【恋太郎side】
「…やっと、羽香里と唐音の2人に『打ち消しの薬』飲ませることが出来たのだ……」
「2人が大好き同士だったばかりに……!」
気を失った凪乃を保健室まで連れて行き、ハンガーに掛けられていた静ちゃんにも『打ち消しの薬』を飲ませてベッドに横になってもらった後、俺と楠莉先輩の2人が向かったのは羽香里と唐音の所だった。
ただ薬を飲ませるだけだと高をくくっていると、2人がキスに夢中すぎたあまりに互いから引き剥がすのに苦労した。俺一人だけだったら無理だったかもしれない。楠莉先輩には感謝しないとだな。
例に漏れず『打ち消しの薬』を飲んで気を失った2人をそれぞれ
これで4人に『打ち消しの薬』を飲ませることが出来た以上、俺と楠莉先輩の間で当然話題になるのは未だ不明なライちゃんの居場所についてだ。
「どうですか?楠莉先輩」
「……ダメなのだ。ずっとライのケータイに電話かけてるのに、うんともすんとも言わないのだ…」
「着信の音も聞こえてこないとなると、やっぱりライちゃんはあそこかな……」
「!ライの居場所が分かったのだ!!?」
「先輩ストップストップ!!今近づいて来られたら危ないですから!!」
「あ…、ゴメンなのだ…」
「正確には分かった訳ではないです。でも、
「…すごいな恋太郎!!楠莉は恋太郎よりも長い付き合いなのにまったく見当も付かないのだ」
「いや、去年の春からなら俺も先輩もそう変わらないじゃないですか」
「……それもそうなのだな?」
「なんで不思議そうなんですか…」
「いや……なんでなのだ?」
「俺に聞かれても分かりませんよ…」
ライちゃんのケータイに繋がらないと顔を顰めている楠莉先輩が俺の返答を聞いて飛びついてきそうだったので慌てて止める。いつもなら大丈夫だけど、流石に2人を運んでいる時はマズい。申し訳なさそうにする先輩にそう伝えると元気が戻ったようなので何よりだ。
そうこうしている内に保健室に到着した。俺は羽香里と唐音をそれぞれベッドの上に寝かせるとすぐに部屋から出て行く準備をする。
「じゃあ俺はライちゃん探してきますので、先輩は4人をお願いします!」
「任せろなのだ!」
楠莉先輩の元気が良い返事をバックに俺は保健室から出て行く。ライちゃん用に楠莉先輩からもらった『打ち消しの薬』を持っていることも確認して。
楠莉先輩に言った通り、俺にはライちゃんの居場所にある程度確信が持てていた。それはこの騒動が始まって早々俺達を追いかける集団の中に
それらから導きだした俺の答えは…、屋上…!!
「ライちゃん!!」
「ちゅ…ちゅ…」
「ライちゃん!!?」
俺の推測通り、ライちゃんは屋上にいた。だけど、俺が驚いたのはそこではなかった。
俺の視界に移るライちゃんはガムテープで両腕を後ろ手で縛られて身動きが取れずにいた。それだけに留まらず、両足も太もも裏とスネの2箇所をグルグルと回されて立ち上がることもできず体育座りの体勢で座り込んでいた。
そんなライちゃんを目にした俺は……、
「誰だ俺の大好きな彼女を縛り上げたのは!!ぶっ殺してやる!!!!」*1
「ちゅ…ちゅちゅ…!」
「今すぐそのテープ剥がすからね、待っててライちゃん!!」
ライちゃんがキスゾンビのままであることをすっかり忘れていた。
その後、慎重にテープを全て剥ぎ終わった俺はライちゃんに話しかけた。
「ふぅっこれで全部取れたかな!ライちゃん、どこか痛むところは無い?」
「……ちゅ…」
【ハッ!】
がしっ びーっ!! グルグルグル……
「そうだ!まだライちゃんに『打ち消しの薬』飲ませていなかった!!最後の最後に俺ってやつはー!!」
隠し持っていたらしいガムテープで先程のライちゃんのように両手両足を縛られた俺の上に馬乗りになるライちゃん。そして……
ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡…ちゅ♡……
俺の両頬に両手を添えたライちゃんが俺の唇にキスの嵐を降らせてきた。俺はそんなライちゃんの猛攻に最初こそ抗おうとしたものの、ただでさえキスゾンビ中のライちゃんに力では敵わない上に両腕をガムテープで縛られている以上どうすることもできなかった。
ごめん……ライちゃん。俺が考え無しだったばかりに……!
キスによる酸欠と多幸感で意識が朦朧としていると、突然ライちゃんによるキスの猛攻が止まった。その代わりに俺の身体の至る所をまさぐり始める。
「あはっ、あははっ!ちょっ、ライちゃん待って!どうして急に…」
いきなりのこちょこちょに俺は笑い声を上げながら困惑していると、ライちゃんは俺の懐から
「『打ち消しの薬』……?」
「ちゅ…」ぐびっ
「ライちゃん…!!?」
まさかの行動に出たライちゃんを未だ縛られたままの俺が止められるはずもなく、ライちゃんは『打ち消しの薬』を全て飲み干した。
俺自身はヘマしかしていないというのに、俺にとって都合が良すぎる目の前の展開に目を疑っていると、
「…まさか、
「ライちゃん!!」
ずっと目隠しをした状態だったのもあって外見だけではキスゾンビか否か判断できずにいたけれど、チュチュ言語を用いない時点で既にライちゃんがキスゾンビじゃないことは明らかだった。
「…………」
「…?何か言った?ライちゃん」
「…何でも無い、唯の独り言。さて一応聞くけど恋太郎くん、今からお互いの状況を確認したいんだけれど
「今すぐ外して!お願いします!!」
「そんな食い気味に……恋太郎くん縛られるのは好きじゃなかったか……」
そんなことを呟きながらもライちゃんは先程の俺よりも大分早くテープを全て剥がし終わった。器用だからなのか慣れているからなのか気になったけれど、今はそんなことを聞いている時間は無いと頭から追い出した。
それから、俺とライちゃんは情報を交換した。
羽香里ちゃん達4人全員『打ち消しの薬』を既に投薬済みだということを伝えるとライちゃんは見るからにホッとした様子を見せてくれた。今は保健室に寝かせていることも伝えたからこの情報交換が終わり次第すぐにでも戻らないと。
それからライちゃんのお話になったんだけれど、
「え!!?ライちゃん『大好きな人とチューしたくてしたくてたまらなくなる薬』のこと前から知っていたの!!?」
「うん、楠莉ちゃんから直接ね。だから効果についてもある程度知っていたんだ。もしそうじゃなかったら今頃私も羽香里ちゃんたちと一緒に恋太郎くんを追いかけ回していただろうね。
…楠莉ちゃんにはその時に『間違っても女の子に飲ませることだけはしないでね?』ってちゃんと伝えていたのに……」
「あぁ、だから楠莉先輩あの時……」
「……恋太郎くん?」
「…!!?いや何でも無いよ!!」
「…………。まぁ
ライちゃんの説明を受けて俺が思わず楠莉先輩が『ライに嫌われるかも』と嘆いていたことが頭に浮かんだ。それを危うくライちゃんに感付かれそうになったけれどなんとか誤魔化せることができてホッとする。
……誤魔化せた……よな?……
俺は話題をそらせる意味もこめて、気になったことをライちゃんに尋ねることにした。
「でも、楠莉先輩曰く『キスがしたくてしたくてたまらなくなる』って聞いていたんだけど、どうしてライちゃんは俺を追いかけ回したり、ついさっきのあの時もキスを途中で止めることができたの?」
そうだ。これが特に気になった所だ。
楠莉先輩によれば、この薬を飲んだ女子は例外なくキスをする事しか考えられなくなるらしいのに。ライちゃんは俺が見ている限り2度もこの薬の効果から抜け出している。いくら前もって知っているからって耐えられるものでもないはずだ。事前に『打ち消しの薬』を持っていたのかとも思ったけれど、そうじゃないのは俺自身体験しているし……
不思議に思っていると、ライちゃんは何てことない用に俺に言った。
「恋太郎くん、それは
「……ということは、つまり……?」
「私がしたのは至って単純だよ?……私自身を男だと
「まさかのごり押し脳筋解決」
突然、騒動が始まる前に『嘘が吐けなくなる薬』を飲んだ時の
「えぇ……?そんな方法で楠莉先輩の薬の効果から抜け出すだなんて…」
「『嘘が吐けなくなる薬』*3で私が嘘を吐けたのはこの方法のおかげだよ。効果は恋太郎くん達も知っての通り」
「まさか既に実証済みだった!!え、じゃあ態々声のトーンを下げていたのはひょっとして……」
「あれはマムから教えて貰った唯の演技」
「嘘関係なかった」
まさか、楠莉先輩の薬から抜け出す方法があっただなんて…!絶対にマネできる気がしないけれど……。
「でもまぁ楽勝ではなかったよ?少しでも気が緩むとすぐにキスゾンビに成り果てそうになるから、近くの掃除用具入れからガムテープを拝借して、キスゾンビに成り果てても恋太郎くんを襲わないように自分自身を縛るぐらいしかできなかったから*4。お陰で恋太郎くん達の手助けはできそうになかったんだ。ごめんね?」
「い、いや……正直ライちゃんにまで追いかけられていたら捕まっていただろうから助かったよ……」
冷や汗が俺の身体を流れる。もし凪乃が3手に別れることを提案した時にライちゃんまでがその場にいたら、静ちゃんと一緒に行動しても凪乃と一緒に行動しても俺たちは詰んでいた可能性が高い。
ライちゃんは自分自身を抑えることしか出来なかったことを悔やんでいるみたいだけれど、そうしていなかったら今こうして和やかに会話なんて出来ていなかったと思う。だからそこだけは誤解が無いように訂正しておいた。
「さて、話すことも無くなったし。私達も保健室に向かおっか……!おっと…」
「ライちゃん!!?」
そういえば、他のキスゾンビになった彼女たちとは違う点に思い至った俺は再び彼女に問いかけた。
「そういえば、他の皆は『打ち消しの薬』を飲んだらすぐに気を失っていたけれど、ライちゃんが気を失っていないのはどうして?」
「……私も楠莉ちゃんから詳しく聞いていないから憶測だけど、私は羽香里ちゃん達とは違って理性によるリミッターが外れた状態で長時間動いていないからじゃないかな?自分を縛り終わった後
「成る程……。じゃあ今のは……」
「さあね。楠莉ちゃんに聞いてみないと分からないよ?私としては女子のクセに男子のフリをした反動だって言われても否定できないし……。あ、これ結構キツイ……」
「ライちゃん!俺の背中に乗って!!保健室まで背負っていくから!!」
「……有り難い話だけど、恋太郎くんは大丈夫なの?羽香里ちゃんたちからずっと追いかけ回されて、私以上に疲れているでしょ?」
「どれだけ俺が疲れていようとも、彼女が倒れそうになったら死んでも支えるのが彼氏の務めだ!!」
「……そっか。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな?」
最初は遠慮しようとするライちゃんだったけれど、俺の説得が効いたのか、最後には了承してくれた。
ライちゃんを全身で感じる幸福感を抱きながら保健室へと向かっていると、
「……恋太郎くん……」
「…どうしたの?ライちゃん」
階段を降りている途中ライちゃんが話しかけてきた。
「……ありがとうね、……皆を、守ってくれて……」
その言葉を最後に、ライちゃんは眠ってしまった。
……もしかしたら、『打ち消しの薬』を飲んでも気を失わなかったのは他の皆の状態が気になったからなのかもしれない。ライちゃんは俺以外で唯一“運命”の事情*5を知っているから。ライちゃん自身のことよりも、皆のことを気にしてしまうのはしょうがないのかもしれない。
けれど、
「ライちゃんが気にしてしまうのは俺が彼氏として不甲斐ないからだよな……。これからもっと精進しないと…!!」
レジャープールの時も、今回のキスゾンビも。ライちゃんには必要以上の心労を与えているのは間違いない。俺は彼女の1人としてライちゃんにはただ楽しんで幸せに暮らして欲しいだけなのに、俺の彼氏としての力が足りないせいだと自己を叱咤する。
これは誓いだ。これから俺は誰一人取りこぼすことなく、皆を幸せにしていくんだという。その為なら俺はどんな試練だって乗り越えてみせる!!
と、そんなことを考えていたせいだろうか。
「
ライちゃんが小声で呟いたそれが英語であったのもあって、俺はライちゃんの寝言かなと思い深く気にとめなかった。それを深く後悔したのは随分時間が経った後だった。
▽▽▽▽▽
羽「ここは…?」
唐「…!?…!?ねっ寝ぼけてなんいないんだからねっ!!」
凪「私は一体…?……なぜ……
静「『申し訳ない』“の極み”」
恋「皆…!」
保健室のベッドが4つしかなかった為、ライちゃんをおんぶしながら皆が起きるのを待っていると皆が続々と起き始めた。
羽「恋太郎君…!!わ、私も本当にごめんなさ――!!!!」
起きた皆の反応はそれぞれ異なったけれど、静ちゃんが謝ったのを皮切りに羽香里が続くと思ったら、何故か途中で止まってしまった。
不思議に思って羽香里の顔を覗いていると、
「あ…あれえぇ~~?ご…ごめんなさい私…な~~んにも思い出せないです~!」 だらだらだらだら
「――ね!!
「え?なにがよ…私も
突如滝のように汗を流しながら明後日の方へと向きながらそうとぼける羽香里。赤面した羽香里に話しかけられた唐音も途中までは何ともない様子だったのに、途中で先程の羽香里同様何かに思い至ったのか途中で台詞を切った。
「あ…!!あぁ~~!!た…確かに!!何も覚えてないわねッ!!私もッ!!ええ笑っちゃう
「そうですよねぇ~!!何も覚えてませんよねぇ~!!う…うふふふふッ!!」
静・凪「「?」」
「(うんうん…!!こうしてまた一つ、二人の“仲良し”が深まったんだなぁ……!!)」
ラ「……絶対友情と何かを取り違えているよ、恋太郎くん」
恋「あ、ライちゃん!目が覚めたんだね!!」
2人の仲良し度が更に深まったのに感激していると、おんぶしていたライちゃんも目が覚めたのか背中でもぞもぞと動き始めた。俺はそんなライちゃんを降ろすことで改めて周りを振り返る。
何はともあれ、キスゾンビになった5人とも楠莉先輩の『打ち消しの薬』のおかげで無事に元に戻ったんだ。
これにて、一件落着……
「全部……
「ごめんなさいなのだ…皆…っ!!皆は楠莉が作った薬のせいで…あんな風になっちゃったのだ……ッ!!」
「ごめんなさいなのだ…!!」「ごめんなさいなのだ…!!」
凪「
唐「楠莉…」
ラ「…………」
羽「楠莉先輩……」
静「“
俺の隣で皆の様子をただ黙って見守っていた楠莉先輩が突如皆に謝罪を始めた。
それはあの掃除用具入れに2人で入っていた時に楠莉先輩が溢していた後悔。自分自身の薬に対する好奇心と探究心が仇になって化学部員が辞めていったことを今でも悔やんでいるからだろう。
そして今回、経緯はどうあれ俺の大切な彼女たちに楠莉先輩の薬が害を与えたのも事実。きっと、楠莉先輩は以前のように自分の周りからライちゃんや俺が離れていくと思ったのだろう。震えながら謝罪を重ねる楠莉先輩の身体は、8歳という身体以上に俺には小さく見えた。
…………
俺は涙をポロポロと流しながら謝罪を続ける楠莉先輩の真正面に立った。
楠莉先輩の涙を止める為に。
「…確かに、先輩の薬のせいでああなっちゃいましたけど…
「…でも…ッ…でも…ッ」ポロポロポロ
「――今後、先輩の薬でどんな重大な問題が起こっても…今回みたいに俺が一緒に解決します…!何があろうと絶対に解決してみせますっ!!」
「…
俺の頭に浮かんだのは昨日の記憶。化学室で見かけた“運命の人”に会いに行った時のことだ。
最初は人の話を聞かない人だと思ったけど、自身の長年の成果である薬を天真爛漫な笑顔で俺に紹介する楠莉先輩の姿は、とてもキラキラして見えた。
「だから――」
こんな
「大好きな薬開発をやめるなんてもう言わないでください!俺は自分の“大好き”に一直線な
…………
凪「(素敵…♥)」
静「(かっこいいなぁ…♥)」
唐「(イケメンすぎんのよ…ッ!!♥)」
ラ「(……こんな時、
羽「(びしょびしょ)」
俺と楠莉先輩以外の5人がそんなことを内心考えていたなんて知る由もない俺と楠莉先輩は……、
「―――
タッ
「薬も恋太郎も、大大大大だ~~い好きなのだ―――っ!!」
そう言うや否や、俺の元へと抱きついてきた楠莉先輩はその勢いのまま―――。
《オマケ》
楠「あれだけ楠莉に注意してくれてたのに、こんなことになってごめんなさいなのだ……」
ラ「もう、恋太郎くんが許したから私ももうとやかくは言わないですけど。楠莉ちゃんの薬は強力なんだから、ちゃんと自分で責任持って管理しないとダメなんですからね?」
楠「ごめんなさいなのだ…!許してくださいなのだ……」
ラ「いや、私は別に怒っている訳じゃ……。じゃあ、
楠「…!!許してくれるのだ!!わーいわーい!!……でも、
ラ「……まぁ、念には念をってやつですよ」
※オリ主が緊○プレイが好きかどうかは、皆さんのご想像にお任せします。
※ちなみに、オリ主が羽香里、唐音と同行していた場合のみ『はからイ』の3人でトリプルキスをするため生還することができますが、3手に別れる過程で1:1:3になる確率はかなり低いので確率はかなり低いです。
※“予期せぬ効果”についてはもう少しだけ引っ張ります。予想できている方もいるかもですが、もう少しだけお待ちください。
羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く
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羽々里さんの『々』
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羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
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羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
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ヤツ(♀)より『ヤ』
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羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
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その他