0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

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ちゃんと上がってるかな?大丈夫かな?と不安になりながらも投稿。


裏7話-3 無意義な1日

「リン、忘れ物はないか?」

 

「OKよ。ライのこと見ていてくれてありがとう、助かったわ。それじゃ、行きましょうか!」

 

「うん!」

 

 当時私は5才。

 

 ダッドが成り行きで助けたというイギリスの名家の女性と知り合った私は、彼女のSPが合流する頃にはアルちゃんと呼ぶことを許してくれる程仲良くなっていた。

 

 そうして、今ではこうしてアメリカで彼女と遊ぶこともあれば今回のようにイギリスに招待されることもあった。

 

 彼女は既に結婚していたけれど、旦那さんは世界中を飛び回っているとのことで普段はあんまり一緒にはいられないらしい。私も会ったことはなかった。

ちょうどこの日も来る予定ではあったらしいんだけど、野暮用で到着するのが遅れているらしい。何故かそれを聞いたダッドとマムが頭を抱えていたのを不思議に思った。2人の知り合いなのかな?

 

 そんな考え事も遊園地に到着した時には跡形も無く消え去ったけれど。

 

「アルちゃん!!」

 

「ライ、よくぞ来てくれました。今日はライに1日楽しんで頂けるようこの遊園地を“1日貸し切らせて”もらいました。気に入ってもらえると嬉しいのですが…」

 

「うれしいよ!ありがとう、アルちゃん!!」

 

「あんのバカセレブ……」

 

「やれやれ。一体どれだけのお金をつぎ込んだのやら…」

 

 この時に()()()()()()()()()()があったけれど、終わってみれば良い思い出だった。

 

 それからもアメリカとイギリスを行ったり来たりしてアルちゃんと交流を深めていった。高級そうなフカフカのぬいぐるみをくれることもあれば、剣術が得意というアルちゃんから軽く指導をしてくれたこともあった。

 

 でも、アルちゃんと旦那さんの馴れ初めを聞くことだけはいつまで経っても叶わなかったことだけはすごい不満だった。『私の口から話せるものではありません』との1点張りだ。いつか、旦那さんの方から聞かせて貰おうと心に誓ったこともあったっけ。

 

 そんな彼女との交流がこれからもずっと続くと思っていた11才の冬頃。

 

 アルちゃんがガス爆発に巻き込まれて亡くなったと連絡があった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 それからも私たちの尾行は続いた。

 

 次に恋太郎くん達が選んだアトラクションは『迷える仔羊たちの大迷路』だったけれど、『流石にバッタリ鉢合わせたらマズい』ということで後をつけるのは止めて2人が出てくるのを出口付近で待つことにした。

 

 その後も色んなアトラクションに付いていった。そして観覧車から降りた頃には閉園30分前を告げるアナウンスが場内に流れ始めた。

 

 恋太郎くんと栄逢(えいあい)さん2人がテーブルの席に着いたのを確認した私たちはそこから遠く離れた大きな樹の裏で身を寄せ合って隠れていた。

 

「ちょっと、こんな離れていたら2人が何を話しているか聞こえないじゃない!」

 

「これ以上近づいたら流石にバレますって。人通りも少なくなってきているんですから」

 

「『でも』『ここまで来てお預けとは…』」

 

「大丈夫。人通りが少ない今なら()()()()。3人にはトークアプリで伝えるから」

 

 

 

『ほら!この時は…ちょっと退屈してる。でも…こっちはすごい楽しそう!』

 

『…当たり。…分かるの?…よく感情が無いみたいって言われる』

 

『ちゃんと見てれば分かるよ。でもよかった。ちゃんと楽しんでもらえたみたいで』

 

 

 

 そう聞こえた通りトーク画面に2人の話す内容をそのまま打ち込む。

 

「……あんたの耳すごいわね。まさか、こんなこともできるだなんて」

 

「私はそれを即座に打ち込めるライさんの指先の速さにも驚きですよ」

 

「『やはり…』『天才か…』」

 

「ありがと、3人とも」

 

 3人にお礼を伝えた後即2人の会話に集中する。

 

 ……なるほど。外から見ていた私達には分からなかったけれど、栄逢さん今日一日楽しんでいたんだね。そしてそれに恋太郎くんは気付いていたと。流石恋太郎くんだね。

 

『………………どう……だったかな…………』

 

『…ええ…とても楽しかった。……想定よりも遥かに……』

 

『…本当…!?…それじゃあ――『でも』』

 

『やっぱりそれだけ。“楽しかった”……だけ』

 

何を得る事も出来なかった。――無意義な1日だった。…ごめんなさい』

 

 

 

………は?

 

 何を言ったんだ、栄逢さんは?

 

 『楽しかった』と自分でも理解しているのに。

 

 恋太郎くんが1日栄逢さんの為()()に動いたというのに。

 

 私も今日皆を案内するためにどこを回ろうか考えていたからわかる。

 

 恋太郎くんの今日のデートコースは()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 どのアトラクションがどの時間帯に混み出すのか、どのアトラクションが1番人気なのか。これ以外にも色々な要素を鑑みてコース内容は考える必要がある。だから、デートコースというのはどれだけ準備に時間を掛けたのかが明確に分かるものだ。

 

 しかも、恋太郎くんは逐一栄逢さんの様子に気を配っていた。少し疲れが見え始めた時にはベンチに誘い、小物のキーホルダーに目を奪われているのが分かればそのショップに立ち寄り。臨機応変に栄逢さんが楽しめるように動いていたというのに。

 

 栄逢さんは、無意義な1日だって言うの……?

 

「ライさん?」 「ライ?」 「“ライさん”?」

 

 …ハッ!

 

「ごめん。少し考え事してた。内容は聞こえていたからすぐに書き込むね!!」

 

「いや、あんた顔色悪いわよ?すぐにでも休んだ方が…」

 

「大丈夫!大丈夫だから……」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくる3人を半ば無視して私はスマホに文字を打ち込み続けた。

 

 単純作業に打ち込んでいないと、今にでも栄逢さんに怒鳴り込もうとしてしまいそうだから。

 

『……いや……謝るような事じゃないよ。感じ方は人それぞれだから。変にごまかさず正直な気持ちを教えてくれて嬉しい』

 

 ここからだと恋太郎くんの背中しか見えないから、今恋太郎くんがどんな顔をしているのかは私にも分からない。でも、額面通り嬉しい訳じゃないっていうのは顔を見なくても分かった。

 

『…じゃあ…まあ……仕方ないけど…無意義だった今日、過ごす価値のなかった今日の事は――()()()()()()()()()

 

『……?…ええ…』

 

 栄逢さんは恋太郎くんの言った意味が分からないのか、生返事を返すに留まった。私も正直よく分かっていなかった。

 

 でも、この後の恋太郎くんの行動を見て、恋太郎くんの言った意味が分かった。

 

 先程までテーブルに散らばしていた写真をトントンと1つにまとめる恋太郎くん。それから懐から取り出したライターを徐々に写真へと近づけていく恋太郎くん。

 

 さっきと同様、恋太郎くんの顔は見えないけれど。その背中からはとてつもない悲しみが漂っているのが()()()

 

『ネガもデータも残らず写真を紛失すれば記録そのものが無くなる出来損ないの撮影機』

 

 私と羽香里さんが買い物に行っている間、インスタントカメラ*1を持参してきた恋太郎くんに栄逢さんが告げた言葉だと唐音ちゃんから聞いた。

 

 そう、普通のカメラとは違ってインスタントカメラの写真はデータに残らない欠陥品。即座に現像できるという手軽さこそあるが、その写真を紛失すればもう2度と戻ってこないという儚さもあるものだ。

 

 恋太郎くんの持つライターの火がついに写真に辿り着いた。

 

 チリ…と写真の端が燃え始める。このまま灰になれば、もう今日1日の恋太郎くんと栄逢さんのデータは文字通り無意義なものに成り果てる……

 

 

 

 

 

バッ

 

 

 

 ……目の前に繰り広げられる光景を私は信じられなかった。

 

 つい先程、恋太郎くんとのデートを『無意義な1日』だと言った栄逢さん本人が息を切らして恋太郎くんから写真を強奪した。

 

 無意義だと言った栄逢さんは嘘を吐いていなかったはずなのに。この短時間で矛盾する行動を栄逢さんが取ったことを私自身の目を疑った。

 

 それは、その行動に移った栄逢さん本人も同様らしい。いつもクールな栄逢さんらしくない、冷や汗を流しながら息を吐いていた。

 

 でも、もう1人はそこまで驚いていないのかただ自然な口調で栄逢さんに話しかける。

 

『――持ってない物を失う事はできないよね。…でも栄逢(えいあい)さんは今()()()を恐れた。それは栄逢(えいあい)さんが今()()()()()()()()事の何よりの(あかし)なんじゃないかな』

 

 恋太郎くんが続ける。私達の誰も言葉を発さなかった。

 

『栄逢さんは今日…何かを得たんだよ。それは言葉で表現することも――点数や評価に変える事もできない、何の役にも立たない物かもしれないけど。

 失いたくないと心から思える程に“価値のある”何かを…得ていたんだよ』

 

 私は、私たちは。誰も恋太郎くんと栄逢さんの馴れ初めや事情は知らない。

 

 それは当然だ。1人1人プライバシーがあるんだし、例え彼氏でもプライベートの全てを把握するのは困難だから。

 

 でも、今の2人の会話を聞いて少し栄逢さんのことが分かったかもしれない。

 

 

 

 学校での栄逢さんは誰とも交流を深めようとはしない。私はそれを無駄なことをとことんしたくない人だと思っていたけれど、実際はそれ以上だったみたいだ。

 

 学生の本業が勉学である以上それ以外の事柄全てが無意義。

 

 登校中の待ち合わせも、休み時間のおしゃべりも、放課後の買い食いも勉学に関係無い以上全てが無意義。今日の遊園地デートのように栄逢さんが“楽しい”“嬉しい”と思った所で関係ない。

 

 だって、それは全て無意義なものだから。

 

 

 

 人の価値観は千差万別。何が良くて何が悪いというものでもない。私自身、本人がそう認識し、特に周りに被害を与えないのであればどうでも良いとすら思っている。だから私は、栄逢さんの価値観に踏み込むつもりなんて微塵もなかった。

 

 でも、恋太郎くんは違った。

 

 恋太郎くんは踏み込んだ。1日の思い出の写真を目の前で焼却させるという荒療治とも言えるやり方で。栄逢さんに嫌われるかもという不安もあったはずなのに。

 

 恋太郎くんの“運命の人”だからというのも行動に移った理由の1つだろう。でもきっと、それだけじゃないと思う。

 

『……これは……何……?……なんで……っ!』

 

『……ごめん………俺もこんな事…したくなかった。…でもどうしても………君に知って欲しかったんだ………』

 

 …幸せな時間には意義があるって言う事。

 

 そんな時間を過ごす事こそ、人が生きる何よりの意義なんだって言う事を―――。

 

 栄逢さんの両目から涙が零れ始める。本人もどうして、分からないと不思議そうにしている。でも、隣の恋太郎くんは慌てることなくハンカチを差し出しながら以上の事を栄逢さんに伝えた。

 

 

 

 それを全て私は3人に伝えた。

 

「「「「…………」」」」

 

 私達の誰も何も言わない。けれど、きっと思っていることは一緒なんだろうなという思いがあった。

 

 私は何も言わずきびすを返して歩き始める。特に何も合図は出していなかった筈なのに、他の3人もほぼ同じタイミングで動き出していた。

 

「帰ろっか」 「帰りましょうか」 「帰るわよ!」 「『帰還の時』」

 

 試しに口に出すとまたしても3人と被ってしまった。被った割りには全員文言が違うことに少し笑っていると3人も同じく笑っていた。

 

「さて、恋太郎くんに糾弾する件はどうしよっか?」

 

「あぁ、そんな事もありましたね。そんな()()()()()()()()()()()()けれど。皆さんはどうですか?」

 

「『はて?何のことやら?』」

 

「遊園地楽しかったよね。他に何かあったかな?」

 

「べ…別に!!?さっきの恋太郎が格好良かったから帳消しにしてあげようだなんて、全然思ってないんだからねっ!!?」

 

「では、全員一致ということで」

 

「何がよ!私は違うって言ってるでしょうが!!」

 

「唐音ちゃんどうどう。距離を取ったからって恋太郎くん達に聞かれる可能性は0じゃないんだから」

 

「~~~っ!!…ふんっ!!」

 

 私たちは今日のことを恋太郎くんには()()()()ことに決めた。

 

 きっと恋太郎くんがこの事を知れば私達の心を傷つけたことを理由に、ハラを切って詫びようとするかもしれない。

 

 でも、最初はともかく栄逢さん(女の子)を大事にする最後の恋太郎くんを見て私たちの心は1つに固まった。

 

 これが最初の頃の私なら、皆の考えを誘導しようとあくせく動こうとしていただろう。なんなら、気持ちを吐露する前の私は実際そうしようとしていた。

 

 けれど、結局恋太郎くんの行動を見て。羽香里ちゃんも、唐音ちゃんも、静ちゃんも、もちろん私も。全員が納得いく結論に辿り着くことができた。

 

 これが、皆を信じたからこそ辿り着けたゴールなのかな。

 

 だとしたらすごく、嬉しいな。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 はっと目が覚める。

 

 枕元の時計を覗き込むと時刻は未だ深夜。目が冴えていたから眠れる気はしなかったけれど、身体は疲れているはずだからと無理して布団に潜り込んだけれど結果は案の定だったらしい。

 

 夢で見た内容は小さい頃の私だった。5才の頃アルちゃんに招待されて行った初めての外国(イギリス)旅行に私は心底浮かれきっていた。私の手を引いていたダッドとマムは心底心配していたに違いない。今更ながらもう少し慎みを持った行動をすべきだったなと心から反省した。

 

 けれど、アルちゃんが死んだことを聞かされた時の記憶がフラッシュバックしたのは、きっと恋太郎くんの言ったあれが原因だろうな。

 

『幸せな時間には意義があるって言う事。そんな時間を過ごす事こそ、人が生きる何よりの意義なんだって言う事を―――』

 

 …………

 

 立ち上がって押し入れの棚を開ける。羽香里ちゃん達が泊まりに来た時にも開けなかったそこには今日買ってきた狐の大きなぬいぐるみの隣に等身大のモコモコライオンのぬいぐるみがデンといた。

 

 私はそれを両手で抱え込むと、それを抱いてもう一度毛布にくるまる。

 

 このぬいぐるみはダッドが手助けをして私がアルちゃんと仲良くなった数日後、イギリスから届いた初めてのアルちゃんからの贈り物だった。ダッド曰く、ドイツのシュ○イフという大手ブランドの製品らしく、この限定品ともなると日本円で10万近くなるらしい。

 

 それを聞いた当初はお金の価値がよく分からなかったけれど、血眼になったマムから『死んでも大事にしなさい。いいわね!!?』と言われたのもあって手入れをかかすことはなかった。その甲斐あって、もらってから10年近く経った今でもモコモコの毛並みは健在だった。

 

 このフワフワもあの頃と同じ。

 

 ……大丈夫、分かっている。アルちゃんとも、ベルノさんとも、ダッドやマムと暮らしてきた幸せだった時間が無くなったりはしないって。

 

 でも、子供っぽいって笑われるかもだけれど。せめて夜が明けるまではこのままで……

 

 

 

 

 

 予定時間(アラーム)通りに起きた私の目は、いつもよりもパッチリ開く気がした。昨日早めに布団に入ったおかげかな?

 

 手元には、何故か押し入れに入れたはずのアルちゃんから貰ったライオンのぬいぐるみがあったけれど特に取り出した覚えもない。不思議に思いながら、今日帰ったらちゃんとお手入れしないとなと。マムからの決まり事を心の中で反芻しながら、私は朝の準備を始めることにした。

 

*1
撮った写真がその場で出てくるカメラ




※最後、今回の恋太郎の処遇は『なぁなぁの形で終わらせる』ことに“4人が話し合ったことで正式に”決まりました。
 本編にも書きましたが、『全てが全て彼女たちに伝えることが誠実では無い』と思っています。今回の凪乃とのデートも凪乃の価値観に変化を与えるにはデートするぐらいしか選択肢は無かったと思うし、事前に皆に伝えていたらそれこそドタバタしていただろうから。
 この話の恋太郎は『彼女を放っておいて違う女の子とデートしている』点においては最低かもですが、女の子1人1人に真摯に向き合っているからというのを羽香里たちもよく知っているから、最後には“無かった事に”してくれたんじゃないかと思います。

※ちなみに、恋太郎はオリ主含む4人には全く気付いていませんでした。
 コーヒーカップの時は怪しかったですが、それ以外は凪乃を第一に置きながらも、これから回るアトラクションのことや話題の選択等、凪乃に少しでも楽しんで貰えるように真剣に悩み続けていた恋太郎では、距離を取って変装した彼女には気付かなかった。
 ……とこのお話ではさせてください。
 でもまぁ、彼女レベルが高くなっていけば、もしかしたら気付かれていたかもしれませんが。

※後書き長文失礼しました。

羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く

  • 羽々里さんの『々』
  • 羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
  • 羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
  • ヤツ(♀)より『ヤ』
  • 羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
  • その他
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