全員がステージに姿を現した瞬間、観客から爆発的な歓声が上がる。
『みんな〜! 今日は来てくれてありがと〜!』
『ありがとー』
ノリノリで挨拶するこいしに遅れて、こころが平坦な声で追従する。
二人はヘッドセットマイクを付けたまま、あの例のフリフリのドレスでステージに上がっていた。
弁々と八橋は少し大人向けの露出度の高いドレスで、軽く手を振るだけに止めていた。
「おお〜! こ・い・し! こ・い・し!」
「こころ〜!」
「弁々さ〜ん! 八橋ちゃ〜ん!」
既にそれなりの認知度はあるのか、客席から名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
……てかごく一部の熱量が凄いな……。
もはや歓声というより絶叫に近い。
そりゃまあこいしちゃんみたいな可愛い子に、笑顔でファンサされたら熱狂するのも分からんではない。
しかしこいしちゃんマイクパフォーマンス手慣れてるな……。ちょっと猟奇的で突拍子もないことをするイメージだったけど、花が咲くような笑顔で愛想を振りまく様はまさにアイドルの鑑だ。
『応援ありがと〜! それじゃあ最初の曲、"恋する人形焼き"、いくよ〜!』
『おー』
そうこいしちゃんが声を上げると同時に、こころちゃんが平坦な声で続く。
――すると、何処かで聞いたようなイントロがスピーカーから流れると同時に、それに合わせて弁々と八橋も演奏を始める。
あ、頼めば普通にバックミュージックも流してくれるんだ。全部生演奏でやる俺らには必要ないけど、もしかしたら今後使うことがあるかも知れない。
……ってかこれやっぱり星野源の『恋』だよね??
こっちでは恋する人形焼きってタイトルでこころちゃんの楽曲ってことになってるらしい。
著作権的に大丈夫かよと思うが、さすがにJASR○Cも大結界を超えてお手紙を出したりはしないので問題はないのだろう。
というか妖怪に著作権なんて概念があるかも分からない。俺らも似たようなことしてるが無法地帯である。
『意味なんか ないさ暮らしがあるだけ♪』
『ただ腹を空かせて 君の元に帰るんだー』
「「ハイ! ハイ! ハイハイ! ソーレ!!」」
恋ダンスしながら歌うこいここの二人に合わせて、最前列の大きなお友達から熱心な掛け声が上がる。
ちなみに『恋する人形焼き』とはこころちゃんオリジナルの能楽であり、能面に恋したというよく分からない設定の男が、店先に売られている人形焼きにその面影を重ねて想いを馳せるとかいうこれまたよく分からない内容の恋愛寸劇だ。
聞いた感じでは意味不明だけど、一応人里では泣ける能楽として結構人気らしい。
『恋は形や種族にとらわれない』をテーマにした能楽らしく、それだけ聞くならすごくいい話だ。たださすがに能面に恋するのは無理なのでこころちゃんみたいに人型にしてほしいところではある。
てかこいしちゃん結構歌上手いな……こころちゃんは棒読みだけど。
こころちゃんのあれはあれで一種の芸風として受け入れられているようだ。
「うわぁー! 二人ともすっごく可愛いね!」
「弁々と八橋もあんなやかましい掛け声の中でよく平然と演奏できるわね……」
素直に感動する響子を他所に、ミスティアは変なところに感心している。
確かにこいここの二人が歌って踊ってるとこは可愛い。天使かと見紛うほどだ。
弁々と八橋も楽器を弾いてる時はなんだかかっこよく見える。あのポンコツの中身を知らなければ弁々のファンになっていたかも知れない。
『幻想郷の未来は♪』
『うぉううぉううぉううぉう』
『月もうらやむ♪』
『いぇいいぇいいぇいいぇい』
無事に一曲目が終わったあと、軽くマイクパフォーマンスをして次の曲へ。
この曲もなんか知ってる……。全然世代じゃないけど凄く有名なアイドルのやつだ。
L〇VEマシーンだっけ。
ちなみにうぉううぉういぇいいぇいやってるのはこころちゃんだ。全く感情が籠もってない棒読みである。
ちょっと歌詞を改変してるようだが、幻想郷では気にするだけ無駄というものである。
『とっとこー走るよハ○たろ〜♪』
『隅っこー走るよハム○ろー』
『だ~いすきなのは〜♪』
「「ハイ、せーのッ!!」」
『ひーまわりのたねー』
「「俺もーーッ!!」」
『やっぱりー走るよハ○たろ〜♪』
「「タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャーッ!!」」
っていうかオーディエンスが調教され過ぎだろ……。
本家のハム太郎にそんなコールねえから。
絶対外来人の仕業だろこれ、なんだか申し訳なくなってきたぞ……。
『みんな〜! 今日は来てくれて本当にありがと〜!』
『ラストの曲、いっくよー』
「「うおおおおおお!」」
二人の掛け声に合わせて、オーディエンスから野太い声が返される。
もうそんな時間か。
三十分以上歌ってた気がするが、本当にあっという間に感じられた。
女子二楽房はともかく、こいここはアイドル活動に関しては素人のはずなのに、かなり上手に感じられた。
ダンスも相当練習してたんだろう。なかなかに見応えがあったしなにより可愛い。
しかし、まだあの曲が来てないんだが……ラストなんだろうか?
『――せーのっ』
『でも そんなんじゃダーメ』
『もう そんなんじゃほーらっ♪』
『心は進化するよ、もーっともーっと』
俺がそんなことを考えている間に、こいここが囁くようなウィスパーボイスで歌い始める。
「おおおお!」
俺は思わず声を上げる。
恋愛サーキュ○ーションきたーー!
やはりラストだったか!
『ふわふわり ふわふわる あなたが名前を呼ぶ それだけで宙へ浮かぶっ♪』
「「こいしーーっ!!」」
『ふわふわる ふわふわり あなたが笑っている それだけで笑顔になる』
「「こころーーっ!!」」
「……バカじゃないの、あんた?」
俺はミスティアの冷たい視線を受けつつ、最前列の大きいお友達と一緒に声を上げる。
響子は俺と一緒にノリノリでコールしてくれるのに。
だがこれ以上はしゃぐと俺のイメージを損ないそうだ。そろそろ止めておこう。
俺がすごすごと最前列から戻ってくると、曲も終わり、観客席は盛大な歓声に包まれる。
『みんなありがとーっ! 短い間だったけど、すっごい楽しかったよ〜!』
『ありがとー』
「「うおおおお!」」
「こころちゃ〜ん!」
「八橋ー結婚してくれ〜!」
大きなお友達からの熱烈な声援を受けながら、こいここと女子二楽房の四人は舞台裏へと去っていく。
う〜ん、素晴らしいパフォーマンスだった。ビジュ特化かと思いきやちゃんと歌もダンスも仕上げてきてたな。
きっと一生懸命練習してきたんだろう。立派になったもんだ。
俺が後方腕組み父親面をしていると、客席の最前列から再び声が上がる。
「「アンコール! アンコール!」」
おお、アンコールとかあるのか?
イベント終盤ならともかくまだ序盤だぞ?
後ろも押してるしさすがにないんじゃないのと思ったが、先ほどまでのフリフリとは打って変わって、鮮やかな浴衣にコスチュームを変えた四人が出てくる。
『みんな〜! 呼んでくれてありがと〜! ホントに最後の曲、いっくよ〜!』
「「うおおおお!」」
そう歓声が上がると同時に、イントロが流れ始める。
どうやらアンコール前提の構成だったらしい。
……ん? しかしこのイントロ何処かで……。
『はー、どっこい♪』
『あ、よいしょー』
こ、これは……白金ディ○コ!?
まさかの二連続で物語系とは……!
しかも和風の曲調なので女子二楽房の和楽器の音色が映える。
浴衣姿のこいここ二人の歌とダンス、そして暖色系の照明も相まってラストに相応しいなんともエモい雰囲気だ。
『変わってくもの 変わらないもの 飽きっぽい私が〜♪』
『初めて知った この永遠を 君に誓うよー』
「うお"ぉぉ! ごごろー! ごいじぃーっ!」
なんなら最前列の大きいお友達の中には大号泣している人すらいる。
流石にあれは泣き過ぎだが……ちょっと気持ちが分かってしまう自分が怖い。
『今日は本当にありがとうね〜! 私たちはこれでサヨナラだけど、まだまだ次の人たちがいるからしっかり応援してあげてね〜!』
『またねー』
そうこうしている内に曲が終わり、こいここと女子二楽房は万雷の拍手と声援の中退散していく。
当然、俺も全力の拍手で見送った。
「すごく良かったね、霧夜!」
「ああ、俺らも負けてられないな!」
そう気合を入れ合う俺たちをよそに、ミスティアが呆れたように言う。
「はいはい、私たちもそろそろ行くわよ。次の次だし準備しとかないとね」
その言葉に俺たちも頷いて、未だ興奮冷めやらぬライブ会場を後にする。
今のパフォーマンスで十分ライブの熱気は伝わった。
俺も早くステージに立ちてえ!
内心のワクワクを抑えながら、俺は控え室へと戻っていった。
ついに東方錦上京発売されましたね。
あたいは委託待ち勢なので9月までお預けです