0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

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このお話はほぼ原作通りです。

オリ主はほぼ空気です。本当はダイジェストでお送りするつもりだったんですけれど、書いている内にここも書きたいあれも書きたいと欲張ったら、ほぼ原文のままお出しすることになってしまいました。

またこの話は特にアニメ要素も含んでいますので、しっちゃかめっちゃかになっています。予めご了承ください。

7/5 21:25 誤字修正


12話 キスゾンビ♡パニック

【恋太郎side】

 

 楠莉先輩が俺に飲ませるつもりだった『大好きな人とチューしたくてしたくてたまらなくなる薬』を誤って俺以外の五人が飲んでしまったことから騒動は始まった。

 

 男子の性欲の向かう先が“肉体的快楽”…つまり『エロい事』なのに対し、女子の性欲の向かう先は“精神的快楽”…つまり『キス』。

 

 もともと女子は『恋人に最も求めるものがキス』である生き物だから、それ以上“キスを欲する状態”にしてはいけなかったらしい。五人はキスがしたいと言う“本能”のみに身を委ね…理性によるリミッターが外れ“超身体能力(100%のしんたいのうりょく)”が発揮されている状態…。

 

 大好きな人とキスをする事しか考えられず自我を失いさまよいうごめく…――言わば“キスゾンビ”になってしまった。

 

 捕まったら最後その腕力を振りほどく事は叶わず永遠にキスをされ続けると聞いて、当初の俺はなんて極楽浄土(ごくらくじょうど)なんだ…!とドキドキした。けれど、追加で薬が全身に回りきる前*1に『打ち消しの薬』*2を飲まなければ五人は一生このままと聞いて、それまで浮かれきっていた俺の心は急激に鎮まった。

 

 なんとしても、薬が回りきる前に皆に『打ち消しの薬』を飲ませないと…!

 

 こうして――俺と彼女達の“キスバイオハザード”が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 それから、俺と楠莉先輩は『打ち消しの薬』の製作の為に屋上を出て化学室へと向かった。

 

 が、それに立ちふさがったのが羽香里達。途中廊下を走っていたが為に教頭先生と挟み撃ちになったけれど、驚いた楠莉先輩がたまたま持っていた『ぶっかけると皮膚がただれて滅茶苦茶()てー(くすり)』を顔面にぶちまけたことで、教頭先生は怪我こそ負わなかったれど正体(すっぴん)を見られる訳にはいかないとどこかに消えていった。

 何故か楠莉先輩はファンデーション(ごと)きに自身の薬が防がれたことにショックを受けていたけれど、何とか立ち直らせて依然後ろを追いかけてくる羽香里たちから逃げ続けた。

 

凪「ちゅちゅちゅ…!!ちゅ!!ちゅ!!」*3

 

「「「ちゅ!!」」」*4

 

 途中三手に別れた羽香里たちを見て俺は考えた。()は俺とのキスを求めて追って来てるわけだから…追われてるのは俺だけなんじゃないか、と。

 

 そのため、俺と楠莉先輩も二手に分かれることを提案した。仮に俺が皆に捕まっても、楠莉先輩が薬を作れる時間を稼げれば作戦は成功なんだから。

 

 

 

 思った通り…!静ちゃん(追っ手)は俺を追ってきた…!

 

 二手に分かれた後、俺の後ろに付いてきたのは静ちゃん1人だった。

 

「『ちゅ』」 「『ちゅ』」

 

 静ちゃんは他の四人ほど速くはなかった。リミッターが外れるとはいえ、そこは元々の身体能力が基準。この調子なら回り込んだ他の皆から挟み撃ちにされる前に逃げ切れる…!!

 

 と、思っていたら。

 

「『ちゅ』」 ゴン

 

 

 

(しずか)ちゃあああああああん!!!!」

 

 

 

「あぁ、おでこが真っ赤に…!すぐ保健室に行かないと!!」

 

「『ちゅ』」

 

「大丈夫!大丈夫だからね!!」

 

 それから俺は静ちゃんをお姫様だっこして、階段を駆け下りて1階の保健室へと向かった。が、肝心の保健室の先生は……。

 

「出張中!!?知るか!この一刻を争う一大事に!!

 

 先生が不在かどうかなんて知ったことか!!俺にだって手当の1つや2つぐらいできる!!

 

「よし!早く手当を!!」

 

 それからある程度の処置を終え、最後におでこに湿布を貼った俺は静ちゃんに話しかけた。

 

「前髪抑えててくれてありがとう!冷やしたし、湿布貼ったし。もう大丈夫!!痛いの痛いの飛んでけー!

 

「『ちゅ』」

 

「……」 「……」

 

【【ハッ!!】】

 

 ガシッ ドサッ!!

 

「そうだ!今はバイオハザード中だったんだ!!俺とした事がーッ!!」

 

 

(お互い)失念していた結果、保健室のベッドに寝かされた挙げ句静ちゃんに馬乗りされてしまった。

 

 ギシ…

 

 「し、(しずか)…ちゃ…」

 

 ちゅ

 

「~~~~~~~~~!!(な…長いぃ…っ!)

 

「――ぶはっ!し…しず…」

 

 ちゅ♡…

 

「――!!」

 

 

 時折呼吸の為に口を離してはくれるけれど、それ以外はキスを止めるのすら惜しいと言わんばかりに絶え間なくキスの嵐を浴びる。嵐が収まる気配は一向に訪れなかった。

 

 ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡…

 

 1回1回が長いキスに息が切れ始め、もうなにも考えられないと思う俺の脳内に現れたのは、スマホを大事そうに口元で抱えるいつもの可愛い静ちゃんの姿だった。

 

「駄目だーッ!!俺は(しずか)ちゃんを元に戻すんだーーッッ!!」

 

 

 

 ぷら~~~ん。

 

 なんとか誘惑に耐えきって静ちゃんの無力化*5に成功した。静ちゃんの元々の身体能力が低かったおかげで、静ちゃんの力に抗うことができたのは不幸中の幸いだった。

 

「ごめんね(しずか)ちゃん……必ず元に戻してみせるから…っ!それまでそこで待っててね…!」

 

 最後、静ちゃんから手を放した時に俺に向けて『置いていかないで』と言わんばかりに両手を俺に向ける静ちゃんにごめんと謝りながら俺は保健室から出て行った。

 

「『ちゅ』」 「『ちゅ』」

 

 

 

 

 

 静ちゃんから逃れて校内を駆け回っていると、今度は羽香里と唐音に遭遇した。

 

 一旦引き返そうとする俺だったが、

 

羽「ちゅちゅちゅ…!!ちゅちゅっ!!」

 

唐「ちゅ…!!ちゅちゅっ!!」(コク)

 

 何やらチュチュ語で話したと思ったら、突如羽香里の足を掴んでハンマー投げの要領でその場を回転する唐音。遠心力の為か徐々にその勢いが強まっていく。遂にそれが最大になろうかといった所で。

 

 

「「ちゅーーッッ!!!!」」

 

 

 

唐音射出機(カラパルト)羽香里流星弾(ハカリュウセイダン)!!!!

 

「ぐわー!全日本タッグマッチプロレストーナメントじゃないんだからもうーーー!!」

 

 逃げる俺の背中に唐音が投げた羽香里がぶち当たり胴を掴まれたことで、投げられた羽香里の勢いのまま廊下をゴロゴロと回され続ける。

 俺は羽香里を汚れた廊下に触れさせてはいけないと、がんばって皿回しの要領で意地でも羽香里を降ろさないようがんばった。が、そこでがんばってしまった結果少しだけ、目を回してしまった。

 

 気付けば俺は廊下で仰向けに寝転がっていた。思わず目を回した俺の両手を誰かが掴んだ感触に目を開くとそこには2人がいた。

 

羽香里(はかり)…っ、…唐音(からね)ぇ……!」

 

 俺が2人を呼ぶ声に反応することなく、2人は代わる代わる俺とキスをし始めた。

 

 ちゅ♡…ちゅっ♡…ちゅっ♡…ちゅ…♡…

 

 頭がぼーっとし始める。静ちゃんと違って力が強くて腕も振りほどけないという状況に万事休すかと2人のされるがままになっていると、2人の様子が変わったことに気付いた。

 

「――ちゅちゅ!」 「ちゅちゅちゅっ!!」

 

羽「ちゅちゅっ!!」 唐「ちゅ!!ちゅっ!!」

 

「ああもうまたこの二人は喧嘩してからに…!!キスの取り合いは前にもやっただろ…!!」

 

 キスゾンビになっても()()()()()()()()に少しだけ呆れたけれど、すぐに切り替えた。――そうか……!それなら…!!

 

羽「ちゅちゅーッ!!」 唐「ちゅちゅちゅーッ!!」

 

 何やら言い争いの為に顔を近づけている2人にそ~~…と両手を近づける。そして、

 

 

 

 ちゅ

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに成功した。

 

 2人は口を合わせたまま動かない。俺は流れる冷や汗が止まらないまま、一体どうなるのかと固唾を呑んで見守る。

 

 すると、一旦口を離してお互いにちゅちゅ語で互いに何かを伝えたと思ったら……。

 

 ちゅちゅちゅちゅ

 

 

 

 いよおおおおおし!!!!

 

 

 

 そうだ!皆が飲んだのは『大好きな人とチューしたくてしたくてたまらなくなる薬』…そして羽香里(はかり)唐音(からね)は――

 

 毎日喧嘩するほど超絶(ちょうぜつ)(なか)()“大好き同士”なんだ!!!

 

 なんたって四人でキスしあった仲だもんな…!!俺は信じてたよ…二人のこと…!!*6

 

 それから数分、

 

 ちゅ♡…ちゅぷ…♡

 

 お互いの頬に手を添えて、いつものキス以上のことをしている2人を見ながら、『さすがキスゾンビ同士。みるみるうちにエスカレートしていくなぁ』とドキドキしながら正座で見守っていたけれど、

 

 ドキドキしている場合じゃない!!と正気に戻った俺は今の隙に化学室へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 化学室に辿り着いた。楠莉(くすり)先輩は先に着いているかなと思いながら扉を開ける。

 

 !!!?

 

 しかし、そこには楠莉先輩の姿はなく代わりに“キスゾンビ”の凪乃がいた。

 

 慌てて扉を閉め直したけれど目と目がバッチリ合ってしまった以上凪乃が俺を追ってこないはずがない。

 

 なんで化学室に凪乃(なの)がッ!!?まずいまずいまずい!!!逃げ切れな―

 

 どうやってこの窮地から脱しようかと考えていると、視界に()()()が入ってきた。時間が無い俺は即座に――。

 

 

 

「ちゅちゅッ!!……ちゅちゅ…」

 

 化学室の扉を勢いよく開けた凪乃だったけれど、付近に俺がいないことに気付くと化学室の隣の教室へ俺を探しに入って行く。俺はその様子を()()()()()()()()から確認した。

 

 まずい…このままじゃ見つかるのは時間の問題だ…!!

 

 ――でも希望はある…!!こっちは“二手に分かれた”んだ!!今この隙に楠莉(くすり)先輩が化学室にたどり着いてくれれば―――!!

 

 と、そんな事を考えていると。俺のお腹辺りで何やらもぞもぞと動く感触がした。

 

「ん?」

 

 顔を下に向ける。するとそこには……。

 

「むぎゅ~~!く…苦しかったのだ~~!」 ぷはっ

 

「(楠莉(くすり)先輩いいいいい!!!?)」

 

 謎の物体の正体は楠莉先輩だった。

 

 希望は(つい)えた。

 

 

 

 

 

楠莉(くすり)先輩!な、何でこんな所に…っ!?」

 

「化学室に入る所を凪乃(なの)に見つかって、追われてここに隠れたのだ…!そしたら楠莉を探して化学室の辺りをうろうろし始めたから入れなくなっちゃったのだ~!」

 

 小声で楠莉先輩に問いかけると返事が返ってきた。たしかに、その理屈だと楠莉先輩がここにいた理由にも頷ける。

 

 でも、おかしいな……。楠莉先輩の言った通りだとしたら。

 

「…でも何で…!?凪乃が狙ってるのは“キスの相手”である俺だけなんじゃ…」

 

「でもでも、楠莉が恋太郎の仲間で協力して何かしようとしてる事には感付かれてるだろうから…」

 

 ――そうか。挟み撃ちの指示とかもしてたしな…。『キス“ゾンビ”』とは言っても完全に知能を失った状態ではないんだ…!!

 

「ちゅちゅ…」

 

 そんな事を考えていると、凪乃が空き教室の1つから出て来た。近くの隠れられる所全てを探っているならこのロッカーもいずれ開けられるに違いない。このままじゃ二人揃って見つかり捕まってしまう……!!

 

「そうだ…!!恋太郎(れんたろう)が走って凪乃(なの)を引きつけて、二人が去った後に楠莉(くすり)がここから出て化学室に行くのはどうなのだ…!?」

 

「…それは俺も今考えましたけど…」

 

 楠莉先輩の案は聞く限り上手くいきそうだった。けれど、相手は羽香里たちに挟み撃ちを提案する他、化学室へと先回りをしている凪乃なのだ*7。それをふまえると簡単には頷けない。

 

「自分から隠れたくせに俺自ら掃除用具入れ(そこ)を飛び出すと言うのは……()()()()()()()()。」

 

「走力頼みの賭けに出るならそもそも最初から足を止めて隠れないはずだし、キスゾンビ(凪乃)の方が速い事は分かってる以上《《捕まる前提》で》」飛び出した事は明白…。俺の行動が『凪乃をここから離れさせる陽動』だとバレる事は、“ここに協力者(せんぱい)が隠れている事”を伝えるのと同じ事なんです……!」

 

 ――くそ…ッ!どうする…どうする…!!

 

 このままじゃ皆薬が回りきって手遅れに……絶対に助けなきゃいけないってのにッ!!!

 

「…やっぱり…こうなっちゃうのだ……ッ」

 

「え…?」》

 

楠莉(くすり)はいつもこうなのだ…!!大好きな薬の事にのめり込みすぎて周りの人に迷惑をかける……!!それで化学部の皆も辞めてったって言うのに……っ!!ライだって、今は楠莉のことを“命の恩人”だって慕ってくれているけど、今回ので嫌われること間違いないのだ……っ!!」

 

「……!」

 

「他の人なら()()いいけど…でも…でも…大好きな恋太郎(れんたろう)に嫌われるのは…迷惑をかけるのは…ッ絶対に嫌なのだ…ッ!!―もう楠莉は…楠莉は…ッ」

 

 涙をこぼしながらそう言った楠莉先輩は一拍の間を置いた後言った。

 

「薬開発なんか、やめるのだ…!!」

 

 …………

 

「…(せん)ぱ…っ「本当にごめんなのだ…ッ恋太郎(れんたろう)ぅ…ッ!!」」

 

 俺の言葉を遮って楠莉先輩は謝る。それは違うと俺が楠莉先輩に言おうとしたけれど、それよりも先に楠莉先輩が何かに気付いて懐をゴソゴソと漁り出した。

 

「そっか…!大丈夫なのだ恋太郎!!もうこのバイオハザードは解決したのだっ!!」

 

「えっ?」

 

楠莉(くすり)は何かあった時のためにいつも――」

 

 そう言って懐から出したのは……

 

『打ち消しの薬』を一人分常備してるのだ!」

 

……!!

 

 打ち消しの薬だった。

 

 …そっか…!!さっきまでの状況だと五人分の『打ち消しの薬』が必要だった…。けど今は凪乃(なの)さえ戻せば化学室に行けるんだから一人分で事足りるんだ!

 

「でかしましたね楠莉(くすり)先輩っ!」

 

「うんなのだ!」 ゴクッ

 

「なんで!!!?」

 

「ちょちょちょ先輩ストーップ!!!」

 

「えっ!?」

 

 貴重な『打ち消しの薬』を目の前で飲み干そうとする楠莉先輩に、()()()()()()()()慌てて止めようとすると、

 

 ガシャーンッ!!

 

 楠莉先輩の手からこぼれ落ちた『打ち消しの薬』が、無情にもその大半が飲まれることなく床に叩きつけられた。

 

「わああ――ッ!!!?」

 

「ななな、何するのだーッ!!?」

 

「いやこっちのセリフですよ!凪乃(なの)に飲ませるんじゃなかったんですかッ!!?」

 

「あっ!!その手があったのだ!!」

 

「むしろ他に手ってあります!?」

 

 俺の考えに対して楠莉先輩はすごい驚いている。が、そんな楠莉先輩がムクムク…と変化していくことで、俺にも楠莉先輩が何を考えてあんな暴挙に出たのかが分かった。

 

「いや楠莉(くすり)は…凪乃に知られていない“十八歳楠莉(このすがた)”ならしれっと化学室に入れないかなと…」

 

「……っ!!」

 

「…どうしたのだね恋太郎(れんたろう)?顔が赤いのだよ?」

 

「い…いやだって…!!」

 

 『打ち消しの薬』によって大きくなった(元に戻った)楠莉先輩が不思議そうにしているけれど、俺は正直それどころではなかった。

 

 だって……、

 

 楠莉先輩のたわわな()()や、ミニスカートから露出しているスベスベな御御足(おみあし)etc…。8歳状態の楠莉先輩でも結構ギリギリだったのに、この狭いロッカーの中で突如大きくなったものだから、

 

 いろんなとこが……当たって…!!

 

「?」

 

 顔を赤くする俺を不思議そうに見つめる楠莉先輩だけど、気にしないことにしたのか話の続きを進めた。

 

「――だが、もはや『打ち消しの薬』は一口しか飲めなかったし…効果はすぐに切れる。『打ち消しの薬』を作っている最中に“子供楠莉(くすり)に戻れば凪乃(なの)に見つかる恐れが…!」

 

 話の途中で何か思い至ったのか視線を右に向ける先輩。俺もそこに視線を向けると、そこにはビニール紐があった。

 

「そのビニール紐で凪乃を縛って動けなくしてしまえば…!」

 

「で、できますかねそんな事…!?」

 

「別人のこの姿で不意打ちえおかければあるいは――…とにかく、薬の効果が切れる前にやるしかないのだよ…!」

 

 正直行き当たりばったり感が否めない作戦だけれど、他に案が思い浮かばない以上やるしかない。

 俺は楠莉先輩に『がんばってください!』と小声で応援することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 楠莉先輩が掃除用具入れから出て行く。丁度凪乃が後ろを向いているタイミングで出たはずなのに、凪乃はすぐに楠莉先輩の存在に気付いてバッと振り向いた。

 

 ……が、

 

ちゅ()意義…」

 

 楠莉先輩の言った通り、凪乃は目の前の女子を楠莉先輩とは気付いていないみたいだ。これなら十分勝機はある…!!

 

 凪乃を縛る為に後ろに回ってビニール紐を両手で構える楠莉先輩。そ~~ッと近づいていたけれど、何か嫌な予感でもしたのか再度振り向く凪乃。ビニール紐を持つ楠莉先輩を警戒しているのは誰が見ても明らかだった。

 

「…いや―」

 

 そんな凪乃を言いくるめようとする楠莉先輩だったけど…、

 

楠莉(くすり)はただの通りすがりの人なのだよ」

 

 いや一人称―ッッ!!!!!

 

 当然、そんな隙を凪乃が見過ごすわけもなく……。

 

「な(ふぇ)()(ふぁ)れたの(ふぁ)…!?」

 

 凪乃を縛るはずが逆に凪乃に縛られてしまった楠莉先輩。

 

 不思議そうに呟いているけれど、口元にもヒモが通されているからかくぐもった声しか出て来ていない。

 

 ――くそッ!!もうここまでなのか…!!?先輩が捕まった以上『打ち消しの薬』は作れないし…!!どうすれば…どうすれば…ッ!!!

 

 ロッカーに手をついて下を向く。今度こそもう打つ手がないと半ば絶望していると……、

 

 下げた視線の先には元『打ち消しの薬』の飲まれずにぶちまけられた中身と割れた試験管があった。

 

 ……――!!!

 

 ……やるしか、ない…!!

 

 

 

 

 

 バンッ!!

 

「ちゅちゅッ!!」

 

 勢いよく掃除用具入れから飛び出した俺は凪乃とは反対方向に逃げる。凪乃に気付かれているのは分かっている。その為に飛び出したんだから。

 

 ダダダダダダ!!!

 

 追いつかれるな!!走れ…走れ!!

 

 ――理性のリミッターが外れた“超身体能力(キスゾンビ)”が相手なら、そんなもんこっちも外してやれ!!この湧き上がりまくる彼女たちへの想い(あいのちから)で!!!!

 

「あああああああああああああ!!!!」

 

 逃げ込んだ先は何かの倉庫室だった。

 

 カギはちゃんと閉めたけれど、凪乃を振り切ることは出来なかった。部屋に入る所を見られている以上ここもそう長くはもたない。

 

 案の定、ドアノブをすごい力で引っ張ることでこじ開けた凪乃が、穴越しにドア付近で息を潜めていた俺に気付くと「ちゅ~~~↗ちゅ~~~↘♡」*8と声を上げる。それを聞いた俺は「なぁぁぁのぉぉぉ!!!」と大声を出して部屋の奥に逃げ込むことしか出来なかった。

 

 はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…

 

 長い距離を走り続けたことで酸欠により頭が回らない。逃げなきゃいけないのは分かっているのに、体力切れの影響かもう立つことすら出来ない俺はその場に崩れ落ちた。

 

 そんな俺とは対照的に息一つ切らしていない凪乃。が、唯一共通点を上げるとすれば、酸欠状態の俺と同じく顔を赤らめている所だろうか。“キスゾンビ”状態による興奮作用によってだから全然違うけれど。

 

 そんなことを考えている内に、凪乃がもう目の前まで来ていた。仰向けになった俺に乗りかかった凪乃は俺の頬に両手を添えると、俺の口へと一直線に自身の口を結びつけた。

 

ちゅっちゅちゅっちゅ

 

 キスによる多幸感と息が出来ない不自由さ。それに加えて凪乃の肩口からこぼれ落ちてきた髪の良い匂いが俺の頭を刺激して、もう何も考えられない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪乃(なの)

 

 意識外から呼びかけられたことで反射で勢いよく後ろを振り向いた凪乃。効率を重視する凪乃らしい行動だけど、今回はそれが仇になった。

 

 前もって『打ち消しの薬』を構えていた()()が凪乃の口元へとそれを持って行く。突然のことで理解が追いついていない凪乃だったけれど、薬が効いてきたのか意識を手放し俺の方へと倒れ込んできた為慌てて抱き込んだ。

 

「これで目が覚めたら、正気に戻ってるのだ…!」

 

「…よかった…間に合ったんですね…楠莉(くすり)先輩…!」

 

 俺は凪乃に『打ち消しの薬』を飲ませた、()()の楠莉先輩にそう声を掛ける。が、肝心の楠莉先輩は少し不思議そうに首を傾げていた。

 

「全部…()()()()だったのだ?」

 

「いや…計算と言うか…もう()()に賭けるしかなかったって感じですけど…」

 

 そう応えて、俺は()()()考えた1つの策を楠莉先輩に告げる。まぁ、楠莉先輩が今ここにいる以上先輩ももう分かっているだろうけど。

 

「俺は凪乃(なの)を引きつけてあの場から離れさせ…逃げ続けて時間を稼ぎただ待っていたんです。『打ち消しの薬』を()()()()飲んだ先輩の―――」

 

「薬の効果が切れ、身体が縮んでビニール紐がほどけるのを」

 

「あっそうか。それで動けるようになったのだ!!?」

 

「いや、分かってなかったんですか」

 

恋太郎(れんたろう)がなんかビニールを溶かす薬でも仕込んでたのかと…」

 

「――ともかく急いで()()()()にも『打ち消しの薬』を飲ませないと……あれ?」

 

 楠莉先輩がまさか今の今まで作戦を誤解していたことに驚いたけれど、まあそんな細かい所は今はどうでもいい。問題は薬が全身に回りきる前に()()『打ち消しの薬』を……。

 

 あれ……?

 

 そうだ。“キスゾンビ”になったのは俺と楠莉先輩以外の()()だ。これは間違いない。

 

 それで、静ちゃんは1階の保健室でハンガーに掛けているから大丈夫だ。

 

 羽香里と唐音もどこかの廊下で、今も大好き同士2人でキスをしていることだろう。

 

 そして、凪乃は今目の前で楠莉先輩が『打ち消しの薬』を飲ませた。

 

 これまでで計四人の居場所は把握している。でも、残り一人の居場所には全く見当が付いていない。

 

 薬を飲んでから、もうかなりの時間が経ったというのに。

 

「ライちゃん……!!?」

 

 ……事態は深刻だ。

 

 後は皆に薬を飲ませるだけだと思っていたのに、ここにきて制限時間(タイムリミット)付きの特大ミッションが課せられた。

 

*1
楠莉「個人差はあるが、大体一時間弱なのだ…!」

*2
薬の効果を打ち消す薬(原作10話参照)

*3
恋「『挟み撃ちにするのが効率的』って言ってた気がする…!!」

*4
恋「『了解…!』って言ってた気がする…!!」

*5
ハンガーに制服ごとかけることで静ちゃんを無力化することができた。綿毛のように軽い身体を持つ静ちゃんじゃなかったら危ないから、皆はマネしないでね!!

*6
ライ「ちゅちゅ…(恋太郎(れんたろう)くんが友情と何かを取り違えている気がする……)」

*7
凪「凪乃なのだ」(あっかわいい…)

*8
シャイ○ング




※書いていて100カノは青年誌に掲載されているんだなって思い直しましたね。『馬○りキス』に『3○キス』に『百○キス』、『ぎゅうぎゅう○め』に『緊○プレイ』。コメディを挟みながらも1話と半分でこれだけの性癖のバーゲンセールをお出しするなんて中村先生は流石だなっていうのと、それら全てを魅力的に艶美的にマンガに落とし込んだ野澤先生も流石の一言ですね。感服しました。

※さて、オリ主は果たしてどこにいるでしょうか。次話までに当てられた方には、もれなくライちゃんがなんでも言う事を聞いてくれる権利が与えられます(ウ・ソ)。

【追記】箱の中に2人や複数が入って密着感を感じる多義的な意味を『箱○め』と言って、その中から更に多人数に細分化したのが『ぎゅうぎゅう○め』らしいです。言語の意味を勘違いして使用していました……。ごめんなちゃい…○(ち)にまちゅ… 

羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く

  • 羽々里さんの『々』
  • 羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
  • 羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
  • ヤツ(♀)より『ヤ』
  • 羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
  • その他
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