幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第四十二話 困難への挑戦

 

 それから数日間、俺たちは命蓮寺にも帰らずに練習に明け暮れた。

 

 食事はミスティアが屋台の賄いを用意してくれて事欠かなかった。

 

 流石に妖怪二人みたいにそこらの草むらで雑魚寝みたいなことは出来ずに、定期的に人里の家に帰っていたが、一日の時間の大半を鳥獣伎楽の二人と過ごしてきたと言ってもいい。

 

 ――そして、運命のオーディションの日が訪れた。

 

「ううう……緊張するよぅ」

 

 守矢神社に向かうロープウェイに搭乗しながら、響子は身を震わせる。

 

「響子なんかまだいいじゃない……最初っから歌は完璧だったんだから。私なんかまだギターで怪しい所があるのよ?」

 

 そう言うミスティアも、若干血の気が引いた青い顔をしている。

 

「ミスティアもこの数日でだいぶ仕上がってきたよ? オーディションでは難しいギターソロは俺が担当するから、ミスティアはメインのところを思いっ切り弾いてくれればいい」

 

 俺がそう言うと、ミスティアはこちらに恨みがましい目を向けながら言った。

 

「……あんたはいいわよね、もう合格が決まってるんだから。弾くときも気楽なもんでしょ?」

 

「ミスティア! 霧夜はもう合格してるのに、私たちのためにずっと練習に付き合ってくれてたんだよ? なのにそんな言い方はないでしょっ!」

 

 ミスティアの言葉に響子が声を荒げる。

 

「うっ、ご、ごめん……。イライラしてつい……」

 

「いやあ、仕方ないよ。オーディション前で神経が高ぶってるだろうし。それに、俺も緊張してるのは一緒だよ。鳥獣伎楽の二人と一緒にやりたいのに、下手な演奏して俺が原因で落ちたなんてことになったら目も当てられない。失敗出来ないのは全員一緒だよ」

 

「霧夜……」

 

 俺がそう言うと、響子は瞳を潤ませながらこちらを見やる。

 

「うっ……ホントにごめん、八つ当たりみたいなこと言って」

 

「別にいいって! そんなことより、三人で絶対に合格しよう! 今の俺たちの実力なら、いつも通りやれば間違いなく通る!」

 

「うん!」

 

 俺がそう言うと、誰からともなく三人で拳を突き合わせて頷き合う。

 

 そうやって結束を高めていると、ロープウェイからガコン、と制止音が鳴り、とうとう守矢神社へとたどり着いた。

 

「うおお……!」

 

 ロープウェイのドアを開けて、境内に降り立った瞬間、俺は思わずその壮大さに声を上げた。

 

 守矢神社、でけえ……!

 

 整然とされた石畳に、見上げるような大きな鳥居。

 

 参道の端には、十メートル以上はある巨大な御柱が両端にずらりと並んでそびえ立っていた。

 

 ぶっちゃけると、博麗神社よりだいぶデカい! その威容は、この幻想郷において守矢神社の影響力の大きさを象徴しているようだ。

 

「ここが守矢神社……!」

 

「ふん、まずは見た目で威圧しようって訳ね……!」

 

 妖怪二人は、まるで魔王城でも前にしたかのように顔を強張らせて警戒している。

 

 まあ神様って本来妖怪の敵だしね……。守矢神社はまだ妖怪に融和的な方だけど、それでも妖怪退治はたまにやっているし。

 

「……あ、ようこそおいで下さいました。霧夜さん、と鳥獣伎楽のお二人ですね? 八坂様よりお話は伺っております」

 

 そう言っていつも通りの装束で出迎えてくれたのは、守矢神社の風祝、東風谷早苗であった。

 

 参道の掃除をしていたのか、その手には箒が握られている。

 

「ご無沙汰しています、早苗さん。人里ではろくにご挨拶も出来ずに申し訳ありません」

 

「ふふっ、構いませんよ。あの時は私も信徒の方々のお相手でまともにお話も出来ませんから」

 

「あ、守矢の巫女さんっ!」

 

「緑の、危ない方の巫女……!」

 

 早苗さんを見て、響子が親しく声を掛ける一方で、ミスティアは明らかに恐れた様子で後ろに下がる。

 

 危ない方の巫女って……もしかして妖怪内では、霊夢より早苗さんの方が恐れられてるのか?

 

 響子は命蓮寺関連で割と親しいようだが、ミスティアは警戒心マックスで威嚇してすらいる。

 

「あら、そんな警戒しなくて大丈夫ですよ? 今日は妖怪退治ではなく、お客様として皆さんをお迎えするように言われてますから。もちろんお望みとあればお相手致しますが……」

 

「やらない! いいから早く案内しなさいよ!」

 

 ミスティアは響子の影に隠れながら言う。おおう……どんだけ早苗さん恐れられてんだ。

 

 まあ早苗さん、星蓮船で妖怪退治の楽しさに目覚めてから色々やらかしてるからな……。

 

 輝針城以降むしろ霊夢が弱い妖怪に少し優しくなりつつあるから、路線の変わらない早苗さんのほうが恐れられつつあるのかも知れない。

 

「ふふ、そうですか。ではこちらへどうぞ」

 

 早苗さんはそう言って、俺たちを本殿へ誘う。

 

「おお……」

 

 外の世界から由緒正しい神社を移築してきただけはあって、守矢神社の内部は歴史を感じられる趣ある建造物といった感じだ。

 

 しかし所々改築したり、増築したりする部分も見えてどんどん更新しては規模を広げていっているのが分かる。

 

 あっ、コンセントがある! 守矢神社電気通ってるの!?

 

 ……いや、よく考えたらそりゃあそうか。地底で発電所作ったのここだもんな。

 

 なんなら妖怪の山全域にここから電気を通しているのだろう。インフラを一手に握る守矢の組織力恐るべしといったところだ。

 

「では準備が整い次第お呼び致しますので、しばらくこちらでお待ち下さい」

 

 そう早苗さんに言われ、俺たちは待合室に通される。

 

 おお……高級そうな革のソファだ! しかもこの部屋、エアコンが効いてる!

 

 設備凄いな、守矢神社……。

 

 俺がそう感心しているのを他所に、ミスティアは中に入るや早速ギターを取り出し、軽く音を鳴らしながらチューニングを始める。

 

 響子は響子で、ソファに腰掛けながら足でリズムを取り、小さな声で歌を口ずさんでいる。

 

 どうやら二人とも集中力が高まっている。守矢神社に入れて浮ついてるのは俺だけらしい。

 

 俺もそれに倣ってギターを取り出し、生音で軽く演奏しながら、指のウォーミングアップを始める。

 

 そして、そのまま二十分ほど経った頃――

 

「失礼しま……あ、やってますね」

 

 部屋に入るなり、早苗さんが各々の準備をしている俺たちを見て声を上げる。

 

「あ、もう時間ですか?」

 

「はい、八坂様よりお通ししてよいとの言葉を頂きましたので、お迎えにあがりました」

 

 早苗さんのその言葉に、いよいよかという気持ちとともにずしりと伸し掛かるような重圧を感じる。

 

 しかし響子は、う〜ん、と大きく伸びをしながら言った。

 

「……よし、行こう!」

 

「ええ、そうね!」

 

「絶対受かろう!」

 

 そう声を掛け合って、俺たちは互いにハイタッチする。

 

「ふふふ、良いですね! 青春って感じです。では、皆さんは私についてきて下さいね」

 

 そして早苗さんの先導の元、俺たちは守矢神社の更に奥へと通される。

 

 本殿を超えた少し先には、柱が朱く塗られた豪華な建物が建っており、早苗さんは俺たちをその裏へと案内した。

 

「こちらは"神楽殿"となっております。審査の方々は既に中でお待ちになっていますので、皆さんはこの裏口から直接舞台上に出て頂きます」

 

 早苗さんはそう言うと、履き物を脱いで裏口へと入っていく。

 

 俺たちは緊張しながら、狭い裏口を入って、早苗さんの後へと続いた。

 

 そして――

 

「八坂様、鳥獣伎楽の皆様をお連れ致しました」

 

 舞台上に誘われると同時に、俺は眼下で勢揃いしている、審査員の顔ぶれを見て驚愕した。

 

「ご苦労、早苗。お前はもう下がりなさい。後で必要になったら呼びます」

 

「畏まりました」

 

 その中心に座る神奈子様がそう言うと、早苗さんは一礼して下がる。

 

 それを横目に、俺は神楽殿の最前列に座る、五人の審査員たちの顔を改めて見る。

 

 左端のあの凛々しい女の人……あの特徴的な青い服と、長い黒髪に、天狗装束の頭巾。

 

 スラっと長いお御足がなんとも美しい女性――飯綱丸龍だ。

 

 足を組んだまま、こちらに値踏みするような視線を向けている。

 

 そしてその隣――あの百メートル先からでも分かるくらいのエキセントリックな色合いの服に、裏地に青空が描かれたマント。

 

 レインボーのカチューシャを頭に付けた、何処となく可愛らしい雰囲気の小柄の女性。

 

 市場の神、天弓千亦だった。

 

 虹龍洞の五ボス、六ボスの二人が揃い踏みだ!

 

「さて……今からお前たち鳥獣伎楽の審査を行う訳だが――」

 

 俺がそんな思考は、神奈子様の言葉が始まると共に打ち切られた。

 

「最初にまずは自己紹介しておこう。我こそがこの守矢神社の神、八坂神奈子である」

 

 神奈子様はお忍びで鯨呑亭に来た時のものではなく、神の装束で背中に堂々たるしめ縄を背負った状態で自己紹介した。

 

 そして、その隣の紫の服を着た、目玉がついた特徴的な帽子をかぶった少女にチョンチョン、と肘で突っつきながら声をかける。

 

「……おい! 次はお前だぞ」

 

「……ん? ああ、私? あはは、私のことは気にしなくていいよ〜。気軽にケロちゃんって呼んでね?」

 

 そう言って、その金髪の可愛らしい少女は、笑顔を浮かべながら適当にひらひらと手を振る。

 

 うおお、諏訪子様だ……!

 

 俺は可愛くて大人気だけどホントは怖い神様を生で見て、にわかにテンションが上がる。

 

「全くこいつは、神たる威厳をなんだと……! はあ、もういい。では次は天弓殿、頼む」

 

「はーい!」

 

 神奈子様の言葉に、ちまたんが元気よく返事をする。

 

「私はそこの神奈子さんより、祭りに出店する市場の管理者に任ぜられました。無主物の神にして市場のプレゼンター、天弓千亦です! 皆さんの演奏の出来次第で、市場の賑わいにも影響が出るかも知れません! なので厳しく審査いたしますからそのつもりで!」

 

 ちまたんはそう言うと、例のポーズをどや顔でビシッと決める。ねえ、それやらないと死ぬの?

 

「うむ、ありがとう。では次に天狗の代表者から」

 

「ええ、承りました。……私は天魔様の名代であり、祭りの広報と警備を担当する、妖怪の山の大天狗、飯綱丸龍だ。この祭りの盛り上がりは我々天狗社会にとっても大きな利益を生み出すきっかけとなる。よって貴君らの健闘を期待したい」

 

 龍はそう短く挨拶したあと、済ました顔で目を瞑る。

 

 う、美しい……まさにクールビューティーと言った感じだ。

 

「うむ、では最後に……」

 

「おお、わしかのう? 既に知っておると思うが、祭りの演出兼、総合ぷろでゅーさーを務める二ッ岩マミゾウじゃ。本来はわしと八坂の神様だけで審査する予定じゃったが、ちょうど会合で関係者が集まっておったのでな、ついでに審査に参加してもらうことと相成った」

 

 マミゾウはそう言うと更に続けて説明する。

 

「お主らの合格の条件は、この五人全員から是の札が上がることじゃ。一人でも否の札が上がれば不合格とするのでそのつもりでな」

 

 そう説明する、マミゾウ含む五人の審査員の前には、是の文字と否の文字が書かれた、棒付きのお札が人数分置かれている。

 

 満票でないと駄目なのか……! それはハードルが高いな。

 

 だがそれでも問題ない……あれだけ練習したんだ。全員の度肝を抜く演奏が出来るはずだ……!

 

 そう意気込む俺を他所に、マミゾウは次にこう言った。

 

「ああ、あとな小僧、お主は審査から抜けてもらうぞ。演奏するのはそこの二人だけじゃ」

 

「……へ?」

 

 俺は一瞬何を言われたのか分からず、思わず変な声を上げてしまう。

 

「だってそうじゃろう? お主は既に合格しておる。審査を受ける必要性があるのはそこの二人だけじゃ。その二人の拙い部分をお主が補うような形で合格しても、それは公平とは言えん。お主は審査の邪魔じゃ。早う舞台から降りよ」

 

「…………!」

 

 そう言われて、俺はさっと全身の血の気が引く。

 

 まずい、まずいまずいッ!

 

 既に俺が弾く前提でパートを割り振ってしまっている! しかも難しいところは全部俺がカバーするような形でだ!

 

 ミスティアは通しで何回か練習はしているが、ギターソロのところはまだほとんど成功した試しがない!

 

 他の人なら原曲を知らないからまだ誤魔化せるかも知れないが、神奈子様は無理だ! 

 

 あの人はかなり詳しい上に辛口だ!

 

 少しでも拙いところを見せると、容赦なく否の札が上がりそうな気がする。

 

「い、いや、しかしそれは……!」

 

「霧夜っ!」

 

 俺がどうにかして食い下がろうとしたその時――響子が声を被せて制止する。

 

 そちらに視線を向けると、響子は真剣な顔で俺の方を見つめる。

 

 そして、任せろと言わんばかりに深く頷いた。

 

「…………!」

 

 それを見て俺は、黙ってギターを片付けて舞台から降りる。

 

 その去り際、ミスティアに「がんばれ!」と小声でエールを送ったが、彼女は突然のことで受け入れられないのか、ほとんど反応がない。

 

 これはヤバいかも……と俺が危機感を感じたその時――

 

「ミスティアッ!」

 

「…………!?」

 

 響子がいつもの馬鹿でかい大声でミスティアに喝を入れる。

 

 ミスティアはそれにハッとしたのか、ビクッと身体を震わせて響子の方を見る。

 

「やるよ!」

 

「…………!」

 

 その短い言葉だけで全て伝わったのか、ミスティアは覚悟を決めたような顔でギターを構える。

 

 俺は舞台下から心の中で二人に必死にエールを送る。

 

「おーおー、なんちゅう大声じゃ。まだ耳がキーンとしておる」

 

「ふっ、だが声の大きさと音楽性は無関係だ。叫ぶだけではどうにもなるまい」

 

「あはは! 元気があっていいと思うよ〜」

 

 そうステージ下で好き勝手言う審査員たちを他所に、響子たちは準備を整えた。

 

「じゃあいきます! BOOWYの"マリオネット"!」

 

 響子のその宣言とともに、ミスティアがギターを掻き鳴らして前奏が始まった。

 

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