幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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第六十四話 プレイング・フォー・ザ・フューチャー

 

 ステージも終盤、ここまで最高の状態でやってこれた。

 

 いとしのレイラ、スモーク・オン・ザ・ウォーター、天国への階段、ゲットワイルド、ジャンピングジャックフラッシュ、愛をとりもどせ! などなど、和洋折中で方向性も雰囲気もバラバラの往年の名曲を演奏したが、その全てが観客に受け入れられた。

 

 もうイベントも後半だと言うのに、観客のテンションは中垂れすることなく最高潮に達している。

 

 きっと目新しさもあるのだろう。

 

 これまで幻想郷にはハードロックバンドというものがなかった。

 

 そのフロンティアを、俺たちが先人の遺産というチートを使って青田刈りしている状態だ。

 

 そりゃ受けなきゃおかしい。

 

 だが同じ曲を知っていたとしても、俺ら以上のクオリティで、しかも能力付きで演奏出来るバンドなんて幻想郷の内にも外にも存在しない。

 

 そしてこのステージは、あのボロい箱で、コツコツ二人で演奏してきた響子とミスティアが掴んだ集大成でもある。

 

 

 だからこの栄光は俺たちが受け取る正当なものだ!

 

 

 鳥獣伎楽こそ世界最強のロックバンド――そう内なる確信を抱いて、俺は最後の一音を掻き鳴らす。

 

 オーディエンスの怒号のような歓声が鳴り響き、響子が右拳を突き上げて歓声に応える。

 

 その様はもはや伝説のアーティストのような風格だ。

 

 神奈子様やゆかりんみたいな強者特有のオーラまで放ってるし、本当に演奏中に成長するという漫画みたいな出来事が響子の身に起きたのかも知れない。

 

『ああ、もう次が最後だ! めちゃくちゃだったが、なかなか楽しかったぜテメーら! 少なくとも最初のクソみたいな気分よりは少しはマシになったかもなァ!?』

 

「「うおおおおおおっ!!」」

 

 そう舌を出しながら吐き捨てるように言う響子に、オーディエンスたちが歓声で応える。

 

 やっぱりまだ怒ってるっぽいな……。歌ってて多少は落ち着いたようだが、口調はまだ攻撃的だ。

 

 でもそれを含めて芸風のように観客に受け入れられている。

 

 雷鼓さんもミスティアも、まったく疲れが見えないくらい気力が充実しているようだ。

 

 ここにきて一番の演奏ができそうだ。

 

『次の曲は全員で歌う! 私がマイクを向けたら、テメーら全員で声を合わせるんだ! ノリの悪いやつは置いていく! それじゃあ行くぞッ!』

 

「「おおおおおおっ!!」」

 

 響子の乱暴な口調にもオーディエンスは歓声で応える。

 

 こうなればもうこっちのもんだ。

 

 響子は既に場を支配している。あとは俺らがきっちり決めれば響子が観客を盛り上げてくれるだろう。

 

 俺たちは響子の目配せに頷き返したあと、ズダダダン! という雷鼓さんの雷鳴のようなドラムの音とともに演奏し始める。

 

 それに合わせて、響子が低いボイスパーカッションを鳴らしながら歌い始めた。

 

Tommy used to work on the docks Union's been on strike《トミーはその頃港で働いていたんだ。組合のストライキが長引いてね》

 

He's down on his luck...it's tough, so tough《苦しい生活をしていたんだ。全くツイてない奴さ》

 

 そう語りかけるような歌詞から始まるこの曲は、ジョン・ボン・ジョヴィの不朽の名盤『リヴィン・オン・ア・プレイヤー』だ。

 

 今を苦しんでる人々にエールを送るような、ポジティブな曲をステージの最後に持ってきたかったのだ。

 

 

Woah, we’re halfway there《ああ、俺たちはまだ道半ばだ》

 

Woah-oh,livin’ on a prayer!《希望を支えに生きているんだ!》

 

Take my hand, we’ll make it, I swear《俺の手を離すな、上手くいく。そう、必ずだ!》

 

Woah-oh, livin’ on a prayer!《希望を支えに生きているんだ!》

 

 

 その響子の声は場内に響き渡り、底から響くような声で観客たちの心境にエコーしていく。

 

 それがどう受け取られるかは知らないが、少なくとも響子の歌声には人の心を動かす力がある。

 

 それは一番近くで聴いてる俺らが最も理解できることだし、恐らくミスティアと雷鼓さんも同意してくれるだろう。

 

 

We gotta hold on, ready or NOT《希望にしがみつくんだ、覚悟があろうとなかろうと》

 

You live for the fight when that's all that you've GOT《戦うしかないなら、その戦いのために生きろ!》

 

Woah, we’re halfway there《そう、俺たちはようやくここまで来たんだ》

 

 響子はそう歌い切ったあと、咄嗟に観客側にマイクを向ける。

 

『ここ!』

 

「「Woah-oh《そうさ》!」」

 

livin’ on a prayer!《希望を支えに生きているんだ!》

 

Take my hand, we’ll make it, I swear《俺の手を離すな、上手くいく。そう、必ずだ!》

 

「「Woah-oh《そうさ》!」」

 

livin’ on a prayer!《希望を支えに生きているんだ!》

 

 

 響子の呼びかけに呼応して、観客の中でも勘のいい半数ぐらいの者が響子に合いの手を返す。

 

 英語の歌にこんだけ対応できた者がいたのは奇跡かも知れない。

 

 場内全体で曲を盛り上げている感覚に、俺たちも一体感を感じながら演奏する。

 

 やがて響子が歌い切ると、割れんばかりの歓声とともに万雷の拍手が降り注ぐ。

 

『…………』

 

 響子はそれに何も言わずにバッ、と右手を振り上げて応えたあと、颯爽と踵を返して一顧だにせずにステージを立ち去る。

 

 かっけえ……なにあれ、フレディ・マーキュリーが憑依してるのか?

 

 一瞬唖然としたが、リーダーが去ったのなら俺らも従うまでだ。

 

 ギターを片付け、未だ鳴り止まぬ歓声を背に浴びながら、雷鼓さんミスティアと共にステージ裏へと引っ込む。

 

 バックステージでは、響子がこちらに背を向けたままじっと佇んでいた。

 

「響子!」

 

「…………!」

 

 俺がそう声を掛けると、響子はバッと振り向いたあと、俺の身体に勢いよく飛び込んできた。

 

「おわ、ちょっ……!?」

 

「あいつら……霧夜に酷いこと言ったくせに、それを忘れたように呑気に楽しそうにはしゃいで……! それを見てると私、頭がぐちゃぐちゃになって……!」

 

 そう言ってぎゅっ、と俺の身体にしがみつく響子に、俺は思わず目を見開く。

 

 落ち着いたなんてとんでもない。まだ響子は相当怒っていたらしい。 

 

 なんなら半ばどうでもよくなってる俺の数倍は怒っていたようだ。

 

 気性が優しい響子は、自分よりも仲間が悪く言われていることに我慢がならなかったのだろう。

 

「響子、そこまで……」

 

「気持ちは分かるわ。私もムカついて本当に客席に雷落としてやろうかと思ったもの! ……でも、響子も我慢してちゃんとやり切ったのよね。本当に偉いわ」

 

 ミスティアと雷鼓さんも、響子に寄り添うように言う。

 

「――でもさ、あれは俺らの勝ちじゃない?」

 

 そんな中、俺はあっけらかんと出来るだけ明るい口調で言い放つ。

 

 それを聞いた響子は、俺の胸元から顔を上げて赤く充血した目をこちらに向けた。

 

「……勝ち? 私たちの?」

 

「もちろん。騒いでたあいつらは俺をステージから降ろそうとしてたけど、結局俺たちの活躍を止められなかっただろ? それどころか、あいつら自身も俺たちの実力に屈服して、最後は一緒になって曲に合わせて踊ってたじゃないか。これが勝ちじゃなくて何なんだ? 勝利も勝利、圧倒的な大勝利じゃないか」

 

 肩をすくめながら戯けたように言ったあと、更に続ける。

 

「だから俺はもう結構どうでもいいんだ。結局ああいうゴシップに群がって騒ぐような連中は、他の誰かの引き立て役にしかなれない。主役の器じゃねえなと思うことはあっても怒りはないよ。……だけど、俺の代わりに響子がそんな怒ってくれたのは嬉しいよ。ありがとな!」

 

 俺はそう言って、響子の顔を両手で挟んでぐしゃぐしゃと撫でくり回す。

 

「あわわわ! やめてよ~!」

 

 響子は口では嫌がっても、その実嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「ふふ、霧夜くんの言う通りね。あれは私たちの完全勝利よ! 口汚く罵ってきた相手を実力だけで黙らせたんだもの」

 

「そうよ、響子! 知ってる? 争いは同レベルの者同士でしか発生しないの! 奴らと私たちでは格が違うんだから、争いにすらならないわ。どちらかと言えば相手が勝手に自滅しただけよ」

 

 響子は他二人の言葉を聞いて、少し考えたあと笑顔で頷いた。

 

「……うん! そっか、じゃあ、もういいんだね? 怒らなくても」

 

「ああ、怒ったまま歌ってた響子もカッコよかったけど、やっぱりいつもの可愛い響子が一番だ。うりうり!」

 

 俺がそう言って、ウィークポイントである耳の付け根を擦ってやると、響子はふにゃあと気持ちよさそうな声を上げた。

 

「――ふふふ、お疲れさまでしたわ、皆さん。素晴らしいパフォーマンスだったと、心から称賛致しますわ」

 

「おわぁ!?」

 

「賢者さん!?」

 

 突如としてぬるりと空間の亀裂から姿を現すゆかりんに、一同はびっくりして後退る。

 

 その現れ方はいちいち心臓に悪いから止めて欲しい……まあ本人は分かった上で反応を楽しんでやってるんだろうけど。

 

「ふふふ、特に先ほどの霧夜さんの言葉、とても感銘を受けましたわ。あの場においてあれ以上の勝利はないと言えるでしょう。あなた方は悪意を跳ね除けて、一段上のステージに上がりました。……特に響子、あなたは妖怪としても一段上の存在となられたことを、妖怪の賢者として心よりお祝い申し上げますわ」

 

「えっ、妖怪として?」

 

 その不可解な言葉に、響子はキョトンとした顔で聞き返す。

 

 どういう事だ? 確かにステージ中はなんか響子からとてつもないプレッシャーを感じたが、今何故か俺にしがみついて離れない響子はいつも通りの可愛いわんこだぞ?

 

 ゆかりんはその疑問に、口元を扇子で隠しながら妖しげに微笑んで答えた。

 

「あなたは今や山彦ではありません。人間の恐怖と畏怖を大量に喰らって、"山鳴り"というもっと恐ろしいものへと進化しました。その鳴き声は大地へ響き渡り、地震や地滑り、果ては噴火までも引き起こすという、この世に一匹限りの大妖ですわ」

 

「ええっ!?」

 

 その言葉を聞いて、俺は思わず腕の中でキョトンとした顔をする響子を見やる。

 

「た、確かに……ステージの前と後で、妖気の質と量が桁違いに上がってるような……」

 

 ミスティアが響子の方をじっと見て、戦慄したような声を上げる。

 

「何かステージ中のプレッシャーが急に上がったなと思ったけど、そういう事だったのね」

 

 雷鼓さんも納得したように頷く。

 

「え、えっと、それって色々マズイんじゃないですかね? 鳴き声で地震を起こすって、もう迂闊に歌えないんじゃ……」

 

 俺がそう尋ねると、ゆかりんはクスクスと微笑みながら答える。

 

「ふふふ、それは心配ありませんわ。自身がそうだと理解すれば、力の使い方も制御も本能的に理解できる、元来妖怪とはそういう存在なのです。響子、力の使い方は分かりますか?」

 

「…………うん、分かる、分かるよ! 私が起こそうと意図して思いっ切り叫べば、ある程度の地震を起こせるようになってると思う、多分」

 

「そうですか、では――その力を、幻想郷で使いたいとお思いですか?」

 

 ゆかりんは口元を扇子で隠しながら、すっ、と目を細めてそう尋ねる。

 

 その口調はどこか底冷えするような、無機質な冷徹さを含んでいた。

 

「……ううん、使わない! 幻想郷には霧夜もいるし、ミスティアや雷鼓さん、それに賢者さんや他にも傷付けたくない人がいっぱいいるもん! だから使いたくない! 使う必要もないしね」

 

 響子は一切迷いなくそう言い放つ。

 

「そうですか……それを聞いて安心しましたわ。最も、あなたのような温厚な気質の方以外は持つことすら許されないほどに危険な能力です。くれぐれも取り扱いには気を付けて下さいね?」

 

「うん、絶対使わない! ありがとう、賢者さん!」

 

 響子はニコリと笑いながらそう答える。

 

 いや普通にヤバイよなこの力……その気になれば幻想郷を滅ぼせるんじゃないか?

 

 つまりは二次創作でよくあるEX化って奴なのかもしれない。条件を満たせば妖怪が進化するなんて初めて知ったぞ。

 

「……もし響子が面白半分で能力を濫用するような輩だったらどうするつもりだったの?」

 

 雷鼓さんが胡乱げな眼差しを向けてそう尋ねる。

 

「あら、せっかく濁したのに野暮なことを訊かないで下さいな。その場合はそれなりの対処(・・)をするまでですわ。内容に関してはお答え出来かねますけど」

 

 そう言ってクスクス笑うゆかりんに、雷鼓さんはうげっ、と嫌そうな顔をして後ずさる。

 

 口振りからして滅殺されてた可能性も無きにしもあらずだな……ゆかりんは幻想郷を護る為なら顔見知りでも躊躇なく処せそうだし。

 

 幸いながら響子はさっきから俺の汗の臭いをすんすん嗅ぐのに夢中で聴いてなかったようだ。てか俺まだ上半身素っ裸だしいい加減離れて欲しいんだが……。

 

「ふふ、そんなことより良いんですか? ステージからはまだ皆さんを呼ぶ声が響いているようですが」

 

「「アンコール! アンコール!」」

 

 気付けば、ステージ側に集まった観客たちからアンコールの声が鳴り響いている。

 

 俺はステージ側に視線を向けたあと、雷鼓さんに尋ねる。

 

「……どうしますか? 言ってたじゃないですか、例のアレですよ」

 

「応えてあげたいけどどうしようかしら……。響子が嫌ならこのまま終わってもいいわよ」

 

「ううん、私もさっき怒りながらステージに立っちゃったから……今度は皆と一緒に楽しみたい!」

 

 響子の言葉に俺たちは互いに頷き合ったあと、アンコールに応えることを決める。

 

 それに示し合わせたように――控え室の方から、こいここと九十九姉妹、そしてプリズムリバー楽団までもが揃ってステージ裏に集結した。

 

「雷鼓、待たせたな」

 

「皆、凄かったわ〜!」

 

「私控え室で見ていて痺れて興奮しちゃった!」

 

「……ふん、まあまあだ。私たち最強の姉妹と姐御が組めばあんなものでは済まされんがな!」

 

「琵琶と琴はドラムと相性悪いと思うわよ姉さん〜」

 

 そう言って姿を現した皆は、もうコスチュームではなくいつもの普段着に変わっていた。

 

 それら全員を見回したあと、最後に出てきたマミゾウPがこの場を代表して言った。

 

「皆集まったか……それじゃあこれが大詰めじゃ! 気合を入れて行ってこいっ!」

 

「「おーっ!!」」

 

 そう掛け声を上げるとともに、俺たちは再度ステージへと駆け上がった。

 

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