0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

32 / 60
前話と同様、ほぼ原作通り。

羽香里奪還編にあたって、ここの話は外せないと思っています。

どうかお付き合いください。

そろそろお盆休みですね。その期間中に最低でも1話、多くて2話上げたい所です。

【追記】8/15 8:25 誤字修正


17話 暗闇と盲目

【恋太郎side】

 

「平行に均一に床から天井までビッシリだ……」

 

「金持ちの(いえ)の赤外線センサー」

 

なんて合理的

 

 楠莉先輩の薬*1で唯一赤外線が見えるようになった俺が皆に伝える。

 

 くそ……相手はこれだけ広大な屋敷を所有する大金持ちだぞ。所有ライちゃんから貰った間取り図はあくまで『設計段階』の物。屋敷購入後どんな防犯設備を費やした(アップデートした)かなんて考えればすぐ分かるだろうが…!

 

 自身の準備の足りなさを苦々しく思っていると。

 

「…あれ……?…この廊下の天井…――もっと高くなかったか…?」

 

 気のせいか…?『赤外線が見える目薬』で赤外線以外見えなくなってからなにか違和感が…

 

“世界樹の(ごと)き高さ”『かとお見受けする』

 

シャンデリアまであってちょーリッチなのだ!

 

 ……そうか、分かったぞ!!

 

「そうか!天井が低く感じたのは、シャンデリアがある高さにセンサーが張れないから…!ってことは、そこを通れば…!」

 

 もしかしたらそこからこの赤外線を抜けられるかも…!と元気になる俺だったが、唐音が冷静に俺の考えの欠陥部分を指摘した。

 

「通ればって…そんなのどうやって…」

 

「あ…たしかに狭い場所ならともかく、この廊下の幅じゃ…」

 

 …そうだった。今は見えないけれど、この廊下はそもそも縦だけじゃなく横もそれなりに広いんだ。

 

 普通の廊下なら壁に手足を突っ張らせて登れるんだろうけど、この廊下の幅じゃそれもできない……。

 

 どうすれば……

 

「それなら…強い筋力を持った二人の人間が協力すれば理論上は可能」

 

「え…!?」

 

「でも残念ながらここにいるのは愛城(あいじょう)恋太郎(れんたろう)以外全員女性――」

 

 凪乃が俺の考えに補足を入れてくれた。現実的に考えて、壁に手足を突っ張って登れるぐらいの筋力が俺にあったとしても、()()()()がいない以上凪乃の考えも――

 

「あ」

 

 あ

 

「あ?」

 

「はぁーーーーー☆」キラキラ…

 

「『………………!!』キラキラ…

 

「なに?なんなのよ…」

 

 

 

 

 

院田(いんだ)唐音(からね)、あなたならできる

 

「私も女だってのよおおおおおおお!!!!」

 

 俺と唐音は凪乃にロープでギチギチに縛られた。お互いの足を壁に突っ張って、お互いの頭が腹の位置に来るぐらいで両手を相手の背に回す形で。

 

「なるほど…!これならお互いの足で壁に突っ張れる…!」

 

「さらにちゃんと突っ張れるようロープで固く結ぶ」

 

「こんなのうまくいくわけないじゃない!!」

 

 ……唐音の言う通りかもしれない。ぶっつけ本番でこんな大道芸みたいなこと……

 

「…確かに。二人の相性や息が完全に合わない限り成功確率は――」

 

「なら大丈夫だな俺と唐音なんだから

 

 そんな後ろ向きの考えは、いつの間にか消え去っていた。

 

 それは唐音も同じだったみたいだ。

 

「ああ、もうやってやるわよッッ!!!!」

 

 どこからかキュン!!♡♡♡って効果音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「さぁいくぞ!せーのッ!」

 

恋「いち…!に…!」 唐「いち…に…!」

 

「慎重になのだ…!」

 

『用心するがよい』

 

 楠莉先輩と静ちゃんの応援を背中で感じながら、俺と唐音は息を合わせてズリ…ズリ…と登っていく。懸念していた俺と唐音の息が合うかどうかについては今のところ問題なかった。

 

 そして、

 

「…越えた。次は横移動だ」

 

「分かった!」

 

 センサーの高さを超えたと()()した俺は唐音にそう伝える。さっきまでとは歩く向きが変わったから勝手が変わった。気を引き締めないと…!

 

「「いち…!に…!」」

 

 ジャラ…

 

「「いち…!に…!いち…!に…!」」

 

 ズリ…ズリ…

 

 っっっ!!

 

ひょっ!!?

 

「っ!唐音!大丈夫か!?」

 

「な、なんでもないわよ!!」

 

「あぁ、そうか。っというか……」

 

 この頬に感じる感触は……まさか……!!

 

 ……………

 

な…なんだか唐音(からね)ちゃんのお洋服がスベスベし始めたんですがこれは………

 

「そそそ、そう言う材質の服なのよッッ!!!!」

 

 ………間違いない。このスベスベの感触は…唐音のお腹だ!!

 

 きっとここまで移動している過程でズルズルと唐音のお洋服がめくれていったんだろう。

 

 俺ですらこうして気付いたんだ。唐音が分からないはずがない。でもこうしてウソを吐いたということは、きっと()()()()()()()()()今の俺ならなんとか騙せるかもしれないと思ったのかもしれない。

 

 ……ごめんな、唐音。本当に……。

 

 本当はここで白状するべきなんだろう。けれど今は…

 

「な…なんだ服か。目が見えないから勘違いした…。――それなら気を引き締めてっ」

 

 ギュウ

 

 ビクビクッ!!

 

 唐音をさっき以上に強く抱き寄せる。それによって俺の頬が唐音のお腹に強く押し付けることになった。

 

 きっとくすぐったいのだろう、唐音の身体が震えたのが分かる。

 

 騙す形になって申し訳ないけれど、唐音にこの事実を伝えたら動揺して、落下する危険がある。

 

 そうしたら……

 

 俺はともかく、唐音(からね)に怪我をさせてしまうかもしれない。

 

 もちろんセンサーが反応して俺たち全員が捕まる危険を考慮してのことでもある。が、やっぱり俺は、大切な彼女がケガする所なんて絶対見たくないしさせたくないから。

 

 目が見えないことで過敏になった触感に俺自身少し身体を震わせながら、暴走しそうになるのを必死で抑えて、1歩1歩進んでいく。

 

「いち…!に…!」 「いち…!に…!」

 

 

 

 

 

 はぁ…はぁ…はぁ…

 

「やったのだ~!!」

 

『おぉ!』

 

見事突破したのだーっ!!

 

“称賛に(あたい)する”

 

 な…なんとか…センサーを突破できた……。

 

 まさかセンサーの他に唐音のお腹(伏兵)がいるとは思わなかったけれど…。

 

ゼェ…ッ!!ハァ…ッ!!

 

 近くにいる唐音も俺と同じく息を切らしている。そりゃそうだ。唐音は女の子なんだ。筋力は俺相当にあったとしても体力はそうはいかない。

 想定外のハプニング(お腹スリスリ)もあって、本当にギリギリだったんだろう。

 

 それでも最後まで泣き言を1つも言わなかったのは、唐音自身の性格もあるだろうけど…

 

 唐音も、皆と同じく羽香里を助けたいと心から思っているからだろうな……

 

 俺は唐音がある程度息を整えただろうタイミングで遠く離れた3人に指示を飛ばす。

 

「それじゃあ俺と唐音(からね)は先に進む…。三人は屋外に隠れて逃亡の準備を頼む」

 

「「…………」」

 

『………御意』

 

 静ちゃんの返答に少し間があった。凪乃と楠莉先輩に至っては反応すらない。

 もしかしたら、俺と唐音をおいて一足先に危険地帯(この屋敷)から離脱するのに引け目を感じているのかもしれない。

 

「大丈夫。羽香里を連れて、必ず戻る!」

 

 センサーを越える為に必要だったとはいえ、今は静ちゃんたちが今どんな表情をしているのかが見えない()()()()()を苦々しく思う。

 

 けれど、そんな思いを表に出すわけにもいかない。だから俺は3人に安心するようにそう声を掛けた。

 

 最後まで3人がどんな表情をしているのかは分からなかった。けれど、皆ならきっと俺たちを信じて待っていてくれるだろうと、そう信じることにした。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「このマークの所に行けばいいのよね?」

 

「あぁ。ごめん唐音、頼んだ」

 

「一々謝らなくていいわよ」

 

 3人と別れた後、俺は唐音に手を引かれながら長い廊下を歩いていた。

 

 楠莉先輩の薬の副作用で赤外線センサー以外まったく見えない俺はこうして唐音に手を引かれていないと満足に歩くことさえできない。

 

 防犯設備もあの防犯センサーだけだったのか、いくら進んでも他の物は見当たらなかった。本来ならそれは侵入者である俺たちにとって喜ばしいことのはずなのに、なぜか心の底から喜べない自分がいた。

 

「そこ、少し段差あるから気をつけなさい」

 

「ありがとう、唐音」

 

「右に曲がるわよ」

 

「わかった」

 

「…階段ね。ほら、手すり。私は反対側に回るから、ちょっと手離すわよ」

 

「……わかった」

 

 目が見えない今の俺は唐音だけが頼りだ。だからか、さっき唐音に手を離された時はすごく心細く感じた。

 手が離れた時間はたった数秒程度だったのに。この暗闇に一人取り残されたかのような焦燥感に駆られる。

 

 ……怖いな……。もし唐音がいなかったら俺は……。

 

 

 

 

 

『大槻さん!?そのアイマスクどうしたの!!?』

 

 

 

 

 

 ……俺と一緒の時はずっと、ライちゃんはこの暗闇の中にいるのか……。

 

 

 

 

 

 卒業式の“あの日”から、ライちゃんは俺の顔を見ると『ダイッキライ!!』と言ってしまうぐらい、俺に対する好意が嫌悪感に180°裏返るらしい。

 

 そして、入学式に再会して。お互いの気持ちを確かめ合って付き合い始めた翌日。『顔を見るのが駄目なら、そもそも見なければ良い!』と、アイマスクを付けることでライちゃんは俺より先に問題に対応した。

 

 当然そんな状態で日常生活を送れるのかとライちゃんに尋ねたが、『マムに目を瞑った状態でも歩けるようにって教えられたから大丈夫!音や気配で周りは把握できるから』と自信満々に応えられたからそれ以上尋ねることはしなかった。

 

 それからは、最早アイマスクを付けているライちゃんを見るのがデフォルトになってきたのもあって。すっかり忘れていたけれど。

 

 

 

 

 

 大丈夫な訳、あるか。

 

 たとえ、ライちゃんが目隠し状態でも見えるとしても。

 

 たとえ、ライちゃんが大丈夫って笑っていたとしても、

 

 彼氏である俺が、今の俺に対する唐音のように手助けを入れなきゃいけないはずなのに……

 

 

 

 俺は、ライちゃんに甘えるばかりで何もしてこなかった。

 

 

 

「ここね、羽香里の部屋…!……?恋太郎、どうかした?」

 

「……っ!!何でもないよ」

 

 考え事にふけっている間に、いつの間にか羽香里の部屋(目的地)に辿り着いていた。

 

 唐音の心配そうな声が聞こえる。慌てて大丈夫だと応えたけれど、俺の声は震えていなかっただろうかと不安になる。

 

 しっかりしろ、()()羽香里を助けに来ているんだ。

 

 ライちゃんのことは、羽香里を無事連れ出した後に、いくらでも考え悩めばいいだろ…!

 

 ……この時の俺は大分焦っていたなと後になって痛感する。

 

 無事に羽香里を連れ出せたらもうこの町にはいられないんだから、ライちゃんのことなんて悩んでいる暇なんてないんだって分かりきっていたのに。

 

「そう?じゃ…開けるわよ…!」

 

 唐音がそう言うとガチャ…という音の後大きなドアが開く気配を感じた。特にカギはかかっていないことにホッとする。

 

 唐音が俺の前にいることに少し申し訳なさを感じるけれど、目が見えない今の俺が前に出た所で足を引っ張るのは確実。だから、中の様子を確認する為にもここは唐音に任せることにした。

 

 すると…、

 

羽香里(はかり)―――」

 

 唐音のハッとした声が聞こえた――その時だった。

 

 

 

ジリリリリリリリリリリ

 

 

 

羽香里(はかり)お嬢様が逃亡しました!!!羽香里お嬢様が逃亡しました!!!』

 

 

 

 

「はっ!?はっ!?」

 

 ―――!!!

 

 何が起こったのか、最初はまったく分からなかった。

 

 ようやく事の次第を理解出来た時、頭に浮かんだのは怒りだった。

 

 羽香里が夜中に逃げ出さないようドアに警報を入れていたんだ…!!

 

 たしかに、こうすれば羽香里が逃げ出したり、外部からの脱出手引き(俺たち)も防げる。だからって……

 

 ――自分の子供に…そこまで…ッ!!

 

恋太郎(れんたろう)君…!?唐音(からね)さん…!?どうして…ッ」

 

 ッ!!

 

 羽香里の声が中から聞こえた。そうだ、今やるべきことはそれ(怒り)じゃないだろう!!?

 

「迎えに来たんだ!!一緒に逃げよう羽香里ッ!!」

 

 羽香里の声がした方に手を伸ばす。

 

 急がなければ。この警報が鳴り出した時点で俺たちの存在は向こうも把握している。ここに人が集まる前に……

 

「―――無理よ恋太郎……ッ」

 

 

 

「――もう囲まれてる」

 

 

 

 ………遅かったか……。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

『――あなた達は……!!…なぜ…ここに……!?』

 

『…お母様…!!』

 

羽香里(はかり)お嬢様を【迎えに来た】と…』

 

『……!!……………――二人を…私の部屋へ』

 

 暗闇の中、俺は唐音と共にどこかへ案内される。聞こえてきた話の内容からすると、羽香里のお母様の部屋らしい。

 

 俺達は抵抗する間もなく、そこへと連れて行かれた。到着したのか、俺は唐音に小声で言われた通りに、その場で膝を折り両手を前についた。

 

 

 

「直接会うのは初めてね愛城(あいじょう)恋太郎(れんたろう)君…それに院田(いんだ)唐音(からね)さん」

 

 ……俺は今目が見えないから“会った”実感は未だ無いけれど。

 …唐音の個人情報も既に調査把握(インプット)済みか。であれば、きっと他の皆も。

 

「――羽香里(はかり)の母の花園(はなぞの)羽々里(ははり)です」

 

「羽香里の“友人”だから自由にしてあげているけれど、変な動きをすればすぐにでも取り押さえますから、そのつもりで」

 

 そこで区切ると、羽々里さんは俺に対して話し始めた。

 

「――ところでその目はなんなの?なにか発動しているのかしら

 

「いえ邪眼的なものではなく」

 

 …周りから見てどんな風に見えているんだろうか今の俺の目は。ちょっと興味湧いたぞ。後で唐音に聞いてみるか。

 

 が、そんなことは置いておいて。今の状況を確認する。

 

 羽香里奪還は失敗した。こうなったらもう、俺に出来ることは…。

 

 俺は姿勢を伸ばして声がした羽々里さんの方へと身体を向けて嘆願する。

 

羽香里(はかり)さんとの恋を認めてはもらえないでしょうか…!!俺は絶対に羽香里さんを幸せにします!!!」

 

 俺に出来ることは……真正面からこの想いを伝える事だけ!!!

 

 

 

 

 

「そんな綺麗事で私の心を動かせると思って?」

 

 が、俺の想いは羽々里さんに届かなかった。

 

「綺麗事なんかじゃ…」

 

「私は十三歳――中学二年生で羽香里を産みました」

 

 諦めずにもう一度伝えようとしたが、俺のしゃべりを遮るかのように羽々里さんが話し始めたので慌てて聞く姿勢に移る。

 

 ………!?

 

 内容が突然飛んだこととその内容が“普通”じゃないことにダブルで驚いた。

 

「どうしてだと思う?」

 

 …………

 

 なぜ質問されている?ライちゃんのお爺さんみたいに、俺を試しているのか?

 

 少し間を置いてどう答えるか迷ったけれど、最初に頭に浮かんだものを答えることにした。

 

「三度の飯より赤ちゃんが…」

 

「違うわ」

 

 食い気味に否定されてしまった。結構自信あったんだけど……。

 

 そんな俺を余所に羽々里さんが説明を続ける。

 が、その説明は俺の想像を遥かに超えるものだった。

 

「愛した人が(やまい)に侵され、死の運命を背負っていたからよ」

 

「……!」

 

「それでも私はあの人を愛して、愛して、愛し抜いて。どうしてもあの人の“生きた証”を残したくて。最高峰の医療体制を整え、十三歳と言う年齢で人工授精(およ)び出産と言う危険な賭けに及んだ。…今思えばなんて無謀な事だっただろうと思うわ」

 

 ……中学生の時といったら、今の俺よりも小さく子供の時だ。きっと羽々里さんは家族や友人達から止められたことだろう。それでも、羽々里さんは自分の意志を曲げることなく出産も無事成功させた……。

 

「――――“血”なのね。私も羽香里(はかり)も一度恋に落ちると、どうしようもなく盲目になってしまう。全く周りが見えずに、“それだけが自分の幸せな人生”だと信じ込んでしまう

 

『いいんですよ恋太郎(れんたろう)君なら…もっとすごいことでも…♡』*2

 

別の女の子を好きになったからって私達をフらないでくださるなんて…どこまで優しい方なんですか…!!♥』*3

 

私をフらずにいてくださるのであれば、それ以上の幸せはありませんから…!*4

 

 …羽々里さんが言った羽香里の俺に対しての盲目は、実際の所何回か俺にも覚えがあった。

 

「だけどあの人は亡くなって。私は“()()”になり、そして“母”になり、羽香里(はかり)を育てる事だけに人生の全てを費やしてきた。

 もちろん羽香里の事は心から愛していたし、計り知れない程私を救ってくれた。だけど羽香里は()()()()()()()ではないし、――決して()()()が埋められる事はなかった」

 

 …………

 

「あれから、『本当にこれが()()()信じていた“私の幸せな人生”なの?』って、自分に問わなかった日は一日として無いわ。

 こんな身を引き裂かれるような後悔――羽香里(はかり)には絶対にさせたくないの

 

 …………

 

「だけど羽香里は一人では気付けない。…私もそうだったもの。だから私は()()()()()()()()目を覚まさせてあげたいの。六股男なんか愛したってあなたが信じる“幸せな人生”はやってこないって…!」

 

 …………く……ッ

 

「…分かった?ただの感情論ではない。私は()()()()()()()()()()()()あなたたちを引き離すべきと判断しているのよ。

 口先だけの綺麗事程度で覆せるような決意ではないの」

 

 ……羽々里さんの説明が終わった。

 

「…く……ッ」

 

恋太郎(れんたろう)…っ」

 

 隣から俺を心配する唐音の声が聞こえる。でも、もう駄目だ。途中から抑えようと頑張ったけれど、もう――

 

 

 

 

 

「くふウゥ…ッ!!」ぼろぼろぼろ…

 

恋太郎(れんたろう)!!!?」

 

 俺には流れ続ける()()抑えることができなかった。

 

「ちょッ、あんたが感動してどうすんのよ!!あの母親の心を動かさなきゃいけない時でしょ今はッ!!」

 

 唐音から叱られてしまった。

 

 たしかに、その通りだ。でも、抑えようと思ってもどうしても止められないんだ。

 

 だって……

 

「だっで…!!だっで…!!羽々里(ははり)さんも…羽香里(はかり)も…ッ一生懸命頑張って来だんだろうなぁて思っだら…ッ!!」

 

 羽香里がまだ小さい頃に父親を亡くして、どれほどの苦労があったんだろうか。

 

 頼れる夫が先立ってしまい、どれだけ心細かっただろうか。

 

 それは羽香里に対しても同じことが言えた。

 

 そんな苦労しただろう二人のことを考えると、涙が止まる訳が無かった。

 

「……ッ」

 

 でも、泣いている場合ではないのも確かだ。俺は未だ流れ続ける涙を腕で押し当てて強引に止めた後顔を上げて羽々里さんへと告げる。

 

「……でも……俺も一緒ですよ。羽香里に後悔なんてしてほしくありませんし―――」

 

「この命にかえても、させる気はありません」

 

 スゥ…ボヤーー…

 

 ――ん?なんだ…?急に目が見え始めて――

 

 …ああそうか。涙で目薬が流されて――

 

 てっきり“打ち消しの薬”を飲まない限り解除されないと思っていたこの薬の副作用が、まさか涙で解除できるだなんて――

 

 視界が開けた直後、俺の目に映ったのは当然目の前にいた羽香里のお母様の羽々里さ――

 

 

 

 

 

ビビーン!!

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

【No side】

 

 それは十三歳で羽香里の父(こいびと)を亡くし、現在二十九歳である羽々里(ははり)にとって、およそ十六年ぶりとなる“恋のときめき”であった。

 

 しかし、それはかつて盲目になる程溺れ、それからの人生の中で深い後悔に(さいな)まれることとなった“()むべき衝動”。

 

 そんな“因縁”とも呼ぶべき衝動の前に羽々里は――

 

 

 

 

 

恋太郎(れんたろう)ちゃん!私と付き合ってちょうだいッッ!!!!♥♥♥♥♥

 

 

 

 やっぱり盲目になっていた。

 

*1
『赤外線が見える目薬』文字通り赤外線が見えるようになるが、その間赤外線以外なにも見えなくなる

*2
原作2話参照

*3
原作3話・拙作裏3話-4参照

*4
原作・拙作8話参照

羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く

  • 羽々里さんの『々』
  • 羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
  • 羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
  • ヤツ(♀)より『ヤ』
  • 羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。