幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第四十六話 ライブに向けて

 

「そう言えば……あなたたちこの曲以外にレパートリーはないの?」

 

 マリオネットを演奏したあと、休憩中に雷鼓さんがふとこう口にした。

 

 オーディションから二日後、今日も今日とて俺たちは雷鼓さんたちプリズムリバーwithHのプライベートスタジオで練習させてもらっていた。

 

「イベントでは割り振られた時間によるけど、大抵五〜六曲は演奏することになるわよ? これは凄くいい曲だけど、さすがにこれ一本だけじゃ厳しいんじゃないかしら」

 

 その雷鼓さんのもっともな指摘に、俺たち三人は顔を見合わせる。

 

 確かにそれはそうだ。複数出演者がいるイベントとはいえ、一曲やってハイ終わりなんてことにはならない。

 

 だが、そこら辺は抜かりはない。

 

「実はもう考えてきてるんです。このスタジオに来る前に、ミスティアの家で何曲か覚えてきてまして。今日はそのお披露目もさせてもらおうかなって」

 

 俺はそう答える。

 

 実際にはゆかりんが持ってきてくれたレコードジュークで、めぼしい曲を聴いてチョロっと練習しただけだ。

 

 だがそれで充分。

 

 チート性能の響子はそれだけで普通に丸々一曲記憶できるし、俺が元々弾ける曲ばかりを選んだ。

 

 あとはミスティアと俺がパート分けしてうまいことやれば当日までに何曲か形に出来るだろう。

 

「あら、そうなの? それは楽しみね! じゃあまずは私抜きで三人だけで演奏してみてくれない?」

 

 俺たちは雷鼓さんの言葉に頷いたあと、各々の準備を整える。

 

 響子がマイクに付くのを確認して、俺とミスティアがギターの調整を終わらしたあと――ミスティアのギターを皮切りに演奏が始まった。

 

「へえ……!」

 

 雷鼓さんの感嘆する声とともに、俺も演奏に加わった。

 

 ――いとしのレイラ。

 

 これを曲目に加えようと思ったのは、以前ミスティアの屋台で演奏した時に、妹紅さんがこれをいたく気に入ってたからだ。

 

 その反応を見て、この曲は幻想郷でもイケると確信した。

 

 しかもギターがめちゃくちゃカッコいい割に弾くのはそれほど難易度が高くないので、覚えやすいというのもある。

 

 随分と古い曲でしかも洋楽だが、基本的にゆかりんが持ってきたレコードにある曲しか響子がラーニング出来ないので、必然的に古い世代の名曲に限られる。

 

 そしてその時代のロックと言えば、やはりイギリスやアメリカが最盛期なので、どうしても洋楽の比率が高くなってしまうのだ。

 

「!?」

 

 響子が歌い出したのを聴いて、雷鼓さんが驚きで目を丸くする。

 

 そら驚くよな……俺も最初聴いた時びっくりしたもん。

 

 喉から音源が出てくる響子だが、実は英文の発音もそのまま真似できるらしい。

 

 歌ってる本人は英語はほとんど分からないので、聴いた音をそっくりそのまま再現してるだけという話だ。

 

 それでこの完成度かよ……やっぱり妖怪ってチートだよな。

 

 人の声をそのまま返す山彦なだけはあって、聴いた声を再現することに関しては天性のものがある。

 

『Layla!』

 

 ミスティアもサビに美声のコーラスを合わせる。

 

 名前的にもミスティアはヨーロッパ系の怪異っぽいので、むしろ日本語よりも西洋の言語のほうが発音しやすいとかあるんだろうか?

 

 ……ていうか、ミスティアって幻想郷的には夜雀ってことになってるけど、種族的にセイレーンじゃね??

 

 名前ローレライだもんな……。

 

 恐らく最初にゆかりんが雑に夜雀認定してしたのがそのまま定着してしまったのだろう。

 

 まあ妖怪は人の噂や本人の精神次第で如何ようにも在り方が変わる存在だ。

 

 幻想郷縁起にそう記されて、ミスティア自身も特に否定していない以上、もう彼女は夜雀ということで良いのかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに、最後の一音を鳴らして曲が終わる。

 

 いとしのレイラは前半と後半で曲調がガラリと変わる珍しい構成の曲だが、俺らが演奏するのは基本的に前半だけだ。

 

「いいわぁ! 歌詞は分からなかったけど最高よ! っていうか、響子のそれは何度聴いてもビックリするわね……。あなたの見た目からそんな渋くてダンディな声が出てくるなんて普通想像が付かないわよ」

 

「えへへ」

 

 困惑と称賛が入り交じった雷鼓さんの言葉に、響子は照れくさそうに頬を掻く。

 

 まあこんなわんこ系ロリの口から、エリック・クラプトンの音源が出てきたらビビるわな。

 

「洋楽なんですけど幻想郷でも受けますかね? 歌詞が通じない曲が受け入れられるか不安で」

 

「皆結構雰囲気だけでライブを楽しんでるしイケるんじゃないかしら? むしろ、英語はなんとなくカッコいいって里の若い子たちも多いし、人気が出ると思うわ」

 

 雷鼓さんもそう太鼓判を押してくれる。

 

 幻想郷の若者も外の世界の若者とミーハーな感性はあんま変わらないのか……。

 

「よーし、今の一回でなんとなくリズムは把握したわ。今度は私がリズムキープするから、全員で今の曲をやりましょう!」

 

「うっす!」

 

「ええ!」

 

「はーい!」

 

 そう俺らが返事をして準備をした次の瞬間――

 

「うふふ、お取り込み中のところ、失礼しますわね」

 

「うわぁ!」

 

 突如目の前の虚空からぬるりと美女が姿を現して、俺は思わず声を上げる。

 

 ゆかりん!? なんでこんな所に!?

 

「ちょっ……あなた! ここはうちのプライベートスタジオよ!? いくら偉い人でもいきなり入ってくるのは不躾なんじゃないかしら!?」

 

 雷鼓さんが驚いてスティックを取り落とすも、そう抗議する。

 

「ふふ、ごめんなさいね。少しこの子たちに用事がありましたので、無礼を承知で上がらせて頂きましたわ」

 

「用事ですか?」

 

 俺がそう尋ねると、ゆかりんは口元を扇子で隠しながら、俺たち全員に向かって言った。

 

「日程が正式に決まりましたので、それをお伝えに参りましたわ。本日より丁度二週間後の立秋の日――正式名称は守矢神社奉楽祭『モリヤ・ロック』に決まりました。恐らく幻想郷史上最大の祭典となるでしょう。そのイベントのメインは……あなたたち、鳥獣伎楽が務めることになりましたわ」

 

「ええっ!?」

 

 その言葉に、俺は思わず声を上げる。

 

 え、俺らが大トリ!? プリズムリバーwithHを差し置いて!?

 

 他二人はあまりピンと来ていないのか、キョトンとした顔で首を傾げている。

 

 なので代わりに俺が詳しく尋ねる。

 

「なんでそんなことになったんです? もっとメインに相応しい人たちがいると思うんですけど……」

 

「そこはマネージャーの腕の見せ所というやつですわ。あなた方鳥獣伎楽にだけ受からせる気のないオーディションを強いたことを盾に、色々譲歩していただいたのです。具体的には演出面や、ギャラ方面などでね?」

 

 そう言って妖しく微笑むゆかりんに、俺は思わずブルリと震え上がる。

 

 これはマミゾウからそうとう搾り取ってるな……。正直あの人もただの中間管理職だし、あまりいじめないで上げて欲しい。

 

「じゃあ、賢者さんが私たちが目立つようにいっぱい頑張ってくれたんだね!? ありがとー!」

 

 そんなことは露知らず、響子は無邪気に喜ぶ。

 

「ふふふ、どういたしまして。うちの大事なタレントの為ですもの。マネージャーのわたくしが一肌脱ぐのは当然ですわ」

 

「ほ、本当に賢者さんが手を貸してるのね……。話には聞いてたけど、正直この目で見るまで正直半信半疑だったわ」

 

 俺たちとゆかりんの会話を聞いて、雷鼓さんが驚いたようにそう呟く。

 

「あら、私がこの子たちに肩入れしてるのがそんなに不思議ですか? 大人気バンドのドラマーさん」

 

 雷鼓さんにゆかりんは妖しげに微笑み返す。

 

「そりゃあね。こう言っちゃ悪いけど、あなたがこういうことに興味があるとは思えなかったもの」

 

「ふふ、わたくしも人並みに音楽は聴きましてよ? ですが、そうですわね……異変でもないのに、わたくしがごく一部の事柄にここまで介入するのは極めて希なことです」

 

 その言葉に、雷鼓さんはまた顎に手を当ててブツブツと考え始める。

 

「やっぱり鳥獣伎楽は賢者がテコ入れするほど期待視されてるのかしら……ねえ、霧夜くん、私が掛け持ちでメンバー入りする件、もう少し返事を待ってくれない? 今ちょっとルナサと連絡が取れないのよ。本番までに結論が出ると思うから」

 

「あっ、はい! 全然大丈夫ですよ! いつでもお待ちしてます!」

 

「――あら、新しい人気バンドが出そうになったら、今度はそちらに鞍替えですか? 存外に世渡り上手ですのね。……いえ、貴女が付喪神になった経緯を考えればさもありなんと言ったところかしら?」

 

 その言葉に、ゆかりんは扇子で口元を隠して、クスクス笑いながら厭味ったらしいことを言う。

 

 いやいやいや! せっかく上手くまとまりそうだったのに変な空気にするのやめてくれや!

 

 皆からちょっと遠巻きにされてるのはそういうとこやぞゆかりん!

 

「勘違いしないでくれる? 私はあくまでプリズムリバーwithHの堀川雷鼓よ。それはこれからも変わらない。……だけど、世の人々の流行は移り変わりが早い。私たちの人気だってきっと永遠じゃないわ。今いるバンドの為に、新しく台頭してくる子たちと繋がりを持っておくのは大切なことよ」

 

 雷鼓さんはゆかりんの皮肉に、そう毅然と返す。

 

 おお、あのゆかりんにはっきり物申せるとは……流石雷鼓姉さんだ。

 

 ゆかりんはゆかりんで、勝手に結界を超えて依代を見つけてきた雷鼓姉さんには一言釘を刺しておきたかったのだろうが……俺らのいないとこでやってくれ!

 

 どっちもタイプは違えど女傑同士のバチバチの会話なんて、横から見てるこちらからすれば生きた心地がしないんだわ。

 

「ふふふ、そういう事にしておきましょう。……一応伝えておきますが、イベントで鳥獣伎楽に振り分けられた時間は半刻。十曲ほど演奏することになりますわ。合間合間のマイクパフォーマンスなども考えておいた方がいいでしょうね」

 

「じゅ、十曲ですか!? あと二週間で!?」

 

 俺はその準備期間の短さに驚愕する。

 

 半刻というのは幻想郷で使われている時間単位で、外の世界で言うなら一時間に当たる。

 

 その間ずっと演奏し続ける訳だから、十曲くらいは必要なのは分かるが……。

 

「十曲くらいならすぐ出来るんじゃない? 今の二曲に加えて、幻想デストロイヤーに、妖怪ディストピアでしょ? 他にも――」

 

「ダメダメ! この際だからはっきり言っておくけど、今回のイベントでは鳥獣伎楽の既存の楽曲は一曲も使わない! それをやった瞬間に俺はメンバーを抜けるぞ!」

 

「ええ〜〜!?」

 

「なんでよ!」

 

 とんでもないことを提案し始める響子に、俺は食い気味に否定する。

 

 二人は不満げだが……いやあんな曲演奏出来る訳ないだろ!

 

 というか妖怪ディストピアとかよくゆかりんの前で言えたな! タイトルからして幻想郷に不満たらたらじゃねーか!

 

「せっかく大舞台に立たせて貰えるのに、各方面に中指立てるような演奏したら出禁になるだけでしょ! 今日練習した二曲と、あと八曲なんとかして覚えよう。響子の覚えの速さなら、あとはギターの俺たちが頑張れば何とかなると思うから」

 

「うう……分かったよう」

 

「ぐっ、仕方ないわね。でも、当日までに間に合うの?」

 

 渋々同意する二人に、俺はこう答える。

 

「幸い、賢者さんが渡してくれたレコードの中には、俺が元々弾ける曲もいっぱいあったから、それを中心に練習すればなんとかなると思う。響子はその間、マイクパフォーマンスやライブの魅せ方なんかを研究して欲しい」

 

「分かった!」

 

「ふう……またしばらくお店はお休みね、これは」

 

「いいわねいいわね! いよいよ本番が近くなってきたって感じだわ!」

 

 途端に慌ただしくなる俺たちを他所に、雷鼓さんがワクワクしたように言う。

 

「すいません、かなりタイトなスケジュールになりそうなんですが……雷鼓さんも手伝って頂けませんか? まだ外部の方に頼むのは心苦しいんですが……」

 

「乗りかかった船だもの、もちろん構わないわよ。流石に前日は自分たちのリハがあるから無理だけど、それまでなら付き合ってあげられるわ!」

 

 そう雷鼓さんは頼もしい返事をしてくれる。

 

 ありがてえ……! 正直雷鼓さんがいるといないとでは練習の質が段違いだ。

 

 なんとかして当日も叩いて欲しい所なんだが、それはメンバー入りするか否かの答えを聞いてからの方がいいだろう。

 

 そうして俺たちはゆかりんに見守られながら、再びセッションを始める。

 

 しかし幻想郷史上最大の規模ってマジかよ……他ならぬゆかりんが言うんだから本当なんだろうな。

 

 俺はその大トリを任されるという事実に震えつつ、当日に向けて少しでも完成度を上げるよう練習に集中することにした。

 

 

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