幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第四十話 予期せぬ来訪者

 

 あくる日の朝、俺は命蓮寺の本堂にマミゾウから呼び出された。

 

 同じ部屋には聖と、そして何故か響子も揃って話を聞いている。

 

「オーディション?」

 

「うむ、話し合いの結果そう決まった。期限は十日後じゃ。守矢神社にてちゃんと出場できる水準かどうか審査を行う」

 

 向こうからオファーを出しておいてオーディションとはこれ如何にと言ったところだが、どうやら事情があるらしい。

 

「否やとは言わせんぞ? これはお主が言い出した条件に基づいたものじゃからな」

 

「俺が出した条件ですか?」

 

「うむ。山の神どのは一つ目の条件、命蓮寺を協賛に加えて信仰をアピールすることに関しては快諾なされた。"これを機に連携を深め、互いの組織の足りない部分を補完し合えばよい"とのお考えじゃ」

 

「おお!」

 

「まあ! まさか八坂様がそのようにお考えだったなんて……。そういう事でしたら私どもも、守矢神社の祭に全面的に協力させて頂きます」

 

 思ったより色よい返事に、俺は思わず声を上げる。

 

 聖も安堵したのか、顔の前で手を合わせながら笑顔で答えた。

 

 あれ? 今のところは何の問題もなく聞こえるが……。

 

「うむ、それでもう一つが問題なんじゃが……。鳥獣伎楽の参加、これに関しては山の神は難色を示しておる」

 

「えっ、何故ですか?」

 

「あの神曰く、"質が担保されていない演者を催事に出すつもりはない"との仰せじゃ。濁しても仕方がないのではっきり言うが……とどのつまり下手くそは全体のレベルが下がるからお呼びではないということよ」

 

「なっ!?」

 

「…………」

 

 その余りに直球な物言いに驚く俺を他所に、響子は黙ったまま俯く。

 

「ああ、誤解するなよ? 小僧。お主の実力は既に認められておる。だからこそ山の神はただのいち演者に過ぎぬお主の条件に応じ、命蓮寺との提携を飲んだのだ。……だが、これはあくまでお主だけの話。鳥獣伎楽の二人に関しては、山の神は実力は認めておらん。出たいならそれなりの力を示せと言うておる」

 

 マミゾウはそう言い放ったあと、更に続ける。

 

「あと鳥獣伎楽が審査に落ちたからといって、お主まで参加せぬとなったら、当然命蓮寺との提携の話もナシじゃ。その辺りはよく考えることじゃ」

 

「そ、そんな……じゃあ、俺はステージ上で一人でギター演奏しろって言うんですか?」

 

 俺はそう尋ねる。

 

 いや出来なくはないが、それはちょっと興行としてはキツイんじゃないか?

 

 場末の酒場で弾いてるのと、大勢が見るステージ上で弾くのとは全然違うぞ。

 

「いや、その辺りのことはすでに考えておる。もしそうなった場合、お主はあのプリズムリバーwithHと組んで演奏してもらおうと思ってな。まあいわゆる"こらぼれーしょん"という奴よ」

 

「…………!」

 

 その言葉に、俺は思わず衝撃を受ける。

 

 プリズムリバーwithHと言えば、原作キャラであるという以上に、幻想郷の音楽シーンでは誰もが知る大スターだ。

 

 そんなバンドとコラボできるなんて……!

 

 俺の表情からそんな感情の流れを読み取ったのか、マミゾウはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「くくく、そうじゃ。山の神は今回の祭りで、プリズムリバーwithHに続く新たな"すたあ"を作りたがっておる。そうすることで自身の祭りの権威も上がるからのう。そこに白羽の矢が立ったのがお主じゃ。こんな機会はまたとないぞ?」

 

 その言葉に俺の心は激しく揺れる。

 

 鳥獣伎楽と一緒にやりたいのは本音だ。だが、音楽活動をしていく上でメジャーになるというのは絶対的な夢でもある。

 

 万が一鳥獣伎楽が落ちたとしても、これで俺が不参加という選択肢はほぼなくなった。

 

「霧夜……」

 

「……響子、ごめん! 今回は俺、絶対に出たいよ。二人のこと裏切るみたいで申し訳ないけど……」

 

 俺は顔の前で両手を合わせながらそう答える。

 

 響子たちが落ちたとしても、俺がそれに付き合いで一緒に不参加を決めるのは違うと思う。

 

 聖にも迷惑がかかるし、仲間だからこそ馴れ合いみたいなことはしたくない。

 

「ううん、仕方ないよ。ステージの上で演奏するのは楽しいし、有名になりたいのはみんな一緒だもんね。……だから、私たちが霧夜の場所まで上がっていくね!」

 

 そう謝る俺に、響子はにこりと笑いながら言った。

 

「うむ、ならばよし。山の神とてただ意地悪で審査などと言っておるわけではない。以前に鳥獣伎楽とやらの演奏を見た際にあまり良い印象を抱かなかったようじゃが……自分の前でその実力を証明すれば認識を改めるとも言うておる。お主らにとってもコネで上がるよりも、実力で上がったほうが良かろう?」

 

「……分かった。霧夜のおまけじゃなくて、私たちの実力で出場枠を勝ち取るよ! 十日後でいいのね!?」

 

「うむ、十日後の守矢神社。午後の鐘が鳴る頃じゃ。忘れるでないぞ?」

 

 マミゾウはそう言うと、その場から立ち去っていく。

 

「じゃあ、私はすぐにミスティアを叩き起こして練習するから!」

 

「本当はこれからお勤めがあるのですが……仕方ありませんね。響子はこれからそのオーディションとやらが終わるまでは、命蓮寺に顔を出さなくて構いません。その代わり、悔いが残らぬようしっかりおやりなさい」

 

「……うん! ありがと、聖!」

 

 響子はそう言うと、部屋から飛び出すようにててて、と駆け出す。

 

「霧夜もついて行っておやりなさい」

 

「え、い、いいんですか? お勤めは……」

 

「幸い今はマミゾウさんが連れてきた子狸さんたちで人手は足りています。それに、元は霧夜がいなくても私たちだけで回していたのです。今さら一人欠けた所で大した影響はありませんよ」

 

 聖はニコリと微笑んで言った。

 

「響子たちが合格出来るように手伝ってあげなさい。仲間なのでしょう?」

 

「……はい! 行ってきます、聖!」

 

 俺はなんて周りの人に恵まれてるんだろう。

 

 聖に感謝を込めて深々と一礼したあと、俺は響子の後を追い掛けた。

 

 

 * * *

 

 

 「はあ!? なにそれ、ライブイベント!? それにオーディション!? どれもこれも初耳なんだけど!」

 

 竹林の住処で寝入っていたところを、突然真っ昼間に叩き起こされて、衝撃の事実を告げられたミスティアは、そう素っ頓狂な声を上げた。

 

「今初めて伝えたからね! さあ、早く起きて! 今から練習するよっ!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ、響子! てか、なんであんたまでいるのっ! もうちょっと事情を詳しく説明してよっ!」

 

 ミスティアはいつもの焦げ茶のドレスではなく、なにやらふわふわした白のネグリジェ姿で寝入っていた。

 

 可愛い……ではなくて、俺は詳細な事情を説明する。

 

「実は、俺が守矢神社の開催するロックイベントに呼ばれてたんだ。それで、俺だけじゃなくて鳥獣伎楽も一緒に出たいですって言ったんだけど……」

 

「霧夜はいいけど私たちは下手くそだからダメだってさ! それで、オーディションするからそこに来いって言われたのよ!」

 

「なにそれ、めちゃくちゃムカつくわね! てか、なんであんたはフリーパスなワケ!?」

 

 怒ったミスティアが、俺の方にビシッと指を突きつけながら抗議する。

 

「しょうがないじゃない! 霧夜は私たちより上手いんだから! だからオーディションで凄い演奏して、私たちをバカにした奴らを見返してやろうってわけ! ……ほら、分かったらさっさと起きて、今から練習するよっ!」

 

 響子はガバっとミスティアの布団を剥いで、無理やり起こそうとする。

 

 あの、一応ここに男子がいるんですけど……そんなことしていいんですかね。

 

「ええっ、でも今から今晩のお店の仕込みが……」

 

「オーディションが終わるまでお店はしばらくお休み! 音楽とお店どっちが大事なの!?」

 

「どっちも大事だってば……! もう、響子は仕方ないなあ……」

 

 ミスティアはブツクサ文句を言いながら渋々起き上がったあと、おもむろに着替え始める。

 

 流石にそれはまずいので、俺は慌てて外に出る。

 

 しかしミスティアって響子には甘いよな……。身長もミスティアの方が高いし力も強そうなのに、小柄で人畜無害な響子の方がグイグイ引っ張って行ってる感じだ。

 

 親友の二人には、外からじゃ分からない独自の関係性があるのだろうか。

 

「おまたせ!」

 

 そんなことを考えながらしばらく待っていると、響子がミスティアと一緒に外に出てくる。

 

 ミスティアはまだやや不機嫌そうだが、やるつもりはあるのか、しっかり自前のギターは準備して出てきていた。

 

「……で? 練習って一体何をやるの?」

 

「もちろん、いつもの曲を反復だよ! まずは幻想デストロイヤーから――」

 

「ま、待った待った! その前に俺の意見を聞いてくれ!」

 

 おもむろにいつもの感じに落ち着きそうだった流れを、俺は慌てて制止する。

 

「多分だけど、いつもやってる曲をオーディションで披露しても、間違いなく落とされると思うよ? だって山の神様は鳥獣伎楽のライブを見たことがあるって言ってたでしょ? その上で駄目だと言ってるんだから、何か新しいものを用意しないと通してくれないと思う」

 

「むう……」

 

「確かにそうかも……」

 

 俺の言葉に、二人は難しい顔で黙り込む。

 

 っていうか幻想デストロイヤーってアレだろ? 守矢神社をぶっ壊せ、命蓮寺に火をつけろって奴だろ?

 

 あんな曲を守矢神社で歌って認められる訳がないだろ……。神奈子様どころか聖だって助走つけて殴るレベルの問題作だぞ。

 

「でも、だったらどうすればいいってのよ? 今から新曲作ってってなったら間に合うの?」

 

「いや、それは無理だ。だから……別のバンドの曲を演奏しよう。鳥獣伎楽のあのいつもの不満や反骨心剥き出しの曲じゃ絶対に落ちる。だって審査するのが権力者の筆頭みたいな方だし……」

 

 俺は、あのしめ縄を背負った威風堂々たる神様を思い浮かべた。

 

「あによ! オーディションのために私たちの音楽を捨てろっての!?」

 

「いやそうじゃない。そうじゃなくて……オーディションの時はその牙をうまく隠してだな」

 

「ミスティア!」

 

 食って掛かるミスティアをどうにか宥めていると、響子が突如声を張って制止する。

 

「とりあえず霧夜の言う通りにやってみようよ! 霧夜は私たちの中じゃ一番上手いし、外の音楽のこともよく知ってる。きっといい知恵があるんだよ!」

 

「うっ……」

 

 響子の言葉に、ミスティアも気まずそうに呻く。

 

 そう言われるとプレッシャーだ……。俺も所詮独学で学んだくらいだからな。

 

 だけど、情熱だけは誰にも負けないつもりでやってきた。

 

 プリズムリバーwithHとのコラボは確かに魅力的だが、それも鳥獣伎楽と一緒に出来るなら最高だ。

 

 だから、絶対に俺がこの二人を合格させてみせる!

 

 俺が意気込んだ、その時――

 

『ふふ、わたくしで良ければ手伝って差し上げましょうか?』

 

 突如として、頭上から艶やかな女性の声が響いた。

 

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