幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第四十一話 胡散臭い新メンバー

 

 その声が響くと同時に、俺たちの目の前の空間にぱかっと亀裂が入り、奥からするりとウェーブがかった金髪の道士服の美女が上半身だけ姿を現す。

 

「なっ……!?」

 

「よ、妖怪の賢者!?」

 

 ゆかりん!?

 

 とんでもない大物が突然姿を現したことに、俺たち全員が言葉を失う。

 

 八雲紫は普段あまり人前には姿を現さないが、その顔は広く知られているらしい。

 

 ミスティアに関しては、永夜異変で直接対峙しているので当然面識はあるだろう。

 

「ふふ、そのように驚かなくても構いませんわ。別に取って食おうという訳ではありませんもの。むしろその逆です。わたくしが貴方がたをプロデュースして差し上げようと思いまして」

 

 そう言って、ゆかりんは口元を扇子で隠しながら妖艶に笑う。

 

「ぷ、プロデュースって……具体的には何を?」

 

「差し当たってはオーディションの突破、と言ったところかしら。どうやら演奏する曲で揉めているようですわね?」

 

 ゆかりんの指摘に、俺たち三人は顔を見合わせる。

 

「ええと、まあ確かに……」

 

「それは重畳。ならばこう言うのはどうです?」

 

 ゆかりんはそう言って、パチンとその細い指を鳴らす。

 

 その瞬間――足元にパカっとスキマが開き、ズズズと大きなタワー状のものが地面から生えてきた。

 

「うおおっ、なんだこれ!?」

 

「ふふふ、これは"レコードジューク"。1940年代に全米で大流行したジュークボックスですわ。この丸っこいフォルムが愛らしいでしょう?」

 

 ゆかりんはそう言って、愛おしむようにジュークボックスを撫でる。

 

 そのレコードジュークの中には大量のレコード盤が内蔵されており、ボタンで切り替えて演奏する仕組みのようだ。

 

 木目調のボディにサイケデリックな電飾の着いた丸っこいジュークボックスは、綺麗に手入れされてるがところどころ日焼けで色あせており、かなりの年代物であることが分かる。

 

 いわゆるビンテージ品というやつなのだろう。

 

 幻想郷の賢者という手に入れようと思えば簡単に最新鋭の機材も揃えられる立場なのに、わざわざ古臭いものにこだわるのは本人の趣味もあるのかも知れない。

 

 八雲紫という女性は、ただ単に古いレトロなものが好きなんだろう。

 

 まあ忘れ去られたものがたどり着く幻想郷の管理者なので、それもさもありなんと言ったところだ。

 

「どの曲を演奏するかは実際に聴いてみるのが一番近道でしょう。電源は内蔵されていますから、この子を使って色々聴いてみればよろしいかと」

 

「なるほど……分かりました」

 

 俺はそう納得しつつ、ゆかりんの出したレコードジュークを吟味する。

 

 百曲くらい内蔵されてるっぽいので、古いとはいえかなりの容量がありそうだ。

 

 ローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソン……うおっ、クイーンのライブエイド1985もある!

 

 その錚々たるアーティストたちの伝説の音源の中で、俺はある一枚のタイトルが目に入った。

 

「……これ、これがいいです! 再生出来ますかね?」

 

「あら……意外なのを選びましたわね。もちろん出来ますわ。そのボタンを押してくださいな」

 

 俺はゆかりんの指示通りに、ジュークボックスの前面のボタンを押し込む。

 

「霧夜、何の曲にしたの!?」

 

「それは聴いてのお楽しみだよ。だけど、きっと二人も気に入ると思う!」

 

 そしてレコードがキュルキュルと回転する音が鳴り始め、少しくぐもった音のスピーカーから激しいギターの音色が響き始めた。

 

「わっ、カッコいい始まりだね! なんて曲なの!?」

 

「BOOWYってバンドの"マリオネット"って曲だよ。この出だしのギターがめちゃくちゃカッコいいんだ!」

 

「……ふぅん、まあ悪くないわね」

 

 ミスティアも口調とは裏腹に、そわそわと興味を隠し切れない感じで言う。

 

 何故俺がこの曲を選んだのか……それは、このマリオネットは、権力や社会に抑圧された男が、反逆して自由を求める歌だからだ。

 

 鳥獣伎楽は現状に対する不満や権力に対する反骨心を前面に押し出したバンドなので、この曲なら二人の音楽性にもマッチしているはずだ。

 

 響子もそれをどこかで感じ取っているのか、首でリズムを取りながら、スピーカーの前で真剣な顔で聞き入っている。

 

「この曲……なんかいいね! ボーカルの人の声も凄くカッコいい!」

 

「氷室京介って人なんだ。歌も上手いしめちゃくちゃカッコいいよ。響子は歌えそう?」

 

 俺はそう尋ねる。

 

 マリオネットはカラオケでは比較的歌いやすい曲だが、ヒムロックほど完璧に歌い切るとなると難しい。

 

「うん、うんうん……大丈夫! 多分この声も出せると思う!」

 

「えっ?」

 

 俺がそう聞き返すも、響子は音源に集中して真剣に聞き入っている。

 

 やがて曲も終盤に差し掛かり、ガチャンという音とともに曲が終わる。

 

 そのまま響子が立ち上がったあと、何やら喉に触れながら発声練習を始める。

 

「あー、あー、あー……うん、よしこの声! 持て余してるFRUSTRATION!

 

「うええっ!?」

 

 俺は、響子の口から急に出てくるめちゃくちゃカッコいい氷室京介の声に、度肝を抜かれて思わず腰を抜かす。

 

 えっ、なに、今の声真似!? にしては似すぎというか、もはや元の響子の声の原型がないくらいヒムロックなんだけど!

 

 そんな特技あったの!?

 

「ふふふ、山彦ですものね。オウム返しをするのですから、声帯模写くらいは容易いことでしょう」

 

「…………!?」

 

 俺はゆかりんの言葉にハッとする。

 

 確かに山彦は、山で大声で叫んだ人の声を、発音も声もなんでもそっくりそのまま返す怪異だ。

 

 それが当たり前にできる妖怪ということは、響子はその気になれば誰の声でも再現できるってことか?

 

 それってヴォーカリストとしてはとんでもない才能なんじゃ……フレディ・マーキュリーとかラーニングしたら、外の世界で一億再生狙えるくらいの逸材だぞこれ。

 

「やっぱうちのボーカルは響子しかいないわね。私じゃそんな真似できないもの」

 

 ミスティアがため息混じりに感服したように言う。

 

「そんなことないって! ミスティアだってすっごい歌が上手じゃん! 私はギターでもよかったのに」

 

「でも、私の声も響子は出せるんでしょ?」

 

「そ、それはまあそうだけど……」

 

 その指摘に、響子は居心地悪そうに身を捩る。

 

 何故ミスティアが響子に一目置いてるのか分かった気がする。

 

 弾幕ごっことは関係ないので今まで埋もれていたのだろう。

 

 だがこれは音楽に限っては程度どころではない能力だ。

 

「ミスティアの言う通りこれは凄いよ、響子! オーディションに一気に希望が見えてきた!」

 

「ほ、本当?」

 

 俺の言葉に、響子は期待と不安が混じったように聞き返す。

 

「ああ、これなら山の神様も鳥獣伎楽を出したがるはずだ! 後はミスティアと一緒にギターのパート分けして、細かいところを練習していくだけだ!」

 

「あんたと一緒ってのが腑に落ちないけど……仕方ないわね。私も付き合ってあげるわ」

 

 俺の言葉に、ミスティアもやれやれといった感じで同調する。

 

 そのままにわかに盛り上がる俺たちを他所に、ゆかりんが言った。

 

「ふふふ、よければそのレコードジュークはしばらく貸して差し上げますわ。練習に役立てて頂ければよろしいかと」

 

「は、はい、ありがとうございます!」

 

「ありがとう、賢者さん!」

 

「……ねえ、少し疑問なんだけど、なんで私たちにそんな肩入れしてくれるわけ?」

 

 素直にお礼を言う俺と響子を他所に、ミスティアが怪訝な顔でそう尋ねる。

 

「ふふふ、肩入れ、ですか? 幻想郷の公平な管理者たるわたくしが、あなたがたに?」

 

 ゆかりんは口元を隠しながら、妖しく微笑む。

 

「……だってそうじゃない。私たちとあなたは別にそんな仲いいって訳でもないのに、こんな支援してくれるだなんて理由が分からないもの。肩入れしてくれてるのじゃなければ、一体何を企んでるの?」

 

 ミスティアは怪しむように言う。

 

 確かに胡散臭い。

 

 ゆかりんは頭が良すぎる上に、いつも本音を隠して濁すような物言いをする故に、実のところ何を考えてるのかよく分からない。

 

 幻想郷を護りたいという気持ちは誰よりも強いのだろうが、幻想郷の人妖についてはどう思っているのか。

 

 何かの企みに利用されてるようなら、この支援はいっそ断った方がいいのかも知れないが……。

 

 そう俺たちが怪しむのを他所に、ゆかりんは口元を扇子で隠しながら言う。

 

「わたくしが、あなた方を支援する理由、ですか……ふふ、それはですね」

 

「それは……?」

 

 俺たちが固唾を呑みながら身を乗り出すのを他所に、ゆかりんはその細い指先を左右に振りながら言った。

 

「――い・や・が・ら・せ♪」

 

「……は?」

 

 その物言いに、ミスティアのみならず俺たちも言葉を失う。

 

「だって面白くありませんもの。あの山の神……わたくしに一言もなくこんな大きなことを始めて。しかもわたくしの古い友人の萃香まで運営に抱き込んで仲良くやっているんですのよ?」

 

「は、はあ……」

 

 その意図を測りかねて、俺は思わず生返事をする。

 

「だからわたくしは、あなた方鳥獣伎楽を無理やり祭にねじ込んで、内側から引っ掻き回してやろうと思ってます。この際だから言っておきますけど……あなた方はまるで期待されていませんわよ? わたくしが独自に入手した参加者名簿にも、そこの霧夜さんはともかく鳥獣伎楽の名前は一文も入ってません。オーディションなんて形だけで、既にあなた方は居ない前提で広告や当日の予定まで細かく決まっています」

 

「なんだって!?」

 

 ゆかりんの言葉に、響子がそう反応する。

 

「ふふ、そこであなた方が無視できないほどの存在感を持ってオーディションに殴り込む。運営側は度肝を抜かれ、あなたたちを入れるために当日の予定から何から何まで全て見直しになるでしょう。その右往左往する姿はさぞかし滑稽で見物でしょうね」

 

 ゆかりんはそう言って、パタパタと上品に口元を仰ぐ。

 

 な、なんというか、みみっちいというか、嫌がらせがしょーもないというか……仲間外れにされていじけた子供みたいだ。

 

 結局のところ、自分も一枚噛みたいけど仲間に入れてとは素直に言いづらいので、俺らを使って遠回しにかまちょしてるのだろう。難儀な性格してるなこの人……。

 

 ミスティアも何となくそれを理解したのか、ゆかりんを見る目に呆れと哀れみが混じっている。

 

「――じゃあさ、賢者さんも私たちと一緒にやろうよ!」

 

「えっ!?」

 

 そんな中、響子が唐突に爆弾をぶっ込んでくる。

 

 一緒にやろうって、俺らとゆかりんがバンドを!?

 

「…………」

 

 流石にその提案は面食らったのか、ゆかりんも目を見開いたまま硬直する。

 

「ちょっ……何言ってんの、響子!?」

 

「だってそうじゃない。賢者さんは仲間外れにされて悔しかったんでしょ? だったら私たちと一緒にやって見返してやろうよ! 私たちだけだと神社の偉い人たちにいいようにやられちゃうかもしれないから、賢者さんが居てくれると心強いし」

 

 ミスティアの制止を振り切って、響子は真っ直ぐゆかりんの目を見て言う。

 

 それは確かにそうだ。

 

 あの八雲紫が味方になってくれるなら、それ以上に心強いことはないだろう。

 

 まさか通る訳もないが、響子がそんな大胆な提案をするとは思わなかった。

 

「つまり、山の神に自分たちだけで対峙するのは心許ないから、わたくしを後ろ盾に利用しようと?」

 

「うん! ……ダメ?」

 

 響子は一切臆することなく、キョトンと首をかしげながらそう言い放つ。

 

 俺とミスティアがハラハラしながら、二人の会話を見守る。するとその時――

 

「ふ、ふふ……それ、面白いですわね。まさか、この八雲紫を利用しようとする者がいるなんて」

 

 ゆかりんはそう言って肩を震わせたあと、パチン、と扇子を閉じて言った。

 

「……いいでしょう。わたくしもあなた方の仲間になって差し上げますわ。ただしわたくしにも立場がありますから、裏方という形になりますけどね」

 

「やったぁ! これなら百人力だね!」

 

「うおおっ! マジで!?」

 

「嘘でしょ……」

 

 まさかの超大物が加入したことで、にわかに鳥獣伎楽の士気が上がる。

 

 その後、俺たちは新メンバーのゆかりんに見守られながら、合わせ練習を始めるのであった。

 

 




色々大物ぶって思わせぶりなこと言うけど実際のゆかりんは寂しんぼでかまちょだと思います
響子の能力は多少拡大解釈入れました
まあ山彦なので多少はね?
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