「お、お恥ずかしいところをお見せしました」
「あら、恥ずかしいだなんて。とても可愛らしくて良かったですよ。私も年甲斐もなくドキドキしてしまいました」
そう言って聖は、口に手を当てて少し恥ずかしそうに微笑む。
その笑顔は反則だろ……!
年甲斐もないなんてとんでもない。聖は今でも清らかな聖少女だ。どこにも年齢を感じるところなどない。
しかし、今にして思うと姉と思っていいのか?
それは、命蓮寺の名前の由来にもなった、聖の実の弟、命蓮上人の居場所ではないのか?
いくら故人とは言え、その人を差し置いて俺なんかが弟の位置に収まって良いのだろうか?
「あら、何か難しい顔をしてらっしゃいますね? 何をお考えですか?」
聖が考え込む俺にそう声を掛ける。
「いえ、あの……聖の弟君には、この命蓮寺の由来にもなった、命蓮上人様がいらっしゃるはず。そんな方を差し置いて、俺なんかが聖を姉と慕って良いのかと思いまして……」
「…………」
俺がそう口にすると、聖は黙って遠くを見るように天井を見上げる。
そして、少し間を置いたあと言った。
「命蓮ですか……あの子は良く出来た子でした。いつでも私より優秀で、常に先へ進み、誰に対しても分け隔てなく優しく非の打ち所のない弟でした。私はあの子から与えてもらうばかりで、姉らしいことは何一つしてやれませんでした。いえ、あの子には元々私の手など必要なかったのでしょう」
聖はそう懐かしむように言う。
「今でも私は、迷った時には命蓮ならこういう時どうしただろうと考えることがあります。優秀過ぎる弟に対して、不出来な姉が出来ることが何かあったのだろうかと。今でも私は、あの子の影にすら追い付いていないのかも知れません」
「い、いえそんな……聖は素晴らしい人です! 俺が言うのもおこがましいですけど、命蓮様だって誇りに思ってるはずです!」
俺の言葉に、聖は「ありがとう」と微笑む。
「だけど、命蓮に姉として何もしてやれなかったのは事実。なのでその分、他の誰かに何かをしてあげられたらと思っていました。――ですので、霧夜さん」
「は、はい」
そう改まって呼ばれ、俺は緊張しながら居住まいを正す。
「私が命蓮にしてやれなかった分の姉としての役割を、あなたに果たさせて下さいませんか? そうする方が命蓮も喜ぶと思うのです。あの子も常に自分より他人を気にかける子でしたから」
「ええっ!?」
その申し出に、俺は思わず声を上げる。
つ、つまり、本来命蓮さんにするはずだった姉としての世話焼きを俺にしてくれるってことか!?
そんないい思いして罰が当たるんじゃないか!?
「お嫌でしたら無理にとは申しませんが……」
「い、いえ、そんな! 嫌どころか、俺なんかがそんな、聖にそこまでしていただいて良いのかと思うほどで!」
そうあたふたする俺に、聖は口元を抑えてクスクスと笑う。
「まあ! ふふふ、大げさですね霧夜さんは。私は姉としての役割を果たすことに飢えている。霧夜さんは家族との関わりに飢えている。なのでこれは互いに得のある申し出ではないですか? そのように構える必要はありません。これは一種のごっこ遊びのようなものです」
「ごっこ遊び、ですか?」
「流石に皆の前では示しが付きませんのでこれまで通りに接して頂きたいのですが……今のように二人きりの時は、私のことを「姉さん」と呼んで甘えて下さっても構いませんよ?」
「ね、姉さん……」
俺は、その蠱惑的な響きにゴクリとツバを飲み込む。
まさかあの聖白蓮と姉弟プレイ!?
あまりに魅力的な話に頭がくらくらしてくる。
「そうです。なので白蓮姉さんと呼んでみて下さい。私も霧夜、とそう呼びますので」
「び、白蓮姉さん」
「はい、霧夜。……ふふ、少し恥ずかしいですね」
そう言って、照れながら口元を抑える聖に、俺は脳内で悶絶する。
うおおお、なんだこの甘ったるい空間は! 幸せ過ぎる!
「ふふふ。では霧夜、姉から可愛い弟に一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「は、はい、なんなりと!」
背筋を伸ばして答える。
「では……姉さんにあなたの楽器の演奏を聴かせてくれませんか? 以前寝るときに少しだけ外から漏れ聴こえたことはあるのですが、しっかりと聴かせてもらったことはなかったので」
「えっ、こ、この場でですか!?」
俺は思わず聞き返す。
えっ、でもここお寺の本堂だよね?
まだ早い時間とはいえ、こんなとこでギターなんか弾いていいのか?
「ええ、この場で構いません。……だってズルいじゃないですか。私以外の人は、結構霧夜の演奏を聴かせて貰ってるんでしょう?」
そう言って、聖は珍しくむっと不満げに頬をふくらませる。
その顔は可愛すぎるが……まあいいか。他ならぬ聖が良いというのなら仏教的にもオッケーなのだろう。
なら遠慮なく演奏させてもらおう!
俺を受け入れてくれた命蓮寺の家族に!
聖の大きな愛情と優しさに捧ぐ!
俺はそう意気込むと同時にギターをセットして、思い切り弦を掻き鳴らした。
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『感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind』