

 喰凰は、想像の中でさえ、二階堂エデンを崩せなかった。

 

「ぶっ飛べ。星みたいに」

 

 紫色の輝きが爆ぜる。

 地面に叩きつけた掌から煉獄物質が溢れ出して、巨大な刃のように喰凰を穿った。

 

 高く、高く、天まで届くほどに紫紺は伸びて。

 最後には、潔く弾ける。

 

 ───それはまるで、真昼に打ち上げられた花火のようだった。

 

 

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