0人目の嘘吐き彼女   作:モーン21

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 選択肢A『☠ ライちゃんの手を取った』

 今話は特にアンチ・ヘイト要素マシマシです。ご注意ください。










 では、本編どうぞ


嘘吐き-IF キバナカタクリ

【恋太郎side】

 

 ……音がした。

 

 俺の部屋の唯一の出入り口であるドアが開かれた音だ。

 

 …音がした。

 

 扉近くに設置された明かりのスイッチ切り替えの音だ。

 

 暗かった部屋に光が灯される。

 

「――――っ」

 

 眠りから目覚めようとする意識が、

 

「恋太郎くん、起きてる?」

 

 近付いてくる足音と、春の外気を感じ取った。

 

「……ん。おはよう、ライちゃん」

 

「ん。おはよう、恋太郎くん」

 

「恋太郎くん、朝だよ。まだ時間はあるけど、そろそろ起きないと遅刻しちゃう」

 

「……そうだね。起こしに来てくれてありがとう。いつもごめんね」

 

「そんな事ないよ。恋太郎くん、いつも朝早いから。こんなふうに起こしに来れるなんて、たまにしかないし」

 

 ……?

 

 何が嬉しいのか、ライちゃんはいつもより元気がある。

 

「……そうかな。けっこうライちゃんには起こされている気がするけれど。俺も頑張らないとなぁ」

 

 ……寝起きの頭で返答する。

 

 あんまり頭を使っていないからか、自分でも何を言っているか分からなかった。

 

「そっか。でも頑張らない方が嬉しいかな、私」

 

 ライちゃんはクスクスと笑っている。

 

 ……寝ぼけたまま俺は可笑しな台詞を口走ったらしい。

 

「―――ちょっと待って。すぐ起きるから」

 

 春の穏やかな空気は、まだのんびりしろと言いたげだけど。

 

 ベッド近くの窓のカーテンを開け、陽の光を浴びることで眠気を追い出した。

 

 ……目の前には俺の彼女である大槻ライ、ライちゃんがいる。

 

 ベッドから起き上がりライちゃんへと歩を進める。

 

 ソッとライちゃんの肩に両手を置いて、そして……

 

 ……チュッ。

 

 ライちゃんとおはようのキスをした。

 

▽▽▽▽▽

 

 ライちゃんとの出会いは中学校の入学式【児童館】。

 

 積み木にぶつかって大泣きする俺をよしよしと笑顔であやしてくれたのがライちゃんだった。

 

 それがキッカケでライちゃんとは一緒に過ごすことが多くなった。

 

 遊びの時間もご飯の時間もお昼寝の時間も。離れることなく俺たちはずっと一緒にいた。

 

 そして……

 

「ら…らーたん…」もじもじ

 

「れーたん?」

 

「ちゅ…ちゅきっ!」

 

「れーたん、ちゅきー」

 

「!!」

 

 勇気を振り絞っての俺の初めての告白をライちゃんは笑顔で受けてくれた。

 

 それから、俺とライちゃんは付き合い始めた。

 

 0歳8ヶ月のことであった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 顔を洗いリビングに戻ると朝食の支度は完全に調っていた。

 

 ライちゃんらしい、上品な朝餉(あさげ)の匂いが食卓から伝わってくる。

 

 俺の両親は教師。ライちゃんの両親は大人気女優とその()()()()()()。どちらも多忙によりを空けることがほとんどだった為、俺とライちゃんはいつからかこうして一緒に食事を取るようになった。

 

 ライちゃんの家には両親以外にもお爺さんがいるらしいが、こちらも“大槻グループ”の会長である為か両親と同じかそれ以上に忙しいらしい。だからか、ライちゃんは俺の家の台所も俺以上に知っていた。

 

「おかえり。朝食の支度終わったよ」

 

「ありがとう!……ごめん、俺が寝過ごした分、ライちゃんに無理させちゃった」

 

「無理なんかじゃないよ。それに寝坊なんかじゃない。恋太郎くんは部活に入っていないんだから、この時間は十分に早起きだよ」

 

「部活は関係ないよ。それを言ったら、習い事やお仕事で忙しいライちゃんがうちに来てくれる方が凄い早起きでしょ?」

 

 そうだ、ライちゃんは俺なんかよりも多忙の身だ。

 

 大槻グループの跡取りとして、ライちゃんは多種多様の習い事を小さい頃から課されてきた。それだけでなく、大人気女優である『大槻リン』と子役で共演も何度かしている。

 本当なら俺なんかと一緒にいる暇なんかないんだ。

 

「いいよいいよ。私が好きでしている事だから。気にしないで」

 

「それはそうかもだけど……まあ、だから俺も早起きしたいんだ。ライちゃんが来てくれるなら、その時間には起きてないと失礼でしょ」

 

 俺にとって早起きとはライちゃんがやってくる前に起きる事で、寝坊っていうのは今朝みたいにライちゃん一人に朝食の支度をさせてしまう事だ。

 

「恋太郎くん、こだわるよね。そういう律儀なところ好き」

 

すっ!!?そっそれなら俺の方が!!俺なんかの為にこんな朝早くから朝ご飯を作ってくれる優しいところも、制服の上からエプロンを着けてる家庭的な所も、大大大大大好きだよ!!」

 

「あっありがとう……」

 

 赤くなった顔をパタパタとあおりながらライちゃんが席に着いた。俺もライちゃんとは反対側に座る。

 

「早く食べよう!ほら、恋太郎くんご飯!」

 

「ありがとう!それじゃあいただきます!!」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 がちゃり、と扉に鍵をかける。

 

 ライちゃんはうちの合鍵を持っていて、俺もライちゃんちの合鍵を持っている。戸締まりは最期に出る人間がする決まりだ。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「うん」

 

 俺の声に反応するのと同時にスッと俺の左腕にライちゃんの手が伸びスッと掴まれる。

 

 俗に言う恋人つなぎだ。

 

「!!!?」

 

「?恋太郎くん、どうかした?」

 

「だっだって、ゆっゆゆっ指がっ!!?」

 

「…恋人つなぎぐらいで大げさだなぁ。【昨日のデート】であれだけしていたのに」

 

 昨日の、デート?

 

 ……あぁ、そういえば。昨日は日曜日、だったな。

 

 たしか、羽香里ライちゃんの提案で()()(ぞの)フラワーパークに皆でライちゃんと2人で出かけたんだった。

 色とりどりのお花畑に大はしゃぎする楠莉先輩ライちゃんを【インスタントカメラ】で撮ったり、ライちゃんが作ったという【クッキー】を2人で食べたりとしたんだった。

 そういえば、パークの名物イベントだと言う“ブーケトス”にも参加したんだっけ。

 まさか、投げる人がうちの教頭先生だったのには驚きだったけれど。

 道中色々あったけれど、最後は空を飛んだ静ちゃん大ジャンプしたライちゃんの活躍もあって無事記念撮影の権利を勝ち取ることができた。

 ウェディングドレスを着た羽香里ライちゃん……とってもキレイだったなぁ……

 

「そうだ、ライちゃんに聞きたいことがあるんだけど…」

 

「なに?」

 

「昨日のウェディングドレスのブーケだけど、あれ何のお花がメインだったのかなって。なんか妙に気になっちゃって……」

 

「あぁ。それは【キバナカタクリ】だよ」

 

「へぇ。初めて聞くお花だなあ」

 

「さすがはフラワーパークだよね。ダメ元で希望のお花を伝えたらそれをメインに1からブーケを作ってくれたんだから」

 

「ライちゃんは【キバナカタクリ】(そのお花)が好きなの?」

 

「好きっていうより、その花の花言葉が気に入ったからかな。()()()にピッタリだって思ったから」

 

「へぇ」

 

 その花言葉って何?

 

 そう尋ねようとした所で、俺は立ち止まった。俺と手をつなぐライちゃんが不思議そうに見つめてくる。

 

 そこは、特に言及する所のない場所のはずだ。

 

 近くに特徴的な建物が建っている訳でもない、唯の高校へ辿り着く為の通学路。それなのに、俺はそこにある電柱から目を離せないでいた。

 

 『信じられるか……!?なあ……!!この俺に人生初の彼女ができて…!!これから夢にまで見た“彼女との登校”…!!それもなんと!!』

 

「恋太郎くん?」

 

 なにか、思い出しかけた、その時だった。ライちゃんに声を掛けられた所で俺は戻ってきた。

 

「どうかしたの?こんな所で立ち止まって。遅刻しちゃうよ」

 

「そっそうだね!!行こっか!!」

 

 ライちゃんに声を掛けられた途端、思い出しかけたそれがスッと消え失せる。

 

 そうだ。今の記憶はおかしい。俺がライちゃんと付き合い始めたのは高校児童館からだ。時期的に明らかに矛盾している。

 

 今のは夢、だったんだろう。

 

 そう自らに言い聞かせて俺は前へと向き直る。

 

 そういえば、さっきのライちゃんの声。いつもより声のトーンが低かったけれどそれもまた魅力的だなぁ。なんて考えながら。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「恋太郎くん、ご飯食べよ?」

 

「そうだね。それじゃあ行こっか」

 

「行くって、どこに?」

 

「…?そりゃあ【屋上】に……あれ?どこに行こうとしてたんだろう、俺」

 

「いつも【教室】で食べてるじゃない私達。気分転換に【屋上】にでも行くって言うなら付き合うけれど」

 

「……いや、教室(ここ)で食べよう」

 

「そうしよっか。それじゃあはい、恋太郎くんの分」

 

「ありがとうライちゃん!!」

 

▽▽▽▽▽

 

「お待たせ、恋太郎くん」

 

「お疲れライちゃん。それじゃ帰ろっか」

 

「うん」

 

 いつの間に放課後になった。特筆するような事柄は何も無いいつも通りの日常の筈なのに、何かが()()()()と思う俺がいた。

 

 俺は、何かを忘れている?

 

「恋太郎くん、どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

 ライちゃんに尋ねられて俺は即座に否定した。

 そうだ、俺には大好きな彼女であるライちゃんがいる。俺なんかには勿体ないぐらい可愛く良い子なライちゃんが。これ以上に何かを求めるなんて、烏滸がましいにも程がある。

 

 そんな風に思い直していると、

 

「ねぇ聞いた!?この学校に伝わる恋のおまじない。裏庭にピンクのクローバーが生えててーその中の四葉のクローバーを渡しながら告白すると必ず付き合えるんだって」

 

 そんなことを話す女子生徒の声が、ふと聞こえてきた。

 

 

 

「私ちょっと用事が」「私も」

 

「だから足はーっ!!?」

 

 

 

 ダッ!!

 

「恋太郎くん?」

 

 気がつけば俺は、隣にいるライちゃんを置き去りにして廊下を駆け……。

 

「ぐびょびょあんな所に男モノのタオル発見」

 

 ようとした所で慌てて早歩きに移行した。

 

 カサカサと窓の外で動き回る教頭の声が聞こえたからだ。

 

「恋太郎くん?いきなりどうしたの?」

 

 後ろからどうしてと疑問の声を上げるライちゃんを半ば無視しながら俺は中庭へと向かう。

 

 そうだ、たしかに俺は入学式の日。

 

 ()()()()()()()()()足を痛めたらしい2人の女の子に肩を貸していた。

 

 もしかしたら中庭に行けば、何か思い出せるのかも……

 

 その思いで裏庭に辿り着いた俺だったが……

 

「あれ?」

 

 裏庭にはたしかにクローバーが生い茂っていた。けれどそれは話とは違い、

 

 ()()()()ではない、()()のクローバーが。

 

「どうして……」

 

 おかしい。間違いなく裏庭(ここ)にはピンクのクローバーが咲いていたはず。それは間違いなく覚えている。

 

 だって、あの日は俺が初めて女の子に告白された……

 

「恋太郎くん?」

 

 ゾクッ!!

 

「らっライ…ちゃん…?」

 

「いきなりどうしたの?裏庭に用事でもあった?」

 

「いや……そうだ、ライちゃん。裏庭(ここ)のクローバーって、確かピンク色だったと思うんだけど、どうして緑色なのか分かる?」

 

「…変な恋太郎くん。ピンクのクローバーなんて、聞いたことも見たこともないよ。夢でも見てたんじゃない?」

 

 そうかな、そうかも……。

 

 諭すようなライちゃんの声音を聞いて、俺はだんだん冷静になった。

 

「なんか夢でさ、ここのピンクのクローバーを渡しながら告白すると必ず付き合える、とかでさ」

 

「…………」

 

「それで、会ったばかりの女の子2人に立て続けに告白されて……ハハハ、そんなことあり得ないのにね……」

 

「恋太郎くん」

 

 

 

 

 

 

「ここには誰もいない」

 

「花園羽香里も、院田唐音も、好本静も、栄逢凪乃も、薬膳楠莉も、花園羽々里も誰もいない」

 

「だから、その記憶()は思い出さなくていいんだよ」

 

 

 

 

 

 …………そうだ。

 

 この記憶は、俺にはいらないモノだった。

 

 だって、俺は。 ライちゃんだけの……

 

「それじゃあ疑問も解決したことだし。早く帰ろう?恋太郎くん」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

【ライ(真)side】

 

恋「ただいまー」

 

唐「遅かったじゃない、恋太郎」

 

恋「ごめん、ちょっと購買で中等部の()と同じパンを取ろうとしちゃって…」

 

「あんたはラブコメ主人公か」

 

「『まるで我輩との出会い』『みてーだな』」

 

ラ「その娘はどうしたの?」

 

恋「そのパンを半分ずつにして一緒に食べただけだよ」

 

唐「半分こ……」

 

「『半分』」

 

恋「あれ?2人ともどうしたの?」

 

ラ「その中等部の娘が羨ましいみたいだね

 

「べっ別にそんなこと思ってなんかないんだからね!!」

 

「『んなこたねぇよ』」

 

ラ「わかりやすいね、2人とも」

 

 

 

 

 

ラ「……どうして今ので銘戸さんの目が開いたの?」

 

恋「あぁ。それは…(めい)()さんが常に笑顔なのは忠誠心の証だから…それを逆に利用して『主人(あるじ)』の失敗を笑ってはいけないって本能で微笑みを解除させて…」

 

「完璧な計画ですね♥♥」

 

母「もう…恋太郎ちゃんったら人の恥ずかしい失敗を…!」

 

恋「はは…すいません。かわいかったからつい忘れられなくて…」

 

母「まあ、私も銘戸の綺麗な目を久しぶりに見られた訳だから。十分プラスよね」

 

芽「羽々里様のご命令であれば、眼球ごと取り出すこともやぶさかではありませんが」

 

「そんな命令しないわよおっかないわね」

 

ラ「緋色の目……」

 

 

 

 

 

楠「この間の野球楽しかったのだー!!」

 

ラ「ギリギリだったけどね…」

 

恋「でも、これで女子野球部は廃部にならずにすんだ!」

 

育「本当にありがとうね!!皆!!お礼にボクにケツバットしてくれないかな!」

 

「聞いたことねーんだよ、そんな感謝」

 

楠「育がしてほしいならケツバットしてやるのだ!」

 

パァン!!!

 

「キッツ…ッ♥」

 

ラ「……廃部になった方がよかったんじゃ」

 

唐「否定できないこと言うんじゃないわよ」

 

 

 

 

 

ラ「……恋太郎、静、凪乃。美々美さんからの連絡見た?」

 

「『バッチリだぜ』」

 

凪「えぇ」

 

恋「ライちゃん?美杉(うつくしすぎ)先輩がどうかしたの?」

 

ラ「……美々美さんから『行きたいカフェを見つけたから一緒にどうか』って誘われたの」

 

「『ちょうど』『あの時の4人だな』」

 

凪「…………」

 

恋「凪乃、美杉先輩と友達になれて良かったね」

 

凪「えぇ、本当に」

 

ラ「たしか、お豆腐メインのカフェだって話ね」

 

「『腐った豆』」

 

恋「へぇ……面白そうなカフェだね」

 

凪「愛城恋太郎も来る?」

 

恋「折角だから参加させてもらおうかな」

 

 

 

 

 

「同じクラスの…()(くれ)さんって…知ってる……?」

 

「前髪で目を隠した人物」

 

ラ「先日メカクレ・メカクシ同盟を組んだわ」

 

羽「スタイルも抜群ですよね推定Gカップです私と同じ。すごくないですか?GカップですよGカップ高校生で!」

 

ラ「…………」

 

羽「Gカップ分かります?Gカップ!」

 

羽「ジ~~~~~~~!!」

 

ラ「フっ、浅いわね」

 

ラ「私はGカップどころかそれ以上にも【変身】できる。たかがGカップ(その)程度で満足するなんて、羽香里も墜ちたものね」

 

羽「ぐぬぬ……」

 

ラ「精々精進することね」

 

恋「あ……あの……2人とも……話を……」

 

凪「私達に聞くよりも華暮|愛()()本人に話を聞くのが効率的」

 

恋「いや……それもそうだね。ありがとう3人とも。参考になったよ」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「ありがとう恋太郎くん。また明日ね―――恋太郎、また明日」

 

「ライちゃん、ライ!また明日!!」

 

 家の前まで送ってくれた()が見えなくなるまで見送った後門を開け家へと入る。

 

 鞄を置き制服を脱ぎ、室内着へと着替える。その後必要な道具を片手に提げて自室を出る。

 

 私の家は和風だけれど、1室だけ洋風のお部屋がある。唯一カギを掛けられる洋風の客間。そのお部屋のカギを開けて中へと入る。

 

 そこには……

 

 ベッドの上で身じろぎ1つしないまま横たわる、()()()()()()()()がいた。

 

「ただいま、恋太郎。元気にしてた?」

 

 カギをかけなおした後私は恋太郎へと声を掛ける。返事が返ってこないのは了承済みだ。

 

 道具の準備を終えて私は再度恋太郎へと向き直る。

 

「――――――」

 

 肝心の恋太郎は今朝私が家を出る前と同じく眠ったままだ。

 それだけしか判らない。

 体調が良くなっているのか、悪くなっているおかも見て取れない。

 

あの子と今日は何をしたのかしら?できれば、私にも共有して欲しいのだけれど。難しいか」

 

「そうだ、現実(こっち)は国語の先生宝くじが当たったとかで退職されるみたいでね。けっこう大騒ぎだったのよ?」

 

偽恋太郎がことあるごとに女の子を引っかけてくるけれど、もしかしたらあの娘たちも羽香里たちみたいな【運命の人】なのかしらね。

 まぁ、そんなことどうでもいいのだけれど」

 

 時折何てことないことを話しかけながらも手元は恋太郎の介護をテキパキと続ける。

 

 お爺様に用意してもらっただけでなく、教えて貰った介護の方法を1つ1つ振り返りながら。

 

 点滴の入れ替えやマッサージ。濡れタオルで身体を拭く等のことをしているうちに陽は大分暮れかけていた。

 

「――――――」

 

 あの日からずっと、私はこうして恋太郎の世話を続けている。

 

 でも、けっして辛くはない。

 

 だって、深層世界(あっち)あの子と恋太郎が楽しく生活できているのだから。

 

 こっちのことは任せてちょうだい。

 

 もし、2人の幸せを邪魔するような人が現れたら。例え●●してでも守りきってみせるから。

 

 だってライちゃん。私はあなたの●●●●●だからね。

 

 

 

 

 

【恋太郎side】

 

 俺は、ライちゃんのことをまったく見ていなかったんだ。

 

 あれだけ俺の為に尽くしてくれていたライちゃんに、俺はヒドいことを強い続けていた。

 

 だったら、それに報いる方法なんて。1つしかないじゃないか。

 

 俺はライちゃんの両手を優しく掴む。

 

 お腹に回った腕をちぎって、俺は正面からライちゃんに向き直った。

 

 数十秒にも及ぶ長い沈黙。

 

 その末に、小さな声で呟く。

 

「……わかった。俺は……」

 

 

 

 

 

「ライちゃんだけの、彼氏になる」

 

「これからは、ライちゃんだけしか見ないから」

 

 

 

 

 

 俺がそう言うと、ライちゃんは一度ビクッと身体を震わせた。

 

 それは、どこかダメ元で告げた願い事が通った時の子どものようだと。俺には思えた。

 

「……恋太郎くんならそう言ってくれると思っていたよ」

 

「もちろん悩む気持ちもわかるよ。皆を裏切るようで辛いんだよね」

 

 ライちゃんは切なげに目を伏せてから、ぱっと笑顔になり手を打つ。

 

「でも大丈夫。深層世界(ここ)に皆はいないから。不幸中の幸いだね」

 

「裏切っても責める人は誰もいない。だから恋太郎くんは悪い人にはならない。恋太郎くんは悪い子である私に騙された、哀れな【被害者】なんだから」

 

「恋太郎くんにとって、私だけを見ていてくれることが、優しい人でいられる唯一の方法なんだから」

 

「……そう、だね。そうなの……かも……しれない」

 

 優しく手を握ると、俺はぎこちない微笑みを浮かべた。

 

 俺は、自らの肩を掴む。ライちゃんの手に、自分の手を添えた。

 

 小さく、震える声で、迷いながら……。

 

 全ての感情を押し殺し、その一言を絞りだした。

 

「……助けて」

 

「……うん」

 

「恋太郎くん……助けられたのは、私の方だよ」

 

「こんな偽物なんかに歩み寄ってくれる人なんているはずがなかった」

 

「私自身偽物なんだって分かってから、ずっと寂しかったんだ。でも、それで良かったのかもね」

 

「だって、こんなに素敵な恋太郎くんの、唯一の彼女になれたんだから」

 

 はにかむようにライちゃんが笑う。

 

「……うん、うん」

 

 そしてライちゃんは、俺を優しく胸に抱きとめる。

 

 俺は静かに何度も頷いていた。

 

 そうだ、ライちゃんは話すと穏やかで……

 

 いつも人のことを心配してくれていて、他人の為に行動できる、優しい子……

 

 だから……これは、間違いなんかじゃない。正しい選択なんだ。

 

 今は、心をカラにしよう。

 

「……一緒に、幸せになろう」

 

「……うん」

 

 裏切った皆がどうなるかなんてわかりきったはずなのに。

 

 その事実から目を逸らすように。

 

 俺はライちゃんと、誓いのキスをした。

 

「大好きだよ、ライちゃん」

 

「私も大好き、恋太郎くん」

 

 

 

 

 

HAPPY?END

 




キバナカタクリの花言葉、【私だけを見て】、【嫉妬】、【上品】


深層世界

恋太郎(真)
 あの時ライちゃんの手を掴んだが故に、肉体は現実世界で寝たきりのまま魂のみがライ(偽)の深層世界に取り込まれた哀れな被害者。
 ライ(偽)により【存在しない記憶】を植え込まれた結果、1度も失恋することなく0歳8ヶ月というギネスにも載りかねない早さで彼女をゲットした。
※なお、恋太郎が5月1日生まれ、ライが早生まれの4月1日生まれの為本来恋太郎が0歳8ヶ月の頃はライは生まれてすらいないのだが、そこは有耶無耶にされている。
 ライの手を掴んだ時の記憶はライの手により封印されている為覚えていない。その為時折羽香里たちのことを思い出しかけるも、ライの妨害や恋太郎本人の無意識により途中で断念することがほとんど。

ライ(偽)(管理&依存型ヤンデレ)
 恋太郎がまさか自身の手を取るとは思ってもいなかったけれど、開き直って恋太郎を自身の深層世界に閉じ込めることにした。
 セカイの管理者である為、認識改変はお手の物。
 【監禁】、【洗脳】、【管理】3アウトチェンジという現実世界なら投獄待ったなしの加害者。
 現実世界のことはライ(真)に任せ、時折【お仕事】や【習い事】という名目で現実世界に戻ってライ(真)と情報交換をしている。
 恋太郎には幸せになってほしいのと、恋太郎に【私だけを見て】欲しい為記憶をねつ造し恋太郎に植え付けた。矛盾が発生して恋太郎が混乱しかけたら恋太郎本人を【洗脳】するか、セカイを書き換えることで順次対応している。
 恋太郎に手を取ってもらった記憶を恋太郎から取り上げたのは、恋太郎に幸せになって欲しいのと、大事な記憶だからこそ、恋太郎の手にも届かない所にしまっておきたいという理由。
 羽香里たちへの罪悪感を抱えながら、いずれ訪れる終末に恐怖しながら深層世界での1日1日を幸せに送っている。

現実世界

 恋太郎(偽)
 ライ(真)が製薬した、シロ特製【分裂薬】を飲んで生まれた偽物。
 テセウスの船、スワンプマン(沼男)
 本来は誕生することはなかったが、ライ(偽)の『【運命の人】に助けを呼ばれたら恋太郎が起きてしまうかもしれない』という提案により、『じゃあ助けを呼ばれないようにしよう』という理由で生み出されたクローン。
 ダッドやリンと違って、【自身が偽物だという自覚】が無い為4人の中で唯一何も知らない被害者。
 運命の人と高校生活で100人出会うはずなのに羽々里さん以降誰とも遭遇しないことに段々不安が募っている。
 恋太郎(真)が寝たきりとはいえまだ存命の為、【運命の人】と目が合っても【偽物】である恋太郎(偽)とはビビーン!!が発生しない。

 ライ(真)
 ライ(偽)の頼みを聞いて、叶える為なら法を犯すことも覚悟した●●●●●。
 ライ(真)にとっての優先順位は
 ライ(偽)>恋太郎(真)>羽香里たち>恋太郎(偽)>それ以外となっている。
が、もし恋太郎(真)の存在がバレそうになったら、たとえ羽香里たち相手であっても●●た後、『ミイラ取り(本物)がミイラ(偽物)になる』予定。
 現実世界では、ライ(真)とライ(偽)の二重人格の演技で恋太郎(偽)や羽香里たちと日常を送っている。
 皆にバレてはいけないというスリルを糧に日々を謳歌している模様。
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