0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

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UA10,000突破ありがとうございます!!!この調子でどんどん頑張ります!!

また1週間かかりました。仕事が忙しかったのと最後までこの展開で大丈夫なのかと踏ん切りがつかなかったせいですね。

ようやく次話から原作に戻れます。原作になぞるかダイジェストになるかは今のところ不明。

8/3 23:50 誤字修正


15話-3 餞別

【恋太郎side】

 

「ここが私の部屋。布団を敷いたままでごめんね。ちょっとお昼寝しようとしていたから」

 

「お…お邪魔します……」

 

「ちょっとそこで待ってて。今用意するから」

 

 居間を出た俺はライちゃんに肩を貸しながら案内に従う。辿り着いた部屋の襖を開けるとそこも居間と同じように和室で畳が敷かれていた。

 ライちゃんはミニマリストなのか、物はあまり置いていないみたいだ。奥におかれている勉強机の両端の本棚に参考書や小説、漫画や映画のブルーレイディスクが整理されている以外物らしい物は見当たらなかった。

 

 これがライちゃんの部屋……!!

 

 ()()()()()()()()()()に入るのはこれが初めてだから正直緊張する。部屋の中央に敷かれている布団に視線が行きそうになるのを止めるのに必死な俺とは反対に、ライちゃんは一切慌てることなく落ち着いたままだった。

 

 ………俺だけ緊張しているのに不満が無いと言えば嘘になるけれど、今はそれを考えている場合じゃないだろうと頭を切り換える。

 

 だって、

 

 俺たちがライちゃんの部屋に来た理由は、羽香里の屋敷に忍び込む準備の為なんだから。

 

『実はこの間のお泊まり会*1の時に、羽香里ちゃんからある程度は既に聞いていたの』

 

『……そうだったんだ』

 

『その時に羽香里ちゃんと約束したの。【もし羽香里ちゃんのご家族が羽香里ちゃんを恋太郎くんや私たちから引き離そうとした時には、私が全力で止めてみせるから】って』

 

『……それって!!』

 

『だから、この時の為にある程度準備していたんだ。付いてきて』

 

 物は自分の部屋にあるからと言って立ち上がろうとしたライちゃんだったけど、立ちくらみを起こしたのか倒れそうになった為慌てて支えた。お昼のデートやさっきまでの会話ではそんな具合が悪いようには見えなかったから驚いた。

 

 ライちゃんは俺に謝るも未だ調子は良くなさそうだった。だから居間からライちゃんの部屋に移動するまで肩を貸していた訳だ。

 

 そして、冒頭に至る。

 

「……うん、ちゃんとあるね。恋太郎くん、はい」

 

「あ、ありがとう……!こっこれは…!!?」

 

 そう言ってライちゃんから渡されたのはB4サイズの用紙だった。何やらキッチンやらダイニングやらが書き込まれていたので、ようやく俺はこれがどこかの家の間取り図だと分かった。

 

 渡された理由も分からないままとりあえずペラペラとめくってみると、そこにはつい先程見覚えのある写真が目に止まった。

 

 この建物の外観は…!!

 

「うん。これは全部羽香里ちゃんの屋敷の間取り図だよ。忍び込む為には必要かなって思って前もって準備してた」

 

 !!?

 

「でも、一体どうやって……」

 

「お爺ちゃんの会社は土地貸しが主なんだけど、不動産事業にも手を入れているの。羽香里ちゃんのお家もうちの子会社が担当しているって分かったから、準備するのはそう手間じゃなかったかな」

 

「そうだったんだ……」

 

「羽香里ちゃんのお部屋がどこかまでは分からなかったけれど……」

 

「いや、夕方にいた窓際が羽香里の部屋だとしたら……ここが羽香里の部屋だ!」

 

 キュッ!

 

 朝から携帯していたマーカーで羽香里の部屋らしき箇所へとマークを付ける。目的地がとそこに至るまでの経路がはっきりしたおかげで1歩進展したような気がした。

 

「ありがとうライちゃん!!おかげで羽香里を無事に迎えられそうだよ!」

 

「……渡したいのはこれだけじゃないよ。はい、これも」

 

 そんな軽い調子でライちゃんまたしても俺に何かを渡してきた。

 

 間取り図の次にもらったのは()()()何処かのカギだった。聞いてみれば、この中の1つは羽香里の屋敷の()()()()のカギらしい。どうやって用意したのか聞こうとした時、ふと先日のことを思い出した。

 

『……おかしいですねぇ。何処かに落としたんでしょうか…?』

 

『羽香里?どうかしたのか?』

 

『あ!恋太郎君!!…実はお家のカギが何処にも見当たらなくて…』

 

『そんなの一大事じゃないか!!俺も探すの手伝…『羽香里ちゃん、捜し物はこれ?』』

 

『……!!ありがとうございますライさん!!ちなみに何処にありましたか!!?』

 

『トイレ前の廊下に落ちてたよ。ハンカチを取り出す時にでも落としたんじゃない?』

 

『あそこでしたか……本当にありがとうございます!!無くしたりしたらお母様からなんて言われるか……』

 

『(お母様?)……何はともあれ、無事見つかって良かったね、羽香里』

 

『はい!』

 

『…………』

 

 

 

 

 

 …………

 

 思い出したのは休み時間の他愛も無い会話だった。けれど、羽香里の家のカギとそれを拾ったのがライちゃんだったことと、今ライちゃんが俺に渡してきた()()()()()()()()

 

 ライちゃんを疑いたくなかったけれど、信じるには証拠が揃いすぎていた。

 

「……ライちゃん?まさか、あの時羽香里から()()()のか!!?」

 

「人聞きの悪いこと言わないでよ。私はただ、トイレ前で拾って羽香里ちゃんに渡すまでの間に()()()()()()()()()()()だけ」

 

「何でカギの型取り用の道具(そんなもの)持ち歩いていたんだ」

 

「恋太郎くんに言われたくないかな。それに、こうして役に立ったでしょ?」

 

「……ありがとうライちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 ライちゃんが羽香里本人の許可を取らないまま合い鍵を作っていたことに苦言を入れたかったけど、おかげで助かっているのも事実。渋々礼を言う俺に対してライちゃんはニコニコと笑っていた。

 

 

 

 さて、俺はライちゃんから屋敷の間取り図、屋敷の合い鍵と2つの道具を受け取った訳だけど。

 

 ライちゃんが最後に渡してきたものは受け取りを頑として拒否した。

 

「駄目だ!!流石にそれだけは受け取れない!!」

 

「なんで?羽香里ちゃんと逃亡生活するなら幾らあっても困らないでしょ?」

 

「だからって!()()()()()受け取れないよ!!」

 

「でもなぁ…未成年の男女2人が駆け落ちするんだから100万円は必要じゃない?感謝こそすれ、なんでそんな慌てているの?」

 

「なんでライちゃんはそんな落ち着いているの!!?」

 

 そう。ライちゃんが最後に俺に渡してきたのはお金、しかも現ナマだった。

 

 それも、かなり分厚い。1cmぐらい?俺も銀行からお金を降ろすことはしたことがあるけれど、札を束ねる紙付きの札束なんてリアルで初めて見たよ。

 

「本当はもっと渡したいんだよ?けれど、流石に法律*2違反する訳にもいかないから」

 

「………」

 

 勝手に合い鍵を作るのも法律違反では…とも思ったけど、横に置く。

 

 ライちゃんの言う通りだ。羽香里をあの屋敷から連れ出すのはあくまでスタートでしかない。そこから先、花園家の追っ手から逃れながらも俺たちは衣食住を確保しなくてはならない。そのためにはお金が必要不可欠だというのは俺でも分かった。

 

 でも……、

 

「……ライちゃんの気持ちは嬉しいよ。でも駄目なんだ。これだけは譲れない」

 

「……言い辛いけど、恋太郎くんのお家は私や羽香里ちゃんみたいにお金持ちじゃないでしょ?だったら……」

 

「大丈夫。物心ついたあたりから手伝(てつだ)いのお駄賃(だちん)(つき)のおこづかいやお年玉なんかを()(はじ)めたから、これでもお金なら結構あるんだよ?」

 

「でも……」

 

「ごめん。これは俺のエゴだから」

 

 それでも、大切な彼女であるライちゃんからこのお金をもらうことはどうしてもできなかった。

 

 ライちゃんのこの邸宅(ていたく)の荘厳さからして分かる。ライちゃんは羽香里に負けず劣らずのお嬢様だっていうことが。だからきっと、このお金(100万円)もライちゃんからしたら、大した事ない金額なんだろう。

 

 でも、このお金まで受け取ってしまったら俺は自分を許せなくなる。

 

 ライちゃんは毎日本当にたくさんたくさん俺や羽香里達へのサポートをしてくれて…俺の目の届かない所にも手を回してくれる。それにどれだけ(すく)われてる事か…

 

「ライちゃんからは()()()()()()でいつもたくさん助けて貰ってるから…」

 

「……わかった。まぁ、間取り図と合い鍵で充分羽香里ちゃんとの約束は果たせただろうからいいかな」

 

 俺の説明に納得してくれたのか、ライちゃんはようやくお金を手元に戻してくれた。ライちゃんの表情はどこか難しい問題が解決したという晴れやかさが感じられた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「ライちゃん。さっきも言ったけど、俺はこれから屋敷に忍び込んで羽香里(はかり)を迎えに行く」

 

「うん」

 

 ライちゃんからもらった物をまとめ終わった俺は改めてライちゃんと向かい合って告げる。

 マジメな話だと察したライちゃんが背筋を伸ばして俺の方へ見てくるので、視線の先の俺の背筋も伸びる。

 

「――だから…今夜俺と羽香里はこの町を出る事になる。どこへ…いつまで逃げるのか…今はまだ何も分からないけど…」

 

「でもいつか必ず俺達はここへ――ライちゃんの所へ帰ってくるからっ!!だから――…()()()()()()()()()()()…っ!!」

 

 ……酷いことを言っていることは承知の上だ。

 

 羽香里を助ける時間制限が明日までだからとはいえ、問題が解決するまでライちゃん達のことは放っておくと言っているんだ。軽蔑、罵倒されても文句は言えない。

 

 正座のまま頭を下げた俺はライちゃんが今どんな表情をしているのかが分からない。けど、ライちゃんから反応が返ってくるまで頭を下げ続けていると、

 

 

 

 

 

 スヤァ……

 

 

 

 

 ???

 

 今、寝息が聞こえた気がしたんだけど…?気のせいだよね…?まさか、こんなマジメな話をしている時にライちゃんが居眠りだなんて……。

 

 恐る恐る顔を上げる。すると俺の視界には、首をかっくんかっくんと上げ下げしながら居眠りをするライちゃんの姿が映った。

 

「…っライちゃん!!?」

 

「……あぁ……ごめんねぇ、恋太郎くぅん……。実は丁度恋太郎くんが来る()()に楠莉ちゃんの『睡眠薬』を飲んでて……さっきまでは()()()()で効果を誤魔化してきたんだけど、もう耐えきれなくて……」

 

 慌ててライちゃんの元にまで駆け寄っておでこに手を当てる。この部屋に来る際にも身体を支えたけれど、その時よりも体温が大分高くなっているのが分かった。

 

「ごめんねぇ……マジメな話の途中だったのにぃ……」

 

「……いや、むしろ今まで俺の話に付き合ってくれてありがとう。ライちゃんがいなかったら、俺は羽香里を迎えに行くって決断できなかっただろうから」

 

「…そっかぁ……」

 

 ふにゃふにゃとライちゃんが笑ったのを見て俺の頬も緩むのを感じた。こんなに気が緩んだライちゃんを見るのは初めてだ。中学校の時も今もライちゃんは気を張っている事が多かったから、今のライちゃんは新鮮で珍しかった。

 

「…言うの、忘れてたぁ…渡したカギの1つはこの家の玄関のカギだから……出て行く時に使ってぇ……締めたら郵便受けに入れておいてぇ……」

 

「……うん分かったよライちゃん」

 

 部外者である俺に戸締まりをお願いするだなんて不用心すぎないかとも思ったけれど、今のライちゃんに言っても効果は薄いと思ったので黙る。

 

 ライちゃんは未だ夢うつつなのか首が上下左右に揺れている。流石にこれ以上居眠りをさせるのも悪いと思った俺は敷かれたままの布団の上にライちゃんを寝かせた。身体に毛布をかけて出て行く為に立ち上がろうとした所で俺の腕が何かに引っ張られた。

 

 ライちゃんだった。

 

「ライちゃん?どうかした?」

 

「…さっきの質問……まだ答えてなかったから……。それに…ずっと恋太郎くんにお願いしたいことも…あるから……」

 

 身体をライちゃんへと向けて話を聞く体勢になる。ライちゃんは依然眠そうなままだったけど、それでも俺に何かを伝えようとしてくれていた。

 

 少し間を置いた後ライちゃんが俺にこう言った。

 

「……私のことは気にしないでいいから。解決するまで、恋太郎くんは羽香里ちゃんのことだけに集中して……」

 

「……うん。本当にありがとう、ライちゃん」

 

 ライちゃんは優しすぎる。

 

 こんな無責任で都合が良いことを言う俺を許してくれるんだから。本当、俺には勿体ないぐらいの彼女だ。

 

 そんな風に考えているとライちゃんがもう一度口を開いた。

 

「…それと……お願いしたいことが…いい?」

 

「うん。何でも言って!!」

 

 デジャブ。

 

 頭の片隅にその言葉が浮かんだ。

 

 全てが全て同じではない。けれど、ここまでの流れは全然違って共通点も少ししかないというのに、唐突に出現した違和感が俺を襲った。

 

 その違和感に対して俺が動くよりも先にライちゃんの口が開く方が先だった。

 

 

 

 

 

「…恋太郎くん……私と……」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「皆…ごめん。こんな時間に呼び出して」

 

「羽香里とライはどうしたのよ?ここには来てないみたいだけど」

 

「……ライちゃんには電話してみたけど通じなかったんだ」

 

「あっ!楠莉がデートの帰りに寝不足のライに『睡眠薬』を渡したから、多分それのせいなのだ!!多分明日の朝までぐっすりなのだ!!」

 

『そうだったのかい』

 

「…花園羽香里は?」

 

「…これから話すよ」

 

夜。屋敷侵入の為の準備を済ませた俺は、唐音たちを公園に呼び出して事情を説明した。

 

 そして、羽香里を連れ出した後は2人でこの町を出ること。いつまでかかるか分からないけれど、それまで待って貰えないかと皆に頭を下げた。

 

 けれど、そんな俺のお願いに唐音を筆頭に皆は頷くことはなかった。

 

「いつまた会えるかも…本当に会えるかも分からな奴を、()()()()()()()()()()()()()()()()()――できるわけないでしょ」

 

 …当然だと思った。

 

 もしかしたら、ライちゃんはそんな都合が良いことを言う俺に愛想を尽かしたから……

 

 それなら皆も、こんな俺のことなんか……

 

「――――………え……?」

 

「――だからっ…!私も一緒にあのバカを迎えに行ってやるって言ってんのっ!!

 

楠莉(くすり)羽香里(はかり)とカケオチするのだーっ!!」

 

「0.01%でも成功率を上げるため協力者は多いに越した事はない」

 

『いざ()かん愛の逃避行へ』

 

 皆が言った事が最初信じられなかった。

 

 俺の説明が足りなかったのかと思い、慌てて皆を止めようとしたけれど皆の覚悟を決めた顔を見てやっと分かった。

 

 皆も()()()()()、羽香里のことが大好きだから。無謀とも言える作戦に乗ってくれたんだと。

 

 俺だけじゃないんだ。羽香里(はかり)のことが大好きなのは。

 

「…分かった…それじゃあ―――行こう皆で――羽香里を迎えに!!

 

 

 

 

 

 ズキン

 

 ……考えるな。

 

 一度でも考えたら、長い時間を掛けて羽香里救出に切り替えたのが全部パアになる。

 

 説明を始める前、唐音の質問に嘘を吐いてしまった。罪悪感に苛まれながらも俺は皆を羽香里の屋敷まで案内する。

 

 だって、ここで本当のことを言っても皆をただ困惑させるだけだから。

 

 それに、ここに居ないライちゃんのことを少しでも考えると、羽香里を迎えに行く途中で俺の中に()()が発生してしまうって分かっていたから。

 

 だから、ライちゃんの()()()()()を今だけでも忘れようと必死になる。けれど、そんな俺を嘲笑うかのように、その言葉は何度も何度も俺の頭の中で繰り返し流れ続けた。

 

 

 

…恋太郎くん……私と……

 

 

 

 

 

お別れしてくれる?

 

*1
裏3話-3参照

*2
贈与税 1年間で110万円以上を渡すと税金が発生する

羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く

  • 羽々里さんの『々』
  • 羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
  • 羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
  • ヤツ(♀)より『ヤ』
  • 羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
  • その他
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