幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第二十四話 秋の神と乙女の心

 

 人里で暮らすようになって二日目の朝。

 

 俺は里長の紹介で農場の方に駆り出されていた。

 

 前日は慧音先生の家でご飯をご馳走になり、しかも朝飯として握り飯まで持たせてもらった。

 

 今回は雲山でしたとかのオチではなく本当に慧音先生のお手製だ。

 

 それを食べたおかげで普段の数倍は元気になってる気がする。

 

 (個人的に)面白い授業も受けられたし、慧音先生にはいつかお返ししないとな。

 

「よ〜す、今日は(うね)立てすっど〜。霧夜くん、(くわ)持っだが〜? そんじゃあ並んで、掘り進んで行くど!」

 

「うぃっす!」

 

 俺はそう指示を受け、畑に鍬を振り下ろしていく。

 

 そう特徴的なズーズー弁で指示を出すのは、農民歴十年のベテラン、厳つい体格をしたナイスガイ、山のフドウ先輩である。

 

 ちなみに顔が似てるから俺が勝手にそう呼んでるだけで、本名ではない。

 

 先輩は普通にいい人で初心者の俺にも農作業のやり方を懇切丁寧に教えてくれる。

 

 こういうのって大抵漫画だと意地悪な人に当たって虐められたりするけど、幻想郷はなんかそういう人あんまいない。

 

 やっぱ萃香さんの言う通り、妖怪という脅威があるからこそ人間同士はそれなりに結束しているのかも知れない。

 

 まあ山のフドウ似の男に悪いやつなんかいないよな。

 

「おー、霧夜ぐん、なかなか筋がええっぺな〜! ひ弱な外来人とは思えんで」

 

「ははは! そうっすかね、なんか今日力が溢れてくる気がして!」

 

 俺は元気いっぱいに掘り進める。

 

 そりゃあおめえ、慧音先生のお手製のおにぎり食ったからだっぺよ。

 

 畝立てはあんまり皆やりたがらないキツイ作業らしく、報酬もそれなりにあって野菜も分けて貰える。

 

 まさに今の俺にはうってつけの仕事だ。

 

「今日の昼メシは、握り飯と浅漬けだあ。ようさんこさえてきたから霧夜くんもたんと食べてくれなあ。うちのカカアの浅漬けは絶品だからよう」

 

「うっす! 有難(あざ)っす!」

 

 俺は礼を言いつつ黙々と作業する。

 

 また握り飯か。おにぎり多いなぁ最近。

 

 まあ美味いし腹に溜まるし飽きも来ないの三拍子揃ってるからな。

 

 それにしても先輩奥さんいるのか……妬ましい……!

 

 俺も可愛い東方キャラを嫁にして、毎日味噌汁と浅漬け作って貰いたいっぺよ。

 

 まあ今はともかく生活の身を立てることだ。ろくに自分の食い扶持も稼げないんじゃあ嫁さんなんて夢のまた夢だからな。

 

 俺は黙々と作業を続行する。

 

 しばらくすると俺が担当していた畝は終わり、午前中だけで一日の作業が終わってしまった。

 

「いんやぁ、霧夜くん、なかなかやるでねえが! おかげでいつもより早く作業が終わっだっペよ! まーた呼んだら来てくれるが?」

 

「もちろんっす! あっ、でも俺週の三日は命蓮寺で修行してるので、それ以外の日なら!」

 

 俺は畑のあぜで握り飯を食いながらそう会話する。

 

 この人いい人だしまた仕事あったら呼んでもらおう。

 

 俺がそんなことを考えながら、漬物を齧っていると――

 

「おーい、皆の衆! 喜べ、今日は秋神様がおいでになられるぞー!」

 

「ええっ!?」

 

 突如として、近隣の畑からそんな声が聞こえて一斉に歓声が上がる。

 

「どこか畝立ての終わった畑はないか〜!? 終わったところから先に祝福なされるそうだ!」

 

「うちだー! うちの畑は畝立て終わっとるっぺ!」

 

「うちもだ!」

 

「うちにも来てくださいっ!」

 

 そう言うや否や、先輩を皮切りに近隣の農作業をしていた人々からも我先にと声が上がる。

 

「先輩、これなんすか!?」

 

「霧夜ぐん、君運がええど〜! まさか初日で秋神様の神事が見られるなんてなあ!」

 

 フドウ先輩は満面の笑みで言う。

 

 何か凄くいい事が起こっているらしい。

 

 しかし秋神……畑、間違いない、穣子だ!

 

 俺がそう確信した瞬間、大勢の農家のお供をゾロゾロ引き連れて、ペタペタと素足で歩く穣子が姿を表した。

 

「皆畑仕事ご苦労さま! で、私に祝福して欲しい畑はどこ?」

 

「へい、こちらです! おねげえしますっ!」

 

 先輩はその巨体を折り曲げて、半分以下の身長の穣子にペコペコしながら言う。

 

 俺もそれに倣う。

 

 うおおお〜! 霊夢の言ってた通りめっちゃ甘い匂いがする!

 

 生焼き芋、スイートポテトだこれ!

 

 っていうか俺何気に神様見たの初めてかも。今まで妖怪はいっぱい見たけど神様見る機会なかったからこの際目に焼き付けよう。

 

 穣子は身長はちっこい子供みたいな見た目だが、人里の皆から尊敬されてる立派な神様らしい。

 

 なんかちょっと周辺の空気がキラキラ光ってる気がする。

 

 あと身長の割に乳がデカいしマジで可愛い、これは大事。

 

「うん、ちゃんと手入れされてるいい畑ね。じゃあ、蒔く種をくれるかしら?」

 

「へい、どうぞ!」

 

 穣子は平身低頭する先輩から種の入った籠を受け取ったあと、その中から一掴み種を取り上げる。

 

 そして、掛け声とともに畑に撒いた。

 

「それじゃあ皆、声を合わせて〜……立派に育て、よいしょーっ!」

 

「「よいしょーっ!」」

 

 穣子に続いてその場に居た全員で声を合わせる。

 

「よいしょーっ!」

 

「「よいしょーっ!」」

 

「よいしょーっ!」

 

「「よいしょーっ!」」

 

「はーい、皆お疲れ様! じゃあ次の畑ね〜」

 

「ありがとうごぜえました!」

 

 先輩は穣子に深く頭を下げて言う。

 

 穣子は、それを背にペタペタと素足を鳴らしながら、また次の畑に向かった。

 

 その隣では、まだ畝立てが済んでない畑の持ち主が昼飯を返上して慌てて作業している。

 

「先輩、今のなんすか!?」

 

 俺は興奮気味に聞く。

 

「秋神様の種蒔き神事だぁ。この間まで、秋神様に収穫物を捧げて感謝の宴をやってたんだども……収穫後じゃあ意味がねえってことで、今度種蒔き前に来てくれることになったんだあ。秋神様が祝福された畑はそらもう凄くてなあ。おらも今から秋の収穫が楽しみだっぺよ」

 

 そう先輩はホクホク顔で言う。

 

 なるほど、確かに原作テキストだと穣子はよく人里の収穫祭に呼ばれるけど、収穫する前に呼んでくれないと意味がないみたいなこと書いてたな。

 

 しかし実際の幻想郷ではこんな風に祭事が変化していたとは。

 

 確かに穣子が直接種を蒔いた畑は凄そうだ。心なしか畑の土がキラキラ輝いて見える。

 

「うん?」

 

 そんな時、俺は畑の近くの木陰で何者かが覗き込んでいるのが見えた。

 

 穣子と同じ金色の髪で、紅葉柄のワンピースを着込んだ少女。

 

 紅葉をもたらす神、秋静葉であった。

 

 彼女は木陰でそっと人混みを覗き込みながら、その中心で派手に神事をしている妹をどこか羨ましそうな目で見ていた。

 

 ……ああ、そうか。静葉は葉っぱの神様だから人間からはいまいちウケが悪いし、妹みたいに引っ張りだこにはなれないんだよな。

 

 でも俺は好きだよ秋の紅葉、めっちゃ綺麗だし。

 

 だから俺は感謝を込めてその寂しげな後ろ姿を拝んでおいた。

 

 神様だからね、人間が感謝しなきゃいけない存在だ。俺も秋に紅葉がないと寂しいし消えて欲しくない。

 

 そうやって念入りに感謝を込めて拝んでいると、いつの間にか秋静葉の姿は消えていた。

 

 代わりに俺の手元には、ぴらりと一枚季節外れの紅葉が握られていた。

 

 

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