おかげで後に響きそうではあるけれど、そこは来世の私に期待大ってことで。
『聞いたぞリン。今日のライとの買い物中
『仕方ないじゃない!子ども相手だったから無下には出来なかったのよ!!ちゃんとその後ライにアイスクリームを奢って上げたんだから、それで充分でしょ!!?』
『予定にないデザートをみだりに上げるな。まぁそうなるだろうと元々夕飯のメニューを少し軽めにはしておいたが、問題はそこじゃない。そればかりを繰り返すとライの方からも『またか…』と思われてしまうぞ』
『お生憎様!!私とライは仲良しだからアンタが心配するようなことには
私のことよりもアンタよアンタ!!まぁた、隣のマダムから頼まれて電化製品の修理を
『そういう訳にもいかないだろう。こういうのは持ちつ持たれつだ。いざ私たち2人がライの傍にいない時に危機が迫った時、頼れる相手を1人でも増やしておくのは大事だろう?』
『へぇ!それって、そのマダムがアンタのことを
『……待て、そんなことあるはずがない…!』
『あるから言ってるのよ!!大体アンタはいつもいつも……』
……まただ……。
マムの大声で起きた私はベッドから起き上がると、近くに用意していた耳栓を嵌めながら今の時間を確認する。
……12時か。今日もマムは予定されていた時間よりも遅れて帰宅したみたい。
私のダッドとマムは仲良しだ。私が部屋に上がった後2人がチュッチュしている所をたまたま見たことはあるし、夜遅くにトイレの為に起きた後、2人の寝室前を通った時2人が仲良く
2人とも私のことを大事にしてくれている。料理の作り方や音や気配で周りを知覚すること以外にも、パーティーでの振る舞いや紅茶の煎れ方、目利きの仕方等色々なことを2人からは教えて貰った。
2人とも教える時はとっても厳しいけれど、ちゃんと結果が出た時には褒めてくれるし、『流石は私の娘だ(ね!)』とその都度その都度頭を撫でながら目と目を合わせて言ってくれる。文句なんてあるハズがない。
でも、こうして時々夜遅くにケンカすることがある。言っている内容は良く分からないけれど、大体私のことについてだっていうことぐらいは分かる。
2人ともダイスキ同士なはずなのに。ケンカするっていうことは互いにイヤなことがあるからだっていうのはこの間友達から聞いたから知っている。
耳栓をした上から両手で耳を抑えて両目をギュッとつむる。早く寝よう、早く寝ようと思ってもリビングの2人の声が私の部屋にまで聞こえてくる。
私のせいで、ダイスキ同士なはずの2人がダイキライになるのはイヤだ。
じゃあ、その原因になっている私は
私がいなくなれば、2人はダイスキ同士に戻れるの……?
その幾度にもわたる自問自答に答えを見つけられたことは1度もなかった。
▽▽▽▽▽
「―――ねぇちょっと
「あんた……私達三人に遠慮してるわよね……っ!!」
恋太郎くんが居なくなった屋上で、唐音ちゃんが静ちゃんを正面から睨み付けながらそう告げた。
「『そんな事は――』」
「見てりゃ分かんのよっ!!今日ずっとあんただけ
慌てて弁明しようとした静ちゃんだったけど、それは唐音ちゃんによって遮られた。
ビクッと身体を震わせる静ちゃんが目に入った時、考えがまとまるよりも先に私の身体が動いていた。
静ちゃんの前に立って腕を横に伸ばす。静ちゃんを唐音ちゃんから庇いながら私は唐音ちゃんを宥めに動いた。
「唐音ちゃん、一旦落ち着いて?くすぐりはともかく、静ちゃんが恋太郎くんに近づかなかったのは私が静ちゃんと本のお話をしていたからで……」
「ライ!!あんたは黙ってなさい!!」
『アンタはお部屋に戻ってなさい!!』
ビクッ
あ………
目の前の唐音ちゃんと夫婦ケンカ中のマムの記憶が
途端、あの頃の記憶と感情がなだれ込んできた。立ちくらみが襲ってきてなんとかそれは耐えることができたけれど、静ちゃんを庇うために伸ばしていた腕は気付けば私の下にまで戻ってきていた。
「何でそんな下らない事してんのよ!!」
「
「はぁ!!?私がいつ大きい声なんか出したって言うのよッ!!!」
「無自覚って怖い………」
唐音ちゃんが再度静ちゃんに言い寄るけれど、唐音ちゃんの後ろから羽香里ちゃんが軽い調子で宥める。たまらず唐音ちゃんが羽香里ちゃんに言い寄るけれど、静ちゃんや私との間の距離がグッと広がったことで少し息がしやすくなった。
「『お三方』『は以前から』“
私と同じくらい、いや当事者であるから私以上に圧迫感を感じていただろう静ちゃんがおずおずと口を開いた。
怖いだろうに。私と違って、知り合って間もないんだから怖くて怖くて堪らないだろうに。横にいる静ちゃんは身体を震わせてはいるけれど、それでも誰の手助けも借りず自身の足で立っていた。
「…ふん…!!そんな事だろうと思ったわよ…っ!!」
静ちゃんの返答を受けた唐音ちゃんだけど、ある程度理由は察していたのか動じている様には見られなかった。
「でもね、あんたはもう恋太郎の“彼女”なの!!浮気相手なんかじゃないのっ!!だったら遠慮なんか必要なわけないじゃない!!
むしろイライラすんのよ。言いたいこと言わずにウジウジしてるような奴見てるとっ!!」
「……そう言う唐音ちゃんも、最初は私に遠慮していたクセに……」
「誰よりも素直に自分の気持ちを伝えられないあなたがそれを言いますか…?」
「うるッさいわね!さっきから喧嘩売ってんの!!?あんたらはッッ」
羽香里ちゃんに倣って、なんとか唐音ちゃんの勢いを少しだけでも静ちゃんから逸らすようにする。私がそう出来るようになったのは、唐音ちゃんが
私がファーストキスの時2人に言ったことだ。“これから先、恋太郎くんの彼女である私達3人の立場は全くの同列であり、変に遠慮する必要はなし”って。それと似たようなことを唐音ちゃんは静ちゃんに言っているだけ。
決して唐音ちゃんが静ちゃんを気に入らないからという訳ではない。
……それは分かっているけれど……。
カタカタカタカタ
身体の震えが止まらない。
頭ではこれが最善だっていうのは理解している。唐音ちゃんが“静ちゃんの為に、私たちの為に”動いている以上
でも、1度でも過ぎったその可能性から私は目を逸らすことができなかった。
それに、それ以上に。
テキスト読み上げアプリで会話をしている事以外気になる所がない。寧ろ小さい頃読んでいた本のお話を喜色満面な表情でお話できた静ちゃんを相手に、私のダイスキな唐音ちゃんが言い寄っている今の光景自体が過去の両親と
誰かの味方をするということは、誰かの敵になるということ。私が両親の夫婦喧嘩に割り込んだ時イヤでも学んだことだ。
このまま、静ちゃんの味方をしていて大丈夫なのか。
私と羽香里ちゃん2人とも静ちゃんの肩を持つようなことをすれば、私だけじゃなく羽香里ちゃんも唐音ちゃんから嫌われてしまうのではないか。
いや、静ちゃんは会って間もない相手から詰問されているというのに。
いや、ダイスキな唐音ちゃんの一大事を
そんなことがグルグルグルグルと頭の中で回り始めている。表情だけはポーカーフェイスを維持しているけれど、内面では不安と焦燥、緊張でどうにかなりそうだった。
「…『そうですよね』…『すみません…』」
「…!静ちゃ…」
私と羽香里ちゃんに詰め寄ろうとしてきた唐音ちゃんの相手をしていると、隣の静ちゃんのか細い声が聞こえた。
私はその声に静ちゃんの元まで戻ろうとした。けれど、それよりも唐音ちゃんの方が早かった。
「だからっ!!そう言うとこでしょ!!普通ムカつくでしょ、こんな事言われたらっ!!
何か言い返す
「………!!」
静ちゃんの目の前まで一気に近づいた唐音ちゃんがユサユサと静ちゃんの両肩を揺さぶる。
私は2人の間に立ちふさがることも口を挟むことも、何も出来なかった。
「言い返されたら言い返されたで怒るくせに」
「よーしいい度胸ね。怒ってやろうじゃないの」
羽香里ちゃんは変わらず唐音ちゃんの怒りの矛先を静ちゃんに向きすぎないように動いているというのに。私は立ち尽くすだけで何もしていない。
結局、私は我が身可愛さで何にも行動に移れない中途半端なヤツなんだ。
こんな私なんか……
「…『そう言うことなら』…『正直に言わせていただきます』。“本当は”…『私…』
―――『怖くて
「え……私って……………本当にそんな怖いの………?」
「意外と気にしてるじゃないですか……」
「…打たれ弱いんだね、唐音ちゃんって…」
私のネガティブな考えは、静ちゃんの告白によって遮られた。
まさか、唐音ちゃんにここまで響くことになるなんて。唐音ちゃんも静ちゃんに何も言い返されないなんて思っていなかっただろうに。
だけど、唐音ちゃんから出ていたプレッシャーが減ったおかげで私はようやく落ち着くことができた。
その点においては、唐音ちゃんが気にしいなことに感謝した。
でも、静ちゃん唐音ちゃんが怖かったんだね……まぁ、あれだけ強く言い寄られていたらそう思って当然だろうけれど……
ダイスキな唐音ちゃんが静ちゃんに怖がられていたことにズキンと心を痛めていると、
「……!!“そう言った意味ではなかった”。『
わたわたしながら静ちゃんが私たちの誤解を解こうとする。
どうやら、静ちゃんが怖いと思ったのは唐音ちゃんではないらしい。
「“
「“
「“
「『お三方』“とも素敵な女性であるが
そう吐露する静ちゃんの身体は先程の私と同じくカタカタと震えていた。
……そうだよね。私たちは静ちゃん1人を新たに迎えるだけで済んだけれど、静ちゃんはクラスメイトとはいえ全く面識の無い相手私たち3人の存在をここに来て始めて知ったんだ。
私たち以上に怖いのは当然だった。それに私たちの間には
少なくともこの中では1番恋太郎くんとの付き合いが長い私なら、そんな事を恋太郎くんがする訳がないというのは分かっているけれど。知り合って間もない静ちゃんが分かる訳もなかった。
……そんな不安と恐怖を静ちゃんは抱えていたというのに。私は『本の話が出来て楽しい』だなんてことしか考えてなかった……
ネガティブなことを考え始めようとする私を再度静ちゃんが止めた。
「『私は地味だし』“かわいくない”。“体つきはまるで子供のよう”『性格も』“内気で暗い”
『お三方』『と並べば』“落差が浮き彫りになる”―――」
「そんな事ない!!」
私の大声に話の途中だった静ちゃんと羽香里ちゃん、唐音ちゃんも驚いてこちらの方へ視線を向けてきて、そして3人とも驚いているのが分かった。けれど、それよりも私は私のことで頭がいっぱいだった。
だって、
私の両目から留まること無く流れ続ける涙をいくら止めようとも、止めることができなかったから。
「…ライ、あんた……」 「……ライさん……」 「“大槻”…“さん”…?」
「……ごめん。泣きたいのは静ちゃんの方だろうに。私って、小さい頃からずっと泣き虫で……。静ちゃんが言ってくれた『ミステリアス』な所なんて全然……」
この場に恋太郎くんがいないなら良いかとアイマスクを外す。
久しぶりに開いた視界の内に3人が存在することに少し感動しながら、私は話を進める。
「私が静ちゃんとこうして話すのは今日が始めてだけど、静ちゃんの自己分析が正確じゃないっていうのだけは断言できる。静ちゃんが“かわいくない”なんて嘘っぱちだよ」
静ちゃんの右横に進んで膝をつく。静ちゃんよりも視線が下になるように位置を調整した後私は続けた。
「だって、私と
「あんた、中々物騒なこと考えてたのね」
「ライさんって、かわいい物好きだったんですね」
ハンカチで目元を抑えながらそう言い結ぶ。私の視線の先の静ちゃんの目元にも涙があった。けれど、私の言いたいことはちゃんと伝わっているみたいで安心した。
そして、私の後に唐音ちゃんが続いた。
「べっ別にライに同意する訳じゃないけれど…かわいいんじゃないのっあんたはっ!」
「ちっちゃいのも大人しいのも…女の子らしくてかわいいって…わ、私は思うわよっ…ふん…!
そこまで言った後、少しだけ言い辛そうにしながら最後に唐音ちゃんは静ちゃんに謝った。
「……ご……ごめんねっイライラするとか言ってっ」
それを聞いて、私の頭に未だ残っていた“最悪の光景”が跡形も無く消え去っていった。
あぁ……よかった……。
「そうですよ、気にする事ありません。
「あ?」
「それに…
唐音ちゃんに割り込む形で羽香里ちゃんが静ちゃんに話しかける。最初こそ唐音ちゃんを軽く貶していたけれど、それも静ちゃんの為に動いた唐音ちゃんを気遣ってのものだっていうのは私でも分かる。
羽香里ちゃんは本当に気配りが出来る良い子だから。
「…“
「とっとにかくっ!私が言いたいのは私達に遠慮なんかすんじゃないわよって事っ!恋太郎にして欲しい事や言いたい事があるならちゃんと本音を伝える事!いいわねっ!」
「
「それに…私達の事は名前でいいですよ…
「ん」
「ふ…ふんっ!まあそうね…っあんたもそれでいいでしょっ静っ!」
唐音ちゃん、私、羽香里ちゃんの順で静ちゃんにそう伝える。
最後の羽香里ちゃんの名前呼びの提案に否を唱えるつもりなんてなかった。なんなら、私が先んじて静ちゃんのことちゃん付けで呼んじゃっていたぐらいだし。
唐音ちゃんも同意したことで残すは静ちゃんのみ。けれど、静ちゃんの笑顔を見ればそう不安に思うことはなかった。
「――『はい…!』“ライさん”“
そう笑顔のまま告げられた言葉と共に、暖かな春風が恋太郎くんがいなくなった私達4人の間をゆっくりと通り過ぎて行った。
「静ちゃん、私のことはライちゃんと呼んで?」
「っ!!?……“ライ”“ちゃ…”“ちゃちゃ…”」
「大丈夫ですよ静さん。私達にも1回言っただけで強制することもしてきませんし。ライさんなりの挨拶ですから、あれは」
「まともに終わりなさいよ!!」
※オリ主裏3話で人の表情を見ることが得意だったのは、こういった経緯があったというお話でした。後は、マムやベルノさんからの演技指導も多大に影響していますが。
※ちなみに、当初予定していたプロットでは、『紹介後仲良くしてもらってたオリ主の手助けを無意識に頼ろうとしていた静に、オリ主が王冠恋物語のイオ姫を例えに出しながら静の背中を押す』といったものでした。
だけど、書いている内に『静ちゃんはこんな弱くない』って考えてこんな風になりました。後はまぁオリ主の良い所だけじゃなくてダメな所も描写しておきたかったというのもありましたね。
羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く
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羽々里さんの『々』
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羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
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羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
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ヤツ(♀)より『ヤ』
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羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
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その他