「んで」
───銀郎隊本部、会議室へと続く廊下にて。
最上優は、舌打ちをしながら隣の友人へ書類を叩きつけた。
「平和に一件落着……といきたいところだが。また派手にやったなぁお前? おい?」
べちっ、と顔に書類が貼りつき、二階堂エデンは苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、あはは……つい勢いで」
「建物倒壊多数、山三割消滅が『つい勢いで』だとア”ァン? は? 山消滅とか報告書で聞いたことねえぞコラ。学園経理部に物すげえ顔されたわ」
青筋を浮かべながら、彼は書類をエデンへと叩きつけ続ける。
「上層部のジジババに怒られんのは俺なんだわ。お前による人的被害が零だったからいいものの、また始末書の山じゃねえか……」
優は、銀郎隊の『幹部』だ。部門長とは異なり、幹部には多種多様な業務が存在する。エキスパートとジェネラリストのような違いである。
中でも優は、コミュニケーション力や権謀術数に優れ、故に外交や人員調整などを担当している。
銀郎隊の『尻ぬぐい』担当とは、誰が言い出した言葉だっただろうか。
「……」
隣の馬鹿だった。
「ごめんよぉ。でも解決させたから許して……」
「だからお前にお咎めがなくて責任者の俺に来てんだよ!」
「ハッ……!」
「二階堂ぉおおおおお!!」
今度は書類ではなく背中に生えた翼でばしばしと叩く。
漏れる声が呻き声に変わってきたところで、優は溜飲が下した。
最上優と二階堂エデンの付き合いは幼少の頃からだが、まさか高校三年生になってまで彼の尻ぬぐいをする事になるとは思ってもみなかった。
「……結局、喰凰の真の目的は分からずじまいか」
優は、書類をめくりながら呟いた。
───
その書庫は世界の『異能力者』・『異種族』の情報保管を目的とする場所だ。電子データでは電気系異能力で盗まれる可能性やハッキング等を考え、特別な保護を行う事であえて実物としてデータを置いている。
もっとも、そのデータも単に日本語で書かれている訳ではなく、暗号化して常人では理解できない細工がされている。解読方法も世界で三人程度しか分からないという腰の入りようだ。
しかしそれは、
「普通の犯罪者は
「俺を殺す理由なんていくらでもあるでしょ。抑止力の排除、『最強』の討伐による真っ黒な栄誉」
「確かにどれも理由たり得るが、それはあくまで小規模組織や零細組織の場合だ。北米三合会は大組織、かつ古参組織。今更お前を討伐するという博打を、組織単位で打つとは思えない」
確かに二階堂エデンを殺せれば北米三合会は世界最強クラスの闇組織になる。しかし、現状でも十分すぎるほどの組織力を持つのに、それ以上を望むだろうか。
「書庫に組織の人間が入り込む時間稼ぎの可能性もあるだろうが───だとすれば、ある程度のところで逃げてもいいはずだ。喰凰は二階堂エデンを討伐する事によるナニカを望んでいたのではなく、討伐そのものを望んでいたように思える」
「はは、モテモテで困っちゃうね★」
「うける~~~~~~~~~」
優は翼で殴打した。
「詳しい事は喰凰本人に尋問するし、この後の会議で議題に上げるからまぁいいだろう」
優は、そこで笑みを浮かべた。
「んで、どうだったんだ。例の新入生は」
「誰の事だい?」
「とぼけんなよ。お前のお気にの女子だ。鈴代獅乃ちゃん、だったか」
「……そうだね」
エデンは少し考える素振りを見せて、堂々と言った。
「育て方次第では、俺を超えるかもね」
「あ? 冗談だろ」
その言葉は、優の歩みを少しの間止めるほどだった。
「お前を超えられる訳ねえだろ。そんな奴いてたまるか」
「まぁ半分は冗談さ」
「……」
つまり、半分は本気だという事だ。
優はまだ疑いながらも、言葉を続けた。
「その心は」
「戦闘力という意味ではないよ。俺を超える生物はこの世界に存在しない。でもあの精神性は───俺を超えてくれる」
「精神性ィ?」
眉を顰める。
優はどちらかといえば、そういったスピリチュアル精神論を信じていなかった。
「そりゃなんだ。精神的主柱みたいな話か」
「そうとも言えるだろうね」
「……ふ~ん。そりゃ立派な事だが───」
「優」
エデンは振り返る。
その瞳、その態度、その笑みを見て、優は言葉を失った。
「───」
二階堂エデンは、本気だ。
彼の言葉は、決して冗談ではなかった。
「……久しぶりに綺麗な物を見たんだ。傷ついても、倒れそうでも、誰かの事を想って、命さえもなげうつ事が出来るんだ」
「……」
「あの子は絶対に理想を諦めない。例え歩む道が荒野だろうとも、笑顔を絶やさず人の手を引いて、堂々と歩くだろう。辿り着いた先が昏い深淵の底だろうと、涙を拭って立ち上がると思う」
優には分からなかった。
この友人が、なぜそこまで一人の少女を信じられるのかを。
「前から知り合いだったのか?」
「以前話した通り、入学式の日が最初さ」
「なら、なぜだ」
「……」
エデンは遠くを見ながら笑った。
「───信じてみたくなった。俺が思う、綺麗な人を」
「……そうか」
優は神妙に頷いて、エデンの一歩先を歩んだ。
「ま、お前が言うならそうなのかもな。
「うん」
『無能力者・能力者・異種族全員が幸福になれる社会を』。
そんな理想を胸に抱いて、彼らは進む。
「希望を目指し続けよう。何度負けても、どれだけ絶望しても。きっとそれが───生きるって事だから」
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子供のように、今でも信じ続けているのです。
夢はいつか叶う事を。
必死に足掻いた先には、希望が満ち溢れている事を。
どんなに痛くても。
どんなに辛くても。
どんなに苦しくても。
絶対に自分を曲げてはならない。
あの日の幼き願いは、きっと正しいのだと。
たとえ何を犠牲にしても。
私は、私の荒野を歩き続ける。
さぁ、夢と希望の物語を始めよう。