――それから半年後。
『YOーYO! 今夜も来たぜ! MC SAY-jaのMCバトル! 勝てば栄光、負ければ敗者の烙印!? 今夜の生贄は何処のどいつだ!?』
ステージ上で、ベースボールキャップを斜めに被った正邪がマイクパフォーマンスをしながら観客を煽る。
それに合わせて、客から怒号のような歓声のような、罵声交じりの声が上がる。
あれから数か月がたち、俺たち鳥獣伎楽はついに念願の専用ステージを設けることが出来た。
今日は二週間に一度のライブイベントの日であり、本番前の前座のMCの時点で観客からも熱気が上がっていた。
――結論から言うと、正邪を拾ったのは正解だったと言える。
正邪はどっちかと言えばロックって感じでもないし、楽器も出来ないし買う金もない。歌もそれなりだ。
ないない尽くしの中でもリズム感だけはあったので、だったらうちのMCとして雇ったらどうだ? と考えたのだ。
結果的にそれが良かったらしい。
ドンドン、と重低音のトラックに合わせながら、ライムを紡ぐ正邪はなにやら実に様になっている。
最初は司会進行のマイクパフォーマンスだけだったのだが、そのうち観客とステージで喧嘩し始めたので、じゃあどうせならラップバトルすればいいじゃんということで、うちの前座に新たな催しが追加されることになった。
それが『MC SAY-ja☆のMCバトル』である。
勝てば賞金三円+イベントの無料チケット。負けても恥はかくが俺らとの握手会がある。
勝った商品がかなり大盤振る舞いだが、負けたことが一度もない。
正邪がむちゃくちゃ強いのである。
最初はラップというトラックに合わせて、韻を踏みながら歌うというスタイルに不慣れだったが、一度コツを掴むと豹変。
一体どこからそんな語彙が出てくるんだというくらい、スラスラと人を罵倒する正邪に戦慄を覚えたほどだ。
鬼人正邪は、人をイラつかせることに関しては天才的であった。
『お前臆病モン♪ 自分の立ち位置見えない愚かモン♪ 周回遅れステージに立つ価値なし♪ 掛かってこいよ身の程知らずの最底辺♪ 格が違う私はヒエラルキーのテッペン♪』
『…………!』
「あ、ヤバい。そろそろ相手が爆発しそう」
「まったくあいつは……人をコケにする言葉だけはなんであんなにスムーズに出てくるんだ?」
俺の言葉に、妹紅が呆れつつも慌てて相手を止めに入る。
MCバトルはもちろん流血沙汰はNGである。
ただ、幻想郷の血の気の多い妖怪たちがやめろと言って素直にやめてくれるわけでもない。
たまにプッツンきて暴れる奴がいるので、決着がついた瞬間に鳥獣伎楽のうち力が強い妹紅さんや雷鼓さん、そしてパワーアップした響子などが止めに入るのが定番となっている。
今日の相手はミノタウロスみたいなデカいやつだが、多分妹紅がワンパンで沈めてくれるだろう。あ、終わった。
ステージに巨体が沈んでいくのを横目に、正邪がリズムを取りながら勝鬨を上げる。
『YOーYO! 今宵も勝利した無敗のCHAMP! MC SAY-ja、オレは逃げも隠れもしねえ! 挑戦は何時でも受け付けるぜ! また次回までに刃をしっかり研いでおきな! この後はお待ちかね鳥獣伎楽! お前らしっかり聴いとけよメーン?』
「「おおおおおっ!」」
そう言い終わると同時に、観客から歓声が上がる。
正邪のラップバトルで会場は程よく暖まったようだ。
突入する準備をする俺たちをよそに、一仕事終えた正邪が戻ってくる。
「お疲れ、今回もいい仕事だったぞ。相変わらずラップバトルだけはやたらと強いなぁ」
「くくく、当たり前だろ? 私は最強のマイクMCだぜ、兄貴。場は温めてやったんだ、そっちもせいぜい上手くやれよ」
そう言って、ニヤリと笑いながら正邪は奥へ引っ込んでいく。
加入からここまでの一連の出来事で、奴は何故か俺のことを兄貴と呼び始めていた。
底意地が悪い上に嘘つきで、正直人格的に褒められた所はまるでない正邪にも数少ない美点がある。
それは"意外に義理堅い"ことだ。
世話になった者や尊敬する者に対しては、ある一定のリスペクトはあるらしい。
針妙丸のことも未だに姫と呼んで仲良くつるんでるらしいし、ここに引き入れてMCにした俺のことは兄貴と呼んで慕ってくれている……と思う、多分。
弱者から強者に成り上がった響子のことは純粋にリスペクトしてるらしく、奴にしては珍しく最初から『響子さん』呼びしている。
前に雷鼓さんに、「お前は私が起こした異変で発生した付喪神なんだから、実質私の子分だろ!」みたいなこと言って、笑顔のままブチ切れた雷鼓さんにボッコボコに分からされてからは、雷鼓さんのこともさん付けで呼んでいる。あの時は怖かった……。
色々くそ生意気で、人の神経を逆撫でして問題ばかり起こす厄介なやつだが、正直可愛い妹分のように感じてしまっている俺がいる。
……正邪の方がだいぶ歳上のはずなんだけどな。
聞いた話では針妙丸と、あのリリカ、そして響子までも巻き込んで新しいヒップホップユニットを作ることを画策しているらしい。
実現したら平均身長一メートル代という驚異のちびっ子ユニットが完成してしまうかも知れない。
そうなったらうちの前座からは独立して、自分の仲間たちだけでやるようになるのだろう。
正直寂しい部分もあるが、そうなったらそうなったで応援してやりたい。
幻想郷にまた新たな音楽の種が蒔かれた。
それがどう芽吹くかは俺にも分からないが、奴ならきっと上手くやるだろう。
俺たちは俺たちで自分の音楽を追求していけばいい。
ただそれだけのことだ。