幻想オン・ザ・ロック【完結】   作:darnylee

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EX2 命蓮寺への帰還

 

 イベントから二日経って――俺は命蓮寺に堂々たる帰還を果たした。

 

 響子も今日はお休みらしく、いつもの玄関先で掃除している姿は見えない。

 

 俺は勝手知ったる我が家とばかりに上がり込んだあと、聖が居るであろう本堂へと向かう。

 

 なんだか命蓮寺内がやたらと静かだ。この時間は皆お勤めしてるはずなんだが……。

 

 俺は訝しみながら奥へ向かい、途中誰とも会わずにまっすぐ本堂に辿り着いた。

 

 首をかしげながら襖を開くとそこには――何故か響子を除く命蓮寺勢全員が勢揃いして、向かい合うように正座して並んでいた。

 

「えっ!? 皆さん、何やってるんですか!?」

 

「あ、やっときたわね。ほら、そんなとこに突っ立ってないで、さっさと入ってきなさい!」

 

 俺は手前に居た一輪にそう急かされ、皆が正座している真ん中にコソコソと足を踏み入れる。

 

 別に悪いことしてるわけじゃないので堂々とすればいいのだが、なんか命蓮寺の全員から一斉に注目されると身構えてしまう。

 

 そして本堂の最奥には――曼荼羅を背にして正座した聖が、ニコニコと柔和な笑顔で待ち構えていた。

 

「えっと、これは一体……?」

 

「――霧夜、忘れていますよ? 挨拶は?」

 

 俺はそう指摘されて、慌てて聖の前に正座したあと頭を下げた。

 

「た、ただいま帰りました、聖」

 

「よーし、かかれ野郎どもーっ!」

 

 そう挨拶を終えた瞬間――村紗が船長らしい号令をかける。

 

 すると周りで見ていた命蓮寺の皆が、一斉に俺に群がってベシベシ叩いたり蹴ったりと乱暴狼藉の限りを尽くす。

 

「いたたたた!? えっ、何!? 何なんですかこれ!?」

 

 手加減してくれてるようなのでそこまで痛くないが、なんでこんなことになっているのか頭の中はパニックであった。

 

「ふふふ、皆霧夜が帰って来るということで、歓迎がてら悪戯してやろうという話になりまして。まあ皆の親愛の情の現れなので、大人しく受け入れて上げてくださいな」

 

「いや親愛の情って、結構痛……いたたたたっ! 関節技はやめて下さい関節技は!」

 

 その後、俺は寄って集って姉弟子たちにボコボコにされるという、幸せなのか何なのかよく分からないことになりながら、どうにか生還を果たす。

 

 というかぬえちゃんとかは結構ガッツリ顔踏んでくるし結構痛かった……その分パンツが見えたから心情的にややプラスだったので良しとしよう。相変わらずぬえちゃんはサービス精神旺盛だ。

 

「ふふ、では改めて――おかえりなさい、霧夜」

 

「はいっ!」

 

 ようやく真面目な空気になったので、背筋を伸ばしながら俺はそう答える。

 

「どうでしたか? ロックフェスというものは。あなた自身の糧となりましたか?」

 

「はい! 単純に楽しかったっていうのもありますが……なにより今回のイベントを通して、大きく成長出来たと思います。仲間と一緒に大きな目標に向かって一つの成果を上げたことは、俺にとって大切な思い出になりました」

 

「ふふ、そうですか。それは良かったです」

 

「確かに、今の霧夜殿は一回り大きくなったように見えますね。前までの弱さは鳴りを潜め、今は自信に溢れた雰囲気を感じます。まったく人間は成長が早いものです」

 

「ふん、バカに磨きがかかっただけだ。そうでなきゃ、戦えもしないのにあんな大勢の人妖相手に、無差別に挑発するような真似できるもんか」

 

 星の感心したような言葉に、ぬえちゃんが呆れたように言う。

 

 まあ傍目から見たらトチ狂ったとしか思えないかも知れんな……。あの時はああする以外なかったが。

 

「まあまあ、いいじゃないの。結局上手くいったんだから。あんたが霧夜を心配する気持ちも分かるけどね?」

 

「だ、誰が……!」

 

 村紗のからかうような口調に、ぬえちゃんが激昂して槍を持って立ち上がろうとする。

 

 しかし聖がパン、と手を叩いてその争いを納めた。

 

「――はい、そこまで。水蜜も軽口が過ぎますよ? ぬえも落ち着きなさい」

 

「申し訳ありません、聖」

 

「ふんっ……」

 

 流石に聖には逆らえないのか、むらぬえの二人も大人しく座布団に座り直す。

 

 聖はそれを見て、コホンと咳払いしたあと言った。

 

「それで霧夜、あなた方の出番前のあの騒動は……やはり例の号外記事が原因なのですか?」

 

「まあ、はい……それ以外は全然心当たりがないので、恐らくそうかな、と。……命蓮寺の皆さんにならお分かり頂けるかと思いますが、あれは完全なデタラメ記事ですので」

 

「そりゃそうよ。あんた弱いしヘタレだもの。天狗相手にあんな大立ち回り出来る訳がないなんてこと、ここにいる皆分かってるわよ」

 

 俺の言葉に、一輪がそう答える。

 

 いやまあ、それはそう。そうなんだけど、改めて言われるとなんかこう……。

 

「はあ……ということはまたあの新聞ですか。以前にも命蓮寺に濡れ衣を着せて、大変な悪評が立って困ったことがあったのですが……何かうちに恨みでもあるのでしょうか?」

 

「しばらく命蓮寺には出禁にした方が良いでしょう。ただでさえ響子に霧夜殿と、当寺には話題の渦中の人物が二人も居ますから。他の修行者の方のためにも、当面取材は断る方針でいくべきかと」

 

 星の提案に、聖も「そうですね……」と悩ましげに肯定する。

 

「えっと、その……すいません。俺たちのために変な厄介事に巻き込んでしまって……」

 

「あらあら、良いんですよ。二人が悪いわけではないのですから。それに、そういった方々を匿うのも寺の務めです。気にすることはありません」

 

 聖はそう言ってくれるが、流石に甘えてばかりというのもよろしくない。

 

 なので俺は、用意していた手土産を渡す。

 

「いえ、そういう訳には……お詫びという訳ではないんですけど、聖にはこれをお渡ししておきたいと思いまして」

 

「まあ、一体何でしょう?」

 

 俺が頭を下げながら封筒に包まれたものを手渡すと、聖はそれを受け取ったあと中身を改める。

 

 そして、中を見て驚いたように目を見開いた。

 

「これは……!」

 

「俺と響子の連名でのものです。ぜひ命蓮寺の運営の足しにして頂ければ」

 

「……このようなもの、弟子から受け取る訳には参りません。これはあなた方の生活のために取っておきなさい」

 

 そう言って予想通り、聖は突き返そうとする。

 

 ちなみに中には、守矢神社から鳥獣伎楽に払われたギャラの一部が入っている。

 

 銀行なんてない幻想郷では、ギャラは基本当日手渡しだ。

 

 封筒の中には、俺と響子で三十円ずつ分担して六十円入っている。

 

 めっちゃショボい額に聞こえるが、これでも外の世界に換算すると六十万円くらいになるから結構なものだ。

 

 鳥獣伎楽がモリヤ・ロックで得たギャラは五百円。

 

 一日の稼ぎにしては相当なものだが、雷鼓さんによるとプリズムリバーwithHはもっと貰ってるらしい。

 

 まあ元々大人気だったプリズムリバーwithHと、ぽっと出の鳥獣伎楽では額が違うのもやむ無しと言ったところだ。

 

 五百円も貰えたのだから相当ゆかりんが頑張ってくれたんだろう。

 

 それを四人で割って一人頭百二十五円。雷鼓さんは自分はもっと少なくてもいいと主張したけど、あれだけ手伝ってもらってそれは絶対駄目ですと押し切ってきっちり四等分にした。

 

 慧音先生に借りていたお金を返して、五十円を鳥獣伎楽でステージを建てるための共用財産に入れて、なおかつ命蓮寺に三十円を払うと俺には幾らも残らない計算になる。

 

 それでも聖には受け取って欲しい。何故ならここ命蓮寺には多大な恩があるし、これからも世話になるからだ。

 

「仏教的には喜捨を断るのは、その人が功徳を積む機会を奪うことになるそうですね。未だ至らぬ修行の身ですが……少しでも仏に近付けるよう聖にお手伝い頂ければと思います」

 

「まったくもう……どこでそんな嫌らしい言い回しを覚えてしまったのですか? そう言われてしまっては、こちらとしても受け取らざるを得ないじゃないですか」

 

 聖は拗ねたように可愛らしく頬を膨らませる。

 

 ちなみに喜捨を断る云々は酔蝶華で聖自身が取材で言ってたからだ。文ちゃんは「物乞いを正当化してる」とかなんとか言ってたけど……流石に命蓮寺のこと嫌い過ぎじゃね?

 

「基本的に喜捨を受け取るのは外部の方からだけで、内弟子はその分お勤めを頑張って頂くことで埋め合わせして頂いています。こんな余計な気は回さなくても良いんですよ?」

 

「そうは言っても俺も長い間お勤めを休んでましたし……その間に稼いだお金を溜め込むのはなんか違うかなって。響子とも話しましたけど、やっぱりお世話になった分は返していこうって結論になりました」

 

「まったくあなたも響子も……孝行な弟子を持って師として嬉しい反面、もう私の力が不要なようで寂しくもあります。そんな風に考えてしまう私はきっと贅沢者なのでしょうね……」

 

「ふふ、良いではないですか聖。二人ともここを出ていくつもりはないのでしょう? ならばこれは子から母への仕送りのようなものです。ありがたく運営の足しにさせて頂きましょう」

 

「はい! これからも命蓮寺にお世話になるつもりです!」

 

 俺がそう言うと、聖はようやく納得したように封筒を懐に入れた。

 

「分かりました。"弟"から"姉"への仕送りということなら受け取りましょう。本当によく頑張りましたね、霧夜」

 

「アッハイ」

 

 なんかやけに姉と弟という単語を強調する聖に気圧されながらも、俺は頷いて深々と頭を下げた。

 

 その後解散し、俺は何時も通りの命蓮寺の生活に戻る。

 

 その際聖の私室に呼び出され、俺はフニャフニャになるまで甘やかされた。

 

 いやこんな優しくて可愛い姉がいるのに、出ていく馬鹿がいるかよ!

 

 滞在中は多少の不自由はあるものの、それを差し引いても恩恵がデカすぎる。俺はこれからも全力で命蓮寺にしがみつくぞ!

 

 そう決意を新たにしながら、俺は久方ぶりの自室に帰還を果たす。

 

 命蓮寺の自室は長い間空けていたにも関わらずしっかり掃除されていて、よく乾燥した畳の匂いがした。

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