「それじゃあ、ポーズお願いしますね〜!」
「…………!」
そう言われ、俺らはグリーンバックのカーテンを背に、それぞれの楽器を構えてポーズを決める。
俺は鳥獣伎楽に乱入した時のように、顔にお札を貼り付けてメロイックサインを。
響子やミスティアは、いつものブラックコスチュームでバッチリ決めて、ドフ○ミンゴみたいなファンキーなサングラスを掛けていた。
幻想郷のどこで売ってたんだよそんなもん……。
「はーい、良いですよ〜! ありがとうございます!」
そう言って、バシャバシャとフラッシュを光らせたあと、カメラマンが言う。
そのカメラマンこそ、他ならぬ幻想郷最速のブンヤ、射命丸文であった。
本来文ちゃんに会えて興奮する所だが、かなり予定が押しているらしく慌ただし過ぎて感慨にふける暇もなかった。
本番五日前、ポスターの撮影と独占インタビューの為に再び守矢神社に足を踏み入れた。
本来俺らは出演する予定ではなかった為、こんなギリギリのタイミングでの撮影とインタビューになったらしい。
「それじゃあ、そのままインタビューに入りますんで、こちらに着いてきて下さいね〜」
そう先導する文ちゃんに、俺たちはぞろぞろ着いていく。
文ちゃんは高下駄で一見かなりの高身長に見えるが、実際は150cmそこそこくらいだ。
細いスレンダーな体型で、ミニスカから覗くスラっとしたお御足が眩しい。
何よりウェーブがかった艶やかな黒のショートヘアと、そこから少しだけ突き出たエルフ耳!
エルフ耳はいいぞぉ! いずれガンに効くようになる!
「おっふ!」
俺がそんなことを考えていると、突如としてドスンと脇腹に鈍い痛みが走る。
見るとそこには、響子が俺の胴体目掛けて頭突きをしている所であった。
「い、いきなり何すんの……」
「なんか今、だらしない顔してたの!」
「ええ……」
そう言って響子がぷくっと頬をふくらませる。
最近なんだか響子が凶暴だ……。反抗期だろうか?
雷鼓さんと話してたりすると急に不機嫌になったり、いきなり噛み付いてきたりするから困ったものだ。
まあその後、泣いて謝ってきたり抱きついてスリスリしてくるのがもう可愛くて毎回許してる俺にも問題があると思うが。
「馬鹿なことしてないでさっさと行くわよ! まったく、何やってんだか……」
「ふふ、大変仲がよろしいようで」
そう言って、鳥妖怪二人はスタスタと先に行ってしまう。
「もう、待ってよミスティア!」
「ちょっと待って、今のリバー入ったかも……」
俺は女の子三人に置いてきぼりを食らいながら、時間差で効いてくる脇腹を抑えつつヨロヨロと追い掛ける。
しばらく進むと、俺たちはオーディションの時に待機室として使っていた応接間に再び通された。
高級そうなフカフカの革のソファも、外の気候とは関係なく年中適温を保つ空調も、外の世界では普通にあったものだがこの幻想郷では極めて珍しいものだ。
電気が通っている妖怪の山と、そしてそれらのインフラを地底の原子力発電所によってこの守矢神社が担っているのだ。
金が有り余っているのも当然と言える。
「さてさて、本日はインタビューに応じて下さりありがとうございます! あ、私こういうものです」
「あ、ども」
応接間で互いに向き合って座るや否や、文はシャツの胸ポケットから名刺を人数分取り出してこちらに差し出した。
響子やミスティアは迷惑そうに拒否したが、俺は喜んで受け取る。
だってこれ公式のファングッズみたいなもんでしょ。あとで封筒に入れて大事に保管しよう。
ちなみに名刺には『文々。新聞特派員 射命丸文』と書かれていた。
「さて、この度モリヤ・ロックに出演が決まった鳥獣伎楽ですが、以前はミスティアさんと響子さんの御二方だけでしたよね? 一体どういった経緯でそこの三人目――霧夜さんが加入したのか聞かせてもらってもいいですか?」
そう質問してくる文に、俺たちは顔を見合わせたあと、加入した経緯を説明する。
これは別に隠してることじゃない。何かしらの破天荒エピソードがあった方が皆の印象に残りやすいだろう。
「――あやややや! それでは、霧夜さんが人間の身でありながら、妖怪のライブに乱入したことがきっかけだったのですか!? それはまた随分な無茶を」
文は面白い話が聞けたとばかりに、愛用の手帳――文花帖にカリカリと万年筆で書き付ける。
思えば随分昔のことに感じるが、実際はまだ一月ちょっとしか経っていない。
そこから濃密な時間を過ごして、今ここに至ったと言うわけだ。
「なるほどなるほど……で、今回のライブでは、大人気のプリズムリバーwithHを押し退けて、大トリとして異例の大抜擢を受けているそうですが、そのことに関して何かコメント頂けますか?」
「…………あ、俺が答えて大丈夫?」
「好きにしなさいよ」
「うん! 霧夜がこういうの一番上手だもん!」
一応二人に許可を取ってから、俺が答えた。
「押し退けたというのは若干語弊がありますが……プリズムリバーwithHはとても偉大なバンドですので、その後ろを演奏するというのはとても光栄に思います。ただ今回ロックイベントということで、自分たちがメインに選ばれたのかな、と」
俺はそう当たり障りのない答えを返す。
実際にはゆかりんマネージャーが色々暗躍して大トリにねじ込んでくれたらしいが、それをバカ正直に言うとまた面白おかしく書かれそうだ。
「ほうほう、といいますと?」
「俺たち鳥獣伎楽は、ギターを使ったオーソドックスなロックンロールをやってます。なので、今回の『モリヤ・ロック』というイベントの趣旨には一番合ってるので、そう言った意味で抜擢されたのかなー、と」
「ふむふむ、なるほど……『他のバンドは全て下郎! 俺たちこそが本物のロックだ!』、と……」
「ちょっ……! 何書いてんすか!? そんなこと一言も言ってないでしょう!」
俺は、今まさに目の前で捏造記事が作成されそうになっているのを聞いて、思わず文ちゃんの手帳に手を伸ばす。
しかし天狗の速さにただの人間の俺が着いていけるはずもなく、ヒョイ、と簡単に躱されてしまう。
「あややや! 乱暴はダメですよ? この清く正しい射命丸、真実を伝える為に暴力には決して屈しません!」
「いやいや、真実じゃないことを書かれそうだから言ってるんですよ! 他のバンドに喧嘩を売るような書き方されると困ります!」
俺がそう抗議するも、文ちゃんはどこ吹く風で、いつもの人好きのする笑顔を浮かべながら言った。
「まあまあ落ち着いて下さい。この射命丸文、天狗の記者の誇りに掛けて新聞に嘘偽りは書きませんから! ご自身のバンドの宣伝の為にも、ここは是非インタビューにご協力を!」
「ぐぬ……!」
そうニッコリ笑顔を浮かべる文ちゃんに、俺は歯ぎしりしながら睨みつける。
くそっ、このパパラッチ天狗め……!
文ちゃん、口では裏付けの取れない記事は書かないポリシーとか言ってっけど、その裏取りがガバガバなせいで普通に捏造記事バンバン書いてるからな……。
一のことを十や百に誇張して書くのは当たり前で、読者受けの為に自分の誘導したい方に偏向記事を書くなんてのも普通にやる。
命蓮寺の一員として、酔蝶華でひじりんに思いっきり濡れ衣着せたのは許さんからな!
とはいえそんな文ちゃんでも、まだ真面目に取材して書くだけ天狗の中ではかなりマシな部類らしい。
天狗の新聞大会では、毎回一から十まで捏造した記事を面白おかしく書き連ねた奴が優勝しているらしい。どないなっとんじゃ天狗社会のモラルは。
とはいえ文ちゃんも同じ穴の狢だ。ここから先は一言も失言は許されない、変なこと書かれないためにも慎重に答えなければ……!
「ふふふ、落ち着いたところでインタビューを続けましょうか?」
「ぐぐぐ……!」
俺は、警戒度をマックスまで高めながら、目の前の人好きする笑顔のパパラッチに向き合った。
* * *
「うおお、すげえ……!」
次の日――俺は人里を徘徊しながら、各所で張られているポスターと、それに集まる人集りに目をやる。
どうやらかなり大々的に広告を打っているらしい。
つい先日自分たちが撮った写真が、そのままポスターになっているのはなんだか感慨深いものがあるな……。
幻想郷史上最大の音楽の祭典という触れ込みも相まって、人里の中でも祭りの機運が高まっているのを感じる。
ちなみに俺もポスターに映ってるが、幸い顔にデカい御札を貼っているというコスチュームの関係上、誰にもバレてないようだ。
まあバレたところで俺みたいなまだ無名のバンドマンに人が群がるとは思えないが。
「号外でーす! 号外ー!」
天狗が人里の真上を爆速で飛び交って、はた迷惑にも号外を大量にばら撒いていく。
速すぎて見えなかったが……今の声は文ちゃんだろう。
拾って読んでみるとそこには、出演者たちのインタビュー記事の他に、左上に文々。新聞特別号と書かれていた。
プリズムリバーwithHや、女子二楽房&KKR48+514の記事にざっと目を通してから、俺たち鳥獣伎楽withKのインタビュー内容に映る。
どうか変なこと書かれてませんように……!
俺は祈るような気持ちで鳥獣伎楽の記事を開いた。
―――――――――――――――――
期待の新星!? それともイベントの壊し屋!?
今回の大トリを務める、鳥獣伎楽withKの御三方の真実の顔に迫る!
「――幻想郷に本物の音楽は存在しない」
鳥獣伎楽の新メンバー、K氏はそう不敵に語る。
『まず今回のイベントは、うち以外の全てのバンドは前座に過ぎません』
『そうなのですか? プリズムリバーwithHなどの大人気バンドも参加してますが……それよりも鳥獣伎楽の音楽の方が優れていると?』
本稿記者がそう尋ねるも、K氏は平然とこう言い放った。
『あんなものは音楽ではありませんよ。今回のイベントで幻想郷の人々は本当のロックというものを知るでしょう』
『なるほど……ではあくまでプリズムリバーwithHより自分たちの方が格上だとおっしゃりたいんですね?』
その瞬間、何か気に障ってしまったのかK氏は本稿の記者の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
『あんな雑魚どもと俺たちを一緒にすんじゃねぇ! 喧嘩ならいつでも買ってやるぜ!』
『暴力はやめて下さい! 私はただの記者ですから!』
本稿記者が必死に宥めるも、怒りが収まらないK氏、果たしてこんな状態でまともにライブ演奏できるのか――
―――――――――――――――――
「なんだこのデタラメ記事!?」
そう全てを読み切る前に、俺はその号外をビターンと地面に叩きつける。
あのパパラッチ野郎! ますます酷くなってんじゃねーか!
何が嘘偽りは書きませんだ!
一の事実を十どころか一億倍くらいに誇張してんじゃねえ!
しかもバンドの見所とか、イベントに対する心構えとか、加入した経緯とか結構長々とインタビューしてたのに、全カットして冒頭のとこだけ使ってやがる!
全盛期のリアム・ギャラガーでもここまでイカれてねえぞ、どういうキャラ付けなんだよ俺は……。
「このKってのはとんでもねえヤツだなぁ」
「ああ、ふてえ野郎だ! 一発ガツンと言ってやらなきゃ気がすまねえ!」
そう号外を読んでいる人々から、口々にそんな言葉が聞こえてくる。
おいおいおい……知らん間に俺めっちゃ嫌われてんじゃねえか!
こうなってくるとマジでコスチュームがアレで良かった……顔バレしてたら今頃人里で袋叩きに遭ってるだろ。
おのれマスゴミ天狗め……! この恨み絶対忘れんぞ、聖に言いつけてやるからな!
俺は密かに復讐を誓いつつ、騒がしい人里を尻目にコソコソとその場を立ち去るのであった。