霧夜が退出したあと、白蓮は傍らの星に対してそう尋ねる。
「先ほどの話、どう思いますか? 星」
星は少し考え込んだあと、言葉を選ぶように言った。
「……少し警戒する必要があるかも知れません。もう千年も過ぎたとは言え外界の人間、私たち妖怪に敵愾心を持っていないとも限りません。我々のことを知っているなら尚更排除しようと考えるかも」
星はそう分析する。
普段は温厚で礼儀正しいが、星の本文は戦の加護を授ける毘沙門天の化身である。
そして彼女自身も好戦的な虎の妖怪であることも相まって、いざという時には容赦なく牙を剥く覚悟があった。
「そうですね。ですが……そうなる可能性は低いと思います。私は先の異変で外の世界にお邪魔したことがあるのですが、そこでは摩天楼が地上を覆い尽くし、妖怪は架空のもので実在しないものと考えられていました。仮に私たちのことが知られているとしても、それは所詮絵物語の中のこと。わざわざ屏風の中の虎を退治せよと申す変わり者もそう居ないでしょう?」
「しかし霧夜殿のように一部は幻想の境界を越えてこちら側にやってくる者もいます。もしそう言った者に悪意があればと考えると、警戒するに越したことはないでしょう」
星の言葉に、「そうですね」と白蓮も同意する。
「なのでもし私たちが外界の人間と関わることになっても、よく相手を見定めて、こちら側に敵意がないことも伝えていかねばなりませんね。いつ如何なる時代、場合おいても剣を抜くのは最後の最後でなければなりません。……ちなみに、星は霧夜さんのことはどのように見ましたか?」
白蓮の質問に、星はううん、と悩んだあと、こう告げる。
「まだなんとも。ですが、私たちのことを妙に詳しく調べている割には、敵意のようなものはありませんね、あの御仁は。むしろ好意を向けられてるような……」
「ふふふ、私もそれは感じていました。なんというか、憧れを前にした子供のような純粋な顔をしていましたね。あの方に関しては、特に警戒する必要はないでしょう。かつての陰陽師のような力もないようですし……ただ純粋に迷い込んだだけの人間なら、出来る限り親切にしてあげて下さい。寄る辺なき者を受け入れるのもまた仏門の勤めですから」
「畏まりました」
そう言って聖に軽く頭を下げたあと、星も自室に戻る。
後に残された白蓮は、奥の間で一人ボソリと呟いた。
「はてさてなんとも不思議なこの
そう言って手を合わせたあと、白蓮も蝋燭を消して、奥の間から去っていった。