「ほんっと、なんなのよ、あの神様! 偉そうにムカつく〜〜!」
終わった直後、守矢神社の境内にてミスティアが憤懣やる方なしと言わんばかりに吠えていた。
まああの神様というのは神奈子様のことだろう。結構ガッツリダメ出しされてたもんなあ。
「うう……私も減点だよ、声が大きすぎるって」
響子もガックリ落ち込んで肩を落とす。
「まあまあ、二人とも結局受かったんだから、実力は認められたってことだよ。あの神様は俺の時もそうだったからね。事細かく指摘してくるのは期待の裏返しだと思うよ」
俺は、確証はないが多分そうだという前提で話す。
まあ実際なんの見込みもない者にあそこまで指摘しないだろうから、当たらずとも遠からずって所だろう。
「ううう、それでも悔しいよ……! 絶対に見返したい……!」
「そうよ! 本番で私たちの実力を分からせてやるんだから!」
「その意気だ! 俺もリベンジしたいから、三人で一緒に盛り上げよう!」
そう言って、俺たち鳥獣伎楽withKは互いに結束を固める。
そんな時であった――。
「あら、貴女たち鳥獣伎楽じゃない? 久しぶりね」
守矢神社の境内に降り立つと共に、一人の女性が俺たちに声を掛ける。
そのショートカットの赤い髪と、白いジャケットスカートに黒いシャツに赤いネクタイを着けたカッコいいお姉さん。
そして最も目を引くのは、その周囲に浮かぶ特徴的な六角形の雷太鼓だろう。
夢幻のパーカッショニスト、堀川雷鼓その人の姿があった。
「あ、雷鼓じゃん」
「雷鼓さん!」
既に二人は知り合いだったらしく、ミスティアと響子は雷鼓に駆け寄って姦しく会話を始める。
そう言えば鳥獣伎楽は以前にもプリズムリバーwithHと同じ音楽イベントに同席したことがあるんだっけ。
幻想郷の音楽界隈は狭いからな、互いに顔見知りなんて普通のことだ。
「今日はどうしたの?」
「うん、実は次のイベントで打ち合わせがあるってここのお偉いさんに呼ばれてね。プリズムリバーの子たちは練習したいからって、私が代表で来たわけ。まあ元々交渉とか話し合いとかは私が担当だから」
響子の質問に、雷鼓が快く答える。
雷鼓は大人気バンド、プリズムリバーwithHのHの部分だ。
担当はドラムで、プリズムリバー楽団に後から編入したメンバーでありながら、持ち前のリーダーシップと賢さで、実質楽団の代表のようになっているとか。
響子もミスティアも一目置いてる感あるし、普通に凄い人なんだろう。
「……で、そこの彼は誰? 私にも紹介して欲しいんだけど」
そう言って、雷鼓が俺の方を見て言う。
「あっ、そうだね! この子はね、霧夜って言うの! うちの新しいメンバーでね、ギターがすっごい上手なんだ」
「ん? ……ああ! あなたが霧夜くん? 話は聞いてるわ。今回のイベントで、うちとコラボすることになってるんですってね?」
「あ、どうも霧夜と申します。ちなみになんですけど……多分その話は立ち消えになったと思います。何せ鳥獣伎楽の二人がオーディションに通ったので、俺たち三人でやることになるかと」
俺の言葉に、雷鼓はうん? と首を傾げながら聞き返す。
「オーディション……そんなものがあったの? ちょっと詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」
「そうそう! そのことなんだけどさ、ちょっと聞いてよ、雷鼓! 酷いんだから!」
そう言って、ミスティアが雷鼓に事細かく事情を説明する。
雷鼓は最初は笑顔で頷いて聞きながら、やがて険しい顔になり、最後は怒ったように言った。
「なにそれ!? じゃあ鳥獣伎楽だけ不利な条件でオーディションさせられてたってこと!? しかも、そこの霧夜くんを引き抜くために!」
「そうだよ! でも、霧夜がいっぱい手伝ってくれて、私たち三人で一生懸命練習して合格したの!」
そう言って響子はえっへん、と薄い胸を張る。
「それは偉かったけど……なんだか許せないわね。私、そういう強い者が弱い立場の者に理不尽を押し付けるのって大嫌いなのよ! 今からちょっと運営に抗議してくるわ!」
「まあまあまあまあ……! 待って下さい! 結局実力を認めてもらって合格しましたし、これ以上揉めるのはちょっと……!」
俺は今にも運営に突入しそうな雷鼓に慌てて割って入る。
「そうよ、雷鼓。気持ちは嬉しいけど……これは私たちの問題だわ。本番の演奏で思いっきり見返してやるって決めたのよ!」
「む……当人たちがそう言うならやめておくけど……」
俺とミスティアがそう宥めると、雷鼓は渋々ながらも引き下がる。
輝針城で見た通り、雷鼓は義侠心と熱いハートの持ち主のようだ。そして元は道具という弱い立場の存在であったが故に、弱者が強者に虐げられる構図が大嫌い。
その上頭もキレる、見た目も中身もカッコいい、まさに頼りになる雷鼓姉さんと言ったところだろう。
ただ、今でさえギリギリなのに、これ以上問題が噴出するとマミゾウの胃に穴が空いてぶっ倒れかねない。
流石にそれは可哀想なのでここは一旦引いてもらったほうがいい。
「でも、困ったことがあったらなんでも言ってよね? なんか嫌なことされたら、私がはっきり言ってやるから!」
「うん、ありがとう雷鼓さん!」
雷鼓姉さんの言葉に、響子は笑顔で返す。
いやあ、いい人だなあこの人。もしかしたら力を借りる時が――いや、ちょっと待てよ?
「あの……だったらなんですけど、俺たちのバンドにたまに助っ人として来てくれませんか? 実は今のバンドの構成が、ボーカル、ギター、ギターで絶望的にバランスが悪くて……。幻想郷一のパーカッションの雷鼓さんの力を借りたいです」
俺はあわよくばの期待を込めてそう提案する。
今のバンドの編成をドラクエで例えるなら勇者、モンク、モンクみたいな編成だ。脳筋すぎて草も生えない。
せめてサポートキャラが一人くらい居なきゃパーティが成り立たない。
「え、そんなこと? 別にいいわよ。今ちょうど暇だし、今日からでも手伝ってあげられるわ」
ダメ元だったが、雷鼓はあっさりと快諾してくれた。
「えっ、本当!? 雷鼓さんも一緒にやってくれるの? やったぁ!」
「いいの? 他所のバンドなのに手伝ってもらっちゃって……」
「あはは! いいのいいの。私はサブメンバーみたいなものだしね。プリズムリバーの子たちは基本的に姉妹三人で練習するから、私とは前日のリハで軽く音合わせして終わり。新曲発表の時はもっと練習するけど、まあ基本はそんなものよ?」
雷鼓はそう笑いながら言う。
う〜む、売れっ子ともなると余裕が出てくるのか、案外そんなものなのだろうか?
というか雷鼓もプリズムリバー楽団も、楽器が体の一部みたいな所があるので、俺らが息をするのと同じように演奏出来てしまうのかも知れない。
「だから、基本私は年中暇なのよ。なんなら私も楽しみたいから、声さえ掛けてくれればいつでも行けるわよ」
「やったぁ! じゃあじゃあ、今日からさっそく一緒に練習しようよ! オーディションで弾いた曲をもっと詰めたいから!」
「いいわよ〜。でもこれから打ち合わせがあるの。それが終わってからで構わない? すぐに済むと思うから」
「分かった、じゃあここで待ってるね!」
響子に見送られながら、雷鼓は軽く手を振って本殿の方に向かっていった。
いやあ、これは助かる。バンドでドラムがいないのは致命的だからな。
ベースもギターも全部の楽器が大事だが、ドラムは建物で言うなら基礎だ。そこがいい加減だと上にどんな上等な家を乗っけても全部崩れてダメになる。
さっきのミスティアのギター走りすぎ問題も、ドラムがリズムの基礎を取ってくれれば防げた部分だ。
このまま本番でも雷鼓さんの力を借りれないか、後で交渉してみるか……。
「楽しみだね! 雷鼓さんと一緒にやるの!」
響子がそう屈託のない笑みを浮かべて言う。
……可愛いなあ響子は!
俺は思わず響子の頭をぐしゃぐしゃに撫でてしまう。
響子がわんこ系女子過ぎて、俺の中の犬好きの血が思わず暴走してしまったのだ。
「わっ! やだもー! 何すんの、やめてよ霧夜っ!」
そう口では言うが、響子もまんざらでもないのか、キャッキャと笑いながら受け入れる。
さすが人間友好度極高だ、全然嫌がらないどころか少し喜んでるようにすら見える。
「まったく何やってんだか……」
そう呆れるミスティアを他所に、俺はわんこ響子の髪の感触を思う存分楽しんだ。