今日も今日とて昼までに農作業を終えた俺は、小腹を満たすために人里を彷徨っていた。
今日は前回の山のフドウ先輩のとこじゃなく別の農家の手伝いに行っていたので、賄いが出なかったのだ。
家で調理するにも器具がないので、どこか良さそうな店を探し歩く。
パッと思いついたのはあの例の団子屋の対面の蕎麦屋だが、あそこは行列が凄すぎる……とても空きっ腹を抱えてまで並ぶ気にならない。
慌てるんじゃない……俺は腹が減っているだけなんだ。
とりあえず目についた適当な店に入ってしまおう。
そう思い、屋台が立ち並ぶ人里の通りを散策していたその時――ある看板が俺の目に入った。
『美味しいお団子 清蘭屋』
『味一番! 鈴瑚屋』
ファッ!? あの玉兎コンビの店じゃねーか!
そう言えば人里の通りで営業してるんだったか……この道あんま通らないから全く気づかなかったゾ。
屋台の中を見ると、そこには予想通り橘色のショートカットと、浅葱色のおさげのうさぎ少女二人が道行く人々に呼び込みを掛けている。
おお……可愛い……。
どちらも中学生くらいの背丈の美少女だ。
しかし思いっきりウサ耳出してるけど大丈夫かなぁ。一応人里は妖怪立ち入り禁止ってルールがあるはずなんだけど。
鈴瑚ちゃんはワンチャン帽子の飾りって誤魔化せるかも知れないけど、清蘭なんかあからさまに目立ってる。
……まあ、妖怪つっても団子売ってるだけだし、悪いことしなきゃ霊夢もそこまで厳しく取り締まったりはしないのだろう。
「鈴瑚屋〜鈴瑚屋〜美味しいお団子だよ〜。試食品もあるから食べてってね〜」
「はいはーい! うちの清蘭屋も試食あるから! 隣よりうちのを食べてってね!」
どことなく気怠そうな鈴瑚に対して、清蘭は元気よく呼び込みする。
いや……というかなんか必死だ。
確かこの二人、お互いの店の売上で勝負してるんだっけ。
ちょうど腹も減ってることだし、試食があるなら食べ比べしない訳にはいくまい。
「すいません、試食いいですか?」
「はいよーちょっと待ってね〜」
「じゃあ先にうちのからどうぞ!」
鈴瑚屋の試食を頼んだら、何故か横から清蘭が割り込んでずい、と団子を押し付けてくる。
うおお、なんか押しが強いな。
とはいえそんな満面の笑顔で迫られたら嫌と言えるはずもなく、俺は清蘭の団子から試食することにする。
まあどっちも好きだしな。
「じゃ、じゃあ、こっちから頂きます」
「どうぞ!」
俺は爪楊枝を清蘭から受け取ったあと、皿の上に乗っている、何やら赤いソースが掛かっている団子を口に運ぶ。
この団子にかかってる赤いのって一体なんなんだ?
俺がそう疑問に思いながら団子を口に運ぶと――
「酸っぱ! なにこれ!?」
口の中に広がる予想外の酸味に思わず声を上げる。
多分これベリー系の何かのジャムだ!
パンとかケーキに使ったら美味いかも知れないけど、普通団子に使うか……?
「どう!? 美味しいでしょ!?」
「あ、うん……まあ……」
俺は微妙にお茶を濁しながら目を逸らす。
はっきり言うと微妙だ……。ベリー的なジャムもなんだか相性が悪い気がするが、何より団子もあんまり練ってないのか少し粉っぽいような……。
文果真報で文ちゃんが、清蘭の団子の味は保証しないと書かれていた理由が分かった気がする。
文ちゃんって記事はデタラメだけど食レポだけは謎に信用できるよね。記者やめてグルメライターになった方がいいのでは?
「じゃあ、お団子一つ四文ね! まいどありー!」
「ええ!?」
「ちょっとちょっと、押し売りはまずいっしょ〜。ただでさえうちらは巫女に目付けられてんのに。それに、元はうちのお客さんだったのに割り込むのはナシでしょうよ」
困惑する俺を他所に、鈴瑚からそう冷静なツッコミが入る。
清蘭はそれにうぐっ、と言葉を詰まらせたあと、すごすごと引き下がる。
そして改めて、鈴瑚が皿に乗せた団子をこちらに差し出した。
「はい、どうぞ〜試食になります」
「あっ、じゃあいただきます」
俺は差し出された団子に爪楊枝を刺して口に運ぶ。
これもなんか赤いソースがかかってるな……。月では団子にベリー系のソース掛けるのが流行ってんのかな?
俺がそう微妙な気分になりながら団子を口に含むと――
「美味っ! なにこれ、すげー美味い!」
「へへ、どうも〜」
「うぐぐ……!」
思わずそう声が出てしまう。
いや、これマジで美味え。もう団子じゃないっていうか、もっちりとしたチーズケーキみたいな、濃厚でクリーミーな味わいだ。
白玉粉で作ってるとは思えない。ベリー系のソースが合うのも納得だ。
「えっと……じゃあこのベリーベリー団子と、ストロベリー団子を一つずつ」
「まいど〜八文だよ〜」
「あーっ! ず、ずるいずるい! うちのを先に試食したのに!」
俺が鈴瑚屋で購入を決めると、隣で清蘭が騒ぎ始める。
「しょうがないでしょ〜お客さんの舌は正直なんだから。清蘭がもっと美味しい団子作ればいいだけだよ〜」
「うう、だってだって……! 私だって頑張ってるんだもん!」
そう言って、清蘭は涙目になりながら反論する。
うん、なんかもう可哀想で見てられないな……。
鈴瑚の言うことは最もなんだけど、清蘭も清蘭なりに頑張ってるんだろうし。
まあ清蘭の方も買っておくか……。
「えっと、じゃあ……そっちはみたらし団子を一本で」
「……!? ほんとぉ!? 買ってくれるの!?」
俺がそう口にすると、清蘭は目を輝かせながら屋台から身を乗り出す。
「お兄さん、そう言う同情はあんまよくないよ〜。この子痛い目見ないと学ばないんだから、甘やかすと本人のためにならないって〜」
「うるさいよ鈴瑚っ!」
「ハハハ……まあ接客は頑張ってたから……」
そう苦笑を浮かべつつ、代金と引き換えに鈴瑚から団子を受け取る。
いやまあ、確かにその通りなのだろう。清蘭って調子に乗ってなんかやらかすイメージあるし……。
とはいえあの状況で鈴瑚屋だけ買ってサクサク帰るなんてどれだけの人間が出来るのか。
まあさっきの変に酸っぱいいちごジャム団子じゃなくて、みたらし団子なら普通に食えるだろう、多分。
そう思いつつ、俺は清蘭からも団子を受け取る。
「ありがと〜! 四文になります!」
「はい」
そうお金を渡すついでに、俺は団子について尋ねてみる。
「でも珍しいね。イチゴとかベリー系を使った団子なんて、幻想郷ではまず見ないけど」
「えっ? そうかな〜。うちらの故郷では割と普通だったけど」
清蘭はキョトンとした顔で首を傾げる。
そう言えば、紺珠伝の時に清蘭の杵に付いてた赤いアレ。みんな血だと勘違いしていたが、後に獣王園でベリーが付着したものと発覚した。
なので本当に月では団子にベリーを混ぜるのが当たり前らしい。
「幻想郷の団子は遅れてるよね〜。団子は何にだって合うのに。うちらも元々はあんこやみたらしやきな粉つけて食べてたけどさ、そればっかじゃ飽きるってんで今の味が開発されたのさ〜。この新しい味で地上の団子屋をぜーんぶ私らが征服してやるのさ」
清蘭の横から、鈴瑚がニヤリと笑いながら言う。
おお……なんという、月人による地上の侵略はまだ続いていたのか!
とは言っても団子とかいう極めてピンポイントな侵略だし放っといてもいいとは思うが……。
「そうは参りません!」
そんなことを考えていると、突如として真横から声が響く。
見るとそこには――ピンク髪をふわっとしたシニヨンで纏めた、道士服を着た美少女。
人里を食べ歩くだんご仙人こと、茨木華扇その人の姿があった。
「地上の団子を征服なんてさせません! 幻想郷の甘味の秩序はこの天道を往く仙人、茨華仙が護ります! ベリーベリーとストロベリーを二本ずつください!」
「はいよ〜いつもありがとね〜」
華扇はそう流れるように注文したあと代金を支払う。
鈴瑚ももはや慣れたものなのか、特に突っ込むこともなく淡々と団子を皿に盛っていく。
っていうか、いつもありがとね〜って常連さんに言うセリフだよね。護るとか言いつつ普通に侵略に屈してるんじゃ……。
「くっ……美味しい……でもこんな邪道な味付けで……! 地上人ではまだ月人のテクノロジーには敵わないというの……!?」
華扇は団子を食べながら、深刻な顔でそうブツブツと呟く。
そしてそのままお団子片手に「もっと店主に発破をかけねば……!」と決意を滲ませつつその場から去って行った。
何しに来たんだあの人……。
「変わったお客さんでしょ〜? 二日に一度は買いに来るんだよねあの人。なーんかうちらに敵愾心持ってるみたいだけど、お金もちゃんと払ってくれるしいいお客さんなんだよね〜」
鈴瑚が苦笑いしながらそう言う。
二日に一回って、めちゃめちゃ高スパンで通っとるやないか!
華扇ちゃんって本当はかなり賢いはずなのに、甘味の時だけ糖分でIQが下がっちゃうのかな……。
ファンとしておじさんちょっと心配です。
その後は鈴瑚と清蘭に別れを告げたあと、再び人里の散策を再開する。
試食した分とストロベリー団子を一本食べたことで少しばかり腹が起きた。美味いなあこれ。
そういえば今日は午後から用事があるんだったか。
俺は団子片手に、その目的の場所へと向かうことにした。