0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

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22巻番外編「はじめてのせんぱい」より抜粋
凪乃()()(しき)に自分の都合(つごう)のいいように記憶が美化(びか)されている可能性が98%」



嘘吐き-11 カルマ

ガラス玉ひとつ 落とされた 追いかけてもうひとつ 落っこちた

ひとつ分の陽だまりに ひとつだけ残ってる

 

心臓が始まった時 嫌でも人は場所を取る

奪われない様に 守り続けてる

 

汚さずに保ってきた手でも 汚れて見えた

記憶を疑う前に 記憶に疑われてる

 

BUMP OF CHICKEN 『カルマ』より抜粋

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

走る。

 

走る。ただ、ただただ、走る。

 

習慣のジョギングコースを、ただただ、走る。

 

靴は走るのに適さないスリッパのまま。それにすら気づかず、ただただ、走る。

 

 

 

『ライ…、あんたはなりたい自分になるのよ』

 

『ライ、嘘を吐くのは構わない。が、最後まで貫き通せよ』

 

 

 

 知らない。

 

 知らない、知らない!知らない!!

 

 こんな記憶知らない!!

 

 大槻クロ(ダッド)大槻リン(マム)も長期出張の仕事で家を空けているだけ!!

 

 こんな()()()()2()()()()()()()()()()()()()()なんて、まやかしに決まってる!!

 

 

 

 ……でも、あの日記は間違いなく2人が持っていた交換日記だ。

 

 そして、2人の性格上イタズラ目的でこういった物を書き記すとも思えない。

 

 だったら、あの日記に書かれていたことは……全て本当…?

 

 

 

 大槻クロ(ダッド)大槻リン(マム)がクローンであることも。

 

 シロ・セイバーとベルノ・ヴィンヤードの2人が私の実の親であることも。

 

 ……シロがケリィさんとベルノさんが乗るジェット機を打ち抜いたのも。

 

 ……ボスが私を狙ったが為に、アルちゃんが殺されたのも。

 

 ……すべて、本当のことだっていうの……?

 

 そうだっていうなら……私が……

 

 

 

 

 

ギュルルルル!!!

 

 

 

 

 

 ……え?

 

 聞き慣れない急ブレーキ音と急ハンドルを切る音が辺りに響き渡る。

 

 ここまで五里霧中に走ってきたけれども、私は身体が覚えているジョギングコースをなぞってきただけ。当然、車道になど飛び出していない。

 

 だったら、どうして…

 

 私のいる歩道目がけて、トラックが突っ込んで……

 

 

 

 

 

「ライッ!!!!!」

 

 

 

 トンッ

 

 

 

 ガシャァッッッッ!!!

 

 

 

 ……えっ?

 

 ……お爺…様…?

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「交通事故に遭った後、気がついたら私は海の中を漂っていたわ」

 

「……海?」

 

現実(リアル)の海ではないわ。俗に言う“深層世界”ね。どれだけ浮上しても海面が見えてこないし、何故か水中でも呼吸が出来たり。目が覚めた時は意味が分からなすぎてパニックになったものよ」

 

 …………

 

 ライちゃん……いや、目の前にいる()()はライちゃんじゃ、ない。

 

 外見や声のトーンこそ同じだけれど、口調や間の取り方が違う。でも、それだけだ。

 

 それだけの、差異のはずなのに。

 

 俺含む全員が、目の前にいる彼女がライちゃんではないと強制的に認知させられている。

 

 ……いや、逆か。

 

 これまでの彼女は()()()()()に扮していた。それをただ止めただけ。

 

 違和感こそ覚えたけれど、彼女が種明かしをするその時まで、俺たち全員彼女がライちゃんであると錯覚させられていた。

 

 

 

深層世界(そこ)で私が慌てふためいたものだから、ニセモノもようやく気づいたみたいね。私が、ここにいることに」

 

 ……ッ!!

 

 今、()()()()()()…!

 

 でも…どうしてだ……?なんで、彼女はあそこでウソを……

 

「ニセモノって…誰のことよ」

 

「貴方たちの大好きなライちゃんのことよ。普通の理解力があれば確認は不要だと思うけど?」

 

「ッ……!!」ガタッ

 

「唐音さんッ!落ち着いてください!!」

 

「離しなさいよ羽香里ッ!!アイツ、ライのことをバカにしたのよッ!!?一発殴らないと気が済まない!!」

 

「私も唐音さんと同じです!!でも、人格はともかく、あの身体はライさんそのもの!!だから、今は耐えてください!!……お願い、ですから……

 

「…羽香里…」

 

 彼女が唐音を煽る。

 

 何故、彼女が唐音を煽ったのか。それが彼女の素の性格なのか、わざと唐音を怒らせる為なのかは今の段階では判断がつけられなかった。

 

 今にも彼女に殴りかかろうとした唐音を羽香里が必死に止める。羽香里の説得により唐音も落ち着くことができたが……。

 

 

 

「茶番は終わりかしら?」

 

 彼女は心底つまらなそうに俺たちを見るだけだった。

 

「「……ッ!!」」

 

「あら怖い怖い。でも、私の身体を何処ぞの誰かに1年と少し乗っ取られた私のことも考えて欲しいわね」

 

「『そ…』『それは……』」

 

「それは違う。私達の知る大槻ライはあなたが事故によるショックで生み出された人格。それを生み出した張本人であるあなたが否定するのは間違っている」

 

 言葉に詰まる静ちゃんとは対照的に凪乃が冷静に反論する。

 

 それは、先ほど羽香里が発した文言だった。

 

 だが、これには全く根拠も証拠もない。だから、先ほどまでの唐音に対してのと同じ反応が返ってくるかもしれないと身構えたが、

 

 彼女は冷静に返した凪乃と同様に、落ち着いた口調でこう返した。

 

「たしかに、交通事故によるショックからの回復に時間が必要だったのは事実。ニセモノに助けられたのは不服だけれど、事実は認めないとね」

 

「…ライ?」

 

「だって、ニセモノの最初で最後の大仕事だもの。これを認めないと主人格の名折れよね」

 

 ……ッ!!

 

 …なんだ?

 

 凪乃の主張は認められたはずなのに……この違和感は……?

 

 そんな俺を置いて、彼女は再度凪乃に対して問いかけた。

 

「凪乃さん。私を主人格とするならば、ニセモノは何と言われるかしら?」

 

「…()()()()()()()()は、別人格と言われるものにあたる。別人格は危機やストレスから主人格を守るために機能し、時には外界と対峙する役割を担うと言われている。」

 

 

「wikiみたいな解説ありがとう。凪乃さんはニセモノが日記で書いていた通り博識ね」

 

「日記って何よ」

 

「つい最近目覚めたばかりの私がどうやって貴方たちのことを知ったと思っているの?ニセモノが日々の生活を記していたからと考えるのは至極自然な発想だと思うけれど」

 

「……ふぅぅぅぅぅぅぅ」

 

「唐音さん……!」

 

「『いちいち人を煽らないと気が済まないのかお主は…』」

 

 彼女は唐音のことが気に入らないのか。彼女はもう一度唐音を煽った。

 

 今度は誰の手助けも受けることなく耐えた唐音。が、隣の羽香里や静ちゃんは彼女に苦言を呈していた。

 

 しかし、その流れを断ち切る台詞が彼女から飛び出したことでそれも終わる。

 

「そう。別人格である“ライちゃん”の仕事は主人格である私が回復するまでの間、私の身体の面倒を見ること」

 

 

 

「つまり、主人格である私が無事に目を覚ました以上、別人格であるニセモノはもう用済み

 楠莉さんの睡眠薬で今も深層世界でぐっすりしているけれど、そう時間も経たずに消滅することでしょう」

 

 

 

 ……は?

 

 彼女が何を言ったのか、すぐには理解することが出来なかった。

 

 消滅って……ライちゃんが……?

 

 

 

 ドクン…ドクン…と俺自身の心臓の鼓動が聞こえる。

 

 ライちゃんが消えてしまう……?

 

 あまりの衝撃の大きさに動揺した俺は目眩を起こしかけたが…

 

 グッ…!!

 

 なんとか、立て直すことができた。

 

 ――動揺なんか後でしろッ!!今は、彼女から1つでも多く情報を聞き取るんだ…!!

 

 

「で、デタラメ言ってんじゃないわよっ!!ライが消えるだなんて、信じられる訳ないじゃない!!?」

 

「唐音さんは、私がウソを吐いているとでも言いたいのかしら?」

 

「当たり前じゃない!!だって…今日のデートもあんなに元気……っ!!?

 

「その反応からして、心当たりはあるみたいね」

 

 

 

楠『新薬研究用に蜜を採りまくるのだ!!』

 

ラ『手伝うよ、楠莉ちゃん……ふぁぁっ』

 

楠『寝むたいのだ?』

 

ラ『……実は、最近ちょっと寝付きが悪くて』

 

楠『今度、ライ様の『睡眠薬』を渡すから、楽しみにしてるのだ!』

 

ラ『うん。ありがとう楠莉ちゃん』

 

 

 

 もしかして……

 

 今日のデートでライちゃんが眠たそうにしていたのも……

 

 

 

ニセモノが私という主人格のことを、自分自身が別人格であることを()()()()()()()()こうはならなかったでしょう。

 でも、事実ニセモノは自分自身がニセモノであることを思い出してしまった。

 自分自身の役割がとっくに終了したことを自覚したニセモノだけでは何も出来ない。それが体調にも影響したんでしょう。

 

 

「そもそも、1つの身体に2つの人格が存在すること自体身体に何らかの障害が出てもおかしくない。だから大槻ライ()のこれからの為にも、ニセモノである“ライちゃん”が消える必要があるの

 

 

 

 ……ウソだ……。

 

 信じられない。信じたくない…。

 

 今日のデートでも普段と変わらずに楽しげだったライちゃんが、そこまで追い込まれていただなんて。

 

 でも、彼女の言葉が、ライちゃんが眠たそうにしていた事実が、彼女がライちゃんではないという事実が。信じがたくない事象が本物だと立証する。

 

 でも……あれ……?

 

 

 

「……()()()()()

 

 その時だった。

 

 それまで1人静観を貫いていた羽々里さんが彼女に呼びかけたのは。

 

「…羽々里さん。それは私ですか?それともニセモノの方ですか?私を呼んでいるのならその呼び名は止めて欲しいのですが」

 

「…そうね、ごめんなさい。じゃあライ()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

「…………」

 

 羽々里さんは何も言わない。真剣な表情で彼女を見据えるだけだった。

 

「…当たり前でしょう。主人格()の為に別人格(ニセモノ)は存在する。であれば、別人格(ニセモノ)主人格()の為に消えるのは当然。それに良いも何も無いわ」

 

 

 

 

 

 ……ッ!!

 

 ピシッ…

 

 頭の中にずっと離れないでいた違和感のピースが1つに固まった。

 

 彼女が“ライちゃん”の振りを続けていた理由も。

 

 彼女がずっと俺たちに嫌われようとしていたのも。

 

 自身が“ライちゃん”ではないことがバレた後、それまで以上に悪辣に振る舞っていたのも。

 

 やっと、分かった。

 

 彼女は……()()()()は……

 

 

 

 

 

「…ライさん、ちょっと2人で歩かないか?」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「…改めて羽々里さんのお家(ここ)はすごい豪邸だよな。高校の屋上と同じかそれ以上に広い……」

 

「…………」

 

「それに…見てよライさん。今日は良い天気だ。お月様もよく見える」

 

「…何が目的?」

 

「何って?」

 

「話なら、さっきまでの部屋でもできたはず。わざわざ私と2人きりで屋上にまで移動する意味が分からない。

 それとも、2人きりならニセモノが消える未来が無くなるとでも思ったのかしら?」

 

「…ふふっ」

 

「……今のどこに笑う所があったかしら?」

 

「…いや、なにも。ちょっと()()()を思い出しただけだから」

 

「……?」

 

 羽々里さんにお願いして屋上のカギを貸して貰った俺は、カギを貰った手とは反対の手でライさんの手を掴んだ。

 

 俺にいきなり手を握られたことにビクッと身体を震わせたライさんだけど、特に抵抗することはなかった。皆にはこの部屋で待っていてくれと告げて2人きりで屋上へと向かう。

 

 ()ではなく()に。

 

 ()()()()()ではなく()()()()()()()()で。

 

 ()()()()()ではなく()()()()と。

 

 屋上という共通項こそあるものの、()()()のあの時とは条件が色々異なるにもかかわらず、ライさんの反応があの頃のライちゃんとほとんど同じなことに俺はデジャブを感じていた。

 

 ……感傷にふけるのは、ここまでだな。

 

 覚悟を決める。

 

 答え合わせをする、覚悟を。

 

 この答えを羽香里たちに聞かせるのは忍ばれた。だからこうやって2人きりの状況を作った。だって、それは()()()()の望む物ではないから。

 

「……ライさん、君は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“ライちゃん”の代わりに、消えるつもりなんじゃないか…?」

 




※作中の“解離性障害”や“解離性同一性障害”はかなりファンタジー解釈を挟んでいる為、話半分で聞き流して頂けると助かります。

羽々里さんの台詞を1字表記する際何て書く

  • 羽々里さんの『々』
  • 羽々里さんは皆の『ママ』より『マ』
  • 羽々里さんは羽香里の『お母様』より『母』
  • ヤツ(♀)より『ヤ』
  • 羽香里を『香』で羽々里さんを『羽』表記
  • その他
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