「く、くくくく……!」
俺は、早速人里で配付された号外記事を読みながら、一人忍び笑いを漏らした。
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守矢神社奉楽祭、堂々閉幕!
先日、秋分の日にて守矢神社で開祭された音楽祭、通称『モリヤロック』が閉幕した。
人妖問わず多くの話題をさらった本祭ではあるが、プリズムリバーwithHなどの人気アーティストの参加が祭を彩ったのは言うまでもない。
中でも筆者が注目したいのは新進気鋭のパンク・ロックバンド『鳥獣伎楽』であろう。
本バンドは開催前から話題を掻っ攫い、一時はステージで観客とアクシデントを演じる一幕もあったものの、見事に演奏をやり遂げて最後まで祭を盛り上げるのに一役買った。
鳥獣伎楽はこれまで幻想郷になかった激しい英語での楽曲や、荒々しくも高い演奏力なども評価されており、一部若者からカリスマ的支持を受けている。
特に注目されているのはボーカルの幽谷響子氏であり、彼女は山彦妖怪という特性から、外界のありとあらゆるボーカリストの歌声をそのまま再現出来るという。
その才能を活かしてか、鳥獣伎楽においては彼女の七色のボーカルはなくてはならないものであり、また最近加入したギター妖怪K氏のレベルの高い演奏も相まってか、これからの躍進がますます期待されるバンドである。
本紙はこの鳥獣伎楽に単独密着取材を敢行しており、追って今後の活躍を紙面にて紹介していく予定である。
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そう紙面では、俺たちがステージ上で激しく演奏している写真とともに記事が掲載されている。
いいじゃん! こういうので良いんだよ、こういうので。
全く前回は酷い目に遭ったからな。
これなら素直に宣伝になったと喜べるな。
……ちなみにこれ、文々。新聞じゃなくて花果子念報である。
文々。新聞はうちのメンバーの総意により晴れて取材NGとなった。
あのパパラッチにあることないこと書かれておもちゃにされるくらいなら、ワンチャンはたてちゃんの方がマシなんじゃないかということで、こっちから単独取材をお願いしたのだ。
幸いモリヤロックの取材陣に居たので、見つけるのは難しくなかった。
インタビュー中に足組んでるわ、ケータイいじる片手間で話聞いてるわでホンマに大丈夫かこいつと思ったが、出てきた記事は至ってマトモ。
人も妖怪も見た目によらないということだろう。
はたてちゃんも「これで文に差をつけられるわー!」なんて喜んでくれたのでウィンウィンだ。
あと可愛かった。貴重なJK枠だし、性格に裏表がなさそうだったのでバンドの皆ともすぐに打ち解けた。これからも仲良くしたいところだ。
さてそんな俺たちだが、今専ら人里でも話題の中心となっている。
メインはやはり響子だ。
あの小柄な女の子の見た目から、男の野太いデスボや甲高いハイトーンボイスまで行ける声域の広さ。
英語の曲も完璧な再現度でスラスラ歌える歌唱力の高さ。
何よりあの地震を起こしたように見えた(実際に起こしたのだが、人里ではバレていない)、あのバカでかい声量など話題に事欠かない。
そして次に俺が話題になっているらしい。
あのスピーカーをハウリングさせて爆音を鳴らしたのは否よりの賛否両論と言ったところだが、意外にも普通に演奏自体を高く評価してくれてる人もいるようだ。
前ほど人里の風当たりも強くなくなっているので、今なら万が一正体がバレても大したことにはならないだろう。
そんな中――ある一人の人物が人里の通りの正面から、こちらに手を振りながら向かってくるのが見えた。
いつものあの天狗装束ではなく、焦げ茶色の帽子とハーフパンツスーツを着て、人間に擬態して人里を堂々と歩く姿……!
間違いない、ヤツだ!
「霧夜さーん! ちょうどいい所でお会いしました。ぜひ飛び入り取材をお願いしたいんですけど!」
「…………」
俺は号外で顔を隠しながら、すっ、と無言で横切る。
こいつマジどの面下げて俺に会いに来てんだ? 天狗の面の皮は岩盤で出来てんのか?
関わらぬが吉だな……。
俺はそう思い、無視を決め込もうとする。
――しかしその時、ガシッと肩を掴んで俺の歩みを無理やり止める。
「まあまあ、そう急がなくてもいいじゃありませんか〜。ちょーっとお話するだけですよ、ちょっと!」
「……うちは文々。新聞取材NGなんで」
「それが分からないんですよぉ。なんではたてのとこは密着取材までオッケーなのにうちはダメなんです? 知らない仲じゃないのに、贔屓はよくありませんよ?」
「知らない仲じゃないからNGになってるんじゃないですかね?」
つかこいつマジかよ……。NGの心当たりすらないとか、怒りを通り越してもはや恐怖を感じる。
「まあそうツンケンせずに……どうも不幸な行き違いがあったようなので、そこの茶店で少しお話しましょう。お茶代もこちらが出しますから、ね?」
「はあ……」
そうしつこく食い下がる文ちゃんに、俺はこれは断っても拗れるだけだと思いやむなく話し合いを受け入れる。
入った茶店はあの華扇ちゃん行きつけの団子屋であり、味がいいと評判になったのか、そこそこ客入りが良くなってきている。
給仕さんに案内されるまま一番奥の席に座ると、軽く注文してから文ちゃんが口を開いた。
「ここのお団子屋さんは最近うちの新聞で紹介してから、少し有名になってきててですね! 前までここまで人の入りはなかったんですが、今では少しばかり人気になってきているようですよ!」
そう文ちゃんは、自分の新聞の影響力をアピールするように両手を広げて言う。
「記者よりグルメライターのほうが向いてるんじゃないですか? 転職をオススメしますよ」
「あやややや、これは手厳しい! ですが私の本業はあくまで真実を暴く記者! そこは曲げられません!」
「はあ……真実を暴くねえ」
俺はそれに白けた返事をしながらお茶を啜る。
文ちゃんはそんな態度もどこ吹く風で、手帳片手に身を乗り出して答えた。
「それでですね、先のイベントのことについてなんですけど――」
「いやいや、ちょっと待って下さい。話をする体で着いてはきましたが、インタビューを受けるとは言ってませんよ? さっきも言いましたけど文々。新聞が取材NGなのはうちの総意なんで」
俺はそう答える。
これに関しては鳥獣伎楽どころかゆかりんマネージャー、命蓮寺の意思でもある。
ひっくり返ることはまずないだろう。
「もー、だったらなんで私の誘いに乗ったんですか? はっ、もしやこの美少女の体が目当てで……!?」
そう言って自分の体を庇う文ちゃんにイラっとしながらも、俺はこう答える。
「違います。いやぶっちゃけ言うとそちらに半ば無理やり連れてこられたようなもんですけど……この際なんで一つ聞かせて欲しいことはあります」
「ふむふむ、なんでしょう? お答えできる範疇でなら構いませんよ? 流石にスリーサイズは教えられませんが」
その軽口を無視して、俺は改めて問い掛けた。
「それじゃあ聞きますけど――なんであんなことしたんですか? 曲がりなりにも真実を伝えるスタンスで貫き通してたと思うんですけど」
「…………んー」
俺がそう尋ねると、文ちゃんは頬に指を当てながら、何やら虚空を見上げて考え込む。
文ちゃんはアホじゃないんだからこれで分かるだろう。これでしらばっくれたり、はぐらかすような答え方をしたらもうそれまでだ。
お茶代払ってさっさと話を打ち切っちまおう。
俺がそう心に決めて次の言葉を待っていると、文ちゃんはすっ、と目を細めて、愛用の文花帖を口元に当てて言った。
「人間風情が――――」
そう深く暗闇の底から響くような冷たい声に、俺はゾクッと背筋に悪寒が走る。
「――――軽々しく妖怪のテリトリーに足を踏み入れるな」
そこまで言い切ったあと、文ちゃんはこう続けた。
「――という警告のつもりだったんですけどねえ、いやあ、我ながら失敗しましたよー! まさかあのマイナーバンドの鳥獣伎楽がここまで有名になるなんて。うちとしても旬の話題に乗り遅れるのは痛いんです。なのでお願いします、インタビューさせて下さいよ〜!」
「…………!」
そういつものおちゃらけた調子に戻る文ちゃんとは裏腹に、俺は未だにバクバクと鳴り止まぬ心臓を抑える。
ついさっき一瞬時間が止まったように感じたが、背後では相変わらず団子屋が何事もなかったように賑わっている。
恐らく今の一言は文ちゃんの本心だろう。あの震え上がるほどの迫力を見せられて、嘘だと思うほうが無理がある。
所詮幻想郷は神や妖怪などの人外の為の世界。
博麗霊夢や霧雨魔理沙のような一部の例外は居るものの、基本的に人間は狩られる側の存在。
そんな中で、妖怪に混じって表舞台で跳ね回る俺みたいなイレギュラーは、一部の妖怪にとっては酷く目障りなのかもしれない。
……だからと言ってそんな連中に遠慮して大人しくするつもりはない。
危険上等だ! こちとら幻想郷が人間に優しくない世界というのは承知の上でやっている。
死んだら死んだでその時だ。早逝した伝説のロックスターとしてその名前を皆の記憶に刻み付けてやる。
……だがまあ、そんな中で一応警告という形を取ってくれたのは、1%くらいは文ちゃんなりの優しさが含まれていたのかも知れない。
我ながら無理くりな擁護だが、結局のところ俺は東方キャラを嫌いになりたくないだけだ。推しであるが故に、その行為には善意もあったと信じたい。
これからも警告を聞き入れることはないが、少なくとも歩み寄ることは出来るだろう。
「はあ……分かりましたよ。他の人は無理ですけど、俺
「おおーっ! ホントですか!? 何事も言ってみるものですねっ! ……って、霧夜さんだけ?」
俺の言葉に、文ちゃんはキョトンとした顔で聞き返す。
「そうです。俺
「そんなぁ~、今話題の超絶ボーカルの響子さんと、大人気バンドの掛け持ちメンバーの雷鼓さんのコメントはぜひ頂きたかったんですが……なんとかなりません?」
「なりません。なんならその二人は俺本人より遥かに怒ってましたからね。取材どころか近付いた瞬間に弾幕が飛んでくるかも知れませんよ」
そう答えると、文ちゃんはがっくりとテーブルに突っ伏しながら大きくため息をつく。
「雷鼓さんは元より、今まで雑魚だった響子さんまでなんか強くなってるし……力付くで取材するにもしんどい相手ですねぇ。はぁ、なかなか上手くいかないものです」
そう言って文ちゃんは、先ほどまでのハキハキした喋りは鳴りを潜め、気怠そうな空気を醸し始める。
なんとなくこのアンニュイさが射命丸文という少女の素なんだろうなと思う。
俺の前にそれを曝け出したのは、多少は仲良くなれたのか、それとも所詮人間と舐められているのか。
「……そんなだからNGになるんじゃないですか? まあ、俺でよければ最低限の情報は話せますんで、ひとまずそれで我慢してくださいよ」
「う〜ん……霧夜さんだけだと紙面が少し地味になってしまうんですが……仕方ありませんね。ほとぼりが冷めるまでそれで妥協しましょう」
「お情けかけられてる立場でよく言いますね……。あ、団子頼んでいいですか? 奢りなんですよね?」
俺がそう尋ねると、文ちゃんはテーブルからのそりと起き上がって、こちらに面倒くさそうな目を向けて言った。
「仕方ありませんね……ここの払いは持つ約束ですし。その代わり私も一本頂けますか? ここのお団子大きいので、一本で十分なんです」
「まあいいですけど」
俺はそう答えたあと、店内を慌ただしく駆け回っている店員さんに三色団子セットを注文する。
その後インタビューを受けながら、一人前の団子を文ちゃんとシェアするという、なんだかよく分からないことになってしまった。
結局のところ幻想郷はどこまでいっても人外の為の世界で、人間は食われる側という事実は変わらない。
だからといって分かり合えない訳じゃない。
食われる側の人間と食う側の妖怪が仲良くなってもいいじゃないか。
少なくとも俺は文ちゃんと仲良くしたいと思っている。
向こうが望んでいるかは別として、こちらから取り合う手を引っ込めたりはしない。
粘り強くやっていけば、きっと文ちゃんだっていつかは対等な友と認めてくれるはずだ。
その未来を期待しながら、俺は妖怪と同じ一皿の団子を互いに分け合ったのであった。
ここまで応援ありがとうございました
完結出来たのは応援やコメント下さった皆様のおかげです。
これにて後日談も含め一応の完結となります
今後はもしかしたら何か思いついたらひょっこりEX小話を更新するかも知れませんが、基本的に不定期となります。
応援してくれた皆様、高く評価して下さった皆様、原作者ZUN様に心より感謝申し上げます。