幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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EX小話
EX1 初心者は囲ってナンボ


 

 「「カンパーイっ!」」

 

 あの日から一日明けて、鳥獣伎楽の面々がミスティアの屋台に集い、盛大にコップを突き合わせる。

 

 イベントの打ち上げであった。

 

 参加者はミスティアと響子と俺、そして新メンバーとして雷鼓さんも呼んである。

 

 今回のイベントで、掛け持ちとは言え正規メンバーになったのだ。集まりに呼ぶのは当然と言えた。

 

「いやー、いいわねこういうの。イベントが終わったーって感じがするわ! うなぎも美味しいし、雰囲気のいいお店じゃない」

 

 雷鼓さんが蒲焼を口にしながら、ミスティアの店を褒め称える。

 

「ありがと! 今日はいっぱい仕込んできたからじゃんじゃん食べてってね! 響子ー、新しいの上がったわよ!」

 

「はーいっ!」

 

 バンドではリーダーの響子とそのメンバーのミスティアだが、屋台ではその関係性が逆転する。

 

 ここはミスティアの城で、響子はその一従業員だ。この関係性があるからこそ、お互い変な負い目がなく対等の親友であれるのかも知れない。

 

「それにしてもライブ中の霧夜くんには驚いたわね。普段は温厚なあなたが満員の観客相手にあんな事するとは思わなかったわ」

 

 ちょうどよくお酒が回ってきた辺りで、ほろ酔いの雷鼓さんが日本酒片手に面白がるように言う。

 

「いやー、お恥ずかしい。あの時は完全に頭に来てまして……。ギャーギャーうるさい連中に一泡吹かせてやろうと思ってつい……」

 

「まったく、戦えもしないくせによくやるわ。妖怪の観客のうち、誰かが飛び掛かってきたらあんた死んでたわよ?」

 

「うっ……」

 

 ミスティアの言葉に、その時のことを想像して血の気が引いていく。

 

 確かにあの時の観客は大半が人間だったが、妖怪もかなりの数混じってたからな。

 

 理性の効かない頭のおかしい奴が一匹でも混じってたらヤバかったかも知れん。

 

「ふふ、まあ良いんじゃない。妖怪だってバンドマンだって舐められたら終わりよ? やられた時はガツンとやり返してやらなきゃ!」

 

 雷鼓さんは、しゅっしゅっ、と口に出して言いながら、虚空にパンチを繰り出す動作をする。

 

「うん、霧夜はすっごいカッコよかったよ!」

 

「ま、スッキリしたのは確かね。あのままだとまともに演奏できなかったもの」

 

 響子とミスティアも最終的にはそう言ってくれる。

 

 どうやら俺のやったことは幻想郷の妖怪的には大ヒットらしい。まあ皆基本的に血の気多いしな。

 

 確かに下手すりゃ自殺行為に近かったが、それでもあの場においてはベストな選択だったと未だに思う。

 

 雷鼓さんの言う通り、バンドマンは客に舐められたら終わりだ。

 

 カッコ悪い奴の演奏なんかに誰も熱狂してくれない。

 

 ここで言うかっこいい悪いは、見た目じゃなくて振る舞いの話だ。ビビってイモを引くやつより、多少頭のネジがぶっ飛んでるくらいのほうがロック界隈ではファンが増える。

 

「まあでも一番凄かったのは響子だよ。今回のイベントで一番ファンを増やしたんじゃない?」

 

「私?」

 

 俺の言葉に、当の本人はキョトンとしながら自分を指差す。

 

「ふふ、そうね。歌ってるときの迫力は凄かったし、あのオーラと歌声で幻想郷中の誰もが度肝を抜かれたと思うわ」

 

「ま、トーゼンよね! 響子は凄いんだから。ライブ中のマイクパフォーマンスや立ち回りも、鬼気迫る感じでカッコよかったしね」

 

「も、もうやめてよミスティア! あの時は霧夜に酷いこと言われてカッとなって、よく覚えてないんだって! 本当は私も純粋に楽しみたかったのに……」

 

 そう言って響子は残念そうに肩を落とす。

 

 まああの時の響子は本当に凄みがあったからな。ガッカリしてる本人には悪いがあれには本当に痺れた。

 

 だが、元々温厚で優しい響子はあれを素で出すのは難しいんだろう。残念なような、ホッとしたような複雑だ。

 

「――おっ、皆もうやってるな」

 

 そんな時である。

 

 竹林の奥から軽くこちらに声を掛けながら、人影が近付いてくる。

 

 膝下まで伸びる長い銀髪を、何枚もの赤い御札でまとめた少女――藤原妹紅である。

 

 もはや妹紅は身内のようなものなので、客席から見たライブの感想を聞くために特別に打ち上げに呼んでいたのだ。

 

 ――だが、不思議なことに妹紅は何故かその背中にギターケースのようなものを担いでいた。

 

「妹紅さん!? どしたんですかそれ、ギター?」

 

 俺がそう尋ねると、妹紅は気恥ずかしそうに頬をかきながら言った。

 

「あー、そのえっと……実はライブでお前たちの演奏を聴いて、つい香霖堂で売ってたのを衝動買いしてしまってな……。買ったはいいけど使い方が分からなくて、こう言うのに詳しそうな霧夜に訊いたら分かるかなって……」

 

 妹紅はその白い頬を真っ赤に染めながら、目を逸らしつつ言う。

 

 その姿に俺たち一同は顔を見合わせたあと、微笑ましいものでも見るかのように顔を綻ばせる。

 

「なんだ、そんなことですか! もちろんいいですよ。どうせなら買う前に言ってくれれば良いのを紹介も出来たんですけどね」

 

「あははっ! 妹紅さんも意外と可愛いところあるのねえ」

 

「でもやりたいことを行動に移せたのは偉いと思うよ!」

 

「や、やめろよ、だからあんま他人に見せたくなかったんだ。あーもう……!」

 

 妹紅は恥ずかしそうにそう言ったあと、俺にギターを手渡してくる。

 

 俺がギターをケースから取り出して検分している横で、所在なさげに佇んでいた妹紅が、隣の席に座っている雷鼓さんの存在に気付く。

 

「あ、あんたは、プリズムリバーwithHの……!?」

 

「あら、何処かで見たことがあると思ったら、いつもうちのライブに来てくれる白い髪の綺麗な子じゃない! 貴女もこの子たちの知り合いだったのね。堀川雷鼓よ、いつも応援ありがとね」

 

「あ、うん、その……まあ、な……」

 

 雷鼓さんの前で、その十倍以上長生きしてるはずの妹紅さんが吃ってモジモジしている。

 

 色々と珍しいものが見れるな今日は……。

 

 しかしやっぱり妹紅さんプリズムリバーwithHのファンだったんだな。

 

 なんか憑依華でそんなこと言ってたもんな。

 

 ん? このギターは――。

 

「……妹紅さん、これ四弦ですよ?」

 

「え、なんか不味かったか? 間違って買ったとか……」

 

 俺の言葉に、妹紅さんは不安げにこちらを見やる。

 

「いやこれ、ギターはギターですけど、"ベース"っすね。まさかこのタイミングで妹紅さんがベースを買ってくるとは……」

 

 俺はそう言って少し考えたあと――妹紅さんの手を取って言った。

 

「妹紅さん、一緒にやりましょう!」

 

「うええっ!? お前、何言ってんだ!?」

 

 その言葉を何か誤解したのか、妹紅は再び真っ赤になりながら後退る。

 

「霧夜、どういうこと!?」

 

「いや、ベースだよ、ベース! うちにずっと足りなかった楽器を、このタイミングで妹紅さんが持ってきたのは運命だよ! だから俺らと一緒にやりましょう、妹紅さん!」

 

「ああ、一緒にってそういう……い、いやでも、私は完全なド素人だぞ!? 今から混じってもお前たちの足を引っ張るだけだろ?」

 

 何を誤解していたのか、妹紅はうろたえながらもそう応える。

 

「いえ、俺は専門はギターですけど、ベースも基本くらいは教えられますから。それにすぐにステージに立つ必要はないんですよ? しっかり練習して、ある程度やれるようになったら満を持してデビューすればいいんです。一人でやるより絶対そっちの方がいいですって!」

 

「……! そうだよ妹紅さん、一緒にやろうよ! きっと楽しいよっ!」

 

「そうね、私も妹紅さんだったら歓迎だわ。今さら知らない人を仲間に入れるのは抵抗があるもの」

 

「いや、えっと……」

 

 俺たちの言葉に、妹紅は驚いたように目を見開いたあと、ウロウロと視線を彷徨わせる。

 

「ふふ、この子たちの希望を汲んであげたら? 皆あなたと一緒にやりたいって。もちろん私も歓迎よ。ステージの下から眺めるだけだった人が、ステージの上に立てるなんて素敵なことじゃない」

 

「…………」

 

 雷鼓さんの言葉に妹紅は黙り込む。

 

 そして、俯いたままもごもごと口を動かしながら言った。

 

「い、言っておくが……私はあまり物覚えが良い方じゃないぞ? 手先も不器用だし、教えてもらってもまともに弾けるようになるとは限らない」

 

「構いませんよ。出来るようになるまでしっかり教えますし、出来なければその時に別の方法を考えれば良いじゃないですか」

 

「見た目だってそんないい方じゃないし……バンド内で私だけファンから要らないやつ扱いされるかも……」

 

「いやそれはねーよ」

 

 俺は思わず素になってツッコむ。

 

 妹紅の見た目が良くないとか言ったら、世の女性の方々にぶっ飛ばされるぞ。

 

 どう見たって美人の多い幻想郷基準でもド級の美人だし、綺麗でカッコいいので人気が出る要素しかない。

 

 永遠亭やミスティアの屋台への道案内を買って出てくれることから、人里での認知度も高いので間違いなく妹紅は人気メンバーになる。

 

 多分この人美人の比較対象が輝夜だからか、ちょっと基準がおかしくなってるんじゃないか?

 

「むしろビジュアル的に一番いらないのは僕なんで、妹紅さんはそういう余計な心配はしなくていいんですよ。技術的なことも僕がしっかり面倒見ますし、なんなら器具とかの購入代はバンドの資金で賄ってもいいです」

 

「…………! い、いやそれは悪いから」

 

「いやいや、メンバー全員の消耗品とかはバンドの皆で持ち寄ったお金から出すことになってるんですよ。これは皆納得してることなんで妹紅さんは気にしないで下さい」

 

「で、でも、私はまだ何の戦力にもなってないし……」

 

 妹紅はなおも固辞しようと口籠る。

 

「先行投資ですよ、先行投資。うちのバンドはベースをどうやって確保するかが永遠の課題でしたから。募集するにしても、変な人入れて後からトラブルになるのも避けたかったもんで。……その点妹紅さんは信用できるし、ましてやその人が自分からベースを持ってきたんですよ? これはもうやるしかないでしょう!」

 

「そうだよ、妹紅さんっ! 私たちと一緒にやろうよっ!」

 

 そう俺と響子が同時に言うと、もごもごと口籠ったあと、やがて吹っ切れたように言った。

 

「……ああ、もう! 分かったよ! やるよ、やるってば! その代わり、戦力にならなくても後で文句言わないでくれよ!?」

 

「言いませんよ。それに俺が絶対にステージに立てるように仕込みますから!」

 

「やったぁ! これから一緒に頑張ろうねっ、妹紅さん!」

 

「ふふ、それじゃあ今日はイベントの打ち上げ兼妹紅さんのバンド加入祝いね!」

 

「ほら、ここ座って座って! 色々話したいこともあるし」

 

 そう言って、雷鼓さんがポンポン、と俺との間の席を叩くと、妹紅が恥ずかしそうにそこに腰掛ける。

 

「うう、なんだか居心地悪いなあ、この空気……。もう私のことはいいから皆で好きに話しててくれよっ!」

 

「うふふ、ダメよ。ちゃんと、私たちのライブの感想とか、どういう気持ちで楽器を買いに行ったとか、そう言うのもぜーんぶ話してもらわなきゃね?」

 

「そうですよ! 単純に客席から見て、俺たちのライブがどうだったかは聞きたいです」

 

「はい、うなぎ一丁あがり!」

 

 そう言って俺たちは、妹紅を絶対に逃さないよう全員で取り囲みながら質問攻めにする。

 

 ――そんな時、竹林の合間からこちらを伺うような、小さな人影が動いたような気がした。

 

 




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