幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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序幕
プロローグ


 

 ある日の幻想郷――毘沙門天の使いであり、虎柄の主人に仕える妖怪ナズーリンは、ダウジングロッド片手にある場所を訪れていた。

 

「やれやれ……ご主人にも困ったものだ。また宝塔を失くしてしまうとは。探し回ったおかげでこんな時間になってしまった。まだ良いものが残っていればいいが……」

 

 そう一人ごちりながら、ナズーリンは人けのない不気味な墓場の中を歩く。

 

 ここは"無縁塚"。

 

 幻想郷屈指の危険地帯であり、人間では到底近付けない名もなき妖怪や亡霊の吹き溜まりである。

 

 そして博麗大結界の綻びにより、時折外来からの物が流れ着くという知る人ぞ知るスポットでもあった。

 

 仏弟子でありながらトレジャーハンターのようなことを生業としているナズーリンは、時折ここを訪れては外界の物品を漁るのを日課としていた。

 

「ふむ、あのいけ好かない古道具屋の店主もしばらく来た様子がないし、これは期待出来るかもしれないぞ。……よし、鼠たち、なにか珍しいものが落ちてないか探してくるんだ!」

 

『ちゅ!』

 

 そうナズーリンが指示を出すと、彼女の尻尾についた籠から、わっと鼠たちが飛び出して周辺に散らばっていく。

 

 ナズーリンは鼠の妖怪であり、彼女自身の頭にも鼠を思わせる大きな灰色の耳が付いている。

 

 小動物とて侮るなかれ、彼女は力こそ弱いがその知力においては周囲から一目置かれており、人呼んで『小さな賢将』という二つ名を賜っている。

 

 彼女に付き従う鼠の物量作戦と、本人の扱うダウジングロッドによって、ナズーリンに見つけられぬお宝などあんまりないと言っても過言ではなかった。

 

 ――そして、彼女のダウジングロッドが、何らかの微弱な反応を捉えた。

 

「む、この反応は……? 鼠たち、あっちの方角だ! 誰かに拾われる前に先に確保だ!」

 

 そう指示を出して、ナズーリン自身もその目的地へと向かう。

 

 無縁塚の名もなき雑妖や亡霊たちの間をすり抜けてたどり着いた先に、草木の少し開けた広場と――そしてその中心に、ぐるりと鼠に取り囲まれた、倒れ込む人影が見えた。

 

「あれは……妖怪、いや人間か?」

 

 声色にあからさまにがっかりとした響きを含ませながら、ナズーリンはその人影に近づく。

 

「なんだ、ただの人間の骸か……レアリティ皆無だな。外界から迷い込んだ人間か、もしくはここらによく居る死にたがりの成れの果てってところかな」

 

 完全に興味を失い、ナズーリンはため息を付く。

 

 人間の死体など幻想郷では見慣れたものである。人里から一歩出れば人食いの妖怪が闊歩する幻想郷においては、人間が妖怪に襲われて死ぬなど日常茶飯事。

 

 彼女自身が使役する鼠も人肉を好む以上、死体など取り立てて驚くほどのこともなかった。

 

「ま、久々にこの子たちに肉を食わせてやれる。その点は感謝してもいいか」

 

 そう言って、ナズーリンが鼠たちをけしかけようとしたその時――

 

「う……」

 

 先ほどまで死体と思っていた人間が、小さなうめき声と共に身動ぎする。

 

「むっ、生きているのか? こんな場所でただの人間が……」

 

 ナズーリンは、困惑しながら目の前の人間の様子を確認する。

 

 若い男だ。微かだが息をしており、特に顔色が悪かったり怪我をしたりということもない。

 

 本当にただ寝ているような感じだった。

 

 普通、無縁塚と言えば生身の人間が迷い込めば、すぐさま怨霊に取り憑かれるか、妖怪に食い散らかされ骨も残らない。

 

 まともに生きていける人間は、博麗の巫女や、あの白黒魔法使いなどの一部の者に限られる。

 

 だと言うのに、こんな無防備な状態で寝ている人間が無傷のまま生き残っていることはあり得ない。

 

 ナズーリンは、少しこの人間に興味が湧いた。

 

「うん? なんだこれは……楽器?」

 

 そしてふと、その人間が抱えている何かに気付く。

 

 琵琶のような、竪琴のような変わった形のそれからは、微妙に妖気が漏れ出ている。

 

 恐らくこれが周りの妖怪たちに警戒を抱かせ、命を永らえた要因なのかもしれない。

 

「……もしかしたら思ったよりレアリティが高い人間かも知れないな。一旦、寺に連れ帰ってみるか」

 

 そう言うや否や、ナズーリンはその子供のような体躯で、自分より背丈の高い男の体をひょいと楽器ごと担ぎ上げる。

 

 小さな少女のように見えて、その力は大の男のそれを軽く超えている。

 

 ナズーリンはこれでも妖怪の中では非力な方だが、それでも人間と比べるべくもなかった。

 

「聖にどう説明したものかな。まあ、あの慈悲の塊のような性格だ。死にかけていた外界の人間を連れ帰ったと聞けば、褒められこそすれ叱られはしないかな」

 

 そんなことを一人ごちりながら、ナズーリンは空を飛んで、人一人を抱えたまま帰途へと付いたのであった。





東方のオリ主小説です
出来るだけ原作の雰囲気を損なわずに頑張りますが、所詮二次創作なので間違いやキャラの解釈違いは暖かくお見守りください。
指摘はオッケーですが表現上必要だからあえてやってる場合もあるので直すかは分かりません。
そんなわけでよろしくお願いします。
ちなみに初投稿です。
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