後の話は恋太郎視点になります。
「隣の席の子だよね?俺は愛城恋太郎。君は?」
「大槻…ライ…」
「ライ…?漢字でどう書くの?」
「漢字は無い、カタカナ。私、帰国子女だから」
3年生のクラス替えで隣の席になったのは有名な子だった。
誰が言ったか『恋愛勇者』。生まれた頃から女の子に告白をし続けてきて上はお婆ちゃん、下は赤子にまで声を掛ける程の節操なしの女好き。そのクセに誰とも未だ付き合えていないという。そんなウワサが流れているというのに肝心の女子評価は決して悪くない、むしろ良いというよく分からない人だった。
そのウワサを聞いて私は特に何も思わなかった。そんな風にウワサされて大変だなとは思ったけれど。仮にいじめられていたとしても私なんかが何かできる訳でもないんだから。
私も周りからウワサされていて周りに気を配る余裕が無かったのもあったけれど。
大槻ライ。
片言の日本語は近所の買い物で普通に店員と話せていたことから、男受けを気にしてのものだということ。
帰国子女とは言うが、見た目が歴とした純日本人だから目立つ為の嘘だろうということ。
そして、『
私と1番親しかった子が広めたそのウワサを撤回する間なんてあるはずなく、気付けば校内で私のことを知らない子はいない程だった。新入生に対しても『中学デビュー』をするにしても私みたいにはするなと反面教師として先輩が態々教える始末。この学校の生徒はヒマなのかと少し不安になる。
だから、隣の席の今話しかけてきた子も私の名前を聞いたら軽蔑してくるだろうと思っていた。けど、返ってきた反応はそれとは全然違うものだった。
「そうなんだ!カタカナの名前って何か格好良いよね!俺も『レンタロウ』ってカタカナにしたら格好良くならないかな?」
「……どっちでもいい」
「そっか!そういえば、アメリカから来たって聞いたけど、やっぱり日本と文化とか違うのかな?」
「……そんなこと聞いて、どうするつもり?」
「いや、どうもしないけど。ただ俺が気になっただけだから。気に障ったらゴメン!!」
予想と打って変わってこの子の語気は決して萎むことはなかった。私の反応が芳しくないことは分かりきっているはずなのに会話を打ち切ることなく続ける始末。何がしたいのか正直分からなかった。
「…何が目的?」
「何って?」
「私のウワサ、聞いてるでしょ。『自称帰国子女の大嘘吐き』。こんな私と話してると愛城くんも色々言われるよ?それなのに私に話しかけるなんて、愛城くんに何かメリットがあると思えないけど。
もしかして、私と付き合いたくなったとか?……止めといた方がいいよ」
気付けば早口で愛城くんに捲し立てていた。言葉のトゲでこれ以上踏み込んでこない用壁を作る。クラス数人の感心が私たち2人に向いたのが分かる。ホント最悪。ダサい。
一体私は愛城くんにどうしてほしいのか分からなかった。無視してほしいのか、罵倒されたいのか。頭の中に浮かんでくるネガティブなワードが浮かんでは消え、そのどれもがピンと来なかった。
ここまで言われれば気分を害しただろうと思い、会話を終わらせようとした。
「…大槻さんってぶりっ娘なの?」
「……ハ?」
だから、ラインを思いっきり踏み込んできた愛城くんの存在自体が信じられなかった。
「どうなの?大槻さん。ぶりっ娘なの?」
「……違う。…それより、それを知ってどうするの…」
「じゃあ日本語で喋れるのに、学校の中では片言で話してたのは?」
「……仲が良い友達に相談したら『そのままで良い』って言われたから…」
「帰国子女なのは本当?」
「……本当。見た目が気になるなら、両親がどっちも日本人だっただけ…」
「そっか!教えてくれてありがとう、大槻さん!!」
なんだか、嘘を吐くのもバカらしくなって正直に答える。
私から聞きたいことは大体聞けたのか満足そうに笑う愛城くん。そんな楽しそうにしている所を見て何故か私はムシャクシャした。
なんで、愛城くんは…
「なんで…私の言うことを信じるの…?」
「え?」
「私のウワサ知ってるでしょ?『嘘吐き』って。私が今言ったことが全部デマカセだって、どうして思わないの?」
気付けば私の両目から涙がこぼれだしていた。
なんで?なんで?
私のウワサは知っているはず。なんなら、私がウワサされている1つ1つを順番に聞いてきたんだからそれは間違いない。だったらなんで、そのウワサをわざわざ『嘘吐き』である私に直接聞いたのか。理解不能だった。
両親はともかく
行動に移した以上は私が周りと違うからというのは分かったけど、どうしてもその原因が分からなかったから今の今まで自分から誰かに話しかけることすら嫌われるのが怖くてできなかった。
それに普段から人と話さないからか、今の会話を振り返ってみても愛想も悪く、内容も薄い返しばかりだ。だというのに会話を続けようとする相手の意図が全く分からない、その不安もあって涙は流れ続けた。
突如泣き出しはじめた私を見て愛城くんは戸惑っている。
困っているのを見るあたり、女の子の扱いには慣れていないらしい。そんなことを考えていると突然左手を掴まれて教室の外へ連れ出された。教室の中から『キャッ♪』と楽しそうに歓声を上げる女の子の声が他人事のように聞こえてきた。
朝のHR前でごった返している人の波を愛城くんがこじ開けていく。手を引かれるまま階段を上がっていくと気付けば屋上に辿り着いていた。昨日雨が降っていたからか所々に水たまりが張っている、誰から見てもあまり良い場所とは言えない所だった。
「ゴメン!!急に手を掴んだりして。泣いている所あんまり人に見られたくないかなって思って…」
「……そう思うのなら、教室で泣かせるようなことをしないでほしかった」
「本当にゴメン!!」
私の八つ当たりに近い文句に対しても愛城くんは姿勢正しくキレイにお辞儀して詫びていた。笑ったり戸惑ったり謝ったり、忙しい人だなと考えていると。
「…ゴメン。大槻さんのウワサについては前から聞いていたんだ。でも、本人と話もしないまま決めつけるのも良くないと思って直接話してみたいなって思っていたんだ。今日大槻さんの隣の席になれて、やっと話ができると思って舞い上がっちゃった。大槻さんの言う通り、人がいない所で話をするべきだったね。ゴメン…」
「……会って早々2人きりで話をしたいだなんて…。愛城くんってエッチ?」
「ご…誤解だ!!俺は決してそんな邪な考えは持ってない!!」
「フフッ…そんな必死に否定すると、本当だって言っているみたいだよ?」
「……やっと、笑ってくれたね」
そう愛城くんに言われてやっと、私は自分が笑っていることに気付いた。
最後に笑ったのはいつだったっけ…。入学してきたばかりの周りにまだ人が集まり始めた頃だったかな。
……そっか…私が笑えていたのって、そんな前になるんだ…。
今更気付いた事実に自分自身驚いていると顔を弛緩した愛城くんが近づいて来て……!!
「……うん。やっぱり、大槻さんは顰めっ面でいるより笑っている方が可愛いよ」
愛城くんの手が私の片頬を撫でてきた!!
「……!!ヘ…ヘンタイ!!!」
「ぶべばらぁッ!!!」
その後、泣いて腫れた目を何とか冷まして教室に戻るとギリギリHR開始前だった。
教室にいる皆は遅れて入ってきた私たち2人が気になる様子だったけど、両目が少し赤くなっている私とキレイな紅葉模様を1つ片頬に浮かべた愛城くんを見て面白そうに囃し立ててきた。主に愛城くんを。
それに愛城くんが返すよりも先に新担任が教室に入ってきてHRを始めて来たから他の生徒達の追求は1度止まった。
けれど、そんなのはただの応急措置にすぎず…。
休み時間になると、愛城くんの周りだけじゃなくて私の周りにも女の子達が集まってきた。とりあえず事実だけを伝えるようにしたけど、私の頬を撫でてきたことだけは何があっても伝えることはしなかった。別に愛城くんの方から広められた場合は仕方が無いと諦めていたけれど、結果的にそれが広まることはなかった。
女の子に殴られる遠因になった事柄を喋ることを避けたのか私のことを気にして話さないでくれたのか判断に困ったけれど特に追求しようとは思わなかった。頬の熱が収まるのを待っていると気付けば休み時間が終わっていた。どうしようもなかった。
それから新しいクラスでの学校生活が始まった。私や愛城くんのウワサが完全に消えることは無かったけれど、クラス内でそういった話題が無くなったからそれ以外は別に気にしなくなった。
クラスの子たちも2年生の頃までのような腫れ物に触れるような扱いこそ無くなったけれど、時折私と愛城くんとでペアやグループを組ませようと露骨な動きが見られること以外特に不満は無かった。
愛城くんは私に殴られた後も態度を変えることなく接してきていた。恋愛勇者らしく、私以外の他クラスの女の子に告白をしては断わられての繰り返し。最初の頃は私には関係無いと気にしなくなってきたけれど、日時が経つにつれて何故かそれが無性に腹が立ってきた。その理由が分からなくって愛城くんの友人に話を聞いてみると、何故かすっごく呆れられたことにはすごく納得いかない。
でも、彼に話を聞けたことで私が愛城くんに抱く感情が恋慕によるものなんだと気付くことができた。卒業を間際に迎えた1月頭のことだった。結論を出し終わった頃には愛城くん以外のクラスのメンバーが疲れ切った表情を浮かべていたけれど、決して私は悪くない。
…はず。
それからは、彼の指示に従って同じ志望校である愛城くんに放課後勉強を教えたり、愛城くん用に弁当を用意したり、バレンタインの日にはチョコを渡したりして、少しでも私のことを意識してもらえるようにと頑張った。心なしか愛城くんの反応も悪くなかったから内心ガッツポーズを決めたりもした。
そして、卒業式当日。
私は愛城くんにダイッキライと言った。
▽▽▽▽▽
花園さんと院田さんに別れを告げて。1人用の食事をスーパーで買い込み、ムダに広い家の掃除をした後夕食を済ませベッドに横になった。
あの日の告白の返事を愛城くんに謝れて、愛城くんの運命の人2人と会話できて、昨日まで悩みに悩んでいた事柄を無事消化できて、心にかかっていた霧はキレイに取り除かれた。
……はずなのに…。
モヤッとした感情が私の身体に生まれては消えることなくずっと滞留し続けていた。
……このまま横になっていても埒が明かないな。
そう思い、パジャマから着替えると行き先も決めずに真っ暗闇な外へと踏み出した。
女性の1人歩きは物騒だとダッドとマムから聞いていたからこれまで1度もすることは無かったけれど、朝方や昼間とは違って人の気が一切しない、見知ったはずの近所の風景がまるで別世界みたいに感じられてそれまであったモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。
「人の人生に何てことしてくれてんだよおおお!!!ちくしょおおどっちかとしか出会ってなければこんな悩まず幸せになれたのにいいい!!」
「それから…その…誠に言いづらいんじゃけども…」
「まだなんかあんのか!!」
気付けば卒業式のあの日、愛城くんの告白にダイッキライと伝えた後に行ったっきり、一度も訪れていなかった縁結びの神社に着いていた。そのまま境内を進むと、一番奥に見知った顔2つがいることに気付いて、悪戯心に従い後ろから驚かせようとそろりそろり…と近づいていると。
「愛城くん、お爺ちゃん神様…」
「実はの…運命の人と出会った人間は…その運命の人と愛し合って幸せになる事が出来なければ…近いうちなんやかんや不幸な目にあった後」
死ぬのじゃ
……え?
「…前にも言ったが運命の人がいる人間はそれだけで非常に幸運なんじゃ。しかし…その分そこに一生分の“運気”を費やしてしまうのでな。その幸運を逃してしまえば必然的に不幸な運命しか残されなくなると言う事なんじゃ」
お爺ちゃん神様の言ったことが理解できない。『運命の人』っていうのは良いことで、決してそれ自体が障害になることはないと思い込んでいた。
理解したくない。けれど、どこか冷静な頭は神様の言うことが理解できてしまっていた。
「じゃあ…つまり…俺があの二人のどちらかと付き合えば…」
愛城くんの声が震えているのが分かる。なんなら、身体の方も微かに震えているのが分かる。
「ああ…もう一人は死ぬ」
「そんなもん選びようがあるかあああああああ!!!」
キィィィィン
愛城くんの大声が寝不足の頭に響き渡る。途端立ちくらみが発生して思わず膝を着いてその場に前のめりに倒れ込んでしまった。頭を強く打ち付けて意識が落ちかける。最後に愛城くんが私の名前を呼んだような気がしたけれど、きっと気のせいだろう。
※恋太郎以外のクラスメイトはほぼ全員オリ主の噂を聞いていましたが、その噂を広めた女生徒達の悪評の方が有名だった為、調子を戻していったオリ主を見て全員嬉しそうにしていました。
羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く
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羽々里さんの『々』
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羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
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羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
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ヤツ(♀)より『ヤ』
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羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
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その他