幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第六十二話 プライマル・スクリーム

 

 『――A denial...《消えてなくなれ》

 

 その吐き捨てるようなネガティブな一言と共に、スメルズ・ライク・ティーン・スピリットは終わる。

 

 響子は相当全力で歌ったのか、肩で息をしている。

 

 かく言う俺も、頭を振りながら全力でギターを演奏していたおかげか、一曲目なのにかなり疲れている。

 

 だが、相手を圧倒するくらいの演奏は出来たはずだ。

 

 これだけやってなお、前列でギャーギャー騒ぐ輩がいるならもう止めて途中で帰っちまおう。

 

 そんな客相手にアホ臭くてやってられないし、そっちの方がある意味伝説になってバンドに箔が付くかも知れない。

 

 ……しかし、さっきから響子からビリビリととんでもないプレッシャーを感じるんだが、一体どうしたんだ??

 

 本能がここから逃げろ、と全力で訴えかけているような気がする。

 

 なんか全身から赤いオーラが立ち昇ってるし、明らかに何かの異変が起きているようだ。

 

「きょ、響子?」

 

 俺は恐る恐る響子に声をかける。

 

 ミスティアも心配したのか、響子の近くに駆け寄っている。

 

 ――しかし次の瞬間、響子は俯いたままマイクを握り込むと、あろうことかそれに向かって絶叫し始めた。

 

 

 

ふッざけんなアアァァァァーーッ!!

 

 

 

「…………!!」

 

 思わずキーンと耳がイカれそうなほどの怒声に、俺は思わず顔を顰めながら両耳を抑える。

 

 とんでもないデカさの咆哮だ……! あまりの声量にスピーカーのリミッターをぶっちぎって停止してしまったようだが、生声だけでもビリビリと肌が痺れるほどの音圧がくる。

 

 その地の底から響くような声はいつまでも途切れることなく、それどころか時間が増すごとに徐々に大きくなっていく。

 

「……なんだ!?」

 

 ――やがてそれは山全体に反響し始め、地面までグラグラと揺れ始めた。

 

 それに気付いた観客たちも悲鳴を上げて蹲る。

 

 ……まさかこの地震、響子が起こしてんのか!?

 

 いやいや、ちょっと待て! 流石にこれはマイクパフォーマンスでもやり過ぎだ!

 

 俺は慌てて止めに駆け寄ろうとするが、あまりの振動に足がとられて上手く歩けない。

 

 このままだとイベントどころか死人が出るぞ!?

 

 俺がそう焦ったその時――ふと境内の上空で、照明とは別の、何か安心感を感じるような不思議な光が辺りを照らす。

 

 光源を見上げるとそこには――観客たちの遥か頭上で、淡く発光しながら手を合わせ、何事かをぶつぶつと唱えている洩矢諏訪子の姿があった。

 

 そしてその対面には、要石を周囲にいくつも浮かべた比那名居天子が、勝気な笑みを浮かべて飛翔している。

 

 その幻想的な光景に目を取られていると――天子が腕を振り上げながら高らかにこう言った。

 

「――天にして地を制し、地にして要を打ち立てよ! さあ地上の下民どもよ、天人の偉大な力を見るがいいわ!」

 

「ごめんね、お山さん。ちょっと大人しくしててね?」

 

 そう言って諏訪子様が地上を淡い光で包み込み、天子がその上からズドン! と深々と要石を打ち込む。その瞬間――先ほどまでの激しい振動が急激に静まり始め、わずか数十秒でピタリと嘘のように地震が止まる。

 

 その光景を見ていた観客たちは、恐る恐る立ち上がったあと、地震が収まったことを理解する。

 

 いつの間にか響子も咆哮をやめており、観客たちからは地震を抑えた天子と諏訪子を称える声が上がった!

 

「うおおおーーっ! 天人様万歳!」

 

「何者だ、あの金髪の子は!?」

 

 しかしそんな中――響子はツカツカとステージ前に向かったあと、フロントスピーカーにガン、と足を置いて言った。

 

『うるせええーーッ! くだらねえことでゴチャゴチャ騒いでんじゃねぇッ!! そんなことより、私たちの歌を聴けぇーーッ!!』

 

 響子がそう絶叫すると、ギィーーン! と再びスピーカーが甲高くハウリングする。

 

 先ほど騒いでいた連中は皆面食らって唖然とする中――突如としてスダダダン! とまるで銃声のような激しいドラムの音が響く。

 

 振り向くとそこには――雷鼓さんがサングラス越しにこちらにウインクしながら、激しくビートを刻んでいる。

 

 それに合わせてミスティアがギターを鳴らし始める。

 

 くそっ、俺としたことが出遅れた!

 

 そうだ、トラブルなんかに気を取られている場合じゃない! 今俺たちはステージに立ってんだ、最高のパフォーマンスをすること以外考える必要はない!

 

 俺も慌ててそれに合流すると、響子はメンバー全員に向かって頷き、ステージの前に身を乗り出しながら歌い始めた。

 

『――持て余してるFRUSTRATION!

 

 

 * * *

 

 

 よし……!

 

 俺は確かな手ごたえを感じながら、観客に隠れて小さくガッツポーズする。

 

 オーディションで弾いた頃よりも一段階上の演奏できたと思う。

 

 ミスティアも前より上手くなってるし、今回は雷鼓さんも俺もいる。

 

 ――何より響子がなんか凄い。

 

 今まではちっこくて可愛い何かだった響子が、今は全身からカリスマのようなものを発して一回り大きく見える。

 

 歌声だってそうだ。

 

 これまででも十分上手かったけど、今はなんか、聴くだけで腹の底から響いてくるような、"スゴ味"みたいなのが歌声に乗ってくるようになった。

 

 響子に何があったのか分からんが……さっき山が震えるほどの大絶叫した時に一皮むけて成長したんだろうか?

 

 だが、これでも受け入れらるかどうかは分からない。

 

 何せ俺らには先ほど大量にアンチが産まれたばかりだ。

 

 さっきの地震のことだってある。あれを俺らのせいだと思われていたら、再びさっきのような騒ぎになるかもしれない。

 

 なのでこれで客からブーイングされるようなら、途中でもさっさと止めちまうのも手だなと、そう思っていたが――その予想はいい意味で覆された。

 

 

 

「「うおおおおおおーー!!」」

 

 

 

 次の瞬間――場内は割れんばかりの歓声に包まれる。

 

 先ほどまでのブーブー文句たれてた連中も何処へやら、全員手を振り上げて雷鳴のような喝采を鳴らしていた。

 

 なんとまあ、調子が良いというかなんというか……手のひらがドリルで出来てんじゃないかこいつら?

 

 でもまあこれでいい。なんたって今日はお祭りなんだから、細けえことは忘れちまおう!

 

 なにせ俺らは悪評をひっくり返して理不尽に勝ったんだ。後は全力で楽しむだけだ!

 

『バカヤロー! 何がうおおー、だ、舐めてんじゃねえぞテメーら!?』

 

 響子が再び咆哮を上げる。

 

 ……あれ? もしかして響子怒ってる?

 

 なんか前見たライブの時より攻撃的なような……。

 

 ただ幸いなことに相手はマイクパフォーマンスの一環だと思っているのか、かえって観客は盛り上がっているようだ。

 

 響子はそれに何度も地団駄を踏んだあと、観客に向かって、中指を突き立てながら絶叫する。

 

『それじゃあ、イカれたテメエらにピッタリの曲を演奏してやるぜッ!』

 

「…………!」

 

 響子がそう言ってこちらにチラッと目配せした瞬間、察した俺はギターを鳴らし始めた。

 

 響子は冷静だ。雰囲気からは確かに怒ってはいるようだが……それを上手い具合に音楽に昇華出来ている。

 

 この短時間でなんとも頼もしいリーダーになってくれたようだ。

 

 だったら俺は、響子の望む音を届ける!

 

『『HEY! HEY! HEY!』』

 

 激しい前奏に合わせて、バンド全員が声を合わせてリズムを取る。

 

 場内のボルテージが上がってきたところで、響子が歌い始めた。

 

 

『――Welcome to this Crazy time! このイカれた時代へようこそ!?

 

君はTOUGHBOY! TOUGHBOY! TOUGHBOY! TOUGHBOY!

 

「「おおおおおおおっ!!」」

 

 

 響子の熱唱に、場内のオーディエンスは右手を振り上げてリズムを取り始めている。

 

 どうやら観客の心を完全に掴むことに成功したようだ。

 

 この曲を選んだのは、前奏のギターがめちゃくちゃカッコいいのもあるが、半分くらいは聖へのサービスだ。

 

 聖はアニメ版を知らないが、曲のプログラムには北斗の拳2主題歌って書いてるので多分気づくだろう。

 

 そして元を知ってる奴はもちろん、知らないやつでも盛り上がれる曲だ。

 

 わざわざエフェクトを掛けなくても、響子は自分の声に自在にエコーを掛けて好きなところに響かせることができる。

 

 それも相まってか、音源よりも更にクリアで迫力のある音響で観客に届けることができていた。

 

 更に熱気を上げていく場内の歓声に確かな手応えを感じながら、俺は曲に合わせて高く拳を振り上げていた。

 

 

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