幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第五十九話 最後の準備

 

 「よーし、ではお主らもそろそろ衣装替えしていくかのう。ほれ、そこに並べ」

 

 そう言って、横一列に並んだ俺たちにマミゾウPが言った。

 

 ちなみに雷鼓さんはステージの入れ替えの際に、舞台裏でささっとコスチュームを切り替えるそうだ。

 

 ホント便利だなマミゾウPの化けさせる程度の能力。

 

「そりゃっ!」

 

 マミゾウはそう掛け声を上げると同時に、ボフン、と響子とミスティアを二人同時に変化させる。

 

 煙が徐々に晴れたあと、そこには――

 

「へッへッへッへッ……ヒャン!」

 

「\ちんちん/」

 

 絶妙にアホっぽい顔で舌を出すたれ耳の犬と、鳩サブレーみたいにマンガ的に簡略化された、ミスティアの帽子を被った謎の鳥が妙な鳴き声を上げていた。

 

「……え、なにこれ?」

 

「うっひゃっひゃっひゃ! ざまあみろ、生意気な小童どもめ! いつか目にもの見せてやろうと機を伺っておったんじゃ!」

 

 キョトンとする俺を他所に、なんとも情けない姿になった二人に、マミゾウが腹を抱えてバカ笑いする。

 

 えええ……これ、二ッ岩家の裁き(本家)のやつじゃん。

 

 二人が反抗的だったのがよほど腹に据えかねていたのか、マミゾウはこの土壇場において悪戯を決行したようだ。

 

「きゃあああ! 可っ愛い! ねえねえ、この子たち地霊殿に連れて帰っていい!? いいよね!?」

 

「ダメダメ! うちのメンバーなんだから!」

 

 それを見て目をハートに輝かせたこいしちゃんが、大興奮しながら二人を連れ去ろうとする。

 

「早く戻してあげて下さい! もうじき俺らの出番ですよ!? このままじゃ珍獣ライブになっちゃいますから!」

 

「くっくっく、まあそう急くでないわ。もう少しこのマヌケな姿を堪能してからでも……いたたた! こら、やめんか!」

 

「ガルルルルッ!」

 

「ちんちん! ちんちん!」

 

 怒った響子(犬)がマミゾウの足首にガブリと噛み付き、ミスティア(鳥)がクチバシでその頭をプスプスと突きまくる。

 

 流石にそれには参ったのか、マミゾウは慌てて二人の変化を解く。

 

 ボフン、と再びモヤが晴れたそこには、新たなコスチュームに身を包んだ二人の姿があった。

 

「おお……!」

 

 俺はその姿を見て思わず声を上げる。

 

 響子の服装は、トップスは黒のスポーツブラに革のライダースジャケット。

 

 下はレザーのホットパンツに、ゴシックブーツ。

 

 そして穴開きグローブに棘付きチョーカーという、一昔前のサブカル系思春期を詰め込んだような服装だ。

 

 そしてミスティアはもっと分かりやすい。

 

 いつものドレスを基調とした、機能上必要のないベルトとチェーンがゴテゴテにあしらわれた黒のゴシックドレスだ。

 

 首のところにはスカルのシルバーアクセが光っていた。

 

「二人ともすごく似合ってるよ! めっちゃ可愛いしカッコいい!」

 

 俺がそう言うと、響子とミスティアは一瞬キョトンとしたあと、改めて自分たちの格好を見やる。

 

 そして少し経ったあと、喜びながら互いに歓声を上げた。

 

「わぁ……なんか凄くロックかも!」

 

「……まあまあ悪くないわね」

 

 素直に喜ぶ響子とは裏腹に、ミスティアは少し複雑そうに褒める。

 

 まあさっきまでマミゾウPと揉めてたからな、手放しで褒めるのも躊躇われるのだろう。

 

「当たり前じゃ! 他ならぬこのわしが"ぷろでゅーす"したんじゃからな。だというのにこの恩知らずな小童どもは……」

 

「本番前に変な悪ふざけするからでしょうよ」

 

「そうだよ! すっごい焦ったんだから!」

 

 噛まれたところをさすりながら立ち上がるマミゾウに、響子とミスティアは再び抗議する。

 

「ま、まあまあ二人とも……。すいません、プロデューサー。素晴らしい衣装作ってもらって、一応二人も感謝してるはずなので……」

 

「ふん! まったくそうは見えんがのう。まあ良いわ、どちらにせよお主らにはしっかりやって貰わねばわしの面子に関わる! 本番では精々気張ることじゃな!」

 

「あんたに言われなくてもやってやるわよ!」

 

「そっちこそ、私たちのカッコいいところしっかり見ててよね!」

 

 マミゾウの言葉に、二人が負けじと言い返す。

 

 相変わらず喧嘩腰だが、最初の頃に比べて少しだけマシになった……のか?

 

 仲直りした訳では無いが険悪とまではいかない。少なくともこのイベントの間は協力し合うことに決めたらしい。

 

 一時はどうなるかと思ったが……まあこういう関係性も幻想郷らしいっちゃらしいか。

 

「すいません、プロデューサー。俺のコスチュームもお願いしたいんですけど……」

 

「うん? ああ、そうじゃったな。ほれ」

 

 そう言ってマミゾウが雑にパチンと指を鳴らすと、ボフンと煙で視界が覆い尽くされる。

 

 おお……! これがマミゾウの変化の術か!

 

 実際受けてみるとなんだか不思議だな。特に変わったような感じはしないけど……。

 

 目の前のモヤが晴れて、改めて鏡で確認してみると、そこには――作務衣(さむえ)を着て雪駄を履いた、普段自分が命蓮寺でお勤めしている時とまったく変わらない姿があった。

 

「えっ……? なにか変わったようには見えませんけど……」

 

「霧夜、背中になんか書いてあるよ?」

 

「え?」

 

 俺は響子にそう言われて、鏡に背を向けて必死に首を後ろに向けて見る。

 

「なんじゃこりゃ!?」

 

 そこには――作務衣の背中に妙に達筆なフォントでデカデカと『南無三』とプリントされていた。

 

 ……だっせえ! 観光地にある外国人向けのお土産じゃん!

 

 某地獄の女神様が着てるアレに近い波動を感じるぞ……。

 

 これまでの皆全員センス良かったのに、なんで俺だけこんな駄作務衣に……。

 

「うむ、実はな……お主の衣装作りは難航してのう。お主、顔にあの雑面(ぞうめん)を貼り付けて出るんじゃろ? アレのせいでまともな服は何着せても似合わんように思えてしまってな」

 

「…………!」

 

 悩ましげなマミゾウの言葉に、俺は絶句する。

 

 確かに、俺は顔に紙を貼り付けて出るつもりだ。

 

 当時の俺はなんかよく分からない図柄が描かれたただのお札だと思っていたが、後から聞けばあれは『蘇利古(そりこ)』という雅楽で使うお面らしい。

 

 それに早苗さんが奇跡の力を込めて、人を妖怪と誤認させるまじないを掛けているのだとか。

 

 あれは俺がギター妖怪Kというアイデンティティを維持するために……ついでに身バレ防止のためにも絶対に必要なものなんだが、まさかそのせいでコスチュームが作れなくなるとは……。

 

「いやでも、せめてなんかこう、もうちょっと凝った作りのものには……」

 

「そうは言うがわしも何人分も衣装替えしてそろそろ妖力が尽きかけなんじゃ。具体的にはお主とあともう一人くらいが限界といったところか。雷鼓にもう一度掛け直さなきゃならんことを考えると、ここらで節約しておかねば後で足りなくなるかも知れんし」

 

「………………いやそれ、さっき響子とミスティアに変な悪戯しなければ普通に足りてたんじゃないですか?」

 

「過ぎたことをグチグチ言っても仕方なかろう!!」

 

 俺の指摘に、マミゾウはそう大声で言い返す。

 

 あっ……これ図星だから怒った勢いで誤魔化そうとしてるな。

 

 なんともしまらない話だが、どうやら妖力が尽きかけなことと、いいコスチュームが思い浮かばなかったのは本当らしい。

 

 なので詰めてもどうにもならなさそうだ。

 

「はあ……分かりました。もう俺はこれでいいですから、その分雷鼓さんのコスチュームはしっかりお願いしますよ」

 

「分かっておるわい。そっちはちゃんと思いついておるから任せよ」

 

 そう言ってマミゾウPは、ドン、と自身の胸を叩く。

 

「ぷ、くくく……! それにしてもあんた、南無三って……!」

 

「わ、笑っちゃ悪いよミスティア! 霧夜はこれでもカッコいいんだからっ」

 

 それを他所に、ミスティアは俺の背中を見てクスクスと含み笑いをする。

 

 響子は庇ってくれているようだが、あれ? もしかして二人の中では俺がやらかした感じになってる?

 

 俺だってこんな変Tの亜種みたいなデザイン望んでねえよ……。聖には悪いが、同じ仏教用語なら南無三より色即是空とかのほうがいくらかマシだったんじゃないだろうか。

 

「ほれ、ごちゃごちゃ言っとらんでそろそろ出る準備をせぬか! もうじきお主らの出番じゃ。直前になって慌てているようではろくな演奏が出来んぞ!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「ちゃんとやるもん!」

 

 そうマミゾウPに指摘されて、俺たちは慌てて出番前の最後の音合わせを行う。

 

 モニターの中では、プリズムリバーwithHが最後の曲を演奏している所であった。

 

 やべえ、かっけえ……!

 

 曲目は『リーインカーネイション』だ。それも蓬莱人形版のようだ。

 

 これを最後に持ってくるあたり分かってるというかなんというか……センスが光っている。

 

 順番もさることながら、演奏も思わず魅魔様が本編に復活してきそうなクオリティだ。

 

 それに感化されてか、俺の指先にも自然に熱がこもる。

 

 客席のボルテージに引きずられるように、俺たちも着々と出番に向けて着々とテンションを高めていった。

 

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