「あの……ありがとうございます」
「うん?」
アンプをキャリーで引きながら帰路を歩く最中、俺は前を行くナズーリンにそう言った。
ナズーリンはピタリと足を止めたあと、その大きな耳を少しこちらに傾ける。
「いや……ナズーリンさんが助けてくれなければ、俺は無縁塚で死んでましたし、今こうして、ギターが揃うこともありませんでした。だからその……ありがとうございます」
「……ふん、勘違いしないでくれよ。無縁塚で君を拾ったのは、もしかしたらレアリティの高い人間かもと思ったからだ。それに、アンプとやらのことも、あのいけ好かない店主に一泡吹かせてやりたかっただけだ。別に礼を言われるようなことじゃない」
ナズーリンはそう言うと、再び前を向いて歩き出す。
俺はしばらくそれに着いて歩いたあと、再びこう言った。
「それでも、その……ありがとうございます」
「…………」
ナズーリンはしばらくそのまま無言で歩いたあと、その後ピタリと足を止めて言った。
「まあ、その……君のさっきのギターとやらの演奏は、正直悪くなかった。もう少し静かな方が私好みだけど」
「…………! あ、ありがとうございます! 精進します!」
「う、うるさい! ほら、さっさと帰るぞ!」
そう言うと、ナズーリンはさっきよりずんずんと早足になりながら前に進んでいく。
服の隙間から覗く彼女の肌が、いつもより赤く見えるのは夕日のせいだろうか。
とにかく俺は、彼女に置いていかれないように必死で後ろをついて行く。
そして命蓮寺が見えてきたころ、彼女は歩きながらポツリと言った。
「そういえば……一つ忠告しておこう」
「はい?」
俺は足を止めぬまま聞き返す。
「その楽器のことだ。そのギターとやらは……もう普通の物じゃないぞ。半分妖怪化しかけている」
「えっ!?」
思いも寄らないことを言われ、俺は思わず声を上げる。
「元々君の念が籠もっていたんだろうが、それが結界を越えて幻想郷に入ってきたことで、何らかの理が書き換わったのかも知れない。さっき君の演奏を聴いたときも、少しおかしかったんだ。何というか、血が沸き立つというか、魂が震えるというか……」
「えっと……それってどうなんでしょう? 俺、今後あんま人前で弾かない方が良いですかね……?」
俺は若干落ち込みながらそう尋ねる。
ギタリストが人前で弾けなきゃ一体何処で弾けばいいんだ……。
「いや……驚きはしたが不快な感じではなかった。むしろ心地良いというか……人前で弾いても問題はないだろう。だけど、一応油断せず気を付けておいたほうがいい」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
俺はナズーリンに礼を言って、また歩き出す。
日が落ちて、辺りはすっかり暗くなってきている。
薄暗い命蓮寺への帰路の最中、俺は背中に背負っている相棒が、自分の知らない何かになってしまったかのような奇妙な錯覚を受けた。