幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第五十一話 顔合わせ

 

 ――そして、とうとうイベント前日、俺たちは合同リハのために、守矢神社に三度足を踏み入れることになった。

 

 この二週間めちゃくちゃ練習したおかげか、俺たち鳥獣伎楽はバキバキに仕上がっている。

 

 十曲はほぼ完璧に仕上げてきたし、演奏中のパフォーマンスやMCの練習だってしてきてる、主に響子が。

 

 それもこれも手伝ってくれた雷鼓さんのおかげだ。

 

 雷鼓さんはまだ掛け持ちでメンバー入りするかどうかの返答は聞いてはいないが、どちらにせよ今日全てがはっきりするだろう。

 

「うおお……!」

 

「わぁ!」

 

「すっご……」

 

 ロープウェイから降りた途端、俺たちは守矢神社を前に口々に声を上げる。

 

 既にそこにはステージが半ば完成しており、河童の技師たちが慌ただしく設営に駆けずり回っていた。

 

 まず驚いたのはその規模のデカさだ。

 

 守矢神社の境内をフルに使い、その上で更に山肌の木々を伐採して、そこにズラリと座席を設置している。

 

 周辺にはいくつも巨大な御柱が並べられ、なんとその真上にも座席がいくつも設置されている。

 

 普通の人間に登れるはずが無いので、あれは空を飛べる能力者や妖怪たちの利用するVIP席と言えるかも知れない。

 

 そしてその合間を縫うようにずらりと出店が並べられ、飲食物やグッズなどの看板が今から設置されていた。

 

 客席の収容人数はおおよそ三万人くらいはあるだろうか?

 

 外の音楽イベントに比べると大したことのない人数に思えるが、幻想郷の人口を考えると相当な規模であることが伺える。

 

 数メートルはあろうかというバカでかいスピーカーや、とんでもない電力を使いそうな大きな照明をいくつも設置しているところから見るに、守矢神社がこのイベントにどれだけ本気かうかがい知れるというものだ。

 

「すごいすごい! こんなおっきなステージ初めて見たよっ!」

 

「こ、こんなところで演るの? 私たち。なんか今から震えてきたわ……」

 

 無邪気に喜ぶ響子を他所に、ミスティアは少し圧倒されているようだ。

 

 鳥獣伎楽のステージはいいとこ五十人くらいだったからな。いきなりこんな大舞台に立つとなると尻込みするのは分からなくもない。

 

 だけど、俺らだって出来ることはやってきたんだ。明日ここにいる観客全員を盛大に沸かせてやる!

 

 俺がそう野心に燃えているのを他所に、遠くからこちらに駆け寄ってくる人影が見えた。

 

「霧夜くん!」

 

「あ、雷鼓さん。おはようございます!」

 

 俺は見知った人を見つけてホッとしながら挨拶を交わす。

 

「三人とも来たのね。びっくりしたでしょう? 私も初めて見たときに驚いたわ。まさか守矢神社がここまで本気とはね」

 

 大型の設備を見上げながら、雷鼓さんが感心と呆れが混ざったような口調で言う。

 

 ……確かにこれ、相当金使ってるよな。

 

 守矢神社は電気のインフラも握ってるから金持ちなんだろうけど、それにしたってこれはかなりの博打なんじゃないだろうか。

 

 それだけ守矢神社が信仰を重要視しているのか、イケると思ったものにはリスク度外視で全ツッパする、神奈子様の勝負師気質が現れているのかも知れない。

 

 その尋常じゃない行動力のせいで幻想郷では毎度お騒がせの守矢神社だが、結果的に繁栄してるところを見るとやり方は間違ってないのだろう。

 

「あの、ところで雷鼓さん、例の件なんですけど……」

 

 俺はその考えを他所に、雷鼓さんに気になっていたメンバー入りの件について返事を問う。

 

 ドラムに雷鼓さんは絶対欲しい! だけど、駄目なら駄目で、どうにか今回の本番だけでも叩いてくれないか交渉しなければならない。

 

 今更ドラムなしのバンドは考えられないのだ。

 

「ああ、そうね……そのことについて、ちゃんと返事をしておかなきゃならないわよね。私のメンバー入りについてだけど……」

 

 雷鼓さんはそう言うと、こめかみを抑えながらふう、と物憂げに溜息をつく。

 

 ま、まさか……ダメだったのか? この今後は雷鼓さんなしで、ドラムを探さないといけなくなるのか!?

 

 俺がそう絶望しかけた、その時――

 

「オッケーよ! プリズムリバーwithHの方に影響が出ないなら、掛け持ちでも全然構わないって! なので明日の本番も私がドラム担当するから、よろしくね!」

 

「おおっしゃあ! 良かったー! ビックリした、てっきりダメだったのかと……」

 

 俺は、一転して笑顔で指で丸を囲う雷鼓さんに、思わずガッツポーズする。

 

「やったぁ! 雷鼓さんこれからもよろしくねっ!」

 

「何だかんだでもうあなたがメンバーに居ないのは考えられないから嬉しいわ」

 

「ふふ、よろしくね皆。私が入る以上、リズムキープは全面的に任せてもらって構わないわ!」

 

 そう何とも頼もしい返事をする雷鼓さんに、その場にいる全員がおお〜、という歓声とともにパチパチと拍手を返す。

 

「――雷鼓、ここにいたか」

 

 そんな中、俺たちの背後からダウナーだが透き通った綺麗な声が響く。

 

 一斉に振り向くとそこには――てっぺんにそれぞれ月と太陽と星のモチーフをつけた帽子を被る、三人組の姿があった。

 

 綺麗な金髪のショートヘアで、どこか物憂げな眼差しを向けてくる長女のルナサ。

 

 フワフワした青みがかった銀髪に、ニコニコ顔で全身から幸せオーラを発している次女のメルラン。

 

 茶髪につり目で、そこはかとなく猫を思わせる雰囲気の生意気そうな三女のリリカ。

 

 幻想郷で最も有名なバンド、プリズムリバー楽団がその場に勢揃いしていた。

 

 うおお、プリズムリバー三姉妹きたー!

 

 リリカだけダントツで小さくて小学生にしか見えないが、上二人は中学生くらいの美少女だ。

 

 この子たちが幻想郷で一番人気の音楽ユニット……!

 

 俺がそう感動しているのを他所に、先程名前を呼ばれた雷鼓さんが答えた。

 

「どうしたの? ルナサに、他二人まで揃って」

 

「ん……これから雷鼓が世話になるんだ。鳥獣伎楽の人たちにも一言挨拶しておこうと思って……」

 

 長女のルナサが、どことなく気怠い口調で言う。

 

「雷鼓ちゃんがお世話になるわね〜」

 

「これから雷鼓姉のこと、よろしく」

 

 メルランとリリカが俺たちに向かってそう声を掛ける。

 

「あ、はい! こちらこそ無理言ったみたいで、なんかすいません」

 

「ありがとう! 絶対大事にするから!」

 

「まあもうすっかりうちに馴染んじゃったしね」

 

 そう三人揃って挨拶を返す。

 

「わたしゃ拾ってきた犬猫か! それに別にプリズムリバーwithH辞めるわけじゃないんだし、いちいち大袈裟な挨拶なんか必要ないわよ!」

 

 雷鼓さんがプリプリと怒ったあと、側に居た俺の両肩を掴んでぐい、と前に突き出した。

 

「……ま、他二人はともかく、この霧夜くんに関しては初顔合わせでしょ? ついでにお互い自己紹介していったら?」

 

 そう雷鼓さんが言う。

 

 俺はプリズムリバー三姉妹に対して、若干緊張しつつも自己紹介した。

 

「えー……鳥獣伎楽withKのKを担当している、霧夜と申します! 楽器はギターです。プリズムリバーwithHの皆さんに会えて光栄です! よろしくお願いします!」

 

「私はメルランよ。よろしくね〜霧夜ちゃん」

 

「はいはい、リリカよ。よろしく〜」

 

 ニッコリ笑顔を返してくれるメルランとは裏腹に、リリカには適当にあしらわれる。

 

 そして何故か深刻そうな表情で、ルナサが前に出てきて言った。

 

「ん……ルナサだ。私たちとしては、鳥獣伎楽に対して含むところは何もない。だから、あまりこちらを敵視されても、その……困る」

 

「えっ!?」

 

 そう言ってこちらを警戒しながらすっ、と距離を取るルナサに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

 ……えっ、何これ? いきなり好感度マイナスぶっちぎってない?

 

 俺は即座に心当たりを総動員した結果、ある一つの結論に至った。

 

 絶対これあの号外のせいじゃん! 確か書いてたわ!

 

『プリズムリバーwithHなんぞと比べんじゃねえ! 喧嘩なら買ってやるぜ!』みたいなこと!

 

 一言も言ってねえよあんなこと!

 

 なんか知らん間にめちゃくちゃルナサから嫌われてる!

 

「い、いやいや、ちょっと待って下さい! あの号外はまるっきり嘘ですから! 俺はプリズムリバーwithHさんと事を構えようなんて全く思ってませんよ!」

 

「それは私には判断出来ない。だけど、火のない所に煙を立たないと言うし……」

 

「火のない所に着火するのが奴らのやり口なんですよ!」

 

 俺はルナサに必死に弁解する。

 

 付け火して喜ぶのは千年前から続く天狗の伝統芸だ。

 

 昔は本当に放火していたが、今度はそれが新聞記事に変わってメディア的に炎上させに来るあたり、根本的に放火魔な所は何も変わってない気がする……。

 

「も〜、ルナサ、昨日散々言ったでしょ? 霧夜くんはそんな子じゃないって! あれは話題性欲しさに書いた天狗の飛ばし記事よ。実際の霧夜くんにあんなこと出来るわけないじゃない!」

 

 頭を抱える俺を他所に、雷鼓さんがケラケラと笑いながらそう弁護してくれる。

 

「雷鼓……そうは言うが万が一のことが……」

 

「万が一もないない! 私、この二週間くらいずっと霧夜くんと一緒に練習してきたんだから。この子はむしろ周りから振り回されていいように使われるタイプよ? 多分、そこら辺を天狗に見透かされて体よくおもちゃにされたんでしょうね」

 

「そーだよ! 霧夜は弱虫なんだから!」

 

「脇が甘い間抜けなだけよ。こいつに他所のバンドに喧嘩売る度胸なんかあるわけないじゃない」

 

「うぐぐぐ……」

 

 あの……皆さん援護に見せかけて背中から刺してくるのやめてね?

 

 なんか流れ弾で俺がめちゃくちゃ言われてる気がするが、関係者全員の証言はそれなりに説得力があったらしく、ルナサは難しい顔で考え込む。

 

「ふふふ、姉さん、私は信じていいと思うわよ〜?」

 

「……メルラン?」

 

 思わぬ所から援護が来て、ルナサは顔を上げる。

 

「だって、こんなにも仲間に信頼されてるんだもの。悪い人には思えないわ〜。それに天狗の記者が記事にデタラメを書くなんて、私たちも何度も経験してることじゃない」

 

「……確かに、それはそうだが」

 

「それにさー、このお兄さん人間でしょ? 見たところ大した力もなさそうだし、喧嘩になってもやっつけちゃえばよくない? 警戒するほどの相手に見えないね〜」

 

 そう言って、リリカも面倒くさそうに同意する。

 

 ぐっ、このメスガキめ、舐めやがって……いつか分からせてやる!

 

 俺が復讐を誓うのを他所に、ルナサは真面目な顔で考え込む。

 

「そう、か……そうだな」

 

 ルナサはそう言ったあと、俺の方に向き直り、右手を差し出して言った。

 

「……悪かった。どうやら貴方のことを誤解していたらしい。失礼なことを言ったのは許して欲しい」

 

「……!? いえ、こちらこそ変な記事で混乱させて申し訳ないです! これからよろしくお願いします」

 

 俺は咄嗟にその手を取って握手する。

 

 一時はどうなることかと思ったが誤解が解けて良かった……ルナサは何も悪くない、全てはあの記事のせいだ!

 

 ルナサの右手に触れた感覚は、驚くほどに小さく繊細で、まるで死体のように冷たく感じられた。

 

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