その日の夕方――俺たち鳥獣伎楽は、イベント前の壮行会としてミスティアの屋台で食事を摂っていた。
本来ならメンバーのみの会食の予定だったが、共通の知り合いでもある妹紅も招いていた。
「あっはっはっは! それはなんとも災難だったな!」
妹紅は酒の入ったコップ片手に、腹を抱えて大爆笑する。
「いやいや、笑いごとじゃないですよ! めちゃくちゃなんですからあの人……」
その隣で、俺は怒りを抑えきれずに妹紅に愚痴る。
話題は他ならぬ、今日配られた号外のことだ。
あの捏造甚だしい記事のおかげで、俺は今人里で悪い意味で時の人となり、なんとも居心地の悪い思いをしていた。
「ひぃっひぃ……あのブンヤのたちの悪さは有名だからな。ちょっとでも隙を見せるとあることないこと書きまくられるぞ。まあ、流れ弾に当たったとでも思って諦めるんだな」
妹紅は笑い過ぎて涙すら流しながら、喉をしゃくりあげる。
「あんたがうかつな受け答えしたからじゃないの? ……ったく、あんな奴に付け込まれるなんて」
「いやいや、横で聞いてたでしょ!? 俺絶対変なこと言ってなかったって!」
屋台で鰻を焼きながら溜息をつくミスティアに、俺はそう反論する。
いやもう、理不尽にも程がある。今回のことに関しては俺一切落ち度ないと思うんだけど……。
「あははは! まあいいよ。インタビューでもうちが一番目立ってたし。悪名は演奏で取り戻せばいいんだって!」
そう言って、響子が俺に串焼きを持ってきてくれる。
「ありがとう。やっぱりそれしかないかなあ……。いい演奏したところで頭おかしいやつと思われてることには変わりなさそうだけど……」
俺はがっくりと項垂れながら串焼きを頬張る。
「幻想郷なんてそこら中頭おかしいやつばっかりなんだ。今さら一人増えた所で大した話題にもならんさ。まあ、あのブンヤに関しては今度会った時にでも私がシメといてやるよ。面白い話聞かせてもらった礼だ」
そう言って、妹紅はくっくと喉を震わせながら、酒を煽る。
「お願いしますよ、ホントに……。あ、そうだ。そう言えば妹紅さんに渡したいものがあるんですけど」
「ん、私にか?」
その言葉に、妹紅はキョトンとしながら首を傾げる。
俺は懐から細長い紙を二枚ペラっと取り出したあと、妹紅の前に差し出す。
実は今日妹紅を誘ったのは、元々全員と仲が良かったのもあるが、これを渡すためでもあった。
「これ、イベントの招待チケットです。出演バンドはそれぞれ五名まで身内を招待できるんですけど、俺たち三人で相談した結果、妹紅さんがいいんじゃないかって話になりまして」
「え、ええ!? いいのか? 私なんかなんの貢献もしてないし、ただこの店の常連ってだけだぞ?」
妹紅はその言葉に、申し訳なさそうに後頭部を掻く。
「いいんですよ、俺ら三人の共通の友人ですし」
「そうね、妹紅さんが人間の護衛をしてくれるようになったおかげで、うちの屋台も繁盛するようになったし!」
「私たち仲良しでしょっ!」
「……そっか、ありがとな。それならお言葉に甘えさせてもらうよ」
そう言って、妹紅はやや照れ臭そうに鼻の頭をかきながらチケットを受け取る。
「……ところで、なんで二枚なんだ?」
妹紅は首を傾げながらそう尋ねる。
「ああ、実は慧音先生も誘って頂ければと思いまして。あの人にも個人的に俺がかなり世話になってるんで、よければお二人ご一緒にどうかと」
「ああ、なるほどな。……あの堅物が来るかは分からないが、人からの好意を無下にするような奴じゃない。私から声を掛けておくよ」
「お願いします」
俺はそう言って頭を下げる。
命蓮寺のメンバーとゆかりん率いる八雲一家は、運営側なので既に関係者席が用意されることが決まっている。
よって招待をする必要はない。あとの三枚はまあ適当に配ればいいか。
「ところで、今回はなんかお前たちが大トリらしいけど、どんな曲を演るんだ? 前と同じ感じの叫ぶやつか?」
そう妹紅がコップ片手に尋ねる。
「今回のイベントでは既存の曲は一曲も演りませんよ。全部外の世界からの楽曲を俺らなりにアレンジしたものを演奏します。なんで、妹紅さんも楽しめると思いますよ」
「うう……幻想デストロイヤーはうちの代表曲なんだから、一曲くらい演奏させてくれてもいいのに……」
俺の言葉に、響子が不満げにそう愚痴る。
「ダメダメ! 守矢神社のイベントで、守矢神社の悪口書いてるような曲演奏出来るわけないでしょ! それでなくても相当人を選ぶ曲なのに」
「あっはっは! なるほど、実際には霧夜が他二人のストッパー役になってたんだな。紙面ではKが一番頭のおかしいやつみたいに書かれてるけどな」
号外の紙面をペシペシと叩きながら、妹紅が愉快そうに言う。
「その記事は十割嘘ですからね。大体俺が天狗の胸ぐらなんか掴めるわけないでしょ。ただの人間ですよ」
「それもそうだ」
そう言うと妹紅は、またツボに入ったのかケラケラと笑い始める。
それを横目に、俺がやれやれと鰻の串焼きを頬張っていると、突如として周囲からザワザワと会話する声がこちらに近付いてくる。
「おっ、今日は久々にやってるじゃねえか」
「女将、四人分座らせてもらうぜ!」
そう言って、四人がけの席に座ったのは、この付近に住まう常連の妖怪たちだろう。
「ちょっと、今日は身内の壮行会のために開けてるだけで、ホントは休みなのよ? 鰻だって少ししか仕込んでないし」
「へへへ、まあそう固いこと言うなって。鰻がねえなら軽い肴と酒だけでもいいからよ」
「はあ……もう仕方ないわね。響子、お願い出来る?」
「はーい!」
結局俺らの壮行会にも関わらず、普通にお客さんが次々と入ってきて、ミスティアの屋台の臨時開店となってしまった。
まあその分大勢の人から応援されたので、実質壮行会ということにしておこう。
なんかその妖怪たちからすら俺はヤバい奴扱いされてたけど……顔出てなくて本当に良かった。
俺は笑いを噛み殺す妹紅を横目に、その日は小さく縮こまりながら壮行会を終えた。