推せば命の華が咲く―Vチューバーデスゲームモノ―   作:夢野ベル子

1 / 18
惹句として、この作品はAIによって80パーセント以上、描写されております。
また、アンケートによって、この作品にご参加いただけますと幸いです。
拙い作品ですが、皆様の心に遺る作品になるよう努めてまいりたいと思います。
何卒宜しくお願い申しあげます。


オープニングセレモニー

 

 

 

 とどのつまり、あなたは、いま死体を見ているということになる。

 

 異様にキレイな死体だった。というのも、それは二次元加工された、いわばアニメキャラクターの死体であり、生々しさが巧みにフィルタリングされているからだ。グロテスクではあるが、どこか作り物めいた印象は拭えない。

 

 死体となった少女は、ほんの数分前まで元気に活動していた。

 狐耳に巫女服という、やや記号的ながらも愛らしいガワ(アバター)。大きめの尻尾を嬉しそうに揺らし、雪片を思わせる白い肌にはサクラソウのような淡いピンク色が乗っていた。標準的な感性からすれば、庇護欲をかき立てられる相貌と言えるだろう。

 

 その声もまた、人気声優のデータを巧みに合成したかのような、甘やかでありながら芯のある、絶妙なバランスでチューニングされた響きを持っていた。いまはもう、その音色が発せられることはない。

 

 あなたは、動かなくなった少女の亡骸(なきがら)を凝視している。

 

 それが死体へと変貌したプロセスもまた、一部始終を目撃してしまったはずだ。

 少女が首につけていた銀色のチョーカー――それが何の前触れもなく閃光を放ち、爆ぜたのだ。

 もはや手の施しようがない惨状であることは、誰の目にも明らかだった。

 

 死体には、首から上が存在しなかった。

 

 切断面からは、まるでプログラムのエラー表示のような、ピンク色のヌラヌラとした光が明滅している。噴き出した鮮血――それもまた妙に彩度の高いピンク色だ――が生白い肌を爬虫類(はちゅうるい)のように這い、巫女服の胸元をわずかに押し上げる膨らみを際立たせていた。かろうじて少女の身体だと認識できるのは、その曲線美と、まだ温かみを残しているかのような肌の質感ゆえだろうか。

 

 では、肝心の頭部はどこへ行ったのか? 先ほどの爆発で木っ端微塵に飛び散り、床の上には原型を留めない肉塊――赤黒いというよりは、バグったテクスチャのような、不気味な色彩の塊が散乱している。比較的大きな破片もあるにはあるが、およそ人間の頭部とは思えず、形を失ったゼリーか、あるいはロードに失敗した3Dモデルの残骸のようだ。

 

 その無残な死体の周りを、四人の少女たちが囲んでいる。

 

 皆一様に血の気を失った顔をしている。しかし、彼女たちもまたアニメ的なキャラクターのガワをまとっており、その表情には現実感と非現実感が奇妙に同居していた。服装はそれぞれに個性的だ。

 

「どうして……こんな……」

 

 最初に震える声を発したのは、ストロベリーブロンドのロングヘアが印象的な少女だった。桜色を基調とした華やかなアイドル衣装が、彼女のパーソナルカラーを示している。

 

――春野(はるの)ハル。ユニット『シキオリオリ』の春担当。

 

 普段はアイドルらしく、常に前向きでエネルギッシュな印象のハルだが、目の前の惨状と自らの首にある冷たい感触に、隠しきれない不安の色を浮かべている。

 

「あたしたち……どうなっちゃうの……?」

 

 次に途切れ途切れの声を出したのは、ひときわ小柄な少女だ。

 小学生にも見える幼い容姿。日に焼けたような健康的な肌の色と、空色(スカイブルー)のショートカットが、快活なイメージを強調している。

 

――夏川(なつかわ)ナツ。ユニット『シキオリオリ』の夏担当。

 

 いつもは天真爛漫なムードメーカーであるナツも、この異常事態には恐怖を隠せない。死体そのものにか、あるいは自身の首に装着された未知のデバイスにか、萎んだ風船のようにか細い声を漏らしている。

 

「GMが……死んじゃうなんて……()、でしょ……?」

 

 恐怖に表情を凍りつかせているのは、ふんわりとした雰囲気のお姉さんといった風情の少女。緩やかなウェーブのかかったダークブラウンの髪に、落ち着いた鳶色の瞳。現実世界にいそうな、親しみやすい配色だ。強いて特徴を挙げるなら、ゆったりとしたニットカーディガンを内側から強く押し上げる、豊かな胸のラインだろうか。

 

――秋月(あきづき)アキ。ユニット『シキオリオリ』の秋担当。

 

 普段はおっとりとして包容力のあるアキだが、今はその余裕もなく、視線が定まらず落ち着きなく揺れている。

 

「この首輪……やはり、ただのアクセサリーじゃなかった……」

 

 最後に、冷静さを保とうと努めているかのような低い声を発したのは、セミロングのプラチナブロンドと、蒼氷(そうひょう)のような瞳がミステリアスな印象を与える少女。紺色のブレザーにチェックのスカートという、典型的な女子高生の制服姿だ。大人びた雰囲気とは裏腹に、顔立ちにはどこか幼さが残り、少女と大人の境界にいるような危うい魅力を放っている。

 その細く白い指先が触れているのは、自身の首に嵌められた銀色の首輪。いま目の前で無残な死体となった少女が着けていたものと、全く同じデザインだ。

 

――冬峰(ふゆみね)フユ。ユニット『シキオリオリ』の冬担当。

 

 ここまでの描写で、彼女たちのことを初めて知った方も、おおよその関係性は推測できたかもしれない。彼女たち四人は、日本の四季をモチーフにしたバーチャルユーチューバーユニット『シキオリオリ』のメンバーなのである。

 

 もしあなたが、この配信を途中から視聴しているのであれば、何が起こったのか理解に苦しんでいることだろう。事の顛末を、少しだけ時間を巻き戻して説明させていただこう。これは、あなた自身の選択にも関わる物語なのだから。

 

 

 数日前――。

 

 調度品のほとんどない、のっぺりとした純白の空間。

 部屋だと認識できるのは、垂直と水平に引かれた人工的なラインが、空間の境界を示しているからだ。細く白い線がグリッドのように走り、まるで無限に広がる白い箱の中に閉じ込められているような感覚を与える。

 

 視線の先に窓ひとつない、完全なバーチャル空間。背景アセットを読み込めば、洒落たオフィスやスタジオを再現することも容易いはずだが、あえて何もない無機質な空間が選ばれているのは、そこに存在する人物たちの輪郭を際立たせるためだろう。

 

 その白い空間の奥まった場所に、不釣り合いなほど豪奢なアンティーク調のデスクが鎮座し、そこに小さな影がちょこんと座っている。狐の耳をぴんと立てた、巫女服姿の少女だ。小さな肘をデスクにつき、指を組んで、ややふてぶてしい表情を浮かべている。その様子は、大人の真似事をする子供のようにも見えなくはない。

 

 デスクの前には、四人の少女――ハル、ナツ、アキ、フユが横一列に並び、狐耳の少女の言葉を待っていた。彼女こそが、このユニット『シキオリオリ』を運営する個人事務所の社長であり、プロデューサーであり、そして腕利きのプログラマーでもある、通称GM(ゲームマスター)だ。

 

「単刀直入に言うけどさ。君たち、ちょっと面白いサバイバル企画に参加してくれない?」

 

「サバイバル企画、ですか? 具体的には、どのような……?」

 

 最初に問い返したのはハルだった。ユニットの中でも特に積極性と行動力に溢れる彼女は、元地下アイドルという経歴を持つ叩き上げだ。「ファンを楽しませるためなら何でもやる」というのが彼女の信条であり、それはVチューバーになってからも変わらない。

 脳裏に浮かんだ疑問を即座に口にしたのは、ライバーとしての(さが)でもあるだろう。リアルタイムでリスナーと交流する彼女たちにとって、どんな状況もエンターテイメントに変えるための「ネタ」になりうる。GMの突飛な提案も、新たな配信企画の可能性として捉え、その詳細を探ろうとしたのだ。

 

「ン~。最近さ、ぶっちゃけウチ、AIチューバーに押され気味じゃない?」

 

 GMは組んだ指を解き、小さな肩をすくめてみせた。

 

「あー、AIの子たちねー。確かにすごい人気だよね。24時間配信とか平気でやってるし。あたしたちみたいな『中の人』がいるタイプより、完璧なAIアイドルが好きって人も多いのかな? ランキング見ても上位はAIばっかりだもんねー」

 

 ナツが頭の後ろで腕を組み、あっけらかんと言った。悪気はないのだろうが、少しデリカシーに欠ける発言だ。

 

「ナツちゃん。GMは遠回しに『あなたたちの人気がAIに負けている』って言ってるのよ」

 

 アキが、たしなめるように、しかし声色はやんわりと、妹に言い聞かせるように言った。

 

「え、そうなのGM!? あたしたち、そんなにヤバい状況!?」

 

「まあ、否定はしないかな。正直、人間を雇うってのはコストがかかるわけよ。人件費、機材費、スタジオ代……。その点、AIチューバーなんて初期投資と電気代、たまのメンテくらいで済む。ビジネス的に見れば、効率は圧倒的に向こうがいい」

 

「もしかして……あたしたち、()()……ってこと? ねぇ、アキ姉……」

 

 ナツが不安げにアキのカーディガンの袖をつかむ。リアルでも年の離れた二人は、ユニット活動を通して自然と姉妹のような関係性を築いていた。

 

「だ、大丈夫だと思うわよぉ? もしそうなら、わざわざこんな風に呼び出したりしないでしょ? メール一本で『契約終了です』って言われておしまいよ、きっと」

 

 アキはナツを安心させようと努めるが、その声には微かな動揺が混じっている。

 

「そうそう、アキの言う通り。君たちをクビにするだけなら、もっとドライにやるよ。今回、わざわざサバイバル企画なんて言い出したのは、そこにAIには真似できない、人間ならではの可能性があると思ったからさ」

 

「AIに真似できないこと……。サバイバルって、もしかしてリアルで体動かす系のやつ? あたし、運動神経には自信ないんだけど……」

 

 不満げに口を尖らせたのはフユだ。

 

「ハハ、フユはインドア派だからねぇ。でも、肉体を持ってるってのは人間様の数少ないアドバンテージなんだから、そこを活かさない手はないでしょ?」

 

 GMは楽しそうに笑う。

 

「だとしても、GMの言うサバイバルゲームって、具体的に何をするんですか? まさか、どこかの島を貸し切って、リアルで何かやらせるとか……? それこそ、AIよりよっぽど費用がかかると思いますけど」

 

 ハルが現実的な疑問を呈する。

 

「うん。ご名答。そのまさかなんだよね。ちょっと……いや、かなり奮発しちゃった」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 四人の驚きの声が、白い空間に響いた。

 

「マジで!? どこ? どんな島!?」

 

 ナツが真っ先に食いつく。

 

「まあまあ、落ち着いて。ここまで一年間、みんなよく頑張ってくれたからね。その慰労も兼ねて、ってことで」

 

 GMはウィンクしてみせる。

 

「やったー! バカンスじゃん! 南の島!? ねぇ、アキ姉!」

 

 ナツが子供のようにはしゃぎ、アキの腕をぶんぶんと振る。

 

「こら、ナツちゃん。はしゃぎすぎよ。これはGMからのご褒美でもあるけど、同時に次への投資でもあるんでしょ? ちゃんと結果を出さないと」

 

 ハルが冷静に釘を刺す。

 

「えー、ハルは真面目だなぁ。あたしは普通に楽しんでるところを見せるのが一番だと思うけど? リスナーのみんなだって、あたしたちが本気で楽しんでたら、きっと喜んでくれるよ!」

 

「まあ、『てぇてぇ』は重要な要素だからね……」

 

 フユがぽつりと呟き、顎先に指を当てて思案する。

 『てぇてぇ』とは、『尊い』が変化したネットスラングであり、主にキャラクター同士(特に美少女同士)の親密な関係性や微笑ましいやり取りに対して使われる言葉だ。

 

「GMの狙いは、その『てぇてぇ』を前面に出して、ユニット全体を推してもらう、いわゆる『箱推し』の強化、ということでしょうか?」

 

 ハルは確認するようにGMを見た。

 

――箱推(はこお)し。

 特定のメンバーだけでなく、グループ全体を応援するファンのこと、またはその応援スタイルを指す。メンバー間の仲の良さや関係性は、箱推しを促進する重要な要素だ。しかし、サバイバルゲームという響きは、協力よりも競争や対立を想起させる。ハルはその矛盾点に気づいたのだろう。

 

「『箱推し』も、確かに人間ならではの強みかもしれないね。ただ、最近はAI同士でも、計算されたシナリオに基づいて関係性を演出し、『てぇてぇ』を作り出してる。人間の専売特許ってわけでもなくなってきてるんだよ。例の『カナリア』とか、君たちも見たことあるでしょ?」

 

「あー! カナリア! 見た見た! カナちゃんとリアちゃんがポッキーゲームする回、マジで神がかってたよね! あれが計算とか信じられない!」

 

 ナツが興奮気味に身を乗り出す。

 『カナリア』は、現在最も人気のあるAIチューバーユニットの一つだ。カナ(姉)とリア(妹)という二人のAIが織りなす、甘く切ない百合姉妹関係が多くのファンを魅了している。その関係性の深化は、巧妙なシナリオとAIの学習能力によって実現されていると言われている。

 

「『箱推し』だけが狙いじゃないとしたら、GMの真意は一体どこにあるんですか?」

 

 ハルは真剣な眼差しで問う。

 

「もちろん、『箱推し』を否定するわけじゃないよ。カナリアの例も、結局は与えられたデータとシナリオの範囲内での行動だ。人間には、その枠を超えた、予測不能なドラマを生み出す力がある。そこに、いわば()()()()()()()()()が生まれる可能性があるんじゃないか、と期待してるわけ」

 

「天然モノ……。極限状況に置かれた人間の、生の感情のぶつかり合いや、そこから生まれる絆……そういうものが見たい、ということですね。……わかりました。ハル、全力でやらせていただきます!」

 

 ハルは胸に手を当て、決意を表明する。その瞳には、新たな挑戦への意欲が燃えている。

 

「ですが、AIでも学習によって偶発的な『てぇてぇ』は生成可能です。人間の予測不能性は、単なるノイズやエラーと区別がつかない場合もあるのでは?」

 

 フユは依然として懐疑的な姿勢を崩さない。

 

「確かに、フユの言う通り、技術的には可能かもしれないね。僕もプログラムを組む端くれだから、それは理解してるつもりだよ。でもさ、やっぱり『天然モノ』と『養殖モノ』って、本質的に違うと思わないかい? たとえ表面上は同じに見えたとしても」

 

「客観的な観測データにおいて、その『本質的な違い』を証明するのは困難です。現代の高度なAIは、チューリングテストなど容易にパスします。視聴者レベルで、演じているのが人間かAIかを見抜くのは、ほぼ不可能に近いかと」

 

「ふむ……。君の言いたいことは、つまり、君の代わりがAIでも、リスナーにとっては大差ない、と。そういうことかい?」

 

 GMの声のトーンが、わずかに低くなる。

 

「……多くのリスナーにとっては、そうかもしれません。深い人間ドラマを求める層もいますが、Vチューバーの主な視聴者層は、もっとライトに、キャラクターとしての魅力を消費する傾向があるように思えます。複雑な内面や矛盾を抱えた生身の人間よりも、設定通りに動く、安定した『キャラ』のほうが好まれる。であるならば、『天然モノ』であることに固執する意味は薄いのでは?」

 

 フユは淡々と、しかし明確に自説を述べる。

 

「じゃあ、聞くけど。プロデューサーの立場として、それでも人間である君たちを起用し続けるメリットは、どこにあると思う? ……いや、意地悪な質問だってわかってるよ。雇われる側が、常に自分の価値を証明し続けなきゃいけないなんて、不公平だとは思うけどね」

 

「それは、雇用主であるプロデューサーが判断すべき問題です。演者である私が答えることではありません」

 

 フユは視線を逸らさずに答えた。

 

「……なるほど。君は、ある種のリアリストなのかな。それとも、ただの敗北主義者か」

 

「どちらに解釈されても構いません」

 

「GM、あの、フユは別に投げやりになってるわけじゃなくて……!」

 

 場の空気が険悪になりかけたのを感じ取ったハルが、慌てて二人の間に割って入ろうとした。

 

「ハル……」

 

 フユが小さくハルの名前を呼ぶ。

 

「前にフユ、言ってたじゃないですか! スクリーン越しの、この適度な距離感が心地いいって! だからVチューバーでいる自分が好きだって! 私もそれは少しわかるんです。ハルっていう理想のアイドルを演じることで、本当の私とハルが重なり合って、リスナーのみんなに元気や夢を届けられるのが嬉しい。フユだって、きっとフユっていうクールでミステリアスなキャラを演じるのが好きだから、Vを続けてるんだと思います! だから、その……」

 

「……もういいよ、ハル。ありがとう。あとは、自分で話すから」

 

 フユは、熱弁するハルの肩にそっと手を置いた。その仕草は制止というより、むしろ感謝の念を伝えるかのようだった。

 

「おっと、これは失敬。まさに()()()()()()()()()を見せつけられちゃったかな?」

 

 GMはおどけたように言ったが、その瞳の奥は笑っていない。

 

「茶化さないでください!」

 

 ハルが少しむっとした表情でGMを睨む。

 

 フユはそんなハルをなだめるように軽く腕に触れ、再びGMに向き直った。

 蒼氷(そうひょう)の瞳が、デスクの上の小さなGMを静かに見据える。

 

「GM。あなたの言う『人間ならではの可能性』という言葉が、具体的に何を指しているのか、正直なところ、私にはまだ理解できません。ハルが言うように、私たちがVチューバーとして活動するのは、ある種の『キャラ』を演じることであり、それは多かれ少なかれ、自分自身を()()()する行為です。その点では、私たちもAIと地続きの部分があるのかもしれない」

 

 フユは一度言葉を切り、他のメンバーたちの反応を窺うように視線を巡らせた。ハルは心配そうに、ナツは少し退屈そうに、アキは困ったように微笑んでいる。

 

「ですが」フユは続けた。「AIにはエラーやバグはあっても、『迷い』や『葛藤』、『矛盾』は本質的には存在しない。プログラムされた範囲を超えることはないからです。人間は違う。私たちは常に迷い、過ち、それでも何かを選び取ろうとする。その()()()()こそが、予測不能なドラマ、あなたが言う『天然モノ』の源泉なのかもしれません。……もし、あなたが本当に見たいのがそれだと言うなら、この企画、受けて立つ価値はあるのかもしれない」

 

 フユの言葉には、どこか挑戦的な響きが混じっていた。それはGMに対するものであり、同時に自分自身に対するものでもあるようだった。

 

「ほう……面白い見解だね、フユくん」

 

 GMは満足そうに頷いた。狐の耳がぴくりと動く。

 

「まさに、僕が期待しているのはそこだよ。完璧なAIには描けない、不完全で、だからこそ愛おしい、人間の物語さ。今回の企画はね、無人島を舞台にした共同生活ドキュメンタリーなんだ。もちろん、配信は24時間体制で行う。君たちには、そこで自由に過ごしてもらう。協力し合ったり、時にはぶつかり合ったりしながらね。その中で生まれるリアルな人間関係、感情の機微、それを視聴者に見てもらいたいんだ」

 

 その説明は、いかにも魅力的な企画のように聞こえた。しかし、フユの心には、一抹の疑念が残っていた。「サバイバル」という言葉の持つ、不穏な響きが消えない。

 

「無人島……ですか。設備とかはどうなってるんですか?」

 

 アキが不安そうに尋ねる。

 

「心配いらないよ。ちゃんとしたロッジを用意してあるし、食料や生活必需品も十分すぎるくらいストックしてある。インフラも万全だ。むしろ、快適すぎてサバイバル感は薄いかもね。あくまでメインは君たちの()()()だから」

 

「へぇー! じゃあ、やっぱりバカンスじゃん!」

 

 ナツが再びはしゃぎ出す。

 

「まあ、楽しむのが一番だよ。君たちが楽しんでる姿が、一番のコンテンツになるんだから」

 

 GMはそう言って笑ったが、その笑顔はどこか貼り付けたように見えた。

 

「出発は明後日。準備はこっちで全部やっておくから、君たちは手ぶらで来ればいい。いいね?」

 

「「「はい!」」」

 

 ハル、ナツ、アキが元気よく返事をする中、フユだけは黙って頷いた。胸騒ぎが、どうしても消えなかった。

 

 

 そして、出発当日。

 

 青い空と海の間を、白いクルーザーが滑るように進んでいく。デッキにはパラソルとテーブルが設置され、まるでリゾート地へのクルージングのようだ。

 潮風が心地よく頬を撫で、メンバーたちの表情も期待に満ちて明るい。

 

「うわー! すごい! 海、きれー!」

 

 ナツが手すりから身を乗り出して歓声を上げる。

 

「ナツちゃん、危ないわよ」

 

 アキが優しく注意するが、その声も弾んでいる。

 

「GM、本当にありがとうございます! こんな素敵な船まで用意していただいて」

 

 ハルが隣に立つGMに礼を言う。今日のGMは、いつもの巫女服ではなく、小さな船長服のようなコスチュームを着ていた。

 

「どういたしまして。言ったでしょ? 慰労も兼ねてるって。まあ、しっかり()()()()は撮らせてもらうけどね」

 

 GMはそう言って、小型のドローンを飛ばした。ドローンはメンバーたちの周りを旋回し、楽しげな様子を撮影している。

 

「この島、本当に無人島なんですか? なんだか、作られたセットみたいに綺麗ですけど」

 

 フユが、遠くに見えてきた緑の島を指さしながら呟いた。

 確かに、その島は人の手が入っていないとは思えないほど、整然とした美しさを持っていた。原生林は豊かだが、海岸線は整備され、小さな桟橋まで設えられている。

 

「さあ、どうだろうね? 真実は、君たちの目で確かめてみるといい」

 

 GMは意味深な笑みを浮かべるだけだった。

 

 やがてクルーザーは桟橋に着き、メンバーたちは期待と少しの不安を胸に、島へと足を踏み入れた。

 白い砂浜を抜けると、すぐにモダンなデザインのロッジが見えてくる。ガラス張りの壁が多く、開放的な雰囲気だ。

 

「わー! おしゃれなロッジ!」

 

「ここで生活するんだね!」

 

 メンバーたちが感嘆の声を上げる中、GMは先にロッジの中へ入っていく。

 

「さあ、入って入って。まずは設備の説明からだ」

 

 促されるままにロッジの中へ入ると、その内装の豪華さに再び驚かされた。広々としたリビングダイニング、最新設備の整ったキッチン、そして人数分の個室。窓からは美しい海が一望できる。

 

「すごい……ホテルみたい……」

 

 アキがため息をつく。

 

「でしょ? ここなら快適に過ごせるはずだよ。さて、本題だ」

 

 GMはリビングの中央にあるテーブルを指さした。そこには、銀色のシンプルなチョーカーが()()、等間隔に並べられていた。

 

「これは?」

 

 ハルが尋ねる。

 

「君たちの現在位置を把握するための、まあ、発信機みたいなものだよ。この島、意外と広いからね。それに、このドローンが自動で君たちを追跡撮影するためにも必要なんだ。好きなデザインを選んで、首に着けてくれるかな」

 

 GMの説明は理に適っているように聞こえたが、その銀色の輝きは、どこか冷たく、不吉なものを感じさせた。メンバーたちは顔を見合わせ、戸惑いながらも、一つずつチョーカーを手に取った。デザインに大差はない。

 

「GMも着けるんですか?」

 

 フユが、残った一つのチョーカーを見て尋ねた。

 

「もちろん。僕は君たちの監督役だからね」

 

 GMはそう言って、最後のチョーカーを手に取り、こともなげに自身の細い首に着けた。

 

 全員が首輪――いや、チョーカーを着け終わるのを確認すると、GMは満足そうに頷き、壁にかけられた時計を見た。針はまもなく正午を指そうとしている。

 

「よし、時間だね」

 

 GMはにっこりと笑った。それは、いつもの子供っぽい笑顔ではなく、何か別の、底知れない感情を湛えた笑みだった。

 

「じゃあ、みんな。この()()()()()で、存分に楽しんでくれたまえ。君たちの物語が、歴史に残る()()になることを期待しているよ」

 

 それが、GMの最後の言葉になった。

 

 正午丁度。

 けたたましい電子音とともに、GMの首に着けられたチョーカーが閃光を発した。

 

――そして、爆発した。

どのキャラが一番好きかな?

  • ハル
  • ナツ
  • アキ
  • フユ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。