幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第五十四話 縁日

 

 そしてとうとう一大イベント、モリヤ・ロック開催当日がやって来た。

 

 乾(天候)を操る神様が主催するイベントなだけに当然のごとく天気は晴れ。

 

 遠くに入道雲が見える夏らしい天気でありながら、秋のような冷涼な山風も吹き込んでくるという、なんとも過ごしやすい気候となっていた。

 

 俺たち鳥獣伎楽は午前中から既に現地入りしており、控え室に荷物を置いてから守矢神社の境内を散策していた。

 

 実は音楽祭だが本番は夕方からで、日中は縁日を開催しており、境内ではズラリと屋台が並んでいる。

 

 なので早いうちからポツポツ人が入ってきており、境内のステージ前はそれなりに賑わっていた。

 

「わ〜! いいねえ、いいねえ! なんかお祭りって感じだね!」

 

「ホントね、私も出演者じゃなかったら屋台出して商売していたところだわ」

 

 はしゃぐ響子を他所に、ミスティアは商売人らしい感想を述べる。

 

 歩いている人たちは人も妖怪も多種多様で、この場においては種族の垣根なく平等に楽しんでいるようだ。

 

 まあもっとも人間はおっかなびっくりといった様子で、妖怪からは出来るだけ距離を取っているようだが。

 

「ふふ、まだまだこんなものじゃありませんよ? 祭りはまだ始まったばかり、本番が近づく昼から夕方に掛けては移動するのも一苦労なくらい人でごった返しますから」

 

「!?」

 

 そう境内を見回す俺たちの後ろから声を掛けたのは、いつもの巫女服の上から『守矢神社奉楽祭実行委員』と書かれた法被を着込んだ、東風谷早苗その人であった。

 

「巫女さん、おはようございます!」

 

「うげっ」

 

「今日はお世話になります」

 

 顔を引き攣らせるミスティアを他所に、俺と響子は挨拶する。

 

「はい、お世話様です。それにしても聞きましたよ? 何やらうちの八坂様とマミゾウさんと少々揉め事があったとか」

 

 早苗さんはまるで井戸端会議を楽しむおばさま方のように、ニコニコと手を振ってそう尋ねてくる。

 

「いやー、その節は……まあ色々ありましたが今は認めて頂いたので……」

 

「ふん、あんなもん揉め事とは言わないわよ! インネンよ、インネン!」

 

「実力で黙らせたんだから私たちの勝ちだもんねっ!」

 

 そう取り繕う俺を他所に、二人は鼻息荒く答える。

 

 またほらそういうこと言う……。あんな偉い人と揉めてもいいことなんか一つもないんだから、さっさと水に流して仲良くしようよ。

 

「ふふふ。十日ほど前に、八坂様がマミゾウさんとお酒を飲みながら愚痴っていたのを聞いてましたが、最後には悔しそうにですがちゃんと鳥獣伎楽も褒めてましたよ?」

 

「えっ、そうなんですか? あんま想像できませんが……」

 

 早苗さんの言葉に、俺は思わず聞き返す。

 

「あの方たちも少し特殊なツンデレみたいなものですから、悪く思わないであげて下さいね? 今回のイベントで一番の目玉は鳥獣伎楽だとは言ってましたから」

 

「ふ、ふん、そういうことならまあ、許してあげなくもないわ」

 

「まあ、実力があるんだからトーゼンだよね!」

 

「二人とも、あんま調子にのって本番でやらかさないでくれよ……」

 

 俺は得意満面になってる響子とミスティアを見てなんだか不安になる。このドヤ顔がフラグになりませんように……。

 

「それはそうと……今日は御三方にお渡ししたいものがありまして」

 

「渡したいもの?」

 

 早苗さんはそう言うと、ゴソゴソと袖の中を弄って、俺たちの前に何枚かのチケットを差し出す。

 

「実は今回、出演者の方々には屋台の無料券をお配りしてるんですよ。スタジオの設営や屋台の管理なので皆さんのお食事まで手が回りませんので、申し訳ありませんがこれで何か買って食べてきてください。足りなければまたお渡ししますので」

 

 そう言って早苗さんは、俺たちの手に五枚ずつ無料券を配っていく。

 

「あ、そうなんですか? 分かりました」

 

「わ、やったぁ! 出演者の特権だね! 何食べよう?」

 

「あそこいいんじゃない? あのバカ妖精がかき氷やってるみたいよ!」

 

 そう言ってミスティアと響子はさっさと屋台に行ってしまう。

 

 あっ、俺もチルノの屋台行きたい!

 

 俺は早苗さんへの挨拶もそこそこに、自分も屋台に向かう。

 

 守矢神社の屋台はもう人妖お構いなし……というかむしろ妖の方が多いかも?

 

 河童に山童に、たまに天狗も屋台出してる。文々。新聞出張所って……文句言いに行ったろうかなほんま。

 

 また変なこと書かれそうだし止めとくか……それよりも今はチルノの屋台だ!

 

「だから、あたいはそんな訳わからない紙きれ知らないってんでしょ! お金出してって言ってんでしょ、丸っこくて穴のあいたやつ!」

 

「だーかーらー、これがその代わりだって言ってんでしょうが! あんた、守矢神社側から何も聞いてないの!?」

 

 近付くと、なにやらミスティアとチルノが揉めて口論している所であった。

 

「どしたの?」

 

「あ、霧夜、聞いてよ! この券が守矢神社から出た無料券だって言ってんのに、そんなもん知らん金出せって話にならないのよ、このバカ!」

 

「バカとはなんだ! バカっていうほうがバカなんだよ! 知ってるぞ、お前みたいなのって"モンスタークリーナー"って言うらしいな!」

 

 チルノはチルノで、ちっちゃい身体でカウンターの上に身を乗り出しながら、甲高い声で応戦する。

 

 ……てかそれを言うならモンスタークレーマーだよね? モンスタークリーナーはあれだよ、博麗の巫女のことだよ。妖怪の掃除屋的な意味で。

 

 しかしどういうことなんだろう、チルノが馬鹿すぎて無料券の概念を理解できてないのか、それとも単純に守矢側の伝達ミスなのか判断出来ないな……。

 

「ごめん、ちょっといい?」

 

「はいよ!」

 

 俺はちゃんと使えるか確かめるために、隣の焼きそばの屋台の子に声を掛ける。

 

 ……てかこの子、山城たかねじゃね?

 

 迷彩服に緑のフワッフワの癖っ毛の山童って、他にいないよね? ……いやまあ、確かめようもないからとりあえず本題に移ろう。

 

「このチケットって使えるよね? 守矢神社から何か聞いてない?」

 

「あー、使えるよ! 社務所の実行委員から説明があったね。このチケットが一枚につき、屋台の食料品一つ分の代金を後から守矢神社側が支払ってくれるってさ!」

 

 たかね(仮)は、焼きそばをコテで混ぜながらそんなことを言う。

 

「えっ……じゃ、じゃあ隣のかき氷屋は?」

 

「まー所詮は妖精だからね、お金のやり取りでもいっぱいいっぱいなのに、そこで無料のチケットまで絡んでくるととても覚えられないんだろうさ。屋台出す奴は全員説明は受けてるはずだけどね」

 

「あの、ちなみに同じ出店者として説明してくれたりは……」

 

 俺は、相変わらず激しく口論しているチルノとミスティアを見てたかね(仮)に頼む。

 

「焼きそば一個!」

 

「えっ?」

 

「焼きそば一個買ってくれて、なおかつチケットをもう一枚余分に払えば、かき氷も買ってきてあげるよ」

 

 そうにやりと笑うたかね(仮)に、俺は少し悩んだあと、チケットを二枚差し出した。

 

 するとたかねは「まいど!」と言ったあと、ささっと焼きそばを竹の皮に包む。

 

 そしてそれをぽいっ、と俺に投げ渡したあと、隣で未だに喧嘩してるチルノに向かって「おい」と声を掛ける。

 

「あ? なんだ、あたいは今それどころじゃ……!」

 

「こちとら客だよ、客! ほら、金払ってやるからさっさとかき氷作りな! そこの兄さんの分だよ!」

 

 そう言って、たかねはチルノに小銭を投げ渡す。

 

 チルノはそれを見て目をパチクリとさせたあと、にかっと笑って言った。

 

「なんだ、そうならそうと言えって! ほら、どいたどいた! あたいは今から仕事するんだ! あんた相手にしてるほど暇じゃないのよ!」

 

「なにを〜!?」

 

「ミスティア、ここは抑えて!」

 

 思わず飛び掛かりそうになるミスティアを、後ろから羽交い締めにして止める。

 

 うおお……! ミスティアの柔らかい腕の感触と羽根からちょっと獣っぽい香りが!

 

 ……じゃなくて、今はミスティアを止めないと!

 

「離しなさい霧夜! このバカ妖精に格の違いを分からせないと!」

 

「落ち着け、ミスティア! いい言葉がある。"争いは同レベルの者同士でしか発生しない!"」

 

「…………」

 

 俺がそう言った瞬間、ミスティアの動きがピタリと止まる。

 

「そうだ、ミスティアはチルノと同じレベルじゃないだろ? 大人のお姉さんじゃないか」

 

「……当然じゃない。確かに妖精なんかにムキになっても仕方ないものね」

 

 そう言って落ち着きを取り戻したミスティアから、ようやく手を離す。

 

 よく言うよほんと、結構同レベルの争いしてたけどね……。

 

 ミスティアの方が普通にやれば強いと思うけど、チルノはチルノで条件付きとはいえあの摩多羅隠岐奈に一勝したという大金星があるから侮れない。

 

 喧嘩になったら割といい勝負するかもしれない。

 

 ちなみにこの世界、バカルテットなるユニットは存在しないようだ。

 

 ミスティアもリグル、ルーミア、チルノも一応それぞれ顔見知り程度ではあるが、揃って遊ぶほどの仲じゃないらしい。

 

 もちろん皆揃って寺子屋で勉強して、慧音先生に頭突きを食らうなんて定番のイベントもない。

 

 そらそうよ、だって原則人里は妖怪立ち入り禁止だもんよ。それをあの人間大好き堅物教師が許すはずもない。現実は世知辛いね。

 

「ふん、そこの兄ちゃんはいいこと言うなっ! そう、あたいはそこの鳥頭とレベルが違うんだ! なにせ最強だからね!」

 

「ぐぎぎ……!」

 

「ミスティア! 妖精の言うことだから、な!?」

 

 今にもブチ切れて飛び掛かりそうなミスティアを必死に宥める。

 

 マジで勘弁してくれ! イベント直前に暴力沙汰で出演取り消しとかになったらシャレにならん!

 

「はいよ! かき氷あがり!」

 

 そんな心配をしているのを他所に、チルノはさっさとかき氷を仕上げてどん、とカウンターの上に置く。

 

 「うおっ!」

 

 俺はその器の上にうず高く積み上がったかき氷を前に思わず圧倒される。

 

 かき氷で特盛は人を選ぶな……しかもこれ、なんの色も付いてないぞ。

 

「……ちなみにこれ、何味?」

 

「みずあじ!」

 

 チルノは自信満々に言う。

 

 みずあじかあ……。

 

 三月精でも出てたが、チルノの言うみずあじはそういう名前の味付けとかではない。

 

 ガチでただのすり下ろしただけの氷だ。しかも山盛り。

 

「あの……店長さん、出来ればシロップくらいは掛けて欲しいんだけど……」

 

「えーっ!? もうわがままだなあ、兄ちゃんは! じゃあはい、これ!」

 

 そう言って、チルノはシロップを適当にドバーっと混ぜこぜにしてぶっ掛けていく。

 

 サービスはいい……のか? イチゴとレモンとメロンが混ざってなんか汚いどどめ色みたいになってるが……まあ元は全部砂糖水に色付けたもんだし味は同じか。

 

「あ、ありがとう」

 

「まいどあり!」

 

 俺はそれを受け取ったあと、二人に言う。

 

「せっかくだし食べるの手伝ってくれない? 俺焼きそばあるし、かき氷ばっかこんなに食べられないからさ」

 

「なによその汚い色のかき氷……」

 

「いいじゃん、食べよ食べよ! 皆で食べたほうが絶対おいしいし!」

 

 そう言って、俺からかき氷を受け取った響子は、ミスティアと一緒に同じスプーンでシェアし始める。

 

 ちなみにかき氷の器もスプーンも氷製だ。手に持つと冷たいが、そこはうまいこと細長い葉っぱを持ち手に巻いたりして工夫してある。

 

 全部チルノの能力で作れるので、シロップ以外は元手ゼロだ。ビジネスモデルとしてはかなり優秀かもしれない。妖精がお金なんか稼いでなんに使うのかはよく分からないが……。

 

「はい、霧夜もあーん!」

 

 そう言って、響子がかき氷を載せたスプーンを差し出してくる。

 

 当然、スプーンも一本だけなので間接キッスである。

 

 俺はドキリとしたのをおくびにも出さず、なに食わぬ顔でそれを口に受け入たれた。

 

「ん、美味い。色はともかく普通のかき氷だね」

 

「あはは! なにその感想!」

 

 響子は笑いながら同じスプーンで、普通に自分もかき氷を食べる。

 

 この二人はこう言うところあるからな……。俺の前で平気で着替えたりするし、響子なんかしょっちゅう抱き着いてきたり、最近は命蓮寺で起こしに来るついでに俺の布団に入ってきたりする。

 

 多分男として見られてないんだろうし、こちらもその都度反応してたら変に思われるので平静を装っているが、正直めっちゃドキドキしているのだ。

 

「あっ、見て見て! あっちにもなんか面白そうなのがあるよ!」

 

 そう言って響子の指差す先には、『因幡うどん』なる暖簾が掛かった屋台が出店されていた。

 

 その奥でやたらと手慣れた手つきでうどんを打ってるのは……やはりというかなんというか、鈴仙・優曇華院・イナバその人であった。

 

 これもう姫様かてゐ辺りがギャグでやらせてるだろ……。

 

 そのてゐも、後ろでイナバたちを指揮して、杵を振り回して小麦粉の塊らしきものをぺったんぺったんついている。

 

 まあ団子だ餅だなんてのは既に幻想郷では擦られまくってる訳で、そこで勝負するよりうどんで差別化を図ろうってのは理解は出来る。

 

 案の定、その隣では例の元イーグルラヴィ二人が団子屋の屋台を出してるので、競争相手が少ないうどん屋はフロンティアなのかも知れない。

 

 どうもネタに走った感は否めないが……。

 

「行ってみようよ!」

 

 そう響子に引っ張られて、俺とミスティアは妖怪兎たちの屋台に向かう。

 

 まだ焼きそば食ってないんだけど……まあいいや、うどんげの打ったうどんとかいう一発ネタみたいな食いもん、この機会を逃せば二度と食べられないかも知れないし。

 

 麺と麺が被ったが、この際そんなことはどうでもいい。祭りは楽しんでこそだ。

 

 そんなこんなで、俺もノリノリで鈴仙の屋台に突入する。

 

 食べたのは冷やしうどんだったが、いりこではなく岩魚でダシを取っており、コシが強くて結構本格的な味でした。

 

 

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