幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第五十五話 祭り本番

 

 そのまま時間が過ぎて、そろそろ夕方に差し掛かろうという頃――早苗さんの言葉通り守矢神社の境内は人でごった返していた。

 

 上空は白狼天狗たちが飛び交って哨戒し、喧嘩や盗みなどが起きた時はすぐさま向かって鎮圧している。

 

 どこかに椛居ないかなと探してみたものの、正直白狼天狗は皆装備同じだし見た目も似てるからあんま見分けが付かない……。

 

 皆あのだんびらに似たような盾を身に着けている。

 

 そもそも椛にはドット絵だけで立ち絵もないので、判別は不可能だと早々に断念した。

 

 ちなみに守矢神社内では人間に手を出すことはご法度であり、その禁を破った瞬間に天狗と巫女と神の三方向からケチョンケチョンにされるので、よほどの馬鹿じゃないとそんなことはしない。

 

 それでも押し返せるほどの大物は、そもそも祭をめちゃくちゃにするような不粋な真似はしないのだ。

 

 俺たち鳥獣伎楽は、人でごった返している神社の境内を見ながら、舞台裏の控え室で準備していた。

 

 控え室にはモニターが常設されており、境内の様子をリアルタイムで確認することができた。

 

「うわぁ……すごいすごい! 人も妖怪もこんなにたくさん混ぜこぜになって楽しんでるところ初めて見るよ!」

 

 響子がモニターに齧りつくように見入りながら、楽しそうに声を上げる。

 

「確かに……凄いわねこれ。幻想郷中のほとんどの人妖が集まってきてるんじゃない?」

 

「ふっ、腕が鳴るな。私たち姉妹の名を挙げる時が来たよ、八橋!」

 

「頑張ろうね〜姉さん」

 

 控え室では、出演者たちが集まって窓から祭りの喧騒の様子を眺めている。

 

 俺以外全員女性! しかも全員美少女ばかり。なんだか控え室の中にいい香りが充満しているような気がするが、正直言って身の置き場がない。

 

 なので部屋の隅っこでポロンポロンと生音で指を慣らしている。

 

「こころちゃん、そこの指違うよ! 正しくはこう!」

 

「こうか?」

 

「そうそう!」

 

 真ん中では、こいしとこころちゃんが二人で一緒にダンスの練習をしている。

 

 今日はこいしちゃんも姿を隠していないのか、俺でも認識出来ている。

 

 う〜む、なんという眼福……。

 

 二人がやってるのは恋ダンスだ。外の世界では既に懐かしいが、ここ幻想郷では最先端。

 

 こころちゃんの人気の演目、恋する人形焼きのメインらしい。

 

「お疲れさま〜。あら、皆もう集まってるのね?」

 

 そう言ってドアを開けて入ってきたのは、雷鼓さん率いるプリズムリバーwithHの面々であった。

 

「あっ、お疲れさまです、雷鼓さん。プリズムリバーの皆さんも」

 

「ん……お疲れ」

 

「お疲れさま、霧夜ちゃん」

 

「ちーっす」

 

「ふふ、やってるわね、霧夜くん! 調子はどう?」

 

 通り過ぎざまに挨拶するプリズムリバー楽団を他所に、雷鼓さんは足を止めて俺にそう尋ねる。

 

「いい感じですよ。かなり練習しましたし。ただ、観客の多さに少しビビってますけど」

 

「ふふふ、無理もないわね。私たちもこんな大勢のお客さんの前で演るのは初めてだわ。でも大丈夫よ、霧夜くんなら! いつも通りやれば絶対お客さんに受けるから!」

 

 そう雷鼓さんだけに太鼓判を押され、俺はありがとうございます、と頭を下げる。

 

 正直言うと俺も結構自信はある。ビビってるのも本当だが、それ以上にワクワクしているのだ。

 

 これだけの大観衆の前で演奏すればさぞ気持ちいいだろう。

 

 ここがまさに、俺がスターになるか、それとも埋もれるかの分水嶺なのだ。

 

「あ、雷鼓の姐さんじゃん。お疲れ〜」

 

「姉御、シャッス!」

 

「お疲れ、八橋。……それと弁々、うるさい。二人とももうすぐ出番よね? 音合わせしてなくていいの?」

 

「さっきもう終わったよ〜。それに、これ以上やると本番で疲れちゃうからさ」

 

「そうなの。二人とも、私たち道具の大切な同志だからね。本番では期待してるわよ!」

 

 雷鼓さんがそう激励すると、八橋は「ありがと〜」と手を振り、弁々は「ザスッ!」と言って頭を下げる。

 

 八橋は結構ゆるい感じだが、弁々の雷鼓さんに対する忠誠心はガチらしい。ノリがもう体育会系だ。

 

 本人は暑苦しいから止めて欲しそうにしているが、この分だと言って聞かせてもやめるつもりはなさそうだ。

 

「あっ、見て見て! 巫女さんがステージに上がってきたよ!」

 

 そんな時、響子がモニターの前で声を上げる。

 

 見るとそこには――確かにステージ上でマイクを握る、早苗さんの姿があった。

 

 行き交う人々は徐々にその存在に気付き始め、ざわつきながらステージの方に視線を向ける。

 

 やがて徐々に人々の声が小さくなると、早苗さんはマイクに向かって言った。

 

『――はい、今皆さんが静かになるまで二分もかかりました!』

 

 それを聞いて俺は思わずずっこける。

 

 いや校長先生かい! そのネタ伝わる人こっちにいないだろ。

 

 一人でツッコむ俺を他所に、早苗さんはマイクに向かって続ける。

 

『幻想郷に住まう人妖、はたまた神々や仙人天人様に至るまで、本日は守矢神社奉楽祭、モリヤ・ロックにお集まり頂き誠にありがとうございます!』

 

 早苗さんがそう挨拶すると、主に人間たちから「おおー!」「早苗様ーっ!」という声が響く。

 

 相変わらず早苗さんは人里の人間に大人気だ。

 

 まあ布教しに人里によく降りてくるし、可愛くて愛想もいいからちょっとしたアイドルみたいになっている。

 

『皆さんすっかり屋台の方、市場の方をお楽しみ頂けていると思いますが、本番はまだこれから! 我が守矢神社が寄りすぐった至高の奏者たちが、皆様をひとときの興奮と歓びへと誘います!』

 

 さすが布教で口上慣れしているのか、早苗さんは大観衆を前にスラスラと述べる。

 

『さてその前に……この度、本祭にご協力いただきました、協賛の方々からご挨拶頂きます! どうぞ!』

 

 早苗さんがそう言って横を差す。するとそこには――聖と星が連れ立ってしずしずとステージの真ん中に歩いてくる所であった。

 

 おっ、聖のお話だ!

 

 これは命蓮寺の一員として拝聴せねば……!

 

 聖は、早苗さんからマイクを受け取ったあと、深々とお辞儀をして、透き通るような声で言った。

 

『お集まりの皆様、命蓮寺の住職、聖白蓮でございます。本日は八坂の神様のご厚情の元、このような場に立たせていただいたこと、誠に深く感謝申し上げます』

 

 そう無難に挨拶をしたあと、聖はこう続ける。

 

『本日のイベントには私の不肖の弟子も二名ほど参加しており、そのご縁からかこのような場でお話させて頂けることとなりました。さて音楽と申しますれば、さるお釈迦様の時代においては――』

 

 そう前置きしてから、聖はつらつらと仏教音楽の歴史について語り始める。

 

 あ、やべえ。これクッソ長くなるやつだ。いつものお説法モード入っちゃったかも。

 

 画面越しには分からないが、何やらステージ下からも不穏な空気が漂ってきている気がする……。

 

 そらそうだ。皆お祭りで騒ぎに来たんであって、退屈なお説法を聞きに来たわけではない。

 

 クソ真面目な上にちょっと天然入ってる聖と星ちゃんにはそこら辺察せられなかったか……!

 

 それから五分くらい地獄の空気の中で語った辺りで、慌てて村紗と一輪がステージに乱入して、聖からマイクを奪う。

 

『えー……そ、そういう訳ですので在来信徒の皆さん、守矢神社の信者の皆様も、お葬式や法要、そしてお盆や大晦日などの節目の際はぜひぜひ命蓮寺にお越しください! 勿論それ以外の方も歓迎です!』

 

『これから仏の道を志したい方、または庇護を求めたい妖怪の方もぜひともお越しください! 在家信徒の方々もまだまだ募集中してます!』

 

 そう一方的に喋ったあと、村紗と一輪は聖と星の背中をグイグイと押しながらステージから退出していった。

 

 ナイス……! あのままだとこっちも居た堪れなかったからな……。

 

 聖と星ちゃんはキョトン顔だったが、村紗と一輪のコンビプレイでなんとか会場が冷え冷えになるのは防げたようだ。

 

『え、ええと、少しアクシデントがあったようですが……それでは次に、本祭の主催者であり、この守矢神社の御祭神であらせられます、八坂様よりお言葉を賜ります!』

 

 早苗さんがそう言うや否や、空からステージの上に、ドスン! と何者かが降り立った。

 

『きゃっ! ま、まさか、その御姿は……!』

 

 そうわざとらしく早苗さんが言うと共に、その堂々たるしめ縄を背負いながら、神奈子様がマイクを受け取ってステージの真ん中に立つ。

 

 そして、ビリビリと空気が震えるほどの爆音で叫んだ。

 

 

 

――我こそが守矢神社の祭神、八坂神奈子であるッ!!

 

『ありがとうございました!』

 

 

 

 

 そして早苗さんが頭を下げると同時に、神奈子様はずかずかと大股でステージから去っていく。

 

 ……江田島平八??

 

 何故か観衆にはバカウケで皆から拍手喝采が寄せられている。

 

 幻想郷のスピーチは短ければ短いほどいい。その点においては今の挨拶は百点満点だ。

 

 あれ以上短くしようがないレベルである。

 

「なに今の……?」

 

「なんか……凄かったね」

 

「あれがカリスマってやつなんだろう……多分」

 

 俺も自信ないけど。なんかとにかく凄いことは分かった。

 

 聖大好きマンの俺としては完全に格付けされたようで忸怩たる思いだが、正直あの滑った空気を一撃で吹っ飛ばしてくれたのはありがたい、マジで。

 

『さあ、それでは今より四半刻後に本日のメインイベント、類まれなる幻想奏者たちによるライブが開始します! 皆様どうかそのままお帰りにならず、ステージ前に整列してお待ち下さい! チケットをお持ちの方はご案内しますので、近くの実行委員の法被を着たスタッフにお尋ね下さい!』

 

「おい、女子二楽房に、KKR48+514、お主らが一番手じゃ! 今のうちに準備するぞ!」

 

「あ、はーい!」

 

「きたか……!」

 

 早苗さんのガイダンスが終わると同時に、控え室に入ってきたマミゾウがそう声を掛ける。

 

「とりあえず衣装替えをするぞ。全員そこに一列に並べ」

 

「えっ?」

 

 その言葉に俺は思わず反応してしまう。

 

 衣装替えって……もしかしてここで着替えるつもりか?

 

 そう思ってビックリしたが、どうやらそれは早とちりだったらしい。

 

「ではいくぞう、ほいっ!」

 

「ひゃあ!」

 

 マミゾウがそう声を掛けて息を吹き掛けると、こいしちゃんが真っ白な煙に包まれてその姿が見えなくなる。

 

 ――そしてその霧が開けた頃には、さきほどまでの格好ではない、薄い黄色のフリフリのドレスに全身を包んだ、なんともオシャレで可愛らしい姿のこいしちゃんに変貌していた。

 

 うおおおお! これは、心綺楼とかで見たマミゾウのスペカ、変化「二ッ岩家の裁き」だ!

 

 マミゾウは化け狸だが、その能力は自分が化ける程度の能力ではない。

 

 "化けさせる"程度の能力なのだ。

 

 自分も含め他人も思い描いた姿に化けさせる事ができる。

 

 その力は強力無比で、例えば相手を亀に化けさせれば、ノロマな亀そのものの動きしか出来なくなり、大幅なデバフを掛けることが出来る。

 

 しかもその力は八雲紫や聖白蓮、茨木華扇や豊聡耳神子と言った、幻想郷でも上位の面子にも問答無用で効果がある。

 

 マミゾウが大妖怪と言われる所以である。

 

 しかしそれはあくまで戦闘用で、平和的に利用すればこのように即座に衣装チェンジなども可能なようだ。

 

「可愛い〜! なにこれ、フワフワでキラキラでとっても素敵!」

 

 その衣装が気に入ったのか、こいしちゃんは目を輝かせながらくるくるとその場に回る。

 

「お褒めにあずかりどうも。この為にわざわざ外界から"あいどるこすちゅーむ"なるものの資料を取り寄せて勉強したんじゃ。上手くいってくれなきゃ困るわい」

 

 マミゾウは疲れた顔で言う。

 

 おお……あんな混乱してる中でもしっかり準備はしてたんだな。マミゾウP、実はかなり優秀かも知れない。

 

「ねえねえ、マミゾウちゃん地霊殿でお姉ちゃんのペットにならない!? 一緒に暮らせばきっと楽しいと思うの! あ、名前はおマミでいい?」

 

「アホか、わしを誰じゃと思うておる! 誰が地底でさとり妖怪なんぞのペットに成り下がるか! 次にわしをおマミなどと呼んだら貴様をカタツムリに変えちゃるからな!」

 

「え〜可愛いのに」

 

 怒るマミゾウに、こいしちゃんは不満そうに口を尖らせる。

 

 こいしちゃん、本当にもうアレなんだな……怖い物知らずというか、狂犬だなもはや。

 

 これマミゾウだから怒られただけで済んだけど、他の気が短い奴だったら喧嘩になるからね。

 

 まあこいしちゃんは強いからどうとでもなるかもだけど、こんなとこで喧嘩が始まったら人間の俺が蒸発しかねないから止めて欲しい、切実に。

 

「ほい! これで全員じゃ」

 

 そんなことを考えている間に、マミゾウは全員に変化の術をかけ終えて、コスチュームチェンジを済ませる。

 

 こころちゃんはこいしちゃんと色違いのピンクのフリフリドレス。

 

 弁々と八橋は少し落ち着いた感じの白の肩出しドレスになった。その柄には、楽器のトレードマークである五線譜が描かれていた。

 

「う、これは……露出が多くて少し恥ずかしいが……」

 

「我慢せい。お主らは音楽性は元より"びじゅある"方面も含めて売り出すつもりなんじゃ。一人でも多くのファンを獲得したいんじゃろ?」

 

「そ、それはそうだけどさあ……」

 

 自分の服装を見て、弁々がマミゾウに苦情を言う。

 

「あら、私はいいと思うわよ? 弁々、八橋もよく似合ってるわ」

 

「あはは、ありがと〜雷鼓の姐さん」

 

「ゾス! この九十九弁々、姐御の為に精一杯やらせて頂きますっ!」

 

 雷鼓の言葉に、弁々は即座に掌を返して頭を下げる。

 

 だからもうノリが光通信なんだわ。

 

 これ雷鼓さんも忠誠心が重すぎてしんどいだろうな。

 

 しかし眼福だ……。この四人、美少女揃いの幻想郷の中でもとびきりの上澄みだからな。

 

 天使みたいな可愛い系のこいここ二人と、天女と見紛うばかりの九十九姉妹。

 

 この四人が揃ったんだったら、そりゃ音楽だけじゃなくビジュ売りもしなきゃ損だろう。

 

「本番五分前でーす!」

 

 俺がそんなことを考えていると、控え室にヘッドセットを付けた河童のスタッフさんが声を掛ける。

 

「おっと、もうそんな時間か。ならば行って来い! くれぐれもしくじるんじゃあないぞ!」

 

「あはは! 行ってくるね〜」

 

「がんばるぞ、えいえいおー」

 

「行くぞ八橋! 姉御に無様な姿は見せられんからな!」

 

「はいはい、姉さんは仕方ないな〜」

 

 そう言って、四人はそれぞれ気合を入れながらステージに向かっていった。

 

 うおお……! 今から本当にライブステージが始まるのか!

 

 なんだかドキドキしてきたぞ!

 

「二人とも、ちょっと俺客席の方見に行っていい?」

 

「ん? いいけど、ここで見れるのにわざわざ見に行く意味あるの?」

 

 俺の言葉に、響子が不思議そうに首を傾げる。

 

「ちょっと会場の空気を感じてみたいんだ。映像だけで見て、いざステージに立った時に圧倒されたら困るからね」

 

「なるほど! じゃあ私たちも一緒に行くよ!」

 

「そうね、確かに映像だけじゃ伝わらないものもあるでしょうし」

 

「じゃあ皆で行こう!」

 

「出るのは構わんが……ちゃんと時間までに帰ってこいよ! 遅れたら承知せんぞ!」

 

 そのマミゾウPの言葉を背に、俺たちは控え室を後にして会場に出た。

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