幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第十九話 宴の前

 

 ジャン、と最後の音を鳴らしたあと、俺は額の汗を拭う。

 

 うーむ、今のは会心の出来だった。

 

 ナズーリンさんの時もぬえちゃんの時も全力だったが、あの時より更に上手くなってきている気がする。

 

 東方キャラからインスピレーションを受けて、俺は更にギタリストとして一段上に昇って行っている。

 

 それを実感できるのが一番嬉しい。

 

「おお〜、なかなかやるじゃないかあ、お前! 今のはなかなかシビれたぞ!」

 

「ありがとうございます! あなた様のおかげです」

 

 萃香にも大層気に入って貰えたらしく、手を叩きながらキャッキャとはしゃいでいる。

 

 こうして見るとマジでただの幼女だ。可愛い。

 

 萃香は上機嫌で盃の酒をぐいっと一息で煽ったあと言った。

 

「う〜ん、これは私一人だけで聴くのも勿体ないなあ。……よし、これは宴会だな!」

 

「えっ?」

 

「幻想郷中の人妖どもよ、死霊に畜生に半端者どもも、萃まれ、萃まれ〜!」 

 

 そう俺が困惑するのを他所に、萃香は自分の髪の毛を抜いてふう、と息で散らす。

 

 その瞬間に髪の毛がぽぽん、と小さい萃香に変わって、わー、と散り散りに走り始めた。

 

 か、可愛い……! 一匹くれないかな?

 

 何匹かがぽて、とコケてドロワーズとかが丸見えだが、ここまでちっこいとえっちとかよりもはやただ可愛いだけだ。

 

 しばらくすると、萃香は疲れたのか縁側に寝転がってふぃ〜と息を吐く。

 

「じゃ、私は宴会が始まるまで一眠りするからよろしく」

 

「アッハイ」

 

 俺が言われるがまま頷くと、萃香はそのまますぴーと寝息を立て始めた。

 

 なんて自由なんだ……。

 

 っていうかこれ大丈夫かな? 萃夢想の異変が再発してない?

 

 まああの時は誰が起こしてるかも分からない宴会が連日連夜起きてたから問題なのか。

 

 単発なら大丈夫だろう。

 

 俺はそんな事を考えつつ、萃香を起こさないよう小さな音でチューニングを始める。

 

 しかし不思議と言えば、俺のこのギターとアンプだ。

 

 十時間以上保つとはいえ、ここ数日は結構酷使していたにも関わらず、充電池が全く減っていない。

 

 もうそろそろ半分切らなきゃおかしいくらい使ってるんだけど、アンプを見ると充電は100%のままだ。

 

 もしかして表示が壊れたのか? と思ったが、どうも他は正常に動いてるのでそれでもなさそうだ。

 

 どういうことだ? と思いつつアンプをイジっていると――

 

「気になりますか?」

 

「!?」

 

 突如真後ろから声を掛けられ、俺はびっくりして即座に振り向く。

 

 そこには――上品に口元を扇子で隠したまま、空間の亀裂から半身だけをこちらに乗り出して微笑む、金髪の絶世の美女の姿があった。

 

 頭にふわっとしたナイトキャップを被り、ドレス調の道士服をきた怪しい雰囲気の美女。

 

 幻想郷の賢者――八雲紫の姿がそこにあった。

 

 ゆかりん!? と俺が言葉もなく驚いていると、紫は再び同じことを聞いてきた。

 

「気になりますか? あなたのそのギターとアンプの秘密が……」

 

「なっ……!? そ、それはどういう意味でしょうか?」

 

 そう聞き返すと、ゆかりんは勿体ぶるように話し始める。

 

「ふふ、そのままの意味ですわ。あなたのそのギターは、もはやただの楽器ではありません。外界でよほど念を込めて弾いてらしたのでしょうね。あなたが演奏に込めた強力な念を媒体に、幻想の結界を超えることで微かな意思を持つに至りました。今はもう、半付喪神――妖器のような状態ですわね」

 

「よ、妖器ですか? 俺のギターが?」

 

 俺はゆかりんに告げられた事実に、そのまま聞き返す。

 

 妖器と言えば、輝針城で主人公勢たちが使っていた意思のある道具というあれだ。

 

 古い道具を使い続けると、魂が宿って付喪神になるって理屈はまあ分からなくはない。

 

 だけど俺のギターを使ったのは精々五、六年だ。中二の春に買って、そこから学校や家でのイライラを発散するために毎日弾きまくってたから、確かにこいつとは濃密な時間を過ごしたと思うが、まさか意思を持つに至るとは……。

 

「ふふふ、ここは幻想郷。どんなことでも起こり得る場所ですから。ですがその子はまだ付喪神のなりかけでしかない。意思も希薄なら人型にもなれませんわ。……ですが、最小限の力なら備わっているようです」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 俺は思わず聞き返す。

 

「ええ。そもそも妖怪や付喪神は人の心を食って存在を永らえるもの。人の心が十分に食える環境なら、外から食事を摂る必要はありません。この子たちにとっての食事とは何でしょう?」

 

「…………! そうか、電気か!」

 

 ゆかりんの問い掛けに、俺はそう思い至る。

 

 だからか、ずっとバッテリーが減らなかったのは……!

 

 こいつ、電気の代わりに俺の心を食ってたのか!

 

「それと、まだ微弱ですが音を通じて、相手の魂を震わせる力があるようです。そうですね、さしずめ"振動(バイブス)を伝える程度の能力"と言ったところかしら?」

 

「ば、バイブスって……」

 

 俺はまさかゆかりんの口から出るとは思わなかった単語を聞いて困惑する。

 

 そう言えば最近バイブスって単語めっきり聞かなくなったよな……ついに幻想入りしたんだろうか。

 

「あら、馬鹿には出来ませんわよ? この力が大きくなれば、あなたは楽師としてとんでもない影響力を持つようになりますもの。それこそビートルズ、クイーン、マイケル・ジャクソンのように、音楽一つで大勢の人の心を震わせて、神に等しい信仰を集めることだって可能となります」

 

「…………!?」

 

 そうゆかりんに言われ、俺は思わずギョッとギターを見下ろす。

 

 信仰って……守矢神社を始め、幻想郷中の組織が躍起になって集めてる奴じゃないか。

 

 外の世界では大したことは出来ないかも知れないが、幻想郷で信仰はやりようによっては実際にパワーに変換できる。

 

 早苗さんが使っている奇跡などはまさに信仰の力だ。

 

 俺にそんな力が使えるようになるって?

 

「い、いいんですかね? 俺みたいな一般人がそんな大層な力を持って……」

 

「ふふふ、そう疑問を抱くあなただからこそいいんですわ。あなたならその力を悪用して、幻想郷を危険に晒すことなんてことは考えないでしょう? 今日はさしずめ、そのことを直接お伝えしに来たのです」

 

 ゆかりんはそう言ったあと、パチンと扇子を閉じて続ける。

 

「とはいえまだその子はそれほどまでの力はありません。そうなるのは……少なく見積もっても数十年、いえ百年は先のことでしょう。あなたが音楽への情熱を失わない限り、その子は少しずつ成長を続け、やがてはその域に到達出来るでしょう」

 

「……! じゃあ、俺がこいつを育てます! 立派な付喪神に育て上げて、皆を感動させるような幻想郷の仲間にしてみせます!」

 

「ふふ、楽しみにしていますわね」

 

 俺がそう言うと、ゆかりんはニッコリと微笑む。

 

 おお、美しい……。っていうかギターのことで興奮してたけど、俺今憧れのゆかりんと話してんだよな!?

 

 ゆかりんは西洋と目鼻立ちがはっきりとしている顔のパーツと、東洋の丸っこい幼く見える輪郭が融合した、完璧なバランスの美少女だ。

 

 そしてゆかりんは、秘封倶楽部のあの人との関係が示唆されている謎多き人物でもある。

 

 ぜひあの人との関係性をご本人に聞きたいが……でも聞いたら最後ヌルっと神隠しされそうな気がする。

 

 なので代わりに別の話題でお茶を濁そう。

 

「あ、あの、申し遅れました! 俺はギタリストの――」

 

「ふふふ、存じておりますわ。あなたが幻想郷に入ってきた瞬間から、私はあなたのことを認識していましたもの。そしてあなたも私のことをよく知っている、そうでしょう?」

 

「は、はい」

 

 ゆかりんに全てお見通しと言わんばかりに看破される。

 

「好奇心は猫をも殺す。余計な詮索はなさらない方がお互いの為とは思いませんか? ギタリストの……今は霧夜さんと名乗ってらっしゃったんでしたね?」

 

「……!? へい! もちろんです! もう何もかも賢者様の仰るとおりで……」

 

 俺は即座に手もみしながらヘコヘコと頭を下げる。

 

 ヤバい……ガッツリ釘を差されてしまった。一体俺のこと何処まで知られてるんだろう……。

 

 なんか今、俺の本名も知ってる素振りを匂わされたし、多分向こうでの個人情報は全て丸裸にされてる考えたほうがいいな。

 

 ……まあいいや。どうせ俺にはどうにも出来ない領域の話だ。

 

 幻想郷の管理側からも俺の音楽活動にオッケーが出たし、なんか俺のギターが生きてるっぽいという面白い事実も知れた。

 

 今はそれで十分だろう。

 

「んあ、なんだ〜? 誰と話してんだ?」

 

 そう言って萃香が目をくしくしと擦りながら起き上がる。

 

「あっ、今そこに妖怪の賢者様が……ええっ!?」

 

 ふと今居た方に視線を向けると、そこには誰もおらず、ゆかりんは忽然と姿を消していた。

 

 萃香はふあぁ、と大きな欠伸をしたあと、キョロキョロと周辺を見渡す。

 

「なんだ、誰もいないじゃないか」

 

「い、いや、本当に、今そこに妖怪の賢者様が……!」

 

 俺は必死に弁明する。鬼は嘘が嫌いなので、こんな所で嘘付いたと思われて怒りを買ってはたまらないからだ。

 

 萃香は寝起きに鼻をクンクンとさせたあと、こう言った。

 

「ん? おお、確かに微かに妖気の残り香を感じるな。まあ、紫のことだ。宴が始まったらいつの間にか混じってるだろ。あいつはあれで寂しがりだからな」

 

「えっ、そうなんですか? 寂しがりって……」

 

「そうだ。あいつは自分から宴に参加するのは趣味じゃないのさ。わざわざ家に帰って誰かに誘われるのを待ってるんだ。……ま、あいつんちは誰も分からないし、行こうと思って行ける場所じゃないから結局自分でコッソリ来る羽目になるんだけどな」

 

 萃香は寝起きに一杯酒を呷りながら言う。

 

 め、めんどくせえ……。

 

 そう言えばゆかりんは霊夢や魔理沙に過剰にかまちょして鬱陶しがられてるイメージがあるな……。

 

 正直そういうとこも含めてめちゃくちゃ可愛いと思うが、毎回絡まれる側だとキツイんだろうか。

 

「あれ、私が一番乗りか? 今日は宴会がある気がしたんだが」

 

 そう言って、神社の境内に降り立ったのは普通の魔法使い、霧雨魔理沙であった。

 

「おお、今日は宴会で間違いないぞ! まあまあ、こっちに来て駆けつけ一杯と行こうじゃないか!」

 

 そう言って瓢箪を差し出す萃香に、魔理沙がやれやれとため息をつきながら盃を受け取る。

 

「鬼の酒かぁ……。強すぎるからあんまり好みじゃないんだよなあ。おっ? お前はいつぞやの」

 

「あっ、ども」

 

 こちらに気付いた魔理沙に、俺は軽く会釈を返す。

 

「なんだ、お前まだその下手くそな楽器握りしめてるのか? あんま才能ないみたいだからやめといた方がいいぜ」

 

「ぐはっ!」

 

 魔理沙の特大火の玉ストレートに俺は大ダメージを受けながら呻く。

 

 いやあれはちげーから! あの時アンプなくて生音だけだったからだろ!

 

 くそっ、次の演奏で度肝を抜いてやる!

 

「――あら、霊夢は居ないの? 今日は宴のつもりで来たのだけど」

 

 そう言って次に境内に現れたのは、薄紅色のドレスを来て、蝙蝠の羽根を生やした少女。

 

 ――レミリア・スカーレットと、その傍で日傘を持って瀟洒に控える十六夜咲夜の姿があった。

 

 うおおおおっ!? 紅魔組きたーー!!

 

「うふふ、今日はどんな料理が食べられるか楽しみだわ〜」

 

「ゆ、幽々子さま〜! お待ち下さい、に、荷物が重くて……」

 

 幽冥組も!?

 

 なんか妖夢、馬鹿でかい荷物背負いながらフラフラ飛んでるけど大丈夫か?

 

 凄いぞ、着々と幻想郷のオールスターが集結しつつある……。

 

 皆、特に誘われている訳でもなさそうなのに、「今日宴会だったような気がする」というふわふわした根拠だけでここに集まってきている。

 

 これが萃香の萃める力か……!

 

 当の本人はそれを盃片手にニヤニヤとしながら眺めている。

 

 それを見て俺はふと気付いた。

 

 ……えっ、もしかして俺、この面子の前で演奏を披露すんのか?

 

「…………!?」

 

 それを自覚した途端――とんでもないプレッシャーと共に、心臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚える。

 

 ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!

 

 これ、もし俺この状況で失敗しちゃったらどうなる!?

 

 音飛びしたり、音外したりしたら……!?

 

 推しの東方キャラたちに呆れられ、評価がガタ落ちになるのでは!?

 

 ヘタクソ楽師という烙印を押されて、もう二度と日の目を見れないかも!?

 

 俺は推しの前で滑りまくる自分という最悪のシチュエーションを想像してしまい、吐き気を覚えるほどの恐怖を感じる。

 

 しかも今回はギター妖怪Kの時と違ってモロに顔出しだし、最悪トンズラするという手段も使えない。

 

 俺がそのプレッシャーに打ち震えているのを他所に、博麗神社の境内は徐々に人妖で賑わいつつあった。

 

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